StudyMed医師国家試験

酸素が「毒」になる中毒―パラコート服用1時間後、まず何をすべきか

第100回医師国家試験 F問題 第60問

国試問題にチャレンジ

第100回 F問題 第60問

56歳の男性。意識障害(昏迷)のため救急車で搬入された。自殺を目的として,1時間前に除草剤のパラコートを飲んだ。 対応として適切なのはどれか。

  1. a.浣腸
  2. b.胃洗浄
  3. c.酸素吸入
  4. d.アトロピン投与
  5. e.硫酸マグネシウム投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は除草剤パラコートを服用した患者への初期対応を問う問題だ。考えるべきは2点。パラコートがどうやって体を傷つけるのか、そして服用からの経過時間で何ができるのか。まずパラコートについて知っていることはあるかな。
医学生医学生
薬理学の講義で、少量でも死に至る除草剤で、肺線維症を起こすと習いました。
ドクタードクター
その通り。パラコートは細胞内で還元と再酸化を繰り返し、そのたびに酸素からスーパーオキシドなどの活性酸素を生み出す。これをレドックスサイクルという。生じた活性酸素が細胞膜の脂質を過酸化して細胞を壊すんだ。しかも肺胞上皮細胞はパラコートを能動的に取り込んで蓄積するから、肺が主な標的になる。
医学生医学生
だから数日から数週かけて肺線維症が進んで、呼吸不全で亡くなるんですね。
ドクタードクター
そう。大量服用なら多臓器不全で早期に亡くなることもある。そして重要なのが、パラコートには有効な解毒薬がないことだ。では、治療はどう考えればいいと思う?
医学生医学生
解毒薬がないなら、とにかく体に入れない、早く出す、ということでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれが治療の柱だ。消化管からの吸収は比較的速いから、時間が経たないうちに胃に残っている毒物を取り除くことが最も大切になる。今回は服用からまだ1時間。だから胃洗浄が適切な対応になるんだ。
医学生医学生
救急科の実習で、胃洗浄は最近あまりやらないと聞いたのですが、ここでは適応になるんですか。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。確かに現在の中毒診療では胃洗浄の適応はかなり絞られている。ただ、服用から早期、目安として1時間以内で、致死的な量を飲んだ可能性がある場合には考慮される。パラコートは少量でも致死的で解毒薬もないから、まさにこの条件に当てはまる。洗浄後には活性炭や陽イオン交換樹脂などの吸着剤を入れて、残った毒物の吸収を抑える。さらに血液吸着などの血液浄化で血中から除去を図ることもあるよ。
医学生医学生
患者さんは昏迷状態ですが、そのまま胃洗浄して大丈夫なんでしょうか。
ドクタードクター
そこは必ず押さえてほしい。意識障害があると嘔吐物を誤嚥する危険が高いから、まず気管挿管で気道を確保してから胃洗浄を行うのが原則だ。では他の選択肢を見よう。意識障害の患者が運ばれてきたら、反射的に酸素を投与したくなるよね。
医学生医学生
はい、OSCEの救急の課題でも、まず酸素とモニターと習いました。でも活性酸素で傷つくなら、酸素は逆効果ですか。
ドクタードクター
その理解で正しい。組織の酸素濃度が高いほど活性酸素の産生が増え、肺障害を促進してしまう。だからパラコート中毒では高濃度酸素や高圧酸素は禁忌とされ、酸素投与は著しい低酸素血症で生命維持に欠かせないときに限って、必要最小限にとどめる。ここが他の中毒と大きく違うところだ。
医学生医学生
アトロピンは農薬中毒の治療薬というイメージがあって、つい選びたくなりました。
ドクタードクター
それは有機リンやカーバメートの中毒だね。これらはアセチルコリンエステラーゼを阻害して、縮瞳や流涎、気道分泌亢進、徐脈などを起こす。アトロピンはムスカリン受容体を遮断してそれを抑える。パラコートにはこうしたコリン作動性の毒性はないから、アトロピンを使う根拠はない。同じ農薬だからと混同しないことが大切だ。
医学生医学生
浣腸や硫酸マグネシウムは、腸から毒物を出すという意味ではどうですか。
ドクタードクター
浣腸が効くのは直腸や下部結腸の内容物だけで、胃や上部小腸にある毒物には届かない。硫酸マグネシウムは塩類下剤で、活性炭などの吸着剤と一緒に使って排泄を促すことはあるけれど、単独では吸収を防ぐ力は乏しい。服用1時間の今、最初にやるべきは胃の中の毒物を直接取り除くことなんだ。
医学生医学生
解毒薬がないから除去と排泄が中心で、酸素は控える、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。補足すると、パラコートは服用直後に口腔から食道の粘膜にびらんや潰瘍をつくり、数日以内に腎障害や肝障害を起こし、その後に肺線維症が進む、という経過をたどる。日本では事故を減らすため、低濃度化やジクワットとの混合製剤化、青い着色、催吐剤の添加などの対策がとられてきた。
医学生医学生
他の中毒の拮抗薬も一緒に整理しておくとよさそうですね。アセトアミノフェンならN-アセチルシステイン、オピオイドならナロキソンでした。
ドクタードクター
いいね。有機リンならアトロピンとプラリドキシム、ベンゾジアゼピンならフルマゼニル、一酸化炭素なら酸素。その一覧の中で、パラコートは拮抗薬がなく、しかも酸素を避けるという例外として覚えておくと、試験でも臨床でも迷わないはずだ。

まとめ

パラコートはレドックスサイクルによって活性酸素を大量に生じ、肺胞上皮に蓄積して進行性の肺線維症を引き起こす、少量でも致死的な除草剤です。有効な解毒薬がないため、治療の中心は早期の毒物除去と排泄促進であり、服用から1時間以内で致死量服用の可能性がある場合は胃洗浄を行い、吸着剤の投与や血液浄化を組み合わせます。意識障害例では誤嚥を防ぐため、気管挿管で気道を確保してから胃洗浄を行うのが原則です。酸素投与は活性酸素の産生を増やして肺障害を悪化させるため原則控え、アトロピンは有機リン・カーバメート中毒の治療薬でありパラコートには用いません。中毒ごとの病態と拮抗薬の有無を整理しておくことは、救急外来での初期対応を誤らないための基本となります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

56歳男性が自殺目的で除草剤パラコートを服用し、1時間後に昏迷状態で搬入された。服用物質と服用からの経過時間が明らかであり、診断はパラコート中毒である。

パラコート中毒の特徴

パラコートはビピリジリウム系除草剤で、ごく少量でも致死的となりうる極めて毒性の高い物質である。有効な解毒薬(拮抗薬)は存在しない。体内に吸収されると細胞内で酸化還元を繰り返し(レドックスサイクル)、その過程でスーパーオキシドなどの活性酸素(フリーラジカル)を大量に生じて細胞膜の脂質過酸化を引き起こす。パラコートは肺胞上皮細胞に能動的に取り込まれて蓄積するため、肺が主要な標的臓器となり、数日〜数週間かけて進行性の肺線維症を来して呼吸不全で死亡することが多い。大量服用では多臓器不全により早期に死亡する。

治療の考え方

解毒薬がない以上、治療の中心は「吸収させないこと」と「排泄を促すこと」である。消化管からの吸収は比較的速やかなので、服用から時間が経っていない段階で消化管内に残っている毒物を除去することが最も重要となる。本例は服用後1時間であり、胃内にまだ多くのパラコートが残っていると考えられるため、胃洗浄の適応となる。胃洗浄に続いて、吸着剤(活性炭、あるいはパラコートをよく吸着する陽イオン交換樹脂や粘土鉱物)を投与し、吸収を抑える。さらに血液浄化法(主に血液吸着)で血中からの除去を図ることもある。 一方、パラコート中毒ではフリーラジカルによる障害が病態の本質であるため、酸素投与は障害を増強する。安易な酸素投与を避けるという点が、他の中毒と大きく異なる重要な注意点である。

意識障害がある場合の注意

本例は昏迷状態であり、嘔吐物の誤嚥の危険が高い。胃洗浄を行う際には、まず気管挿管により気道を確保してから実施するのが原則である。

選択肢考察

  1. ×a.  浣腸

    浣腸は直腸・下部結腸の内容物を排出させる処置であり、上部消化管(胃・小腸上部)にある毒物の除去には役立たない。服用後1時間の段階では、パラコートの大部分は胃内から小腸へ移行しつつある段階で、吸収を防ぐために優先すべきは胃内容の除去である。浣腸はパラコート中毒の処置として意味がない。

  2. ○b.  胃洗浄

    胃洗浄は、服用から時間が経っておらず(目安として1時間以内)、かつ致死的な量を服用した可能性がある場合に考慮される処置である。パラコートは少量でも致死的で解毒薬もないため、服用後1時間の本例では胃内に残る毒物をできるだけ除去して吸収を減らすことが最優先となる。洗浄液に吸着剤(活性炭や陽イオン交換樹脂など)を加えることもあり、洗浄後にも吸着剤を胃内に注入して残った毒物の吸収を抑える。なお本例は昏迷状態であるため、誤嚥防止のために気管挿管で気道を確保してから行う。

  3. ×c.  酸素吸入

    パラコートは体内で還元・再酸化を繰り返し、その際に酸素分子から活性酸素(スーパーオキシドなど)を生成する。組織の酸素濃度が高いほど活性酸素の産生が増え、肺障害(肺線維症)を促進してしまう。このため、パラコート中毒では高濃度酸素投与や高圧酸素療法は禁忌とされ、酸素投与は著しい低酸素血症で生命維持に不可欠な場合に限り、必要最小限にとどめる。意識障害があるからといって漫然と酸素吸入を行うのは不適切である。

  4. ×d.  アトロピン投与

    アトロピンは抗コリン薬で、ムスカリン受容体を遮断する。アセチルコリンエステラーゼを阻害してアセチルコリン過剰状態(縮瞳、流涎、気道分泌亢進、徐脈など)を引き起こす有機リン中毒やカーバメート中毒で第一選択となる薬剤である。パラコートはコリン作動性の毒性を持たないため、アトロピンを投与する根拠はない。除草剤・農薬中毒という共通点から有機リン中毒と混同しないことが重要である。

  5. ×e.  硫酸マグネシウム投与

    硫酸マグネシウムは浸透圧性の塩類下剤で、腸管内容の排出を速める。中毒治療では活性炭などの吸着剤と併用して、毒物を吸着した吸着剤の排泄を促す目的で用いられることはあるが、単独では吸収を防ぐ効果に乏しい。服用後1時間の本例で最初に行うべきは胃内の毒物を直接除去する胃洗浄であり、下剤投与は第一の対応とはいえない。

パラコートの性質

パラコートはジクワットとともにビピリジリウム系除草剤に分類される。致死量が少なく、市販の高濃度製剤では一口程度の量でも死亡しうる。日本では中毒事故を減らす目的で、製剤の低濃度化やジクワットとの混合製剤化、青色の着色、催吐剤・着臭剤の添加などの対策がとられてきた。

毒性の機序

細胞内でNADPHにより還元されてラジカル体となり、これが酸素と反応して元のパラコートに戻る際にスーパーオキシドを生じる。この反応が繰り返されること(レドックスサイクル)で活性酸素が大量に発生し、脂質過酸化による細胞障害が起こる。肺胞上皮細胞はポリアミン取り込み系を介してパラコートを能動的に取り込むため、肺に高濃度に蓄積する。

臨床経過

・服用直後: 口腔・咽頭・食道の粘膜のびらんや潰瘍(腐食作用)、嘔吐、腹痛 ・数日以内: 腎障害(急性尿細管壊死)、肝障害 ・数日〜数週: 進行性の肺線維症による呼吸不全 ・大量服用: 循環不全・多臓器不全で早期に死亡

治療の要点

・解毒薬はない ・吸収阻止: 早期の胃洗浄(意識障害時は気管挿管後)、吸着剤(活性炭、陽イオン交換樹脂、粘土鉱物など)の投与、下剤の併用 ・排泄促進: 血液吸着などの血液浄化法、輸液による尿量確保 ・酸素投与は原則控える(高濃度酸素・高圧酸素は禁忌)

中毒で用いられる主な拮抗薬(参考)

・有機リン: アトロピン、プラリドキシム(PAM) ・アセトアミノフェン: N-アセチルシステイン ・ベンゾジアゼピン: フルマゼニル ・オピオイド: ナロキソン ・シアン: ヒドロキソコバラミン、亜硝酸薬+チオ硫酸ナトリウム ・一酸化炭素: 酸素(高圧酸素) パラコートにはこのような拮抗薬が存在しない点が特徴的である。

POINT

・パラコート中毒には解毒薬がなく、早期の毒物除去(胃洗浄・吸着剤)と血液浄化が治療の中心 ・服用後早期(目安1時間以内)なら胃洗浄を考慮する。意識障害例では気管挿管で気道確保してから行う ・活性酸素が肺障害を増悪させるため、酸素投与は原則避ける(高濃度・高圧酸素は禁忌) ・主な死因は進行性の肺線維症による呼吸不全 ・アトロピンは有機リン・カーバメート中毒の治療薬であり、パラコートとは無関係

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。