StudyMed医師国家試験

過失がなくても補償する―治験のルールGCPの「倫理」と「科学」

第100回医師国家試験 E問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第100回 E問題 第6問

GCP〈医薬品の臨床試験実施の基準〉に基づく治験で誤っているのはどれか。

  1. a.被験者の人権を尊重する。
  2. b.ヘルシンキ宣言を遵守する。
  3. c.科学的妥当性が必要である。
  4. d.インフォームドコンセントを得る。
  5. e.健康被害は過失の場合のみ補償する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、新薬の治験を行うときのルールであるGCPについて、誤った記述を見抜く問題だ。着眼点は、GCPが何を守るためのルールなのかを押さえること。そうすれば、どの記述が原則から外れているかが見えてくる。そもそも治験とは何か、説明できるかな。
医学生医学生
新しい薬を人に使って、効果と安全性を確かめる試験ですよね。臨床研究と同じものだと思っていました。
ドクタードクター
治験は臨床試験の一部で、特に国(厚生労働省)から医薬品の製造販売承認を得るために行うものを指す。日本では医薬品医療機器等法(旧薬事法)に基づく省令としてGCPが定められていて、1997年に国際的な合意(ICH)に沿った新GCPとして施行された。治験はこれに従って行わなければならないんだ。
医学生医学生
GCPの目的は、被験者を守ることですか。
ドクタードクター
それが一つ目の柱で、被験者の人権・安全・福祉を守る「倫理性」。もう一つの柱が、得られたデータの質と信頼性を確保する「科学性」だ。この2本柱を頭に置いて選択肢を見ていこう。被験者の人権の尊重は、もちろん正しい。被験者の福祉は、科学や社会の利益よりも優先されるのが原則だ。
医学生医学生
その原則を実際にどうやって守るんでしょうか。
ドクタードクター
代表的な仕組みが、医療機関ごとに設置される治験審査委員会、IRBだ。治験実施計画書が倫理的・科学的に妥当かを事前に審査し、実施中も継続して審査する。研究者だけの判断で進めないための仕組みだね。
医学生医学生
ヘルシンキ宣言は医療倫理の講義で出てきました。ニュルンベルク綱領の後にできたもの、という順番で覚えています。
ドクタードクター
いい整理だ。ナチスの人体実験への反省から1947年にニュルンベルク綱領が生まれ、被験者の自発的同意を絶対条件とした。1964年には世界医師会が人を対象とする医学研究の倫理原則としてヘルシンキ宣言を採択し、その後も改訂が重ねられている。GCPの倫理的な土台はこの宣言だから、遵守するというのは正しい記述だ。
医学生医学生
科学的妥当性は、倫理とは別の話のように思えます。
ドクタードクター
実はそこがつながっているんだ。科学的に意味のある結論が出ない試験に人を参加させると、危険や負担だけを強いることになる。それ自体が倫理に反するんだよ。だから治験は、動物実験などの非臨床試験やそれまでの成績を根拠に、適切なデザインと症例数を備えた実施計画書に基づいて行う。データの信頼性を確かめるため、治験依頼者によるモニタリングや監査も行われる。
医学生医学生
インフォームドコンセントは、OSCEの医療面接でも説明と同意の大切さを練習しました。治験では口頭で十分でしょうか。
ドクタードクター
治験では説明文書を使って説明し、文書で同意を得ることが必要だ。目的と方法、予測される効果と副作用、ほかの治療法の有無、参加や撤回が自由で断っても不利益を受けないこと、そして健康被害が起きたときの補償について説明する。未成年や同意能力のない人では、代諾者の同意が必要になる。
医学生医学生
では誤りは、健康被害は過失の場合のみ補償する、ですね。でも正直、過失がないなら補償しなくてもいいような気もしてしまいます。
ドクタードクター
そう感じる人は多いよ。でも被験者の立場で考えてほしい。まだ承認されていない薬の試験に協力してくれた人だ。その結果起きた健康被害は、医療機関や依頼者に過失がなくても救済されるべきものとされている。これを無過失補償という。GCPは、治験依頼者である製薬企業などに対し、保険への加入などの措置をあらかじめ講じておくよう求めているんだ。
医学生医学生
「補償」と「賠償」は同じ意味だと思っていました。
ドクタードクター
国試でも区別したいポイントだね。過失がある場合に損害を償うのが「賠償」、過失の有無を問わずに被害を償うのが「補償」だ。治験では過失がなくても補償があり、過失があれば、それに加えて賠償責任も問われうる。
医学生医学生
治験の流れもあらためて確認しておきたいです。第I相は健康な人が対象でしたよね。
ドクタードクター
基本はそうで、少数の健康な成人で安全性や薬物動態を調べる。ただ、抗がん薬のように毒性の強い薬では患者さんが対象になる。第II相は少数の患者で有効性と適切な用量を探り、第III相は多数の患者で既存薬やプラセボと比べて有効性と安全性を検証する。承認・販売の後も、製造販売後調査などで長期的な安全性を見ていく。
医学生医学生
臨床実習で治験コーディネーターの方が患者さんに説明している場面を見ました。こうした仕組みに支えられているんですね。
ドクタードクター
そうだね。将来、治験に関わったり患者さんから参加について相談されたりする場面はきっとある。ルールの細かい条文より、倫理性と科学性の2本柱、そして協力してくれた人を守るという発想を大切にしてほしい。

まとめ

GCPは治験を行うための基準であり、被験者の人権・安全・福祉を守る倫理性と、データの質と信頼性を確保する科学性を2本柱としています。その倫理的基盤はヘルシンキ宣言にあり、治験審査委員会(IRB)による審査や、説明文書を用いた文書によるインフォームドコンセントが求められます。科学的に意味のない試験は被験者に負担だけを強いるため、科学的妥当性も倫理と切り離せない要件です。治験による健康被害は過失の有無にかかわらず補償され(無過失補償)、治験依頼者は保険加入などの措置を講じておく必要があり、過失がある場合の「賠償」とは区別されます。新薬開発に協力する被験者をどう守るかという視点は、臨床研究に関わるすべての医師に求められる基本的な姿勢です。

解答・解説

正解はeです

問われていること

GCP(Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験の実施の基準)に基づいて行われる治験の原則について、誤っている記述を選ぶ問題である。

背景

治験とは、新しい医薬品について国(厚生労働省)の製造販売承認を得るために、人を対象として有効性と安全性を確かめる臨床試験のことである。日本では医薬品医療機器等法(旧薬事法)に基づく厚生労働省令としてGCPが定められており(1997年に日米EU医薬品規制調和国際会議〈ICH〉の合意に沿った新GCPとして施行)、治験はこれに従って実施しなければならない。 GCPの目的は大きく二つある。 ・被験者の人権・安全・福祉を守ること(倫理性) ・得られたデータの科学的な質と信頼性を確保すること(科学性) その倫理的な基盤となるのが、世界医師会によるヘルシンキ宣言である。

考え方

被験者の人権尊重、ヘルシンキ宣言の遵守、科学的妥当性、インフォームドコンセントは、いずれもGCPの根幹をなす原則である。一方、治験に参加したことで健康被害が生じた場合、被験者は開発中の薬の試験に協力した立場であり、その被害は過失の有無にかかわらず救済されるべきものとされる。GCPは治験依頼者(製薬企業など)に対し、健康被害の補償のために保険加入などの措置をあらかじめ講じておくよう求めている。したがって「過失の場合のみ補償する」は誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  被験者の人権を尊重する。

    正しい記述である。GCPでは、被験者の人権・安全・福祉を最も重視し、科学や社会の利益よりも優先させることが原則とされる。この観点から、治験実施計画書は医療機関ごとに設置される治験審査委員会(IRB:Institutional Review Board)で倫理的・科学的妥当性を事前に審査され、実施中も継続的に審査を受ける。

  2. ×b.  ヘルシンキ宣言を遵守する。

    正しい記述である。ヘルシンキ宣言は、1964年に世界医師会が採択した「人間を対象とする医学研究の倫理的原則」であり、その後も繰り返し改訂されている。被験者の福利の優先、倫理委員会による審査、インフォームドコンセントなどを定めており、GCPはこの宣言に基づく倫理的原則に従って治験を行うことを求めている。

  3. ×c.  科学的妥当性が必要である。

    正しい記述である。科学的に意味のある結論が得られない試験に被験者を参加させることは、被験者に危険や負担だけを強いることになり、それ自体が倫理に反する。したがって治験は、非臨床試験(動物実験など)やそれまでの臨床試験の成績に裏付けられ、適切な試験デザイン・症例数・評価方法を備えた治験実施計画書(プロトコル)に基づいて行う必要がある。また、データの信頼性を保証するため、モニタリング(治験依頼者による実施状況の確認)や監査が行われる。

  4. ×d.  インフォームドコンセントを得る。

    正しい記述である。治験責任医師らは、被験者に治験の目的・方法、予測される効果と副作用、他の治療法の有無、参加や撤回が自由であり断っても不利益を受けないこと、健康被害が生じた場合の補償などを説明文書を用いて説明し、文書による同意を得なければならない。被験者が未成年や同意能力を欠く場合は代諾者の同意が必要となる。

  5. ○e.  健康被害は過失の場合のみ補償する。

    誤った記述であり、正解である。治験に起因して被験者に健康被害が生じた場合、医療機関や治験依頼者に過失がなくても補償が行われる(無過失補償)。GCPは治験依頼者に対し、健康被害の補償のために保険その他の必要な措置を講じておくことを義務づけている。なお、過失がある場合に損害を償う「賠償」と、過失の有無を問わず被害を償う「補償」は区別される。治験では無過失でも補償があり、過失があればそれに加えて賠償責任も問われうる。

治験の流れ

・非臨床試験(動物実験など)で有効性・安全性を確認した後、臨床試験に進む。 ・第I相:主に少数の健常成人を対象に、安全性や薬物動態を調べる(抗がん薬などでは患者が対象となる)。 ・第II相:少数の患者を対象に、有効性・安全性と適切な用量を探る。 ・第III相:多数の患者を対象に、既存薬やプラセボと比較して有効性・安全性を検証する。 ・承認申請・審査を経て承認・販売され、その後は製造販売後調査・試験(いわゆる第IV相)で長期的な安全性などを確認する。

GCPで定められている主な仕組み

・治験審査委員会(IRB)による審査 ・文書によるインフォームドコンセント ・治験依頼者によるモニタリングと監査 ・重篤な有害事象の報告 ・健康被害に対する補償措置 ・記録の保存

医学研究の倫理に関する主な文書

・ニュルンベルク綱領(1947年):ナチスの人体実験の反省から、被験者の自発的同意を絶対条件とした。 ・ヘルシンキ宣言(1964年、世界医師会):人を対象とする医学研究の倫理原則。 ・ベルモント・レポート(1979年、米国):人格の尊重、善行、正義の三原則を示した。

POINT

・GCPの二本柱は、被験者の人権・安全・福祉の保護(倫理性)と、データの科学的な質・信頼性の確保(科学性)である。 ・倫理的基盤はヘルシンキ宣言。IRBによる審査と文書によるインフォームドコンセントが必須。 ・治験による健康被害は過失の有無にかかわらず補償される(無過失補償)。治験依頼者は保険加入などの措置を講じておく。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。