熱が下がって、また上がる―二峰性発熱とKoplik斑が告げる麻疹
第100回医師国家試験 D問題 第13問
国試問題にチャレンジ
5歳の男児。発熱を主訴に来院した。3日前から38.5℃ の発熱,咳,鼻汁,結膜充血および眼脂が出現した。初診時に口腔粘膜発疹がみられた。受診後いったん解熱傾向がみられたが,翌日から高熱が再び出現し,さらに全身に皮疹が出現した。口腔粘膜の写真(A)と体幹の写真(B)とを別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.麻疹
- b.風疹
- c.水痘
- d.ヘルペス
- e.突発性発疹
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
麻疹は、発熱・咳・鼻汁・結膜充血・眼脂といった強いカタル症状で始まり、カタル期の終わりに頬粘膜にKoplik斑が現れ、いったん解熱傾向となった後に再び高熱とともに癒合傾向のある斑状丘疹が全身に広がる、という典型的な経過をとります。発熱と発疹の時間関係が鑑別の要で、風疹は発熱とほぼ同時に淡い発疹とリンパ節腫脹、突発性発疹は乳幼児で解熱後に発疹、水痘や単純ヘルペスは水疱性病変が特徴です。麻疹は空気感染する感染力の極めて強い疾患で、肺炎や脳炎、亜急性硬化性全脳炎などの合併症があり、診断したら直ちに届け出が必要です。治療は対症療法が中心のため、MRワクチンの2回接種による予防と、疑った段階での早期隔離が臨床上きわめて重要です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・5歳男児、38.5℃の発熱が3日間続いている。 ・咳、鼻汁、結膜充血、眼脂がある。これらは上気道と結膜の炎症による「カタル症状」であり、ウイルス性発疹症のなかでは麻疹に特徴的に強く出る。 ・初診時に口腔粘膜の発疹がみられる(写真A)。カタル期の頬粘膜にみられる白色の小斑点であればKoplik斑(コプリック斑)であり、麻疹に特異性の高い所見である。 ・いったん解熱傾向となった後、翌日から再び高熱となり、同時に全身へ皮疹が広がった(写真B)。これは「二峰性発熱」であり、二つ目の発熱の山に一致して発疹が出現するという経過も麻疹の典型である。
診断へのプロセス
小児の発熱と発疹をみたら、①発熱と発疹の時間的関係、②発疹の性状(紅斑・丘疹か水疱か)、③随伴症状(カタル症状、リンパ節腫脹など)、④粘膜所見、の4点で鑑別を進めるとよい。 本例では、強いカタル症状 → 口腔粘膜疹(Koplik斑)→ 一時的な解熱 → 再発熱とともに発疹、という時間経過がそろっている。水疱がないことから水痘・単純ヘルペスは考えにくく、解熱後に発疹が出る突発性発疹とも、発熱と発疹がほぼ同時に始まり経過の軽い風疹とも経過が合わない。以上から麻疹と診断する。
設問の考え方
「最も考えられる疾患」を問う問題であり、病歴の時間経過(カタル期 → Koplik斑 → 二峰性発熱と発疹)を読み取れれば、画像を細かく見なくても麻疹にたどり着ける。
選択肢考察
- ○a. 麻疹
麻疹ウイルス感染症は、潜伏期(約10〜12日)の後、カタル期(3〜4日:発熱、咳、鼻汁、結膜充血、眼脂)、発疹期、回復期の順に進む。カタル期の終わりに頬粘膜(臼歯に対面する部位)にKoplik斑が出現し、いったん体温がやや下がった後に再び高熱となって発疹が現れる(二峰性発熱)。発疹は耳の後ろや顔面から始まって体幹・四肢へ広がる紅色の斑状丘疹で、互いに癒合しやすく、消退後に色素沈着を残す。本例のカタル症状、口腔粘膜疹、二峰性発熱、再発熱時の全身性皮疹はすべてこの経過に一致する。
- ×b. 風疹
風疹は発熱と発疹がほぼ同時に出現し、二峰性発熱はみられない。発疹は小さな淡い紅斑・丘疹で癒合しにくく、3日程度で色素沈着を残さず消える(「三日ばしか」)。耳介後部・後頭部・頸部のリンパ節腫脹が特徴で、麻疹のような強いカタル症状や数日続く高熱は通常みられない。口蓋に点状の発疹(Forchheimer斑)がみられることはあるが、頬粘膜のKoplik斑とは異なる。
- ×c. 水痘
水痘は水痘・帯状疱疹ウイルスの初感染で、発疹は紅斑 → 丘疹 → 水疱 → 痂皮と短時間で変化し、異なる段階の発疹が同時に混在するのが特徴である。頭皮にも出る。発熱は軽いことが多く、前駆期に強いカタル症状や二峰性発熱はみられない。本例の皮疹は水疱ではなく、経過も合わない。
- ×d. ヘルペス
小児の単純ヘルペスウイルス初感染では、歯肉口内炎(口腔粘膜の多数の小水疱・びらん、強い痛み、歯肉の発赤・腫脹、発熱)を起こすことがある。口腔病変は痛みが強い水疱・潰瘍であり、Koplik斑のような痛みのない白色小斑点とは異なる。全身に斑状丘疹が広がる経過や、カタル症状に続く二峰性発熱も説明できない。
- ×e. 突発性発疹
突発性発疹はヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)または7型(HHV-7)による疾患で、主に生後6か月〜2歳頃の乳幼児にみられる。38〜40℃の高熱が3〜4日続いた後に解熱し、解熱と前後して体幹を中心に発疹が出る(「熱が下がってから発疹」)。本例は5歳と好発年齢から外れ、再発熱に伴って発疹が出ている点、強いカタル症状がある点で合わない。なお口蓋垂の両側に紅色丘疹(永山斑)がみられることがある。
麻疹の概要
・病原体:麻疹ウイルス(パラミクソウイルス科)。空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染でうつり、感染力は極めて強い。免疫のない人が感染するとほぼ全員が発症する。 ・経過:潜伏期 約10〜12日 → カタル期(3〜4日)→ 発疹期(3〜4日)→ 回復期。感染力はカタル期が最も強い。 ・Koplik斑:カタル期の終わり、発疹が出る1〜2日前に頬粘膜に出る、周囲が赤く縁取られた白色の小斑点。発疹出現後まもなく消えるため、早期診断に役立つ。 ・発疹:耳後部・顔面 → 体幹 → 四肢の順に広がる。癒合傾向があり、消退後に褐色の色素沈着と細かい落屑を残す。
合併症
・肺炎(ウイルス性肺炎、細菌の二次感染):死亡原因として最も重要。 ・中耳炎、クループ、心筋炎。 ・急性脳炎:約1,000人に1人とされる。 ・亜急性硬化性全脳炎(SSPE):感染から数年〜十数年後に発症する、進行性で予後不良の中枢神経疾患。 ・麻疹にかかると一時的に細胞性免疫が低下し、ツベルクリン反応が陰転化したり、結核が悪化したりすることがある。
診断・対応
・臨床症状に加え、血清の麻疹特異的IgM抗体、PCR法によるウイルス遺伝子の検出などで確定する。 ・感染症法の5類感染症(全数把握)であり、診断したら直ちに届け出る。 ・学校保健安全法では第二種感染症で、出席停止期間は「解熱した後3日を経過するまで」である。 ・治療は対症療法が中心。特効的な抗ウイルス薬はない。 ・予防:MR(麻疹風疹混合)ワクチンの2回定期接種(1歳時、小学校入学前の1年間)。
小児の主な発疹症の鑑別
・麻疹:強いカタル症状、Koplik斑、二峰性発熱、癒合する斑状丘疹、色素沈着。 ・風疹:発熱と発疹が同時、耳介後部・後頭部リンパ節腫脹、3日程度で消える。 ・水痘:各段階の発疹(丘疹・水疱・痂皮)が混在、頭皮にも出る。 ・突発性発疹:乳児、高熱が3〜4日続き解熱とともに発疹。 ・伝染性紅斑:両頬の紅斑(リンゴ病)、四肢のレース状紅斑。 ・手足口病:手掌・足底・口腔の小水疱。
POINT
・麻疹の経過:カタル期(発熱、咳、鼻汁、結膜充血・眼脂)→ Koplik斑 → 一時解熱 → 再発熱とともに発疹(二峰性発熱)。 ・Koplik斑は発疹出現前の頬粘膜にみられる白色小斑点で、麻疹の早期診断に有用。 ・発疹と発熱の時間関係で鑑別する:麻疹は再発熱時、風疹はほぼ同時、突発性発疹は解熱後。 ・水疱があれば水痘・ヘルペスを考える。 ・麻疹は感染症法5類(全数・直ちに届出)、学校は解熱後3日を経過するまで出席停止。
