「いつの間にか」始まり「早いほど」効く―統合失調症の基本を総点検
第100回医師国家試験 B問題 第7問
国試問題にチャレンジ
統合失調症について正しいのはどれか。
- a.発症は急激である。
- b.脳機能異常は存在しない。
- c.意識障害を伴うことが多い。
- d.精神科リハビリテーションでほぼ完治する。
- e.薬物療法の効果は慢性期より発病初期が高い。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
統合失調症は思春期〜青年期に、前駆期を経て潜行性に発症することが多く、急激な発症を一般的な特徴とするのは誤りです。ドパミン仮説やグルタミン酸仮説に代表されるように脳機能の異常が病態の基盤と考えられており、幻覚・妄想は原則として意識清明下で体験されます。意識障害を伴う精神症状ではせん妄や器質性疾患をまず疑い、緊張病性昏迷は意識障害ではなく意思発動の障害として区別します。治療は抗精神病薬が中心で、精神科リハビリテーションと組み合わせ、再発予防の維持療法を続けます。薬物療法への反応は発病初期が最も良く、未治療期間(DUP)が長いほど予後が悪いため、早期発見・早期介入の意義を理解しておくことが臨床でも重要です。
解答・解説
正解はeです
統合失調症の基本的な特徴を問う問題である。見るべきポイントは、発症様式、病態、意識障害の有無、治療と予後の4点である。
疾患の概要
統合失調症は、思春期から青年期(おおむね10代後半〜30代)に発症することが多い。生涯有病率は約1%とされる。症状は次の3つに整理される。 ・陽性症状: 幻覚(特に幻聴)、妄想、思考の解体など ・陰性症状: 感情の平板化、意欲低下、自閉(社会的ひきこもり)など ・認知機能障害: 注意・記憶・遂行機能の低下
発症と経過
多くは、はっきりしない不調(前駆期)がしばらく続いた後、いつの間にか発症する。その後は再発と寛解を繰り返しながら慢性に経過することが多い。
病態
ドパミン仮説やグルタミン酸仮説に代表されるように、神経伝達の異常を含む脳機能の障害が基盤にあると考えられている。
意識障害との関係
幻覚や妄想があっても意識は清明であるのが原則である。意識障害を伴う場合は、せん妄や器質性・症状性の精神障害をまず考える。
治療
治療の柱は、抗精神病薬による薬物療法と、心理社会的治療(精神科リハビリテーション)の組み合わせである。未治療期間〈DUP: duration of untreated psychosis〉が長いほど治療反応性や予後が悪くなる。そのため、早期に発見して早期に介入することが重視されている。 以上から、薬物療法の効果は慢性期より発病初期のほうが高いとするeが正しい。
選択肢考察
- ×a. 発症は急激である。
統合失調症の多くは潜行性(insidious onset)に発症する。明確な発症時点がなく、いつの間にか始まるという意味である。 典型的には、次のような変化が数か月〜数年かけてゆっくり進む前駆期がある。 ・成績の低下 ・対人関係からのひきこもり ・不眠、集中困難、漠然とした不安 ・奇妙な考えへのとらわれ その後に幻覚・妄想などの明らかな精神病症状が現れる。 急性に発症する例もないわけではない。しかし、数日〜数週の単位で急激に発症する精神病状態では、急性一過性精神病性障害、物質誘発性の精神病、せん妄などの器質性疾患も鑑別に挙がる。「発症は急激である」という一般化は誤りである。
- ×b. 脳機能異常は存在しない。
統合失調症は脳機能の異常を基盤とする疾患と考えられている。 病態を説明する主な仮説は次のとおりである。 ・ドパミン仮説: 中脳辺縁系のドパミン神経が過活動となり陽性症状が生じる。D2受容体を遮断する抗精神病薬が陽性症状に有効であることが根拠の一つである ・グルタミン酸仮説: NMDA型グルタミン酸受容体の機能が低下する。NMDA受容体拮抗薬のフェンサイクリジンやケタミンが陽性・陰性両方の症状を引き起こすことが根拠である 画像検査でも、脳室拡大、前頭葉・側頭葉の灰白質体積の減少、前頭葉機能の低下(hypofrontality)といった所見が報告されている。 さらに、幻覚・妄想・思考障害・陰性症状・認知機能障害は、いずれも脳機能の障害として理解される。したがって「脳機能異常は存在しない」は誤りである。ただし、診断に用いることのできる特異的な検査所見は現時点ではない。
- ×c. 意識障害を伴うことが多い。
統合失調症では、原則として意識は清明である。幻覚や妄想は、意識が清明な状態で体験される。 幻覚や精神運動興奮に意識混濁・見当識障害・注意障害を伴う場合は、せん妄(身体疾患、薬剤、アルコール離脱などによる)や、脳炎などの器質性精神障害を考えるべきである。この点は統合失調症との重要な鑑別点である。 緊張病(カタトニア)では、次のような状態がみられ、一見すると意識障害のように見えることがある。 ・昏迷: 自発的な言語や運動がほとんどなくなる ・カタレプシー: 受動的にとらされた姿勢を保ち続ける しかし、これは意思発動(意欲・行動を起こす働き)の障害であり、意識障害とは区別される。回復後に昏迷中の出来事を覚えていることもある。
- ×d. 精神科リハビリテーションでほぼ完治する。
精神科リハビリテーションは、薬物療法と並ぶ重要な治療である。内容としては、作業療法、デイケア、社会生活技能訓練〈SST〉、心理教育、就労支援などがある。これらは、ノーマライゼーションの理念のもとで社会生活機能の回復や社会復帰を目指して行われる。 しかし、リハビリテーション単独で「ほぼ完治」するものではない。治療の中心は抗精神病薬による薬物療法であり、症状が安定した後も再発予防のために維持療法を続けることが推奨される。 統合失調症は再発しやすい疾患で、特に服薬中断が再発の大きな要因となる。ストレスなどをきっかけに、リハビリテーションの途中や社会適応後にも再燃することがまれではない。回復の程度はさまざまで、良好な社会生活を送れる人もいれば、陰性症状や認知機能障害が残る人も少なくない。
- ○e. 薬物療法の効果は慢性期より発病初期が高い。
抗精神病薬への反応は、初回エピソードの時期が最も良好である。多くの患者で陽性症状の改善が得られる。 反対に、再発を繰り返すたびに、また慢性化するにつれて、次のような変化が起こりやすい。 ・治療反応性が低下し、症状が残りやすくなる ・薬物に反応しにくい陰性症状や認知機能障害が目立ってくる 発症から治療開始までの未治療期間〈DUP〉が長いほど治療反応性や長期予後が悪くなることも知られている。このため、早期発見・早期治療の重要性が強調されている。 したがって、薬物療法の効果は慢性期より発病初期のほうが高く、本選択肢は正しい。
統合失調症の症状
・陽性症状: 幻聴(対話性幻聴、注釈幻聴)、被害妄想、思考化声、作為体験(させられ体験)、思考伝播、思考奪取などの自我障害、滅裂思考 ・陰性症状: 感情鈍麻・平板化、意欲低下、思考の貧困、自閉、快感消失 ・認知機能障害: 注意、作業記憶、遂行機能、社会認知の障害。社会機能の予後に強く影響する ※Schneiderの一級症状(思考化声、対話性幻聴、注釈幻聴、身体への影響体験、思考奪取などの思考への干渉、思考伝播、妄想知覚、作為体験)は診断上の手がかりとして古くから重視されてきた。
経過
前駆期 → 急性期(陽性症状が目立つ) → 消耗期(休息期) → 回復期、という経過をとることが多い。再発を繰り返すと、残遺症状(陰性症状など)が残りやすくなる。
治療
・薬物療法: 第一選択は第二世代(非定型)抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾールなど)。錐体外路症状は第一世代(定型)より少ないが、体重増加・糖代謝異常などの代謝系副作用に注意する ・治療抵抗性の場合: 2種類以上の抗精神病薬を十分量・十分期間使っても効果がなければ、クロザピンを考慮する。無顆粒球症の危険があるため、定期的な血液検査が必須である ・服薬継続の工夫: 服薬アドヒアランス不良の例には持効性注射剤も選択肢となる ・心理社会的治療: 心理教育(本人・家族)、SST、作業療法、デイケア、就労支援、訪問支援(ACTなど) ・電気けいれん療法: 緊張病や薬物抵抗例で有効なことがある
意識障害を伴う精神症状を見たとき
幻覚・興奮に意識障害が加わる場合は、統合失調症ではなく、まず次を疑って身体的検索を行う。 ・せん妄 ・脳炎(自己免疫性脳炎を含む) ・薬物中毒・離脱 ・代謝性脳症
POINT
・統合失調症は思春期〜青年期に潜行性に発症することが多く、前駆期を経る。 ・病態の基盤は脳機能異常である(ドパミン仮説、グルタミン酸仮説)。 ・原則として意識は清明である。緊張病性昏迷は意識障害ではなく意思発動の障害である。 ・治療は抗精神病薬による薬物療法が中心で、精神科リハビリテーションと組み合わせる。再発が多く、維持療法が重要である。 ・薬物療法の反応は発病初期が最も良い。未治療期間(DUP)が長いほど予後が悪いため、早期介入が重要である。
