性ホルモンが足りないのに背が低い?―骨端線とGHで解くPrader-Willi症候群
第100回医師国家試験 B問題 第61問
国試問題にチャレンジ
低身長を伴う性腺機能低下症はどれか。
- a.Fröhlich症候群
- b.Kallmann症候群
- c.Klinefelter症候群
- d.McCune-Albright症候群
- e.Prader-Willi症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
性ステロイドは思春期の成長を加速させる一方で骨端線を閉鎖させるため、性腺機能低下症が単独で存在すると骨端線閉鎖が遅れ、類宦官体型の高身長になりやすくなります。低身長を伴うのはGH分泌不全などの別の成長障害が加わる場合で、視床下部機能障害により低ゴナドトロピン性性腺機能低下症とGH分泌不全を併せもつPrader-Willi症候群(15q11-q13の父由来遺伝子の機能喪失)がその代表です。Kallmann症候群(嗅覚脱失を伴う低ゴナドトロピン性)やKlinefelter症候群(47,XXY、高ゴナドトロピン性)は高身長傾向を示し、Fröhlich症候群は肥満と性器発育不全が主徴、McCune-Albright症候群は性腺機能がむしろ亢進する思春期早発症をきたします。ゴナドトロピン値で障害部位を、身長・体型でGHや染色体の関与を読み解く視点は、小児内分泌疾患の鑑別を進めるうえでの基本となります。
解答・解説
正解はeです
本問は、性腺機能低下症(性ホルモンの分泌や性腺の発育が不十分な状態)をきたす疾患のうち、低身長を合併するものを選ぶ問題である。
考え方
身長の伸びは主に成長ホルモン(GH)と、思春期の性ステロイド(エストロゲン・テストステロン)によって決まる。性ステロイドは思春期の成長加速をもたらす一方で、骨端線(成長軟骨板)を閉鎖させる作用も持つ。したがって、性腺機能低下症だけが単独で存在する場合には、骨端線がなかなか閉じず長管骨が長く伸び続けるため、手足の長い「類宦官体型」となり、むしろ高身長になりやすい。 そのため、性腺機能低下症に低身長が合併するには、GH分泌不全などの別の成長障害の要素が加わっている必要がある。Prader-Willi症候群は視床下部の機能障害を基盤とし、性腺機能低下(ゴナドトロピン分泌不全)とGH分泌不全の両方を伴うことが多く、低身長を呈する代表的疾患である。 一方、Kallmann症候群やKlinefelter症候群は性腺機能低下症であるが、上記の理由で高身長傾向を示す。McCune-Albright症候群はそもそも性腺機能「亢進」(思春期早発症)をきたす疾患であり、題意に合わない。
選択肢考察
- ×a. Fröhlich症候群
Fröhlich症候群(脂肪性器異栄養症)は、頭蓋咽頭腫などの視床下部の器質的病変によって、肥満と性器の発育不全(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)を主徴とする病態である。性腺機能低下症には該当するが、主徴は肥満と性器発育不全であり、低身長は本症候群の特徴として挙げられない。なお現在では独立した疾患というより、視床下部障害による症候の組み合わせを指す歴史的な呼称として扱われることが多い。
- ×b. Kallmann症候群
Kallmann症候群は、胎生期にゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH、LH-RHとも呼ぶ)を産生する神経細胞が嗅板から視床下部へ移動(遊走)できないために起こる、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症である。GnRH産生細胞は嗅神経とともに移動するため、嗅球・嗅索の形成不全による嗅覚脱失(無嗅症)を合併するのが特徴である。GH分泌は保たれており、性ステロイド不足で骨端線の閉鎖が遅れるため、低身長ではなく類宦官体型の高身長傾向となる。
- ×c. Klinefelter症候群
Klinefelter症候群は性染色体異常(代表的な核型は47,XXY)による男性の原発性性腺機能低下症(高ゴナドトロピン性)である。小さく硬い精巣、無精子症、女性化乳房などを示す。テストステロン不足による骨端線閉鎖の遅れに加え、過剰なX染色体上の成長関連遺伝子(SHOX遺伝子など)の量的効果もあって、下肢の長い高身長を呈する。低身長はきたさない。
- ×d. McCune-Albright症候群
McCune-Albright症候群は、Gsα蛋白をコードするGNAS遺伝子の活性化変異が体細胞モザイクとして生じる疾患である。3主徴は、(1)ゴナドトロピン非依存性の思春期早発症(性早熟症)、(2)多骨性線維性骨異形成症、(3)辺縁が不整なカフェオレ斑である。性腺機能はむしろ亢進しており、性腺機能低下症ではない。なお思春期早発症では早期の骨端線閉鎖により最終身長が低くなりうるが、それは性腺機能亢進の結果であり、題意の「性腺機能低下症」には当たらない。
- ○e. Prader-Willi症候群
Prader-Willi症候群は、15番染色体長腕(15q11-q13)の父由来遺伝子が働かなくなることで生じるゲノムインプリンティング疾患である。視床下部機能障害を基盤に、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(男児の停留精巣・小陰茎などの外性器低形成、思春期発来遅延)とGH分泌不全を伴い、低身長を呈する。新生児期の著明な筋緊張低下と哺乳障害、アーモンド様の目などの特徴的顔貌、知的障害、幼児期以降の過食による肥満も特徴である。性腺機能低下症と低身長を併せ持つ点で題意を満たす。わが国では骨端線閉鎖前の低身長に対してGH治療が保険適用となっている。
性腺機能低下症の分類
・低ゴナドトロピン性(続発性): 視床下部・下垂体の障害でLH・FSHが低い。例: Kallmann症候群、Prader-Willi症候群、Fröhlich症候群(視床下部腫瘍)、下垂体腫瘍、汎下垂体機能低下症。 ・高ゴナドトロピン性(原発性): 性腺そのものの障害でLH・FSHが高い。例: Klinefelter症候群(47,XXY)、Turner症候群(45,X)。
性腺機能低下症と身長
性ステロイド単独の不足では骨端線閉鎖が遅れ、高身長(類宦官体型: 指極が身長より長く、下半身が長い)になりやすい。低身長を伴うのは、GH分泌不全の合併(Prader-Willi症候群、汎下垂体機能低下症など)や、染色体異常そのものによる成長障害(Turner症候群ではSHOX遺伝子のハプロ不全による低身長)がある場合である。
Prader-Willi症候群の遺伝的機序
・父由来15q11-q13の欠失: 約70% ・母性片親性ダイソミー(15番染色体を2本とも母から受け継ぐ): 約20〜30% ・インプリンティング変異: 数% 同じ領域の母由来遺伝子(UBE3A)の機能喪失ではAngelman症候群となる。
Prader-Willi症候群の経過
乳児期は筋緊張低下と哺乳不良で体重増加不良、幼児期以降は視床下部性の満腹感欠如による過食と肥満が問題となり、2型糖尿病や睡眠時無呼吸などの合併症につながる。
POINT
・性腺機能低下症単独では骨端線閉鎖が遅れ、高身長(類宦官体型)になる。 ・性腺機能低下+低身長の代表: Prader-Willi症候群(GH分泌不全を合併)、Turner症候群。 ・Kallmann症候群: 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症+嗅覚脱失。 ・Klinefelter症候群: 47,XXY、高ゴナドトロピン性、高身長・女性化乳房。 ・McCune-Albright症候群: 思春期早発症・多骨性線維性骨異形成・カフェオレ斑(GNAS活性化変異)。 ・Fröhlich症候群: 視床下部病変による肥満+性器発育不全。
