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性ホルモンが足りないのに背が低い?―骨端線とGHで解くPrader-Willi症候群

第100回医師国家試験 B問題 第61問

国試問題にチャレンジ

第100回 B問題 第61問

低身長を伴う性腺機能低下症はどれか。

  1. a.Fröhlich症候群
  2. b.Kallmann症候群
  3. c.Klinefelter症候群
  4. d.McCune-Albright症候群
  5. e.Prader-Willi症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、性腺機能低下症をきたす疾患のなかから、低身長を伴うものを選ぶ問題だ。カギになるのは「性ステロイドが身長にどう関わるか」という生理学。ここを押さえると、一見バラバラな症候群がきれいに整理できるよ。まず、性ホルモンが足りないと身長はどうなると思う?
医学生医学生
思春期のスパートが起こらないので、背が低くなりそうな気がします。
ドクタードクター
直感的にはそう考えたくなるよね。でも実は逆で、性ステロイドには成長を加速させる作用と同時に、骨端線、つまり成長軟骨板を閉じさせる作用がある。性腺機能低下症だけが単独で存在すると、骨端線がなかなか閉じずに長管骨が伸び続ける。その結果、手足が長い類宦官体型になって、むしろ高身長になりやすいんだ。
医学生医学生
なるほど、閉じるブレーキがかからないんですね。じゃあ低身長を伴うには、別の原因が必要ということですか。
ドクタードクター
その通り。代表的なのは成長ホルモン(GH)の分泌不全が加わる場合だ。視床下部の機能障害を基盤にして、ゴナドトロピンとGHの両方が足りなくなる疾患が答えになる。それがPrader-Willi症候群だ。
医学生医学生
小児科の実習で、新生児期にぐにゃっとしたフロッピーインファントとして見つかった子がPrader-Willi症候群だったと聞きました。
ドクタードクター
まさに典型的な入り口だね。新生児期の著明な筋緊張低下と哺乳障害、アーモンド様の目などの特徴的顔貌、知的障害があり、幼児期以降は満腹感が得られずに過食して肥満になる。男児では停留精巣や小陰茎といった外性器の低形成、思春期発来の遅れがみられ、これが低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の表れだ。そこにGH分泌不全による低身長が加わる。
医学生医学生
遺伝の講義では、15番染色体のゲノムインプリンティング疾患と習いました。
ドクタードクター
そう。15q11-q13の父由来遺伝子が働かなくなることで生じる。父由来領域の欠失が約7割、15番染色体を2本とも母から受け継ぐ母性片親性ダイソミーが2〜3割だ。同じ領域でも母由来のUBE3A遺伝子が失われるとAngelman症候群になる、という対比もよく問われるよ。では、ほかの選択肢を見ていこう。Kallmann症候群はどうかな。
医学生医学生
嗅覚がない性腺機能低下症ですよね。視床下部の病気なので、GHも低くなって背が低くなりそうですが……。
ドクタードクター
そこが誤解しやすいところ。Kallmann症候群は、GnRHを産生する神経細胞が胎生期に嗅板から視床下部へ遊走できないことで起こる。GnRH細胞は嗅神経と一緒に移動するから、嗅球の形成不全による嗅覚脱失を合併するわけだ。障害はGnRH系に限られていてGH分泌は保たれるので、さっきの原理どおり類宦官体型の高身長傾向になる。
医学生医学生
Klinefelter症候群も高身長の側ですね。47,XXYで、精巣が小さくて硬いと覚えています。
ドクタードクター
そう、こちらは性腺そのものの障害だから、LH・FSHが高い高ゴナドトロピン性の原発性性腺機能低下症だ。テストステロン不足で骨端線閉鎖が遅れることに加えて、過剰なX染色体上のSHOX遺伝子などの量的効果もあり、下肢の長い高身長になる。女性化乳房や無精子症も特徴だね。
医学生医学生
Fröhlich症候群は名前しか知りません。肥満と性腺機能低下という点ではPrader-Willi症候群と似ていそうです。
ドクタードクター
似ている部分はあるね。Fröhlich症候群は脂肪性器異栄養症とも呼ばれ、頭蓋咽頭腫などの視床下部の器質的病変によって、肥満と性器の発育不全をきたす病態だ。主徴は肥満と性器発育不全で、低身長は特徴として挙げられない。現在では独立した疾患というより、視床下部障害による症候の組み合わせを指す歴史的な呼称として扱われることが多いよ。
医学生医学生
McCune-Albright症候群はカフェオレ斑と骨の病変の疾患でしたよね。性腺の機能はどうなるんでしたっけ。
ドクタードクター
むしろ亢進するんだ。GNAS遺伝子の活性化変異が体細胞モザイクとして生じ、ゴナドトロピン非依存性の思春期早発症、多骨性線維性骨異形成症、辺縁が不整なカフェオレ斑の3主徴を示す。思春期早発症では骨端線が早く閉じて最終身長が低くなりうるけれど、それは性腺機能亢進の結果だから、今回の問いには当てはまらない。
医学生医学生
性ホルモンが早く出すぎると低身長、足りないだけなら高身長、GHも足りなければ低身長、と整理できました。
ドクタードクター
完璧な整理だ。最後に発展知識。性腺機能低下と低身長を併せもつもう一つの代表がTurner症候群で、こちらは45,Xの高ゴナドトロピン性で、SHOX遺伝子のハプロ不全によって低身長になる。Klinefelter症候群と鏡像の関係で覚えるといい。またPrader-Willi症候群では、わが国では骨端線閉鎖前の低身長に対してGH治療が保険適用になっている。過食による肥満は2型糖尿病や睡眠時無呼吸につながるので、食事管理を含めた長期のフォローが欠かせないんだ。
医学生医学生
鑑別のときは、LH・FSHが高いか低いかと、身長・体型をセットで見るようにします。
ドクタードクター
それがいちばん実践的だね。ゴナドトロピンの値で障害部位を、身長と体型でGHや染色体の関与を推測する。この二段階で考えれば、初めて見る症例でも筋道を立てて鑑別できるよ。

まとめ

性ステロイドは思春期の成長を加速させる一方で骨端線を閉鎖させるため、性腺機能低下症が単独で存在すると骨端線閉鎖が遅れ、類宦官体型の高身長になりやすくなります。低身長を伴うのはGH分泌不全などの別の成長障害が加わる場合で、視床下部機能障害により低ゴナドトロピン性性腺機能低下症とGH分泌不全を併せもつPrader-Willi症候群(15q11-q13の父由来遺伝子の機能喪失)がその代表です。Kallmann症候群(嗅覚脱失を伴う低ゴナドトロピン性)やKlinefelter症候群(47,XXY、高ゴナドトロピン性)は高身長傾向を示し、Fröhlich症候群は肥満と性器発育不全が主徴、McCune-Albright症候群は性腺機能がむしろ亢進する思春期早発症をきたします。ゴナドトロピン値で障害部位を、身長・体型でGHや染色体の関与を読み解く視点は、小児内分泌疾患の鑑別を進めるうえでの基本となります。

解答・解説

正解はeです

本問は、性腺機能低下症(性ホルモンの分泌や性腺の発育が不十分な状態)をきたす疾患のうち、低身長を合併するものを選ぶ問題である。

考え方

身長の伸びは主に成長ホルモン(GH)と、思春期の性ステロイド(エストロゲン・テストステロン)によって決まる。性ステロイドは思春期の成長加速をもたらす一方で、骨端線(成長軟骨板)を閉鎖させる作用も持つ。したがって、性腺機能低下症だけが単独で存在する場合には、骨端線がなかなか閉じず長管骨が長く伸び続けるため、手足の長い「類宦官体型」となり、むしろ高身長になりやすい。 そのため、性腺機能低下症に低身長が合併するには、GH分泌不全などの別の成長障害の要素が加わっている必要がある。Prader-Willi症候群は視床下部の機能障害を基盤とし、性腺機能低下(ゴナドトロピン分泌不全)とGH分泌不全の両方を伴うことが多く、低身長を呈する代表的疾患である。 一方、Kallmann症候群やKlinefelter症候群は性腺機能低下症であるが、上記の理由で高身長傾向を示す。McCune-Albright症候群はそもそも性腺機能「亢進」(思春期早発症)をきたす疾患であり、題意に合わない。

選択肢考察

  1. ×a.  Fröhlich症候群

    Fröhlich症候群(脂肪性器異栄養症)は、頭蓋咽頭腫などの視床下部の器質的病変によって、肥満と性器の発育不全(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)を主徴とする病態である。性腺機能低下症には該当するが、主徴は肥満と性器発育不全であり、低身長は本症候群の特徴として挙げられない。なお現在では独立した疾患というより、視床下部障害による症候の組み合わせを指す歴史的な呼称として扱われることが多い。

  2. ×b.  Kallmann症候群

    Kallmann症候群は、胎生期にゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH、LH-RHとも呼ぶ)を産生する神経細胞が嗅板から視床下部へ移動(遊走)できないために起こる、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症である。GnRH産生細胞は嗅神経とともに移動するため、嗅球・嗅索の形成不全による嗅覚脱失(無嗅症)を合併するのが特徴である。GH分泌は保たれており、性ステロイド不足で骨端線の閉鎖が遅れるため、低身長ではなく類宦官体型の高身長傾向となる。

  3. ×c.  Klinefelter症候群

    Klinefelter症候群は性染色体異常(代表的な核型は47,XXY)による男性の原発性性腺機能低下症(高ゴナドトロピン性)である。小さく硬い精巣、無精子症、女性化乳房などを示す。テストステロン不足による骨端線閉鎖の遅れに加え、過剰なX染色体上の成長関連遺伝子(SHOX遺伝子など)の量的効果もあって、下肢の長い高身長を呈する。低身長はきたさない。

  4. ×d.  McCune-Albright症候群

    McCune-Albright症候群は、Gsα蛋白をコードするGNAS遺伝子の活性化変異が体細胞モザイクとして生じる疾患である。3主徴は、(1)ゴナドトロピン非依存性の思春期早発症(性早熟症)、(2)多骨性線維性骨異形成症、(3)辺縁が不整なカフェオレ斑である。性腺機能はむしろ亢進しており、性腺機能低下症ではない。なお思春期早発症では早期の骨端線閉鎖により最終身長が低くなりうるが、それは性腺機能亢進の結果であり、題意の「性腺機能低下症」には当たらない。

  5. ○e.  Prader-Willi症候群

    Prader-Willi症候群は、15番染色体長腕(15q11-q13)の父由来遺伝子が働かなくなることで生じるゲノムインプリンティング疾患である。視床下部機能障害を基盤に、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(男児の停留精巣・小陰茎などの外性器低形成、思春期発来遅延)とGH分泌不全を伴い、低身長を呈する。新生児期の著明な筋緊張低下と哺乳障害、アーモンド様の目などの特徴的顔貌、知的障害、幼児期以降の過食による肥満も特徴である。性腺機能低下症と低身長を併せ持つ点で題意を満たす。わが国では骨端線閉鎖前の低身長に対してGH治療が保険適用となっている。

性腺機能低下症の分類

・低ゴナドトロピン性(続発性): 視床下部・下垂体の障害でLH・FSHが低い。例: Kallmann症候群、Prader-Willi症候群、Fröhlich症候群(視床下部腫瘍)、下垂体腫瘍、汎下垂体機能低下症。 ・高ゴナドトロピン性(原発性): 性腺そのものの障害でLH・FSHが高い。例: Klinefelter症候群(47,XXY)、Turner症候群(45,X)。

性腺機能低下症と身長

性ステロイド単独の不足では骨端線閉鎖が遅れ、高身長(類宦官体型: 指極が身長より長く、下半身が長い)になりやすい。低身長を伴うのは、GH分泌不全の合併(Prader-Willi症候群、汎下垂体機能低下症など)や、染色体異常そのものによる成長障害(Turner症候群ではSHOX遺伝子のハプロ不全による低身長)がある場合である。

Prader-Willi症候群の遺伝的機序

・父由来15q11-q13の欠失: 約70% ・母性片親性ダイソミー(15番染色体を2本とも母から受け継ぐ): 約20〜30% ・インプリンティング変異: 数% 同じ領域の母由来遺伝子(UBE3A)の機能喪失ではAngelman症候群となる。

Prader-Willi症候群の経過

乳児期は筋緊張低下と哺乳不良で体重増加不良、幼児期以降は視床下部性の満腹感欠如による過食と肥満が問題となり、2型糖尿病や睡眠時無呼吸などの合併症につながる。

POINT

・性腺機能低下症単独では骨端線閉鎖が遅れ、高身長(類宦官体型)になる。 ・性腺機能低下+低身長の代表: Prader-Willi症候群(GH分泌不全を合併)、Turner症候群。 ・Kallmann症候群: 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症+嗅覚脱失。 ・Klinefelter症候群: 47,XXY、高ゴナドトロピン性、高身長・女性化乳房。 ・McCune-Albright症候群: 思春期早発症・多骨性線維性骨異形成・カフェオレ斑(GNAS活性化変異)。 ・Fröhlich症候群: 視床下部病変による肥満+性器発育不全。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。