StudyMed医師国家試験

「大きさ」が運命を分ける―大腸腺腫と腺腫‐癌連関の基本

第100回医師国家試験 B問題 第35問

国試問題にチャレンジ

第100回 B問題 第35問

大腸腺腫について正しいのはどれか。

  1. a.30歳代に発見されることが多い。
  2. b.上行結腸に発生することが多い。
  3. c.大きなものほど癌の合併が多い。
  4. d.粘血便を伴うことが多い。
  5. e.有茎性のものが多い。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は大腸腺腫の基本的な性質を問う問題だ。好発年齢、好発部位、形、症状、そして癌との関係。どれも大腸癌の予防を考えるうえで土台になる知識だから、一つずつ整理していこう。まず、大腸腺腫とはどういう病変か説明できるかな。
医学生医学生
大腸粘膜の上皮から出てくる良性の腫瘍で、大腸ポリープの中でいちばん多いもの、と理解しています。
ドクタードクター
その通り。そして大事なのは、多くの大腸癌がこの腺腫を出発点にしているということ。腺腫が時間をかけて大きくなり、その一部が癌に変わる経路を「腺腫‐癌連関(adenoma-carcinoma sequence)」と呼ぶんだ。
医学生医学生
病理学の講義で、APC、KRAS、TP53と遺伝子変異が順番に積み重なっていく図を見ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。APC遺伝子の変異で腺腫ができ、そこにKRASやTP53などの変異が段階的に加わって癌へ進む。変異が蓄積するには時間が必要で、時間とともに病変も大きくなる。ここまで来ると、正解が見えてこないかな。
医学生医学生
大きい腺腫ほど変異がたまっていて、癌を含む可能性が高い、ということですね。
ドクタードクター
正解。1cm未満の腺腫で癌を含むことはまれだけれど、1〜2cmでは約1割、2cmを超えると数十%と、大きさとともに癌の合併率ははっきり上がる。大きさのほかに、絨毛成分が多い、異型度が高い、陥凹を伴うといった特徴も癌の合併を示唆するよ。では、ほかの記述も確認しよう。発見される年齢はどうだろう。
医学生医学生
30歳代は若すぎる気がします。検診で見つかるのは中高年が多いですよね。
ドクタードクター
そう。腺腫は加齢とともに増え、50〜70歳代で見つかることが多い。逆に30歳代で多数の腺腫がある場合は、家族性大腸腺腫症のような遺伝性疾患を考える必要がある。APC遺伝子の生殖細胞系列変異で、大腸に100個以上の腺腫ができ、放置すればほぼ全例が癌化する常染色体顕性遺伝の病気だ。
医学生医学生
部位については、上行結腸が多いと言われると、なんとなく右側も多そうに思えて迷いました。
ドクタードクター
迷うのは分かるよ。伝統的にはS状結腸と直腸に多いとされ、大腸癌の好発部位と似た分布をとる。ただ、右側結腸には平坦で見つけにくい鋸歯状病変、特に無茎性鋸歯状病変が多く、これも癌化の別経路になる。近年の内視鏡統計では右側にも腺腫がかなり見つかるという報告もあるけれど、上行結腸が最多というわけではない。
医学生医学生
形については、教科書の写真だと茎のあるきのこ型のポリープが印象的でした。
ドクタードクター
印象には残りやすいけれど、実際には茎のない無茎性(広基性)や平坦に盛り上がる表面型のものが多く、はっきりした茎をもつ有茎性は少数だ。有茎性はS状結腸など腸の動きが大きい部位で、蠕動で粘膜が引っ張られて茎ができたものが多いんだ。
医学生医学生
症状についても、粘血便はむしろ潰瘍性大腸炎や赤痢のイメージです。
ドクタードクター
その感覚で正しい。腺腫の大部分は無症状で、便潜血検査陽性をきっかけにした内視鏡や検診で偶然見つかる。大きな腺腫で出血することや、絨毛腺腫が大量の粘液を出して低カリウム血症を起こすこともあるけれど、粘血便を伴うことが多いとはいえない。粘血便が典型的なのは炎症性腸疾患や感染性腸炎、進行大腸癌だ。
医学生医学生
臨床実習で消化器内科を回ったとき、内視鏡中に見つけたポリープをその場で切除していました。あれは大きさで判断していたんでしょうか。
ドクタードクター
まさに今回の知識が生きる場面だね。大きいほど癌を含みやすいから、おおむね6mm以上の腺腫は内視鏡的切除の適応とされる。5mm以下でも平坦・陥凹型で癌との区別が難しいものは切除を考える。小さな病変にはコールドスネアポリペクトミー、平坦なものには粘膜下に液体を注入して持ち上げるEMR、大きなものにはESDが選ばれる。
医学生医学生
切除したあとは病理で確認するんですよね。
ドクタードクター
そう。切除標本で癌が含まれていれば、深達度や脈管侵襲から追加の外科手術が必要かを判断する。腺腫の段階で取り除くことが、そのまま大腸癌の予防になるというのが、この分野のいちばん大切なメッセージだよ。

まとめ

大腸腺腫は大腸粘膜上皮から生じる良性腫瘍で、APC、KRAS、TP53などの遺伝子変異が段階的に蓄積する腺腫‐癌連関を通じて大腸癌の主要な前癌病変となります。そのため腺腫は大きいほど、また絨毛成分が多く異型度が高いほど癌を合併しやすく、1〜2cmで約1割、2cm超では数十%に達します。好発は50〜70歳代、伝統的にはS状結腸・直腸に多く、形態は無茎性や平坦なものが主体で、大部分は無症状のまま便潜血検査や内視鏡で発見されます。若年で多発する場合は家族性大腸腺腫症を疑い、通常はおおむね6mm以上の腺腫が内視鏡的切除の適応です。腺腫の性質を理解することは、検診や内視鏡治療による大腸癌予防の考え方そのものにつながります。

解答・解説

正解はcです

大腸腺腫は、大腸粘膜の上皮細胞が異常に増殖してできる良性の腫瘍(上皮性腫瘍)で、大腸ポリープの中で最も多い。多くの大腸癌は、腺腫が時間をかけて大きくなり、その一部が癌に変わる経路(腺腫‐癌連関 adenoma-carcinoma sequence)で発生すると考えられている。この経路では、APC遺伝子の変異で腺腫ができ、KRAS遺伝子やTP53遺伝子などの変異が段階的に加わることで癌に進む。 本問では、大腸腺腫の疫学(好発年齢・好発部位)、形態、症状、癌化との関係を整理しておくことが求められる。 ・好発年齢: 年齢とともに増え、中高年(おおむね50歳以降)に多い。 ・好発部位: 伝統的にS状結腸と直腸に多いとされる。 ・形態: 茎のない(無茎性・広基性)もの、平坦なものが多く、茎をもつ有茎性のものは少数である。 ・症状: 大部分は無症状で、便潜血検査や大腸内視鏡検査で偶然見つかる。 ・癌化: 腺腫が大きいほど、また絨毛成分が多いほど、異型度が高いほど、内部に癌を含む頻度が高い。 このうち「大きさと癌合併率」の関係は、内視鏡で見つかった腺腫を切除するかどうかを判断する根拠にもなる重要な知識である。

選択肢考察

  1. ×a.  30歳代に発見されることが多い。

    大腸腺腫は加齢とともに頻度が上がり、50~70歳代に発見されることが多い。30歳代で多数の腺腫がみられる場合は、APC遺伝子の生殖細胞系列変異による家族性大腸腺腫症(大腸に100個以上の腺腫が多発し、放置すればほぼ全例で大腸癌を発生する常染色体顕性遺伝の疾患)などの遺伝性疾患を考える必要がある。

  2. ×b.  上行結腸に発生することが多い。

    大腸腺腫は大腸のどこにでも発生するが、S状結腸と直腸に多いとされ、大腸癌の好発部位と同様の分布をとる。上行結腸が最も多いわけではない。なお、盲腸・上行結腸などの右側結腸には、平坦で見つけにくい鋸歯状病変(無茎性鋸歯状病変 SSL)が多く、これも癌化の経路となる点は知っておくとよい。

  3. ○c.  大きなものほど癌の合併が多い。

    腺腫は大きくなるにつれて遺伝子変異が蓄積し、異型度が高くなり、内部に癌を含む頻度が高くなる。1cm未満の腺腫では癌を含むことはまれだが、1~2cmでは約1割、2cmを超えると数十%と、大きさとともに癌合併率は明らかに上昇する。このため内視鏡で見つかった腺腫は、おおむね6mm以上のものが切除の適応とされる(5mm以下でも平坦・陥凹型で癌との区別が難しいものは切除を考慮する)。大きさのほか、絨毛成分が多い(絨毛腺腫)、異型度が高い、陥凹を伴う、といった特徴も癌の合併を示唆する。

  4. ×d.  粘血便を伴うことが多い。

    大腸腺腫の大部分は無症状であり、便潜血検査陽性をきっかけにした内視鏡検査や、検診の内視鏡検査で偶然見つかることが多い。大きな腺腫では表面からの出血で血便を生じることがあり、絨毛腺腫では粘液を多く分泌して粘液便(まれに大量の粘液分泌による低カリウム血症)を来すこともあるが、粘血便を伴うことが多いとはいえない。粘血便が典型的なのは潰瘍性大腸炎、細菌性赤痢、アメーバ赤痢などの炎症性疾患や、進行大腸癌である。

  5. ×e.  有茎性のものが多い。

    大腸腺腫の形態は、茎のない無茎性(広基性)のもの、平坦に隆起する表面型のもの(表面隆起型・平坦型など)が多く、はっきりした茎をもつ有茎性のものは少数である。有茎性のポリープは、S状結腸など腸管の動きが大きい部位で、腸の蠕動によって粘膜が引っ張られて茎が形成されたものが多い。

大腸ポリープの分類

・腫瘍性: 腺腫(管状腺腫、管状絨毛腺腫、絨毛腺腫)、鋸歯状病変(無茎性鋸歯状病変 SSL、伝統的鋸歯状腺腫 TSA)、癌 ・非腫瘍性: 過形成性ポリープ、炎症性ポリープ、過誤腫性ポリープ(若年性ポリープ、Peutz-Jeghers型ポリープ) 腺腫の組織型では管状腺腫が最も多く、絨毛成分が多いほど癌化しやすい。

大腸ポリープの肉眼形態(山田分類)

I型: 隆起の立ち上がりがなだらかで境界不明瞭 II型: 立ち上がりが明瞭でくびれがない III型: くびれがあるが茎がない(亜有茎性) IV型: 明らかな茎がある(有茎性) 大腸では、無茎性(Is)、亜有茎性(Isp)、有茎性(Ip)、表面型(IIa、IIb、IIc)という分類もよく用いられる。

腺腫の治療

内視鏡的切除が基本である。小さな病変にはコールドスネアポリペクトミー、有茎性病変にはホットスネアによるポリペクトミー、平坦な病変には粘膜下層に液体を注入して持ち上げてから切除する内視鏡的粘膜切除術(EMR)、大きな病変には内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が選択される。切除した病変は病理組織学的に評価し、癌が含まれていた場合は深達度や脈管侵襲などから追加の外科手術の必要性を判断する。

遺伝性の腺腫性疾患

家族性大腸腺腫症(APC遺伝子): 若年から100個以上の腺腫が多発し、予防的大腸全摘が行われる。胃・十二指腸病変、デスモイド腫瘍、骨腫などを伴うことがある。

POINT

・大腸腺腫は大腸癌の主要な前癌病変(腺腫‐癌連関: APC → KRAS → TP53)。 ・好発: 50~70歳代、S状結腸・直腸。 ・形態は無茎性(広基性)・平坦なものが多く、有茎性は少数。 ・大部分は無症状。便潜血検査や内視鏡で発見される。 ・大きいほど、絨毛成分が多いほど、異型度が高いほど癌を合併しやすい。 ・おおむね6mm以上の腺腫は内視鏡的切除の適応。 ・若年で多発する腺腫をみたら家族性大腸腺腫症を疑う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。