背が伸びない、寒がる、元気がない―6歳女児の不調をひとつにつなぐホルモン
第99回医師国家試験 G問題 第49問
国試問題にチャレンジ
6歳9か月の女児。背が低いことと元気がないこととを主訴に来院した。在胎40週,正常分娩で出生した。その後の成長発達に問題はなかった。1年半くらい前から活発さがなくなり,寒さを訴えることが多くなった。身長100cm,体重25.0kg。体温35.8℃。呼吸数18/分。脈拍56/分,整。血圧92/58mmHg。血液所見:赤血球389万,Hb 10.6g/dL,Ht 30%,白血球6,000,血小板23万。血液生化学所見:総蛋白6.7g/dL,アルブミン4.5g/dL,総コレステロール360mg/dL,AST 40U/L,ALT 35U/L,LD 350U/L(基準176~353)。顔面の写真を別に示す。 この疾患の治療薬はどれか。

- a.成長ホルモン
- b.ビタミンB6
- c.甲状腺ホルモン
- d.活性型ビタミンD
- e.副腎皮質ステロイド薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
小児の低身長で、身長に比べて体重が重く、寒がり・活気低下・低体温・徐脈・高コレステロール血症・粘液水腫様顔貌を伴う場合は、後天性の甲状腺機能低下症を考えます。学童期では慢性甲状腺炎(橋本病)が最も多く、治療はレボチロキシン(T4製剤)による甲状腺ホルモン補充で、TSH・FT4を指標に少量から調整し、キャッチアップ成長が期待できます。成長ホルモンは成長ホルモン分泌不全性低身長症など、活性型ビタミンDはくる病など、ビタミンB6は依存性てんかんなどに用いる薬で本例には適さず、副腎皮質ステロイドは副腎不全合併時に甲状腺ホルモンより先に補充する点が重要です。成長曲線で「身長だけが伸びない」パターンに気づき、全身症状と結びつけて内分泌疾患を疑う視点は、小児診療で見逃しを防ぐ基本になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・6歳9か月の女児。周産期・乳幼児期の成長発達は正常で、約1年半前から活気の低下と寒がり(耐寒性低下)が出現した。すなわち「もともと正常だった子どもが後天的に不調になった」経過である。 ・身長100cmは同年齢女児の平均(約120cm)を大きく下回り、およそ-4SD程度の著しい低身長である。一方、体重25.0kgは同年齢の平均(約22kg)をむしろ上回り、身長に比べて体重が重い(肥満傾向・粘液水腫による浮腫を含む)。 ・体温35.8℃の低体温、脈拍56/分の徐脈、血圧92/58mmHgで脈圧は34mmHgと小さい。 ・軽度の貧血(Hb 10.6g/dL)、総コレステロール360mg/dLの著明な高コレステロール血症、LDの軽度上昇がある。 ・顔面写真では、腫れぼったい浮腫状の顔貌、眼瞼の腫脹、鼻根部の平坦化、口唇の肥厚など、いわゆる粘液水腫様顔貌がみられる。
診断へのプロセス
低身長の鑑別では、成長率の低下が「いつから」始まったかと、身長と体重のバランスが重要である。栄養不良や慢性疾患による低身長では体重も身長以上に低下するが、内分泌疾患(甲状腺機能低下症、成長ホルモン分泌不全、Cushing症候群)では身長の伸びが止まる一方で体重は保たれるか増加する。本例は身長に比して体重が重い「内分泌型」の低身長である。 さらに、活気低下・寒がり・低体温・徐脈という代謝低下症状、高コレステロール血症(甲状腺ホルモン不足によりLDL受容体の発現が低下しLDLの異化が遅れる)、貧血、LD上昇(筋由来酵素の上昇:CKも上昇しやすい)、粘液水腫様顔貌は、いずれも甲状腺ホルモン不足で一元的に説明できる。よって後天性の甲状腺機能低下症と診断する。学童期に後天性に発症する原発性甲状腺機能低下症の原因としては、慢性甲状腺炎(橋本病)が最も多く、女児に多い。 鑑別として、成長ホルモン分泌不全性低身長症では低身長と肥満傾向はみられるが、寒がり・徐脈・高コレステロール血症・粘液水腫様顔貌は説明できない。Cushing症候群も成長障害と肥満をきたすが、高血圧や満月様顔貌・皮膚線条が中心で、低体温や徐脈とは合わない。Turner症候群は女児の低身長の重要な鑑別であるが、出生時からの成長率低下や翼状頸・外反肘などの身体所見を伴い、本例の代謝低下症状とは合わない。
設問の考え方
治療は不足している甲状腺ホルモンの補充である。実際には診断確定のためにTSH、遊離T4(FT4)、抗甲状腺抗体(抗TPO抗体、抗サイログロブリン抗体)を測定し、原発性(TSH高値)か中枢性(TSH低値~正常)かを確認してから補充を開始する。
選択肢考察
- ×a. 成長ホルモン
誤り。成長ホルモンは成長ホルモン分泌不全性低身長症、Turner症候群、Prader-Willi症候群、SGA(在胎週数に比して小さく生まれた児)性低身長症などの治療に用いられる。本例の低身長は甲状腺ホルモン不足によって成長板(骨端軟骨)での骨成長が障害された結果であり、甲状腺ホルモンを補充すればキャッチアップ成長(遅れを取り戻す急速な身長の伸び)が期待できる。また甲状腺機能低下症では成長ホルモンの分泌も二次的に低下するが、これも甲状腺ホルモン補充で改善するため、成長ホルモン投与の適応ではない。寒がり、徐脈、高コレステロール血症、粘液水腫様顔貌は成長ホルモン不足では説明できない。
- ×b. ビタミンB6
誤り。ビタミンB6(ピリドキシン)は、ビタミンB6依存性てんかん(新生児・乳児期の難治性けいれん)、イソニアジドによる末梢神経障害の予防、鉄芽球性貧血の一部、ホモシスチン尿症(B6反応型)などに用いられる。ビタミンB6欠乏ではけいれん、末梢神経障害、口角炎・舌炎、小球性貧血などがみられるが、低身長・寒がり・徐脈・高コレステロール血症をきたすことはなく、本例とは関係しない。
- ○c. 甲状腺ホルモン
正しい。本例は後天性の甲状腺機能低下症(学童期女児であり、慢性甲状腺炎=橋本病が最も考えやすい)であり、治療は甲状腺ホルモン薬(レボチロキシンナトリウム:合成T4製剤)の内服による補充療法である。少量から開始して、TSHとFT4が基準範囲に入るよう用量を調整する。補充により活気・耐寒性・徐脈・高コレステロール血症・貧血は改善し、身長もキャッチアップ成長が期待できる。ただし診断が遅れて長期間経過した例では、最終身長が十分に回復しないこともある。なお、中枢性甲状腺機能低下症で副腎皮質機能低下症を合併している場合は、先に副腎皮質ステロイドを補充してから甲状腺ホルモンを開始する必要がある(逆の順序では副腎クリーゼを誘発しうる)。
- ×d. 活性型ビタミンD
誤り。活性型ビタミンD(アルファカルシドール、カルシトリオール)は、くる病・骨軟化症、副甲状腺機能低下症(低カルシウム血症)、慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常などに用いられる。くる病では低身長のほか、O脚・X脚、肋骨念珠、手関節の腫大などの骨変形、血清ALP上昇、低リン血症がみられるが、本例にはそのような骨所見の記載がなく、代謝低下症状とも合わない。
- ×e. 副腎皮質ステロイド薬
誤り。副腎皮質ステロイド(ヒドロコルチゾン)の補充は副腎皮質機能低下症(Addison病、下垂体機能低下症によるACTH分泌不全など)の治療に用いる。副腎不全では倦怠感、食欲低下、体重減少、低血圧、低ナトリウム血症、低血糖などがみられるが、本例は体重がむしろ多く、電解質・血糖の異常を示す記載もなく、副腎不全を示唆しない。本例の病態の中心は甲状腺ホルモン不足であり、第一選択は甲状腺ホルモン補充である。ただし、下垂体機能低下症による中枢性甲状腺機能低下症でACTH分泌不全を合併している場合には、甲状腺ホルモンより先にステロイドを補充する点は重要である。
小児の甲状腺機能低下症
・先天性甲状腺機能低下症(クレチン症):甲状腺の形成異常やホルモン合成障害による。新生児マススクリーニング(TSH測定)で発見され、早期に治療すれば知的予後は良好である。未治療では知的障害と著しい成長障害をきたす。 ・後天性甲状腺機能低下症:学童期以降では慢性甲状腺炎(橋本病)が最も多く、女児に多い。甲状腺腫を伴うことが多い。脳の発達がほぼ完成した後の発症であるため知的障害は残りにくいが、成長率の低下(低身長)、学業成績の低下、活気低下などで気づかれる。
甲状腺機能低下症の主な症状・所見
・代謝低下:寒がり、低体温、倦怠感、活動性低下、便秘、体重増加 ・循環:徐脈、心拡大・心嚢液貯留、拡張期血圧上昇(脈圧の縮小) ・皮膚:乾燥、粘液水腫(圧痕を残さない浮腫)、眉毛外側の脱毛 ・顔貌:眼瞼浮腫、口唇・舌の肥厚、表情の乏しさ ・小児特有:成長率の低下(身長に比べて体重が重い)、骨年齢の遅延、思春期遅発(まれに思春期早発) ・検査:高コレステロール血症、CK・AST・LDの上昇(筋由来)、貧血(正球性が多い)、低ナトリウム血症 ・甲状腺機能:原発性ではTSH高値・FT4低値、中枢性ではTSH低値~正常・FT4低値
低身長の鑑別の考え方
・身長に比べて体重が重い:内分泌性(甲状腺機能低下症、成長ホルモン分泌不全、Cushing症候群) ・身長も体重も少ない:栄養障害、慢性疾患(炎症性腸疾患、慢性腎臓病など)、心理社会的要因(愛情遮断症候群) ・出生時から小さい:SGA性低身長、染色体異常(Turner症候群など)、骨系統疾患 ・健常な家族性低身長や体質性成長遅延(成長率は正常)も多い。
治療
・レボチロキシン(T4製剤)を少量から開始し、TSH・FT4を指標に増量する。半減期が約7日と長く、1日1回の内服でよい。 ・副腎不全合併例ではステロイド補充を先行させる。
POINT
・寒がり・活気低下・低体温・徐脈・高コレステロール血症・粘液水腫様顔貌+身長に比べ体重が重い低身長→甲状腺機能低下症。 ・学童期の後天性甲状腺機能低下症の原因は慢性甲状腺炎(橋本病)が最多。 ・治療はレボチロキシン(甲状腺ホルモン)の補充。補充によりキャッチアップ成長が期待できる。 ・副腎不全合併時はステロイド補充を先に行う。 ・成長ホルモンは成長ホルモン分泌不全性低身長症、活性型ビタミンDはくる病、ビタミンB6は依存性てんかんなどに用いる。
