木の葉の白斑とシリーズ形成する発作―乳児の点頭てんかんに潜む結節性硬化症
第99回医師国家試験 G問題 第47問
国試問題にチャレンジ
6か月の乳児。数回続けて起こる頭部前屈発作を主訴に来院した。在胎41週,出生体重3,320g,正常分娩で出生した。生後1週ころから,肩と背部とに2~3cmの木の葉のような形の白斑が数個あることに気付かれている。頭部単純CTを示す。 この疾患で正しいのはどれか。

- a.男児のみに発症する。
- b.精神発達遅滞がみられる。
- c.口腔内に色素沈着がみられる。
- d.幼児期から顔面に血管腫が出現する。
- e.皮下結節が出現する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
乳児の点頭てんかん(West症候群)に、木の葉状の白斑(葉状白斑)と側脳室壁に沿った石灰化(上衣下結節)が加われば結節性硬化症を考えます。本症はTSC1/TSC2遺伝子異常による常染色体顕性遺伝疾患で性差はなく、皮質結節を背景としたてんかんと知的障害(およそ半数)が高頻度にみられ、顔面血管線維腫とあわせてVogtの三徴と呼ばれます。顔面病変は血管腫ではなく血管線維腫であり、口腔内色素沈着はPeutz-Jeghers症候群、皮下結節は神経線維腫症1型、顔面のポートワイン母斑はSturge-Weber症候群の特徴として区別が必要です。mTOR経路の過剰活性化により心臓・腎・肺など全身に過誤腫が生じるため、皮膚所見から早期に診断し、年齢に応じた多臓器のフォローにつなげることが重要です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・6か月の乳児で、頭部を前屈させる発作が数回続けて起こる(シリーズ形成)。これは点頭てんかん(West症候群)に特徴的なてんかん性スパズムの発作型である。 ・周産期歴に異常はなく、低酸素性虚血性脳症など周産期の脳障害を示唆する情報はない。 ・生後まもなくから肩と背部に木の葉の形をした2~3cmの白斑が複数ある。これは葉状白斑(ash-leaf macule)と呼ばれ、結節性硬化症で最も早期から出現する皮膚所見である。 ・頭部単純CTでは側脳室の壁に沿って小さな高吸収域(石灰化)が並んでいる。これは上衣下結節(subependymal nodule)の石灰化像である。
診断へのプロセス
乳児期の点頭てんかん+葉状白斑+脳室周囲の石灰化という組み合わせから、結節性硬化症(tuberous sclerosis complex:TSC)と診断できる。West症候群の原因疾患のなかで結節性硬化症は代表的なものの一つであり、点頭発作を起こした乳児では皮膚の白斑を必ず確認すべきである(通常光で見えにくい場合はWood灯(紫外線ランプ)で観察すると明瞭になる)。 鑑別として、脳内石灰化をきたす先天性サイトメガロウイルス感染症(脳室周囲石灰化)や先天性トキソプラズマ症があるが、これらでは葉状白斑はみられず、出生時から小頭症・難聴・肝脾腫などを伴うことが多い。また皮膚の色素異常を伴う神経皮膚症候群として神経線維腫症1型(カフェオレ斑)、Sturge-Weber症候群(顔面の毛細血管奇形)があるが、白斑である点で区別できる。
設問の考え方
設問は結節性硬化症の一般的な特徴を問うている。遺伝形式(常染色体顕性遺伝)、主要な症状(てんかん・知的障害・顔面血管線維腫)、他の神経皮膚症候群との混同を誘う選択肢(口腔内色素沈着、血管腫、皮下結節)を整理できるかがポイントである。
選択肢考察
- ×a. 男児のみに発症する。
誤り。結節性硬化症は常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる疾患で、原因遺伝子はTSC1(9番染色体、hamartinをコード)とTSC2(16番染色体、tuberinをコード)である。いずれも常染色体上にあるため性差はなく、男女とも同じ頻度で発症する。なお約3分の2は両親に異常のない新生突然変異(孤発例)である。男児のみに発症するのはX連鎖潜性遺伝の疾患(Duchenne型筋ジストロフィー、血友病など)であり、本症とは異なる。
- ○b. 精神発達遅滞がみられる。
正しい。結節性硬化症では大脳皮質に皮質結節(過誤腫性の病変)が多発し、てんかんと知的障害(精神発達遅滞)を高率にきたす。知的障害はおよそ半数の患者にみられ、とくに本例のように乳児期にWest症候群を発症し発作のコントロールが難しい例では重度になりやすい。自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症(ADHD)などの神経発達症の合併も多い。古典的には顔面血管線維腫・てんかん・知的障害の3つがVogtの三徴として知られる。
- ×c. 口腔内に色素沈着がみられる。
誤り。口唇・口腔粘膜・指趾の色素斑(メラニン沈着)は、消化管の過誤腫性ポリポーシスを伴うPeutz-Jeghers症候群(STK11遺伝子異常、常染色体顕性遺伝)の特徴である。結節性硬化症の口腔内所見としては歯肉の線維腫や歯のエナメル質小窩(エナメル小孔)がみられることはあるが、色素沈着は特徴ではない。そもそも本症の皮膚所見は色素が「抜ける」白斑が代表である。
- ×d. 幼児期から顔面に血管腫が出現する。
誤り。結節性硬化症では幼児期(おおむね2~5歳ころ)から鼻の周囲や両頬に左右対称性の赤褐色の小丘疹が多発してくるが、これは血管線維腫(angiofibroma)であり、血管腫ではない。かつては「皮脂腺腫(adenoma sebaceum)」と呼ばれたが、組織学的には皮脂腺の腫瘍ではなく、血管と線維組織の増生からなる過誤腫である。顔面の血管病変(三叉神経第1枝領域のポートワイン母斑=毛細血管奇形)が特徴的なのはSturge-Weber症候群であり、こちらは出生時から存在する。
- ×e. 皮下結節が出現する。
誤り。多発する皮下(皮膚)結節が特徴的なのは神経線維腫症1型(von Recklinghausen病)で、神経線維腫が思春期以降に全身の皮膚・皮下に多発する。結節性硬化症の「結節」は主に中枢神経系の病変(大脳の皮質結節、上衣下結節)を指す名称である。本症の皮膚病変は葉状白斑、顔面血管線維腫、爪囲線維腫(Koenen腫瘍)、粒起革様皮(シャグリンパッチ:腰背部の結合組織母斑)などであり、皮下結節は典型的所見に含まれない。
結節性硬化症(TSC)の概要
・遺伝:常染色体顕性遺伝。TSC1(hamartin)またはTSC2(tuberin)の異常により、細胞増殖を制御するmTOR(mammalian target of rapamycin)経路が過剰に活性化し、全身の諸臓器に過誤腫が生じる。孤発例が約3分の2を占める。
主な症状と出現時期の目安
・葉状白斑:出生時~乳児期。最も早期の手がかり。Wood灯で見やすくなる。 ・てんかん:乳児期から。点頭てんかん(West症候群)が多い。 ・知的障害・自閉スペクトラム症などの神経発達症。 ・顔面血管線維腫:幼児期(2~5歳ころ)から出現し、思春期に増加。 ・粒起革様皮(シャグリンパッチ):腰背部に好発。 ・爪囲線維腫(Koenen腫瘍):思春期以降。 ・心臓横紋筋腫:胎児期・新生児期に発見されることが多く、多くは自然退縮する。 ・腎血管筋脂肪腫:成人期に増大し出血の原因となる。腎嚢胞も合併しうる。 ・肺リンパ脈管筋腫症(LAM):主に成人女性。 ・網膜過誤腫。
中枢神経病変
・皮質結節:てんかんの焦点となる。 ・上衣下結節:側脳室壁に沿って生じ、石灰化してCTで高吸収域として描出される。 ・上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA):Monro孔付近に生じ、閉塞性水頭症の原因となる。
治療
・点頭てんかんにはACTH療法やビガバトリン(本症に伴うWest症候群で特に有効とされる)を用いる。 ・mTOR阻害薬(エベロリムス)がSEGA、腎血管筋脂肪腫に用いられ、顔面血管線維腫にはシロリムスの外用薬が用いられる。
主な神経皮膚症候群の皮膚所見の対比
・結節性硬化症:葉状白斑、顔面血管線維腫、シャグリンパッチ、爪囲線維腫 ・神経線維腫症1型:カフェオレ斑、神経線維腫(皮膚・皮下の結節)、雀卵斑様色素斑 ・Sturge-Weber症候群:顔面のポートワイン母斑(毛細血管奇形)、脳軟膜血管腫、脳の石灰化(tram-track sign) ・Peutz-Jeghers症候群(神経皮膚症候群ではないが混同しやすい):口唇・口腔粘膜の色素斑+消化管ポリポーシス
POINT
・点頭てんかん+葉状白斑+脳室周囲石灰化(上衣下結節)→結節性硬化症。 ・常染色体顕性遺伝(TSC1/TSC2)で性差なし。 ・Vogtの三徴:顔面血管線維腫・てんかん・知的障害。 ・顔面病変は「血管線維腫」(旧称:皮脂腺腫)であり血管腫ではない。血管腫(毛細血管奇形)はSturge-Weber症候群。 ・口腔内色素沈着はPeutz-Jeghers症候群、皮下結節(神経線維腫)は神経線維腫症1型。
