右の後頭葉が消すのは「左」の世界―MRIから視野欠損を予測する
第99回医師国家試験 F問題 第39問
国試問題にチャレンジ
44歳の男性。視野異常を訴えて来院した。視力は右0.2(1.5×-3.00 D),左0.2(1.5×-3.50 D)。眼圧は右13mmHg,左12mmHg。頭部単純MRIのT2強調横断像(A)を示す。 考えられる視野異常(B ①~⑤)はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
矯正視力と眼圧が正常で視野異常を訴える場合は、眼球自体よりも頭蓋内の視路病変を考えます。頭部MRI横断像は足側から見上げる向きで表示されるため画像の左側が患者の右側であり、本例は右後頭葉の病変です。視交叉では鼻側網膜の線維のみが交叉するため、視交叉より後方の一側病変は対側の同名半盲をきたし、右後頭葉病変では左同名半盲となります。後頭葉病変の同名半盲は調和性が高く、後大脳動脈梗塞では黄斑回避を伴いやすい一方、両耳側半盲は視交叉中央部、上四分盲は側頭葉のMeyerループ、下四分盲は頭頂葉の病変を示唆します。視路の解剖と画像の左右の読み方を結びつけることは、脳卒中や脳腫瘍の患者で症状から病変部位を推定する神経診察の基本になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・44歳男性が視野異常を主訴に受診した。 ・視力は裸眼で左右とも0.2だが、近視用の凹レンズ(−3.00D、−3.50D)で矯正すると1.5まで出る。つまり単なる近視であり、矯正視力は正常である。 ・眼圧は左右とも正常範囲(10〜21mmHg)であり、緑内障を積極的に疑う所見はない。 ・頭部MRI T2強調横断像(A):画像の向かって左、すなわち患者の右側の後頭葉に、皮質から白質にかけて広がる高信号域を認める(MRIの横断像は通常、足側から見上げた向きで表示されるため、画像の左側が患者の右側にあたる)。後頭葉内側を灌流する後大脳動脈領域の梗塞などが考えられる病変である。
視路と障害部位の考え方
網膜から後頭葉視覚野までの経路(視路)は、視神経→視交叉→視索→外側膝状体→視放線→後頭葉視覚野(鳥距溝周囲の一次視覚野、Brodmann 17野)の順につながる。視交叉では両眼の鼻側網膜(耳側視野を担当)からの線維だけが交叉するため、視交叉より後ろでは、右側の視路が両眼の左半分の視野を、左側の視路が両眼の右半分の視野を担当する。 したがって、右後頭葉の病変では、両眼の左側の視野が欠ける左同名半盲が生じる。後頭葉病変による同名半盲は左右眼の欠損の形がよく一致し(調和性が高い)、後大脳動脈梗塞では黄斑部の視野が保たれる黄斑回避を伴うことが多い。
視野図の読み方
視野図は患者側から見た視野を表しており、左眼の図の左側と右眼の図の右側がそれぞれ耳側、図の内側(左右の図が向かい合う側)が鼻側である。選択肢⑤は両眼とも視野の左半分が垂直経線を境に欠損しており、左同名半盲に一致する。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。両眼とも中心部の狭い範囲だけが残り、周辺視野が全周性に欠損する求心性視野狭窄である。進行した緑内障や網膜色素変性症のほか、有機水銀中毒(水俣病)、心因性視覚障害などでみられる。一側の後頭葉病変では片側の視野しか障害されないため、この型にはならない(両側後頭葉病変で黄斑回避を伴うと類似の視野になることはある)。
- ×b. ②
誤り。両眼とも鼻側の視野が欠損しており、両鼻側半盲の型である。両眼の耳側網膜(非交叉線維)が障害されることで生じ、視交叉が両外側から圧迫される場合(両側の内頸動脈の動脈硬化など)に起こりうるが、まれである。実際には緑内障などの眼疾患で両眼の鼻側に欠損が生じることの方が多い。本例の右後頭葉病変では生じない。
- ×c. ③
誤り。両眼とも水平経線を境に下半分の視野が欠損する水平半盲(下方の水平性欠損)である。水平性の視野欠損は、網膜血管の分布や視神経乳頭の血流が上下に分かれていることを反映し、前部虚血性視神経症(多くは片眼性)や網膜動脈分枝閉塞症などで典型的にみられる。後頭葉病変でも両側の鳥距溝上唇が障害されると両眼の下方欠損が起こりうるが、本例のような一側の後頭葉病変では垂直経線を境とする半盲となるため該当しない。
- ×d. ④
誤り。右眼は耳側(右側)の視野が欠損し、左眼も耳側(左側)に暗点を伴う欠損がみられ、両耳側半盲の型である。視交叉中央部で交叉する線維(両眼の鼻側網膜由来)が障害されると生じ、下垂体腺腫や頭蓋咽頭腫、鞍結節髄膜腫などによる視交叉の圧迫が代表的な原因である。本例は後頭葉病変であり、該当しない。
- ○e. ⑤
正解。両眼とも垂直経線を境として左側の視野が欠損しており、左同名半盲である。右眼では鼻側、左眼では耳側が欠けることになり、これは右側の視交叉より後方の視路(右視索、右外側膝状体、右視放線、右後頭葉視覚野)の障害で生じる。MRIで認める右後頭葉病変と対応する。
視路の障害部位と視野異常
・視神経(一側):障害眼の視力低下・中心暗点、あるいは片眼全盲。 ・視交叉中央部:両耳側半盲(下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、鞍結節髄膜腫など)。下垂体腺腫のように下方から圧迫されると上耳側から欠損が始まり、頭蓋咽頭腫のように上方から圧迫されると下耳側から始まることが多い。 ・視交叉外側(両側):両鼻側半盲(まれ)。 ・視索:非調和性(左右眼で欠損の形が一致しにくい)の同名半盲。 ・視放線(側頭葉のMeyerループ):対側の上四分盲("pie in the sky")。 ・視放線(頭頂葉):対側の下四分盲。 ・後頭葉視覚野:調和性の高い対側同名半盲。後大脳動脈梗塞では黄斑回避を伴うことが多い。鳥距溝の上唇の障害で対側下四分盲、下唇の障害で対側上四分盲となる。
黄斑回避
黄斑部の視覚を担う後頭極付近は、後大脳動脈に加えて中大脳動脈からも血流を受けることがあり、後大脳動脈の閉塞でも黄斑部の視野が保たれる場合がある。これを黄斑回避という。
MRIの向き
頭部の横断像は、通常は患者の足側から見上げる向きで表示されるため、画像の左側が患者の右側となる。病変の左右を読み違えないことが視野異常の予測では重要である。
求心性視野狭窄をきたす主な原因
緑内障の末期、網膜色素変性症、有機水銀中毒(Hunter-Russell症候群の一症状)、両側後頭葉障害(黄斑回避を伴う場合)、心因性視覚障害など。
POINT
・視交叉より後方の一側性病変は対側の同名半盲をきたす。右後頭葉病変→左同名半盲。 ・後頭葉病変の同名半盲は調和性が高く、黄斑回避を伴いやすい。 ・両耳側半盲=視交叉中央部(下垂体腺腫など)、上四分盲=側頭葉(Meyerループ)、下四分盲=頭頂葉。 ・MRI横断像では画像の左側が患者の右側。 ・矯正視力・眼圧が正常なら、眼球自体の疾患より視路(頭蓋内)病変をまず考える。
