チアノーゼなのに左室が太る―血流をたどって見抜く三尖弁閉鎖症
第99回医師国家試験 E問題 第24問
国試問題にチャレンジ
左室肥大をきたすのはどれか。
- a.心房中隔欠損症
- b.Eisenmenger症候群
- c.肺動脈狭窄症
- d.三尖弁閉鎖症
- e.Ebstein奇形
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
先天性心疾患でどちらの心室が肥大するかは、血流の経路をたどり、どの心腔に容量負荷または圧負荷がかかるかを考えると整理できます。心房中隔欠損症は右心系の容量負荷、肺動脈狭窄症とEisenmenger症候群は右室の圧負荷、Ebstein奇形は三尖弁の偏位と逆流による右房の容量負荷が主体で、いずれも右心負荷の疾患です。三尖弁閉鎖症では体静脈血がすべて心房間交通を経て左心系へ流れ、左室が体・肺両循環を担うため左室肥大をきたし、右室は低形成となります。チアノーゼ性でありながら左軸偏位・左室肥大を示す例外として重要で、治療は機能的単心室としてGlenn手術からFontan手術へと段階的に進めます。血行動態から負荷を推論する考え方は、心電図や画像所見の解釈にもそのまま役立ちます。
解答・解説
正解はdです
先天性心疾患で心室肥大(あるいは心室拡大)が左右どちらに生じるかは、「どの心腔に、どのような負荷(容量負荷か圧負荷か)がかかるか」を血流の経路から考えると整理しやすい。
負荷の種類
・容量負荷(前負荷): 心腔に流入する血液量が増える状態。心腔の拡大(遠心性肥大)をきたす。例: 短絡血流の増加、弁逆流。 ・圧負荷(後負荷): 心腔が高い抵抗に逆らって拍出しなければならない状態。壁の肥厚(求心性肥大)をきたす。例: 弁狭窄、肺高血圧。
本問の考え方
選択肢のうち、心房中隔欠損症・Eisenmenger症候群・肺動脈狭窄症・Ebstein奇形は、いずれも右心系(右房・右室)に容量負荷または圧負荷がかかる疾患であり、心電図では右室肥大や右房拡大、右脚ブロックなど右心負荷の所見が中心となる。 一方、三尖弁閉鎖症では右房から右室への流入路が閉じているため、全身から戻った静脈血はすべて心房間交通を通って左房へ流れ、肺静脈から戻る血液と合流して左室に入る。左室が体循環と肺循環の両方の血流をまかなうため左室に容量負荷がかかり、右室は低形成となる。したがって、チアノーゼ性心疾患でありながら例外的に左室肥大を示す点が特徴であり、これが正解となる。
選択肢考察
- ×a. 心房中隔欠損症
心房中隔欠損症(atrial septal defect: ASD)では、通常は左房圧が右房圧よりやや高いため、欠損孔を通って左房から右房へ血液が流れる(左→右短絡)。この短絡血流が右房→右室→肺動脈へと加わるため、右房・右室に容量負荷がかかり、右房・右室の拡大と肺血流量の増加をきたす。心電図では不完全右脚ブロック、右軸偏位、右室肥大の所見がみられ、身体所見では固定性の II 音分裂が特徴的である。左室に負荷は生じないため誤りである。
- ×b. Eisenmenger症候群
Eisenmenger症候群は、心室中隔欠損症(VSD)・ASD・動脈管開存症(PDA)などの左→右短絡疾患において、長期間の肺血流増加によって肺血管に器質的な変化(肺血管閉塞性病変)が生じ、肺血管抵抗が体血管抵抗と同等以上に上昇した結果、短絡が右→左(または両方向)に逆転した状態をいう。高度の肺高血圧のもとで右室は強い圧負荷を受けるため、右室肥大をきたす。チアノーゼやばち指を伴い、この段階では短絡閉鎖手術の適応はない。左室肥大ではないため誤りである。
- ×c. 肺動脈狭窄症
肺動脈狭窄症(主に肺動脈弁狭窄)では、右室が狭い弁口を通して血液を肺動脈へ送り出さなければならず、右室に圧負荷がかかる。その結果、右室壁が厚くなる求心性の右室肥大をきたし、心電図では右軸偏位や右側胸部誘導(V1 など)の高い R 波がみられる。聴診では胸骨左縁上部の駆出性収縮期雑音と II 音肺動脈成分の減弱を認める。左室には負荷がかからないため誤りである。
- ○d. 三尖弁閉鎖症
三尖弁閉鎖症(tricuspid atresia: TA)では三尖弁が形成されず、右房から右室への血流路がない。そのため体静脈から右房に戻った血液は、生存に必須の心房間交通(ASD または卵円孔開存)を通って右→左に短絡し、左房で肺静脈血と混ざって左室に流入する。肺への血流は VSD を介して低形成の右室から肺動脈へ、あるいは PDA を介して供給されるが、いずれにしても体循環と肺循環の血液をまとめて左室が拍出することになり、左室には容量負荷がかかって左室肥大(拡大)を呈する。右室は低形成であるため右室の起電力は小さい。心電図では左軸偏位、左室肥大、右房拡大(高い P 波)が特徴的で、チアノーゼ性心疾患のなかで左軸偏位・左室肥大を示す代表的疾患である。したがって正しい。
- ×e. Ebstein奇形
Ebstein奇形は、三尖弁の中隔尖と後尖の付着部が右室心尖部方向へ偏位(落ち込み)する先天異常である。右室の一部が右房化(心房化右室)し、機能的な右室は小さくなるうえ、三尖弁閉鎖不全による逆流が生じるため、右房に著しい容量負荷がかかって右房が巨大に拡大する。心電図では右房拡大による高く尖った巨大 P 波、右脚ブロック、WPW 症候群(B 型)の合併などが特徴であり、胸部エックス線写真では右房拡大による著明な心拡大(箱型の心陰影)を示す。右心系の負荷が主体で左室肥大はきたさないため誤りである。
三尖弁閉鎖症の血行動態と治療の概要
体静脈血: 右房 → 心房間交通(右→左短絡)→ 左房 → 左室 肺静脈血: 左房 → 左室 左室から: 大動脈へ(体循環)、および VSD → 低形成右室 → 肺動脈(または PDA 経由)へ(肺循環) このように左室が単一の駆出心室として働くため、機能的単心室の一つとして扱われる。体静脈血と肺静脈血が左房で混合するためチアノーゼを呈する。肺血流量は VSD の大きさや肺動脈狭窄の有無に左右され、肺血流が少ない型ではチアノーゼが強い。 治療は段階的に行われ、肺血流の調整(Blalock-Taussig シャント、肺動脈絞扼術など)の後、両方向性 Glenn 手術(上大静脈−肺動脈吻合)を経て、最終的に Fontan 手術(体静脈血を心室を経由せずに直接肺動脈へ流す手術)を目指す。Fontan 手術後は左室が体循環のみを担うことになり、容量負荷が軽減される。
心室肥大の左右で整理する主な先天性心疾患
・右室に負荷がかかる: ASD(容量負荷)、肺動脈狭窄(圧負荷)、Fallot 四徴症(圧負荷)、Eisenmenger症候群(圧負荷)、総肺静脈還流異常(容量負荷)、Ebstein奇形(右房の容量負荷が主体) ・左室に負荷がかかる: VSD(左房・左室の容量負荷。大欠損では両室負荷)、PDA(左房・左室の容量負荷)、大動脈弁狭窄・大動脈縮窄(圧負荷)、三尖弁閉鎖症(容量負荷)
チアノーゼ性心疾患と心電図の軸
チアノーゼ性心疾患の多くは右室負荷を伴い右軸偏位を示す。これに対し、三尖弁閉鎖症は左軸偏位・左室肥大を示す例外として重要である。また、心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)も左軸偏位を示す先天性心疾患として知られる(こちらは刺激伝導系の走行異常による)。
POINT
・先天性心疾患の心室肥大は、血流経路からどの心腔に容量負荷・圧負荷がかかるかで判断する。 ・三尖弁閉鎖症は右房の血液がすべて心房間交通を通って左心系へ流れ、左室が体・肺両循環を担うため左室肥大をきたす。右室は低形成。 ・三尖弁閉鎖症の心電図: 左軸偏位、左室肥大、右房拡大。チアノーゼ性心疾患のなかで左軸偏位を示す例外。 ・ASD(右室容量負荷)、肺動脈狭窄(右室圧負荷)、Eisenmenger症候群(右室圧負荷)、Ebstein奇形(右房容量負荷・巨大 P 波)はいずれも右心系の負荷。
