心臓の真ん中に穴がある―左軸偏位と四腔断面が示す房室中隔欠損症
第99回医師国家試験 E問題 第23問
国試問題にチャレンジ
心電図(A)と心エコー図(B)とを示す。 診断はどれか。

- a.Fallot四徴症
- b.肺動脈閉鎖症
- c.三尖弁閉鎖症
- d.完全大血管転位症
- e.房室中隔欠損症〈心内膜床欠損症〈房室中隔欠損症〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)は、心内膜床の発生異常によって一次孔型心房中隔欠損、流入部心室中隔欠損、共通房室弁や僧帽弁裂隙といった房室弁の異常が組み合わさった先天性心疾患です。心エコーの四腔断面で心臓中央の十字部分が欠け、房室弁が同じ高さに付着していることが診断の決め手となり、心電図では刺激伝導系の走行異常による左軸偏位(上方軸)が特徴的です。左軸偏位を示す先天性心疾患としては三尖弁閉鎖症も重要ですが、こちらは右室低形成を伴う点で区別でき、Fallot四徴症や完全大血管転位症は原則として右軸偏位を示します。Down症候群に高頻度で合併し、完全型では乳児期の心不全と肺高血圧が問題となるため、早期発見と手術のタイミングが重要です。電気軸と画像所見を組み合わせて鑑別する考え方は、先天性心疾患の診断全般に応用できます。
解答・解説
正解はeです
心電図(A)の読み取り
肢誘導ではII・III・aVFでQRS波が深いS波を中心とした下向きの波形で、Iは小さい。つまりQRS電気軸は上方(左上方)を向いており、左軸偏位(上方軸)である。胸部誘導では、V2〜V4で上下とも振れの大きいQRS波(R波とS波がともに高く深い)が見られ、両心室への負荷を疑わせる。
心エコー図(B)の読み取り
心尖部四腔断面像で、左室・右室・左房・右房が映っている。拡張期の像では、心臓の中心部(クラックス)にあるはずの心房中隔の下部と心室中隔の上部が欠けている。そのため4つの部屋が中央で大きく交通している。収縮期の像では、房室弁が左右ひとつながりの弁(共通房室弁)として同じ高さで閉じている様子がうかがえる。正常では三尖弁の付着部は僧帽弁よりやや心尖側にずれているが、このずれが見られない。
診断へのプロセス
心内膜床は、胎生期に房室中隔と房室弁を作る組織である。これがうまく発生しないと、次の3つがまとめて起こる。 ・一次孔型の心房中隔欠損 ・流入部の心室中隔欠損 ・房室弁の形成異常(僧帽弁前尖の裂隙〈cleft〉や共通房室弁) これが房室中隔欠損症(心内膜床欠損症、AVSD/ECD)である。 心エコーで房室中隔が欠け、四腔が中央で交通していることが直接の根拠である。加えて、左軸偏位という特徴的な心電図所見も合う。左軸偏位が起こるのは、房室結節とヒス束が通常より後下方にずれ、左脚前枝が相対的に短くなるなど、刺激伝導系の走行が変わるためである。 鑑別では、チアノーゼ性心疾患で左軸偏位を示すものとして三尖弁閉鎖症が重要になる。しかし本例では右室が低形成ではなく、左右の心室は同じくらいの大きさである。その他の選択肢(Fallot四徴症、肺動脈閉鎖症、完全大血管転位症)は、いずれも心電図が右軸偏位・右室肥大を示すのが原則である。以上の心電図と心エコーの組み合わせから、房室中隔欠損症と診断できる。
選択肢考察
- ×a. Fallot四徴症
Fallot四徴症は次の4つを特徴とする。 ・心室中隔欠損(漏斗部中隔が前方にずれて生じる大きな欠損) ・肺動脈狭窄(右室流出路狭窄) ・大動脈騎乗 ・右室肥大 心電図は右軸偏位と右室肥大(V1の高いR波)を示す。心エコーは長軸断面で、大動脈が心室中隔欠損の上にまたがる像(大動脈騎乗)が特徴的である。本例の左軸偏位と、四腔断面で中央の房室中隔が欠けている所見には合わない。
- ×b. 肺動脈閉鎖症
肺動脈閉鎖症は肺動脈弁が閉鎖している病気で、心室中隔欠損を伴う型(極型Fallot四徴症)と伴わない型(純型)に分けられる。肺への血流は動脈管や体肺側副血行路に頼る。心室中隔欠損を伴う型では、心電図は右軸偏位と右室肥大を示す。純型では右室が低形成のことが多く、心電図所見も一定ではない。いずれにせよ、本例の心エコーで見られる房室中隔の欠損や共通房室弁の所見は、この病気では説明できない。
- ×c. 三尖弁閉鎖症
三尖弁閉鎖症は三尖弁が閉じていて右房から右室へ血液が流れず、右房の血液は心房間の交通を通って左房へ流れる。心電図は左軸偏位と左室肥大を示すことが特徴で、左軸偏位を示すチアノーゼ性心疾患として重要な鑑別疾患である。しかし心エコーでは、三尖弁の位置に弁の動きがない(閉鎖した三尖弁)ことと、右室の低形成が見られるはずである。本例の四腔断面では左右の心室がほぼ同じ大きさで、房室弁が中央で共通の形をしているため、合わない。
- ×d. 完全大血管転位症
完全大血管転位症は、大動脈が右室から、肺動脈が左室から出る病気である。体循環と肺循環が並列になるため、生まれてすぐに強いチアノーゼが出る。心電図は右軸偏位と右室肥大を示すのが一般的で、左軸偏位は典型的ではない。心エコーでは、大血管の起始部が入れ替わっていること(2本の大血管が平行に走る)が診断の決め手になる。四腔断面で房室中隔が欠けている本例の所見とは違う。
- ○e. 房室中隔欠損症〈心内膜床欠損症〈房室中隔欠損症〉
心エコーの四腔断面では、心臓の中央で一次孔型の心房中隔欠損と流入部の心室中隔欠損がつながり、4つの部屋が交通している。房室弁は共通房室弁として同じ高さにある。心電図の左軸偏位(上方軸)は、刺激伝導系の走行が変わることで起こるこの病気の特徴的な所見である。右室の容量負荷(不完全右脚ブロック様の波形)や両心室の肥大を伴うこともある。これらの所見がすべて一致するため、房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)と診断できる。Down症候群に高い頻度で合併することも重要である。
房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)の分類
・不完全型(部分型):一次孔型の心房中隔欠損と僧帽弁の裂隙(cleft)があり、心室レベルの交通はないか、ごく小さい。症状は心房中隔欠損症に似ており、僧帽弁逆流の程度で重症度が変わる ・完全型:一次孔型の心房中隔欠損、流入部の大きな心室中隔欠損、共通房室弁がそろう。乳児期早期から大量の左右短絡による心不全が起こり、肺高血圧が早く進行する(肺血管閉塞性病変)。そのため乳児期に心内修復術が必要である
臨床的な要点
・Down症候群(21トリソミー)の先天性心疾患のうち代表的なもの。Down症候群の児を見たら心エコーで検索する ・心電図:左軸偏位(上方軸)、PR延長(I度房室ブロック)、不完全右脚ブロック、両室肥大 ・胸部X線:心拡大と肺血流の増加 ・心エコー:四腔断面で房室中隔が欠けている。房室弁が同じ高さに付着している(正常では三尖弁が心尖側にずれる)。僧帽弁の裂隙による逆流が見られる。左室流出路が細長く延びる「グースネック(goose neck)変形」は左室造影で知られる所見
先天性心疾患の電気軸による整理
・左軸偏位:房室中隔欠損症、三尖弁閉鎖症(左室肥大を伴う) ・右軸偏位:Fallot四徴症、完全大血管転位症、肺動脈狭窄、二次孔型心房中隔欠損症(不完全右脚ブロックを伴う)など 二次孔型心房中隔欠損症は右軸偏位、一次孔型(房室中隔欠損症)は左軸偏位を示す。この対比は頻出である。
POINT
・房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)は、一次孔型の心房中隔欠損、流入部の心室中隔欠損、房室弁の異常(共通房室弁・僧帽弁の裂隙)が組み合わさった病気である ・心電図は左軸偏位(上方軸)が特徴的である ・心エコーの四腔断面で、心臓中央の房室中隔が欠けている ・Down症候群に高い頻度で合併する ・左軸偏位を示す先天性心疾患は、房室中隔欠損症と三尖弁閉鎖症の2つを押さえる
