尿が減る病気に紛れ込んだ「多尿」の副腎腫瘍―乏尿は腎前性・腎性・腎後性で整理する
第99回医師国家試験 D問題 第83問
国試問題にチャレンジ
乏尿をきたさないのはどれか。
- a.熱傷
- b.心筋梗塞
- c.大量出血
- d.急性糸球体腎炎
- e.原発性アルドステロン症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乏尿は1日尿量400mL以下を指し、腎の最大濃縮力から老廃物排泄に必要な最低尿量が決まっていることに由来します。原因は腎前性・腎性・腎後性に分けて整理し、熱傷・心筋梗塞・大量出血はショックによる腎血流低下で腎前性乏尿を、急性糸球体腎炎はGFR低下による腎性乏尿をきたします。一方、原発性アルドステロン症ではアルドステロン・エスケープにより浮腫を生じにくく、慢性の低カリウム血症が集合管のADH反応性を低下させるため、乏尿ではなく多尿・夜間尿をきたします。低カリウム血症や高カルシウム血症が腎性尿崩症様の多尿の原因となることもあわせて覚えておきたいポイントです。尿量の変化を病態生理から説明できる力は、救急や集中治療で尿量をモニターする際の判断の土台になります。
解答・解説
正解はeです
乏尿の定義
乏尿とは1日尿量が400mL以下に減少した状態をいう(文献によっては500mL以下とすることもある)。100mL/日以下は無尿と呼ぶ。成人が1日に排泄しなければならない溶質(約600mOsm)を、腎が最大限濃縮した尿(約1,200mOsm/kg)で排泄しても約400〜500mLの尿が必要であり、これを下回ると老廃物が体内に蓄積して高窒素血症をきたす。
乏尿の原因を3つに分けて考える
乏尿の原因は、腎臓より手前(腎前性)、腎臓そのもの(腎性)、腎臓より下流の尿路(腎後性)の3つに分類して整理するとわかりやすい。 ・腎前性:循環血液量の減少や心拍出量の低下により腎血流量が減り、糸球体濾過量(GFR)が低下する。脱水、出血、熱傷、心不全、ショックなどが代表である。 ・腎性:糸球体・尿細管・間質など腎実質の障害による。急性糸球体腎炎、急性尿細管壊死、急性間質性腎炎などがある。 ・腎後性:両側の尿管閉塞や膀胱出口の閉塞(前立腺肥大、結石、腫瘍など)による。
本問の考え方
選択肢のうち熱傷・心筋梗塞・大量出血は、いずれもショック(循環不全)を起こしうる病態であり、腎前性の乏尿をきたす。急性糸球体腎炎は腎性乏尿の典型である。一方、原発性アルドステロン症は体液量がむしろ増加傾向にある疾患であり、さらに低カリウム血症によって尿濃縮力が障害されるため、乏尿ではなく多尿をきたしやすい。したがって「乏尿をきたさない」ものとして原発性アルドステロン症を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 熱傷
広範囲熱傷では、損傷部位を中心に毛細血管の透過性が著しく亢進し、血漿成分が血管外(組織間隙や創面)へ大量に漏出する。その結果、循環血液量が急激に減少し(熱傷性ショック、血液量減少性ショックの一種)、腎血流量が低下して腎前性の乏尿となる。受傷後早期(とくに最初の24〜48時間)の大量輸液は、この循環血液量減少を補うためのものであり、輸液量が十分かどうかは時間尿量(成人で0.5mL/kg/時程度以上を目安とする)で評価する。さらに、重症熱傷では筋組織の崩壊によるミオグロビン尿や溶血によるヘモグロビン尿が尿細管を障害し、腎性の急性腎障害を合併することもある。乏尿をきたすので誤りである。
- ×b. 心筋梗塞
広範な心筋梗塞では左心室のポンプ機能が低下し、心拍出量が減少する。重症例では心原性ショックに陥り、腎血流量が低下して腎前性の乏尿となる。また交感神経系やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系、抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が亢進し、腎でのナトリウム・水の再吸収が増えることも尿量減少に拍車をかける。心原性ショックの診断では、収縮期血圧低下や末梢循環不全の徴候(冷汗、皮膚蒼白、意識障害)とともに乏尿(尿量20mL/時未満など)が重要な指標となる。乏尿をきたすので誤りである。
- ×c. 大量出血
大量出血では循環血液量そのものが失われるため、出血性ショック(血液量減少性ショック)となり、腎血流量と糸球体濾過量が低下して腎前性の乏尿を呈する。腎は低灌流に対して、ナトリウムと水を最大限に再吸収して尿量を減らす方向に働くため、尿中ナトリウム濃度は低く(20mEq/L未満)、尿浸透圧は高くなる。この状態が長引くと腎の虚血により急性尿細管壊死(腎性の急性腎障害)へ移行することがある。乏尿をきたすので誤りである。
- ×d. 急性糸球体腎炎
急性糸球体腎炎(代表は溶連菌感染後急性糸球体腎炎)では、免疫複合体の沈着により糸球体に炎症が起こり、内皮細胞・メサンギウム細胞の増殖や好中球浸潤によって毛細血管腔が狭くなる。その結果、糸球体濾過量が低下し、発症初期(数日〜1週間程度)に乏尿となる。尿細管でのナトリウム再吸収は保たれるためナトリウムと水が体内に貯留し、浮腫と高血圧を生じる。血尿・蛋白尿・浮腫・高血圧・乏尿が典型的な症状であり、利尿期に入ると尿量は回復する。腎性の乏尿をきたすので誤りである。
- ○e. 原発性アルドステロン症
原発性アルドステロン症は、副腎皮質(主に腺腫または両側過形成)からアルドステロンが自律的に過剰分泌される疾患である。アルドステロンは集合管でナトリウム再吸収とカリウム・水素イオン排泄を促すため、高血圧、低カリウム血症、代謝性アルカローシスを生じ、血清ナトリウムは正常上限〜軽度高値となる。体液量は増加方向にあるが、一定以上のナトリウム貯留が進むと圧利尿などにより再びナトリウム排泄が増える(アルドステロン・エスケープ)ため、浮腫はきたしにくい。 さらに重要なのは、慢性の低カリウム血症が腎の尿濃縮力を障害する点である(低カリウム性腎症)。低カリウム血症では集合管における抗利尿ホルモン(ADH)への反応性が低下し(水チャネルであるアクアポリン2の発現低下など)、腎性尿崩症に似た状態となって多尿・夜間尿・口渇をきたす。したがって本症は乏尿ではなくむしろ多尿を示し、本問の正解である。
乏尿の分類と主な原因
・腎前性:脱水(嘔吐・下痢・発汗過多)、出血、熱傷、心不全・心原性ショック、敗血症性ショック、肝硬変やネフローゼ症候群による有効循環血液量の減少など ・腎性:急性糸球体腎炎、急速進行性糸球体腎炎、急性尿細管壊死(虚血、腎毒性薬物、造影剤、横紋筋融解症など)、急性間質性腎炎など ・腎後性:両側尿管閉塞、前立腺肥大症、膀胱腫瘍、神経因性膀胱など
腎前性と腎性(急性尿細管壊死)の鑑別の目安
・腎前性:尿中Na<20mEq/L、ナトリウム排泄分画(FENa)<1%、尿浸透圧>500mOsm/kg、BUN/Cr比>20 ・急性尿細管壊死:尿中Na>40mEq/L、FENa>2%、尿浸透圧<350mOsm/kg、BUN/Cr比 10〜20程度
多尿をきたす主な病態
多尿は1日尿量が概ね3,000mL以上をいう。 ・水利尿:中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲 ・浸透圧利尿:糖尿病(高血糖)、マンニトール投与 ・電解質異常による尿濃縮障害:低カリウム血症(原発性アルドステロン症、バーター症候群など)、高カルシウム血症(副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍など) ・急性腎障害の回復期(利尿期)、閉塞解除後利尿
原発性アルドステロン症の要点
高血圧、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、血漿レニン活性の低下と血漿アルドステロン濃度の上昇が特徴である。低カリウム血症により筋力低下・周期性四肢麻痺、多尿・夜間尿などをきたす。スクリーニングにはアルドステロン/レニン比が用いられる。
POINT
・乏尿:1日尿量400mL以下。原因は腎前性・腎性・腎後性に分けて考える。 ・熱傷・心筋梗塞・大量出血はショックを介して腎前性乏尿、急性糸球体腎炎は腎性乏尿をきたす。 ・原発性アルドステロン症は低カリウム血症により尿濃縮力が障害され(ADH反応性低下)、多尿・夜間尿をきたす。 ・低カリウム血症と高カルシウム血症は、ともに腎性尿崩症様の多尿の原因となる。
