年をとると「上がる」ホルモンはどれ?―負のフィードバックで読み解く加齢と内分泌
第99回医師国家試験 D問題 第53問
国試問題にチャレンジ
高齢者で高値を示すのはどれか。
- a.成長ホルモン
- b.ゴナドトロピン
- c.血漿レニン活性
- d.インスリン様成長因子
- e.デヒドロエピアンドロステロンサルフェート〈DHEA-S〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
加齢では成長ホルモン、IGF-I、DHEA-S、性ホルモン、血漿レニン活性・アルドステロンなど多くのホルモンが低下しますが、ゴナドトロピン(LH・FSH)は性腺機能低下により負のフィードバックが外れるため上昇し、特に閉経後女性で顕著です。レニン活性の低下は高齢者の低レニン性低アルドステロン症や高カリウム血症につながり、ACE阻害薬やARB使用時の注意点となります。一方、コルチゾールは加齢で大きく変わらず、TSHはやや高めになる傾向があるなど、年齢を考慮した検査値の解釈が必要です。「標的腺ホルモンが減れば上位の刺激ホルモンは増える」という原則は、原発性と続発性の内分泌機能低下症の鑑別にもそのまま応用できる、内分泌学の基本となる考え方です。
解答・解説
正解はbです
加齢に伴う内分泌機能の変化を問う問題である。 加齢によって多くの内分泌腺の分泌能は低下するため、血中濃度が下がるホルモンが多い。成長ホルモン(GH)とその作用を仲介するインスリン様成長因子-I(IGF-I)が低下する状態は「somatopause」、副腎アンドロゲンであるDHEA-Sの低下は「adrenopause」、閉経による卵巣機能の停止は「menopause」と呼ばれる。また、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)も加齢とともに活性が落ちる。 一方で、標的臓器の機能が落ちると、上位の内分泌腺は負のフィードバックが弱まるため分泌を増やす。その代表が下垂体前葉から分泌されるゴナドトロピン(黄体形成ホルモン LH と卵胞刺激ホルモン FSH)である。卵巣や精巣から出るエストロゲン・テストステロン・インヒビンが減ると、視床下部-下垂体への抑制が外れ、LH・FSHは上昇する。 したがって「高齢者で高値を示すもの」を考えるときは、「分泌腺そのものの機能が衰えて下がるホルモン」と「末梢の標的腺の機能低下を補うように上がる上位ホルモン」を分けて考えるとよい。本問の選択肢のうち後者に当たるのはゴナドトロピンだけである。
選択肢考察
- ×a. 成長ホルモン
GHの分泌は思春期に最も多く、その後は加齢に伴って減っていく。成人以降はおおむね10年ごとに分泌量が十数%ずつ減るとされ、高齢者では睡眠中の分泌ピークも小さくなる。これをsomatopauseと呼ぶ。高齢者での筋肉量の減少や内臓脂肪の増加に一部関与すると考えられている。高値にはならないため誤りである。
- ○b. ゴナドトロピン
LHとFSHは性腺ホルモンによる負のフィードバックを受けている。女性では閉経によって卵巣からのエストロゲンとインヒビンの分泌がほぼなくなるため、抑制が外れてLH・FSHが著しく上昇する。とくにFSHの上昇が目立ち、閉経の判定に用いられる。男性でも加齢に伴い精巣機能が低下し、テストステロンやインヒビンBが減ると、LH・FSHは緩やかに上昇する。このように上位ホルモンが代償的に増えるため、高齢者で高値を示す。
- ×c. 血漿レニン活性
血漿レニン活性(PRA)は加齢とともに低下し、それに伴ってアルドステロンも低下する。腎臓の傍糸球体細胞の減少や、腎血管の硬化などが関係すると考えられている。このため高齢者は低レニン性低アルドステロン症を来しやすく、4型尿細管性アシドーシス(高カリウム血症を伴う代謝性アシドーシス)を生じやすい。ACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を使うと高カリウム血症が起こりやすいのもこのためである。高値にはならないため誤りである。
- ×d. インスリン様成長因子
IGF-I(ソマトメジンC)はGHの刺激を受けて主に肝臓で作られ、GHの成長促進作用を仲介する。血中濃度はGHの分泌量をよく反映するため、GH分泌の指標として臨床で用いられる。加齢でGH分泌が減るとIGF-Iも低下するため、基準値は年齢・性別ごとに設定されている。高値にはならないため誤りである。
- ×e. デヒドロエピアンドロステロンサルフェート〈DHEA-S〉
DHEA-Sは主に副腎皮質の網状層で作られる弱い男性ホルモン(副腎アンドロゲン)で、半減期が長く血中濃度も高いため、副腎アンドロゲン分泌の指標とされる。血中濃度は20歳代頃にピークとなり、その後は年齢とともに直線的に低下し、高齢者ではピーク時の1~2割程度にまで減る(adrenopause)。なお、同じ副腎皮質でも束状層由来のコルチゾールは、加齢で大きく変わらないのが特徴である。高値にはならないため誤りである。
加齢による主な内分泌の変化
・低下するもの:GH、IGF-I、DHEA-S、エストロゲン(閉経後)、テストステロン(緩やかに低下)、血漿レニン活性、アルドステロン、メラトニン ・上昇するもの:LH・FSH(とくに閉経後の女性)、副甲状腺ホルモン(PTH、ビタミンD不足やカルシウム吸収低下による)、ノルアドレナリン(交感神経活動の亢進)、抗利尿ホルモン(ADH、浸透圧刺激に対する反応が強まる) ・大きく変わらないもの:コルチゾール、ACTH、甲状腺ホルモン(遊離T4はほぼ不変、T3はやや低下し、TSHはやや高めになる傾向)
ネガティブフィードバックの考え方
標的腺ホルモンが減ると上位の刺激ホルモンは増える。これは原発性の内分泌腺機能低下症でも同じ考え方で、原発性性腺機能低下症(例:Turner症候群、Klinefelter症候群)ではLH・FSHが高値を示し、下垂体性や視床下部性の続発性機能低下症では低値または正常を示す。閉経は「生理的な原発性卵巣機能低下」と考えると理解しやすい。
高齢者と電解質
低レニン・低アルドステロン状態に加え、腎機能の低下も重なるため、高齢者は高カリウム血症を起こしやすい。一方でADH分泌が保たれやすいこと、腎の尿濃縮・希釈能が落ちることなどから、低ナトリウム血症も起こしやすい。
POINT
・加齢で多くのホルモンは低下する:GH、IGF-I、DHEA-S、性ホルモン、レニン、アルドステロン ・性腺機能が低下すると負のフィードバックが外れ、ゴナドトロピン(LH・FSH)は上昇する(閉経後の女性で顕著) ・高齢者は低レニン性低アルドステロン症から4型尿細管性アシドーシス・高カリウム血症を来しやすい ・コルチゾールは加齢で大きく変化しない
