外から内へたどる精巣の地図―白膜・精巣中隔からLeydig細胞、左右非対称の静脈まで
第99回医師国家試験 D問題 第46問
国試問題にチャレンジ
精巣について正しいのはどれか。
- a.精巣筋膜で被われている。
- b.精巣中隔を有する。
- c.精細管内にはLeydig細胞が存在する。
- d.精祖細胞は減数分裂する。
- e.両側精巣静脈は直接下大静脈に流入する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
精巣は白膜という密性結合組織の被膜に包まれ、白膜が後上縁で陥入した精巣縦隔から放射状に伸びる精巣中隔が実質を約200〜300個の小葉に分け、各小葉に曲精細管が収まります。精細管の中には精細胞系列とFSHの標的であるSertoli細胞があり、間質にはLHの刺激でテストステロンを分泌するLeydig細胞が存在します。精祖細胞は体細胞分裂で増殖し、減数分裂を行うのは一次・二次精母細胞です。精巣静脈は右が下大静脈、左が左腎静脈へ注ぐ非対称な走行をとるため精索静脈瘤は左に多く、精巣のリンパが傍大動脈リンパ節へ向かう点は精巣腫瘍の転移を考えるうえで重要です。構造を外から内へ、発生と結びつけて整理することが、男性不妊や陰嚢疾患の臨床理解の基盤になります。
解答・解説
正解はbです
精巣(testis)の肉眼解剖・組織構造・精子形成・静脈還流を横断的に問う一般問題である。 精巣を理解するには、外から内へ順に構造を追うとよい。 【被膜】精巣そのものは、厚く強靱な密性結合組織の被膜である白膜(tunica albuginea)に包まれ、その外側を腹膜由来の漿膜である精巣鞘膜(tunica vaginalis)の臓側板が覆う。 【内部の区画】白膜は精巣の後上縁で内側へ厚く張り出して精巣縦隔(mediastinum testis)を作る。ここから放射状に伸びる薄い結合組織の隔壁が精巣中隔(septula testis)であり、精巣実質を約200~300個の精巣小葉に分ける。 【実質】各小葉には1~4本の強く曲がりくねった曲精細管が収まる。精細管の中(上皮)には精子を作る精細胞系列とそれを支えるSertoli細胞があり、精細管と精細管のすき間(間質)にテストステロンを分泌するLeydig細胞がある。 【精子形成】精祖細胞→(体細胞分裂で増殖)→一次精母細胞→(第一減数分裂)→二次精母細胞→(第二減数分裂)→精子細胞→(精子完成)→精子、と進む。 【静脈】精巣静脈は蔓状静脈叢から始まり、右は下大静脈へ、左は左腎静脈へ注ぐ左右非対称の走行をとる。 これらの基本構造を一つずつ選択肢に当てはめれば、正しい記述は精巣中隔の存在だけであるとわかる。
選択肢考察
- ×a. 精巣筋膜で被われている。
精巣の実質を直接包む固有の被膜は、筋膜ではなく白膜(tunica albuginea)という厚い密性結合組織の膜である。その外側を精巣鞘膜(臓側板・壁側板)が囲む。なお、陰嚢内では精巣と精索全体を外精筋膜・精巣挙筋(挙睾筋膜)・内精筋膜が包んでいるが、これらは腹壁の層が鼠径管を通って引き延ばされたもので、精巣自体の被膜ではない。「精巣筋膜」という精巣固有の膜は存在しないため誤りである。
- ○b. 精巣中隔を有する。
白膜は精巣の後上縁で内側へ厚く陥入して精巣縦隔を形成し、そこから精巣実質へ向かって放射状に薄い結合組織性の隔壁、すなわち精巣中隔が伸びている。この中隔により精巣は約200~300個の精巣小葉に区切られ、各小葉に曲精細管が収まる。曲精細管は縦隔付近で直精細管となり、縦隔内の精巣網に合流して精巣輸出管から精巣上体へと続く。よってこの記述は正しい。
- ×c. 精細管内にはLeydig細胞が存在する。
Leydig細胞(間質細胞)は精細管の外、すなわち精細管どうしの間を埋める間質(疎性結合組織で毛細血管に富む部分)に存在する。黄体形成ホルモン(LH)の刺激を受けてテストステロンを分泌する内分泌細胞である。精細管の内部(精上皮)に存在するのは、分化段階の異なる精細胞(精祖細胞・精母細胞・精子細胞・精子)と、それらを支持・栄養するSertoli細胞である。Sertoli細胞は卵胞刺激ホルモン(FSH)の作用を受けてアンドロゲン結合タンパク(ABP)やインヒビンを産生し、隣り合うSertoli細胞間の密着結合によって血液精巣関門を形成する。したがって誤りである。
- ×d. 精祖細胞は減数分裂する。
精祖細胞(精原細胞)は精細管の基底膜に接して存在する幹細胞・前駆細胞であり、体細胞分裂(有糸分裂)によって自己複製と増殖を行う。思春期以降、その一部が一次精母細胞へ分化し、減数分裂を行うのはこの精母細胞である。一次精母細胞は第一減数分裂で二次精母細胞となり、二次精母細胞は第二減数分裂で半数体(n)の精子細胞となる。精子細胞はその後分裂せずに形態変化(精子完成)して精子となる。精祖細胞自体は減数分裂しないため誤りである。
- ×e. 両側精巣静脈は直接下大静脈に流入する。
精巣静脈は左右で注ぐ先が異なる。右精巣静脈は下大静脈へ斜めに直接流入するのに対し、左精巣静脈は左腎静脈へほぼ直角に流入し、左腎静脈を経て下大静脈に至る。左側は経路が長く、静脈弁の欠如が多いことや、左腎静脈が大動脈と上腸間膜動脈の間で圧迫されうること(ナットクラッカー現象)などから静脈圧が上がりやすい。このため精索静脈瘤は左側に圧倒的に多い。両側とも直接下大静脈に注ぐとする記述は誤りである。
精巣を包む層(外から内へ)
陰嚢皮膚 → 肉様膜(平滑筋を含む)→ 外精筋膜(外腹斜筋腱膜由来)→ 精巣挙筋・精巣挙筋膜(内腹斜筋由来)→ 内精筋膜(横筋筋膜由来)→ 精巣鞘膜壁側板 →(鞘膜腔)→ 精巣鞘膜臓側板 → 白膜 → 精巣実質。 精巣鞘膜は胎生期に精巣が下降するときに引き込まれた腹膜鞘状突起の遺残であり、鞘膜腔に液体がたまった状態が陰嚢水腫である。
精巣内の精子の通り道
曲精細管(精子形成の場)→ 直精細管 → 精巣網(精巣縦隔内)→ 精巣輸出管 → 精巣上体管 → 精管。
精巣の細胞とホルモン調節
・Leydig細胞:間質に存在。LHの刺激でテストステロンを分泌する。 ・Sertoli細胞:精細管内に存在。FSHとテストステロンの作用下で精子形成を支持し、ABP・インヒビン・抗Müller管ホルモン(AMH)を産生する。血液精巣関門を形成し、自己抗原である精細胞を免疫系から隔離する。 ・インヒビンはFSH分泌を、テストステロンはGnRH・LH分泌を負のフィードバックで抑制する。
精子形成
精祖細胞(2n、体細胞分裂)→ 一次精母細胞(2n)→ 第一減数分裂 → 二次精母細胞(n)→ 第二減数分裂 → 精子細胞(n)→ 精子完成 → 精子。ヒトでは精祖細胞から精子まで約70日余りを要する。
精巣の血管・リンパ
・動脈:精巣動脈は腎動脈起始部のやや下方で腹大動脈から直接分岐する。 ・静脈:蔓状静脈叢 → 精巣静脈 → 右は下大静脈、左は左腎静脈。 ・リンパ:精巣は胎生期に腰部から下降した臓器であるため、リンパ流は傍大動脈リンパ節(腰リンパ節)へ向かう。陰嚢皮膚のリンパが鼠径リンパ節へ向かうのとは異なり、精巣腫瘍の転移経路を考えるうえで重要である。
POINT
・精巣の固有被膜は白膜。白膜が後上縁で陥入して精巣縦隔を作り、そこから精巣中隔が放射状に出て精巣を小葉に分ける。 ・精細管内:精細胞系列とSertoli細胞(FSH標的)。間質:Leydig細胞(LH標的、テストステロン分泌)。 ・減数分裂を行うのは精母細胞であり、精祖細胞は体細胞分裂で増える。 ・右精巣静脈は下大静脈へ、左精巣静脈は左腎静脈へ注ぐ。精索静脈瘤は左に多い。
