音を大きくすれば聞こえる耳、聞こえない耳―補聴器が最も活きる難聴とは
第99回医師国家試験 D問題 第115問
国試問題にチャレンジ
補聴器の装用効果が最も大きいのはどれか。
- a.耳小骨奇形
- b.ウイルス性難聴
- c.内耳炎
- d.内耳奇形
- e.老人性難聴
対話形式の解説
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ドクターまとめ
補聴器は音を増幅する機器であり、その効果は内耳機能が保たれ、音を大きくすれば正確に聞き分けられる伝音難聴で最も大きくなります。耳小骨奇形は気導閾値のみが上昇し気骨導差を示す伝音難聴で、語音明瞭度が良好なため補聴器がよく効き、鼓室形成術による聴力改善も選択肢となります。ウイルス性難聴、内耳炎、内耳奇形、老人性難聴はいずれも感音難聴で、語音明瞭度の低下や補充現象によって増幅しても明瞭に聞こえにくく、両側高度例では人工内耳が検討されます。特に老人性難聴は補聴器使用者が最も多い一方で、中枢処理の低下も加わり補聴効果が限定的になりやすい点が重要です。障害部位と語音明瞭度から補聴効果を予測する視点は、難聴患者への適切な説明とリハビリテーションの出発点になります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
補聴器は、入ってきた音を増幅して耳に届ける機器である。したがって補聴器の効果は「音を大きくすれば聞き取れるようになるか」に左右される。
伝音難聴と感音難聴の違い
・伝音難聴:外耳・中耳(鼓膜・耳小骨)の障害で、音が内耳まで十分に伝わらない状態。内耳(蝸牛の有毛細胞)や聴神経は正常なので、音を大きくして内耳に届けさえすれば、ことばを正確に聞き分けられる。語音明瞭度(語音弁別能:単音節のことばを正しく聞き取れる割合)は保たれ、補聴器の効果が大きい。 ・感音難聴:内耳(蝸牛)や聴神経・中枢の障害。音を大きくしても「ひずんだ音」として伝わるため、ことばの聞き分け(語音明瞭度)が低下している。さらに内耳性難聴では補充現象(リクルートメント現象:音圧がわずかに大きくなると急にうるさく感じる現象)を伴い、聞こえる範囲(ダイナミックレンジ)が狭くなるため、単純に増幅すると不快になりやすい。このため補聴器の効果は限定的となる。
考え方
選択肢のうち伝音難聴を来すのは耳小骨奇形のみで、ほかはいずれも感音難聴を来す疾患である。よって補聴器の装用効果が最も大きいのは耳小骨奇形である。
選択肢考察
- ○a. 耳小骨奇形
耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)の形成異常や固着・離断により、鼓膜の振動が内耳へ伝わりにくくなる伝音難聴である。内耳機能は正常であることが多く、語音明瞭度は良好に保たれるため、補聴器で音を増幅すれば聞き取りが大きく改善する。純音聴力検査では気導閾値のみが上昇し骨導閾値は正常で、両者の差(気骨導差)がみられる。治療としては補聴器のほか、耳小骨を再建する鼓室形成術(聴力改善手術)が選択肢となり、外耳道閉鎖を伴う例などでは骨導補聴器や埋め込み型骨導補聴器も用いられる。
- ×b. ウイルス性難聴
ムンプス(流行性耳下腺炎)、麻疹、風疹(先天性風疹症候群)、サイトメガロウイルス(先天性感染)、水痘・帯状疱疹ウイルス(Ramsay Hunt症候群)などのウイルス感染が内耳や聴神経を障害して生じる感音難聴である。ムンプス難聴は一側性の高度〜重度難聴となることが多く、回復は期待しにくい。語音明瞭度が低下しているため、補聴器で音を大きくしても言葉として聞き取りにくく、補聴効果は伝音難聴に劣る。両側高度難聴であれば人工内耳の適応となりうる。
- ×c. 内耳炎
中耳炎の波及や髄膜炎、ウイルス感染などにより内耳に炎症が生じる疾患で、難聴に加えめまい・耳鳴を伴うことが多い。内耳(蝸牛)の障害による感音難聴であり、語音明瞭度が低下し、補充現象も伴いやすい。音を増幅しても明瞭に聞こえるとは限らず、補聴効果は上がりにくい。細菌性の化膿性内耳炎や髄膜炎後では高度難聴となることがあり、蝸牛の骨化が進む前に人工内耳を検討する場合もある。
- ×d. 内耳奇形
蝸牛や前庭の形成異常(Mondini型奇形、前庭水管拡大症など)による先天性の感音難聴で、高度〜重度であることが多い。内耳自体の機能が障害されているため、増幅しても語音の聞き分けが困難で補聴効果は乏しい。補聴器で十分な効果が得られない両側高度難聴例では、奇形の程度を画像で評価したうえで人工内耳の適応が検討される。
- ×e. 老人性難聴
加齢による蝸牛有毛細胞・らせん神経節・中枢聴覚路の変性で生じる、両側対称性・高音域優位の感音難聴である。補聴器が実際に最も多く使われる疾患であり、装用で生活の質が改善する例も多いが、補聴効果が「最も大きい」わけではない点が重要である。内耳だけでなく中枢での処理能力も低下するため、純音聴力の程度の割に語音明瞭度が悪いことが多く、音を大きくしても「聞こえるが何を言っているかわからない」状態が残りやすい。騒音下での聞き取りも特に苦手である。そのため装用前に語音明瞭度を評価し、装用後も調整と慣れの訓練が必要となる。
難聴の分類と聴力検査所見
・伝音難聴:気導閾値上昇、骨導閾値正常、気骨導差あり。語音明瞭度は良好。原因例:外耳道閉鎖症、耳垢栓塞、滲出性中耳炎、慢性中耳炎、耳硬化症、耳小骨奇形・離断。 ・感音難聴:気導・骨導ともに閾値上昇し、気骨導差なし。語音明瞭度は低下しやすい。内耳性では補充現象陽性。原因例:老人性難聴、騒音性難聴、突発性難聴、Ménière病、薬剤性難聴(アミノグリコシド系、シスプラチンなど)、ウイルス性難聴、内耳奇形、聴神経腫瘍(後迷路性)。 ・混合難聴:両者の合併。
補聴器の適応評価
・語音明瞭度(最高語音明瞭度)が良好なほど補聴効果が期待できる。 ・補充現象が強いと、増幅した音が響いて不快になりやすく、出力の上限調整などの工夫が必要となる。 ・補聴器でも十分な効果が得られない両側高度〜重度感音難聴では人工内耳が検討される。
伝音難聴への対応
伝音難聴は補聴器の効果が大きいが、手術(鼓室形成術、アブミ骨手術など)で聴力改善が見込める場合も多く、補聴器と手術の両方が選択肢となる。
POINT
・補聴器は音を増幅する機器であり、内耳機能が保たれた伝音難聴で効果が最も大きい。 ・伝音難聴は語音明瞭度が保たれる。感音難聴は語音明瞭度が低下し、内耳性では補充現象を伴うため補聴効果が劣る。 ・老人性難聴は補聴器使用者が最も多い疾患だが、語音明瞭度が低下しやすく「最もよい適応」ではない。 ・耳小骨奇形=伝音難聴、ウイルス性難聴・内耳炎・内耳奇形・老人性難聴=感音難聴。
