「詰めて治す」はどの病気?―塞栓術の適応を病態から考える
第99回医師国家試験 D問題 第113問
国試問題にチャレンジ
塞栓術が適応となるのはどれか。
- a.脳出血
- b.脳梗塞
- c.脳動脈瘤
- d.神経膠腫
- e.急性硬膜外血腫
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
塞栓術はカテーテルでコイルや液体塞栓物質などを送り込み、標的とする異常血管や異常血管腔を意図的に閉塞させる画像下治療です。脳動脈瘤では瘤内をコイルで充填して破裂・再破裂を防ぐコイル塞栓術が、開頭クリッピング術と並ぶ標準治療となっています。脳出血や急性硬膜外血腫は血腫による圧迫が問題で、必要に応じて血腫除去術を行い、脳梗塞は再開通(rt-PA静注、機械的血栓回収)が治療目標であり、浸潤性に発育する神経膠腫は腫瘍血管の選択的塞栓が困難です。脳動静脈奇形や硬膜動静脈瘻、髄膜腫の術前塞栓なども塞栓術の対象として押さえておきましょう。「詰めることで何が解決するか」という病態からの考え方は、IVR全般の適応を理解する土台になります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
塞栓術(embolization)とは、カテーテルを血管内に進め、コイル・液体塞栓物質・粒子などの塞栓物質を用いて、目的の血管や異常な血管腔を意図的に閉塞させる血管内治療(IVR:画像下治療)の一つである。脳神経領域での主な適応は、①脳動脈瘤(瘤内をコイルで充填して破裂・再破裂を防ぐ)、②脳動静脈奇形(AVM)や硬膜動静脈瘻(dural AVF)などの異常短絡血管の閉塞、③髄膜腫など血流の豊富な腫瘍に対する術前塞栓(手術時の出血量を減らす)などである。
考え方
塞栓術が意味をもつのは、「閉塞させるべき特定の異常血管(または異常血管腔)があり、そこにカテーテルで到達でき、閉塞させることで治療効果が得られる」病態である。 ・脳動脈瘤は、親動脈から突出した袋状の瘤という明確な標的があり、瘤内をコイルで詰めることで破裂(くも膜下出血)や再破裂を予防できる。したがって塞栓術の代表的適応である。 ・一方、脳出血・急性硬膜外血腫は「すでに出た血液(血腫)による圧迫」が問題であり、出血源の血管を詰めても血腫そのものは除去できない。脳梗塞はすでに血管が詰まっている病態で、治療目標はむしろ再開通である。神経膠腫は浸潤性に発育し、栄養血管だけを選んで詰める意義に乏しい。 このように「塞栓で何が解決するか」を考えると正解は脳動脈瘤に絞られる。
選択肢考察
- ×a. 脳出血
高血圧性脳出血は、穿通枝などの細い動脈(細動脈)が破綻して生じることが多い。出血源は脳実質深部の細い血管であり、カテーテルで選択的に到達して塞栓することは困難で、また自然に止血していることが多いため塞栓する必要性も乏しい。治療の基本は急性期の十分な降圧(収縮期血圧を140 mmHg未満程度へ下げることが推奨される)、脳浮腫・頭蓋内圧の管理であり、血腫量が多く意識障害が進行する場合などに開頭血腫除去術や神経内視鏡下血腫除去術が検討される。なお、脳AVMや脳動脈瘤など血管奇形が原因の脳出血であれば、その原因病変に対して塞栓術が行われることはあるが、一般的な脳出血そのものが塞栓術の適応となるわけではない。
- ×b. 脳梗塞
脳梗塞は脳動脈が血栓・塞栓で閉塞して脳組織が虚血に陥る病態であり、血管をさらに閉塞させる塞栓術は治療目的に反する。急性期には発症4.5時間以内であればrt-PA(アルテプラーゼ、遺伝子組換え組織型プラスミノゲンアクチベータ)静注による血栓溶解療法、主幹動脈閉塞ではカテーテルで血栓を回収する機械的血栓回収療法が行われる。いずれも血流を再開させる治療であり、塞栓術とは逆の目的である。病型に応じて抗血小板薬(アテローム血栓性脳梗塞・ラクナ梗塞)や抗凝固薬(心原性脳塞栓症)による再発予防も行う。
- ○c. 脳動脈瘤
脳動脈瘤は、脳動脈の分岐部などにできる袋状の膨らみで、破裂するとくも膜下出血を起こす。瘤内に離脱式のプラチナコイルを詰めて血流が入らないようにするコイル塞栓術(瘤内塞栓術)は、開頭して瘤の頸部をクリップで挟む開頭クリッピング術と並ぶ標準的治療である。破裂動脈瘤では再破裂予防のため早期に、未破裂動脈瘤でも大きさ・部位・形状(ブレブの有無など)・患者背景から破裂リスクが高いと判断されれば、いずれかの方法で治療される。コイル塞栓術は開頭を要さず低侵襲であり、脳底動脈先端部など開頭で到達しにくい部位の動脈瘤や高齢者で特に選択されやすい。頸部の広い動脈瘤にはステントやバルーンを併用した塞栓術、フローダイバーター留置なども用いられる。
- ×d. 神経膠腫
神経膠腫(グリオーマ)は脳実質内に浸潤性に発育し、正常脳との境界が不明瞭な腫瘍である。栄養血管は正常脳を灌流する血管と共有されていることが多く、腫瘍血管だけを選択的に塞栓することは難しいうえ、塞栓しても腫瘍の制御にはつながらない。治療は可能な限りの摘出術に加え、放射線療法と化学療法(膠芽腫ではテモゾロミドの併用が標準)を組み合わせる。なお、脳腫瘍でも髄膜腫のように外頸動脈系から豊富な血流を受ける脳実質外腫瘍では、術中出血を減らす目的で術前塞栓術が行われることがあり、神経膠腫との違いとして押さえておくとよい。
- ×e. 急性硬膜外血腫
急性硬膜外血腫は、頭部外傷に伴う頭蓋骨骨折で中硬膜動脈などが損傷し、頭蓋骨と硬膜の間に血腫がたまる病態である。CTでは凸レンズ型の高吸収域を示し、受傷直後の意識清明期の後に急速に意識が悪化することがある。問題は血腫による脳の圧迫(脳ヘルニアの危険)であり、出血している血管を塞栓しても既にたまった血腫は除去できないため根本治療にならない。血腫量が多い、正中偏位がある、神経症状が進行するなどの場合は、緊急の開頭血腫除去術で圧迫を速やかに解除することが原則である。
塞栓術の主な適応(脳神経領域)
・脳動脈瘤:コイル塞栓術(ステント・バルーン併用、フローダイバーターを含む) ・脳動静脈奇形(AVM):ナイダス(異常血管塊)への液体塞栓物質の注入。単独治療のほか、開頭摘出術や定位放射線治療の前処置として行う ・硬膜動静脈瘻(dural AVF):経動脈的または経静脈的塞栓術 ・頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF):経静脈的または経動脈的塞栓術 ・髄膜腫など多血性腫瘍:術中出血を減らすための術前塞栓 ・慢性硬膜下血腫:再発予防として中硬膜動脈塞栓術が行われることがある
全身での塞栓術の例
肝細胞癌に対する肝動脈化学塞栓療法(TACE)、外傷性の肝・脾・骨盤出血に対する動脈塞栓術、喀血に対する気管支動脈塞栓術、子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術、消化管出血に対する動脈塞栓術など。
脳動脈瘤の治療法の比較
・開頭クリッピング術:瘤頸部をクリップで閉鎖する。確実性が高く再発が少ない一方、開頭が必要で侵襲が大きい。 ・コイル塞栓術:大腿動脈などからカテーテルを進め、瘤内をコイルで充填する。低侵襲だが、コイルが圧縮して瘤が再開通(再発)することがあり、経過観察が必要である。
POINT
・塞栓術は「閉塞させたい異常血管・異常血管腔」がある病態(脳動脈瘤、AVM、硬膜動静脈瘻、多血性腫瘍の術前など)に行う。 ・脳動脈瘤の治療は開頭クリッピング術とコイル塞栓術の2本柱。 ・脳梗塞は再開通(rt-PA静注、機械的血栓回収)が治療目標であり、塞栓術とは逆。 ・脳出血・急性硬膜外血腫は血腫による圧迫が問題で、必要なら血腫除去術を行う。 ・神経膠腫は浸潤性で、腫瘍血管の選択的塞栓は困難。
