術後の発熱、その奥に潜む「感染巣」―敗血症性ショックにつながる合併症の見分け方
第99回医師国家試験 D問題 第107問
国試問題にチャレンジ
開腹術後の合併症で敗血症性ショックをきたしやすいのはどれか。2つ選べ。
- a.急性胃拡張
- b.麻痺性イレウス
- c.消化管縫合不全
- d.肝膿瘍
- e.術後膵炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
敗血症性ショックの出発点は感染であり、開腹術後の合併症では、腸内細菌が腹腔に漏れて腹膜炎を起こす消化管縫合不全と、血流豊富な肝臓にできた感染巣である肝膿瘍が敗血症性ショックをきたしやすい代表です。急性胃拡張や麻痺性イレウスは機能的な障害で単独では敗血症になりにくく、術後膵炎も化学的炎症が主体で、感染性膵壊死を合併しない限り直接結びつくことは少ないものの、重症例では全身炎症によるショックに注意が必要です。縫合不全は術後3〜7日ごろに多く、術後3日目以降の新たな発熱は感染症を疑う契機となります。治療は血液培養後の早期広域抗菌薬、輸液とノルアドレナリンに加え、ドレナージなどの感染巣コントロールが不可欠です。「感染があるか」で合併症を整理する視点は、術後管理で重篤化を防ぐための基本となります。
解答・解説
正解はc, dです
本問は、開腹術後に起こる合併症のうち、敗血症性ショックにつながりやすいものを2つ選ぶ問題である。
敗血症・敗血症性ショックとは
現在の定義(Sepsis-3、2016年)では、敗血症は「感染症に対する生体の反応が制御できなくなり、生命を脅かす臓器障害が起こった状態」とされる。敗血症性ショックは、敗血症のうち、十分な輸液を行っても平均動脈圧65mmHg以上を保つために血管収縮薬が必要で、かつ血中乳酸値が2mmol/L(18mg/dL)を超える状態をいう。
考え方
敗血症性ショックの出発点は「感染」である。したがって、まず各合併症が細菌感染を起こしやすいかどうかを考えればよい。 ・細菌感染そのもの、または感染に直結する合併症: 消化管縫合不全(腸内細菌が腹腔に漏れて腹膜炎を起こす)、肝膿瘍(肝臓に膿がたまった状態)。 ・本来は感染を伴わない、機能的・化学的な合併症: 急性胃拡張、麻痺性イレウス、術後膵炎。 前者は、ドレナージ(膿や漏れた内容物を体外に出すこと)や抗菌薬による治療が遅れると、細菌やその毒素(エンドトキシンなど)が血液に入り、全身の炎症反応から敗血症性ショックに進みやすい。後者は、腸管の壊死・穿孔や壊死部分への感染といった二次的な変化が起こらない限り、それだけで敗血症性ショックになることは少ない。
選択肢考察
- ×a. 急性胃拡張
急性胃拡張は、全身麻酔や手術の刺激、迷走神経の反射などで胃の運動と緊張が低下し、胃の中にガスや液体がたまって胃が大きくふくらむ状態である。嘔吐による誤嚥や、循環血液量の減少、横隔膜が押し上げられることによる呼吸障害には注意が必要である。しかし病態は機能的なもので、感染とは直接関係しない。経鼻胃管で胃の内容物を抜く(減圧する)ことで多くは改善し、敗血症性ショックにはなりにくい。
- ×b. 麻痺性イレウス
開腹術後は、手術操作や麻酔、鎮痛薬(オピオイド)、交感神経の緊張などによって、腸の動きが一時的に止まる(術後の生理的な腸管麻痺)。通常は数日で回復する。これが長引いたものが麻痺性イレウスであり、腹膜炎や術後膵炎など、腹腔内の炎症の結果として起こることも多い。麻痺性イレウスそのものは腸の動きの障害であり、単独で敗血症性ショックを起こすことはまれである。腸管が虚血・壊死を起こす絞扼性イレウス(腸閉塞)とは区別して考える。
- ○c. 消化管縫合不全
消化管縫合不全は、腸管などを縫い合わせた部分(吻合部)がうまくつながらず、すき間から消化管の内容物が腹腔内へ漏れ出す合併症である。術後数日(おおむね術後3〜7日ごろ)に、発熱、腹痛、腹膜刺激症状、ドレーンからの排液の性状の変化(混濁、便汁様)などで気づかれることが多い。大腸の吻合部では腸内細菌が多いため、漏れると細菌性腹膜炎や腹腔内膿瘍を起こし、ドレナージや再手術、抗菌薬投与が遅れると敗血症性ショックに進みやすい。開腹術後の敗血症の代表的な原因である。
- ○d. 肝膿瘍
肝膿瘍は肝臓内に膿がたまった状態で、細菌性(化膿性)とアメーバ性に大別される。細菌性肝膿瘍は、胆道からの上行性感染(胆管炎など)、門脈を通って腹腔内の感染巣から細菌が運ばれる経路、術後の腹腔内感染などで起こり、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)や大腸菌などのグラム陰性桿菌が主な原因菌である。肝臓は血流が非常に豊富な臓器なので、膿瘍の細菌や毒素が血中に入りやすく、敗血症性ショックを起こしやすい。治療は抗菌薬と、経皮的なドレナージ(穿刺して膿を抜く)である。
- ×e. 術後膵炎
術後膵炎は、膵臓の周りの手術操作による損傷や血流障害などで、膵酵素が膵臓自身や周囲の組織を消化してしまうことで起こる化学的な炎症である。発症した時点では細菌感染を伴わないことが多く、ほかの選択肢の感染性合併症と比べると、敗血症性ショックに直接結びつくことは少ない。ただし重症化して膵臓や周囲に壊死が広がり、そこに細菌が感染する(感染性膵壊死)と、敗血症の原因となりうる。重症急性膵炎では、全身の強い炎症反応によってショックや多臓器不全が起こることもある点に注意が必要である。
開腹術後の主な合併症と起こりやすい時期
・術後出血: 術後24〜48時間以内 ・無気肺・肺炎: 術後1〜3日ごろ ・縫合不全: 術後3〜7日ごろ ・創感染(手術部位感染): 術後4〜7日ごろ ・腹腔内膿瘍: 術後1週前後以降 ・深部静脈血栓症・肺塞栓症: 術後の歩行開始ごろ ・癒着性腸閉塞: 術後早期から遠い将来まで
術後の発熱の考え方
術後1〜2日の発熱は、手術による組織の損傷に対する反応(吸収熱)であることが多い。術後3日目以降に新しく熱が出たり、熱が続いたりする場合は、縫合不全、腹腔内膿瘍、創感染、カテーテル関連の血流感染、尿路感染、肺炎などの感染症を考えて、原因を探す。
敗血症の早期発見と初期治療
・一般病棟などでのスクリーニングにはqSOFA(quick SOFA)を使う。呼吸数22/分以上、意識の変容、収縮期血圧100mmHg以下のうち2項目以上で敗血症を疑う。 ・初期治療: 血液培養(2セット)を採取したうえで、できるだけ早く広い範囲をカバーする抗菌薬を投与する。細胞外液を中心とした輸液を行い、それでも血圧が保てなければ血管収縮薬(第一選択はノルアドレナリン)を使う。 ・感染巣のコントロール(ドレナージ、膿瘍の排出、壊死組織の切除、再手術など)が治療の要である。
POINT
・敗血症性ショックの出発点は感染である。感染を伴う合併症(縫合不全による腹膜炎、膿瘍)が原因になりやすい。 ・消化管縫合不全は術後3〜7日ごろに多く、腹膜炎から敗血症性ショックに進むおそれがある。 ・肝膿瘍は血流の豊富な臓器の感染巣であり、敗血症性ショックを起こしやすい。 ・急性胃拡張と麻痺性イレウスは機能的な障害で、単独では敗血症になりにくい。 ・術後膵炎は、感染性膵壊死を起こさない限り、敗血症性ショックに直接結びつくことは少ない。 ・敗血症の治療では、抗菌薬とともに感染巣のコントロール(ドレナージ)が欠かせない。
