StudyMed医師国家試験

「生きていても仕方がない」を聞き逃さない―がん再発後の抑うつに担当医がすべきこと

第99回医師国家試験 C問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第99回 C問題 第27問

45歳の女性。乳癌の再発で半年間外来に通っている。再発であることを告げられた後から不安,不眠,食欲不振および気分の落ち込みがみられるようになった。最近になって,「眠れなくてつらい。もう何もしたくない。生きていても仕方がない」と言うようになり,表情も乏しくなってきた。 担当医の対応として最も適切なのはどれか。

  1. a.経過観察を続ける。
  2. b.頑張るよう励ます。
  3. c.睡眠薬の使用を勧める。
  4. d.ホスピスへの入院を勧める。
  5. e.精神科医にコンサルテーションする。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、がんの再発を告げられた後に気持ちが沈んでいく患者さんに、担当医としてどう向き合うかという問題だ。着眼点は2つ。訴えを「落ち込んで当然」で片付けてよい状態かどうか、そして最近出てきた言葉の重みをどう受け止めるか、だよ。
医学生医学生
再発を告げられたら誰でも落ち込むと思うので、しばらく見守るのも一つの考え方かなと思いました。
ドクタードクター
その感覚自体は自然だね。告知直後の動揺や不安は、多くの人が数週間ほどで少しずつ折り合いをつけていく正常な反応だ。でもこの患者さんは、半年近くかけて良くなるどころか悪化している。抑うつ気分、意欲の低下、不眠、食欲低下、表情の乏しさがそろっているのは、正常な反応の範囲を超えていると考えるべきなんだ。
医学生医学生
精神科の講義で習ったDSM-5の大うつ病エピソードの項目に、かなり当てはまりますね。
ドクタードクター
そうだね。抑うつ気分か興味・喜びの減退のどちらかを含めて5項目以上が2週間以上続くのが基準だ。ただ、がん患者さんでは食欲低下やだるさが病気や治療そのものでも起こるから、気分の落ち込みや興味の喪失、希死念慮といった心理的な症状に特に注目して評価するのがコツだよ。うつ病なのか、抑うつを伴う適応障害なのかは、専門的に見極める必要がある。
医学生医学生
「生きていても仕方がない」という言葉は、希死念慮と考えていいんですよね。
ドクタードクター
その通り。ここが最大のポイントだ。がん患者さんは一般の人より自殺の危険が高く、とくに再発や進行を告げられた後はリスクが上がるとされている。希死念慮があれば自殺リスクの評価が必要で、担当医が一人で抱え込むのではなく、精神科医にコンサルテーションするのが最も適切な対応になる。
医学生医学生
経過観察を続けるのは、やはり不十分ということですね。
ドクタードクター
うん。うつ病や適応障害は治療で改善が期待できる状態だ。放っておけば生活の質が下がるだけでなく、がん治療を続ける意欲も落ち、最悪の場合は自殺につながりかねない。何もせずに様子を見る段階はもう過ぎているんだ。
医学生医学生
励ましてあげるのはどうでしょう。家族ならつい「頑張って」と言ってしまいそうです。
ドクタードクター
そこが落とし穴だよ。うつ状態の人は、頑張りたくても気力が出ない。「頑張れ」と言われると、応えられない自分を責めて無力感や罪悪感が強まり、かえって悪化させることがある。安易な激励は避けて、つらさに耳を傾け、休養を勧めるのが基本だ。
医学生医学生
眠れなくてつらいと言っているので、睡眠薬を出すのは悪くない気もしますが。
ドクタードクター
不眠という一症状は楽になるかもしれないけれど、抑うつ気分や意欲低下、希死念慮という中核の症状は改善しない。必要なのは病態そのものへの治療だ。それに、希死念慮のある人に睡眠薬だけを渡すと、過量服薬のリスクも考えなければならない。専門的な評価を経ずに睡眠薬だけで対処するのは不適切なんだ。
医学生医学生
ホスピスを勧めるのはどうですか。緩和ケアの場という印象があります。
ドクタードクター
この患者さんは外来に通えていて、身体的に終末期という情報はない。問題は治療できる抑うつ状態だから、ホスピス入院は解決策にならないよ。しかも落ち込んでいるときに突然ホスピスを勧められると、「見放された」と受け取って絶望感を深めてしまうおそれがある。
医学生医学生
結局、身体の担当医と精神の専門家が連携して支えるのが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。こうした領域を精神腫瘍学、サイコオンコロジーと呼び、精神腫瘍医や緩和ケアチームが身体科と協力して対応している。治療としては、SSRIやSNRI、ミルタザピンなどの抗うつ薬と、支持的精神療法を組み合わせるのが中心だ。
医学生医学生
臨床実習で、希死念慮について直接聞くと、かえって自殺を誘発しないか不安だったんですが。
ドクタードクター
よく出る疑問だね。率直に尋ねることで自殺を誘発することはないとされているんだ。むしろ聞かないと評価ができない。具体的な計画や手段がある、過去に自殺企図がある、孤立している、といった場合はさらにリスクが高く、緊急の対応が必要になる。それと、退職のような人生の大きな決断は、症状が良くなるまで先延ばしにしてもらうよう伝えるのも大切な対応だよ。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも、つらさを受け止める姿勢を練習しましたが、その先に専門家へつなぐ判断があるんですね。
ドクタードクター
まさにそう。共感的に聴くことと、危険なサインを見逃さず適切な専門家につなぐこと。この2つがそろって初めて、患者さんを身体と心の両面から支えられるんだ。

まとめ

がんの再発告知を契機に、抑うつ気分・意欲低下・不眠・食欲低下が長く続き悪化している場合は、正常な心理反応の範囲を超えた、うつ病や抑うつを伴う適応障害を疑います。「生きていても仕方がない」という発言は希死念慮であり、がん患者は自殺の危険が高いことから、担当医は精神科医(精神腫瘍医)に早期にコンサルテーションし、診断と自殺リスクの評価、抗うつ薬や精神療法による治療につなげることが最も適切です。経過観察は治療の機会を逃し、安易な励ましは自責感を強め、睡眠薬のみでは中核症状が改善せず過量服薬の懸念もあり、終末期でない患者へのホスピスの勧めは見放されたという感覚を生みかねません。がん患者の心のケアはサイコオンコロジーとして体系化されており、共感的に傾聴しながら危険なサインを見極めて専門家と連携する姿勢は、あらゆる診療科で求められる基本的な臨床能力です。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・45歳女性。乳癌の再発で半年間外来通院中。 ・再発を告げられた後から、不安、不眠、食欲不振、気分の落ち込みが出現している。 ・最近は「眠れなくてつらい」(不眠)、「もう何もしたくない」(意欲・興味の低下)、「生きていても仕方がない」(希死念慮)と訴え、表情も乏しくなっている(精神運動面の変化・感情表出の減少)。

診断へのプロセス

抑うつ気分、興味・意欲の低下、不眠、食欲不振、希死念慮といった症状がそろい、しかも数か月にわたって持続し悪化している。がん再発という重大な心理的ストレスを契機としているが、「再発を知ったのだから落ち込むのは当然」という正常な反応の範囲を超えており、うつ病(大うつ病性障害)あるいは抑うつを伴う適応障害など、治療を要する精神医学的状態と考えるべきである。がん患者ではうつ病・適応障害の頻度が高いことが知られており、見逃されやすい点にも注意が必要である。

設問で問われていること

特に「生きていても仕方がない」という発言は希死念慮であり、自殺のリスクを評価する必要がある。がん患者は一般人口より自殺の危険が高く、再発・進行の告知後はとくにその危険が高まる。このような状態では、担当医が独力で経過をみるのではなく、精神科医(あるいは精神腫瘍医・緩和ケアチームの精神症状担当医)に早期に相談し、診断の確定、自殺リスクの評価、抗うつ薬などの薬物療法と精神療法を含む専門的治療につなげることが最も適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  経過観察を続ける。

    症状は半年近く続いており、最近は希死念慮や表情の乏しさが加わって悪化している。うつ病は治療により改善が期待できる疾患であり、放置すれば生活の質(QOL)の低下、がん治療への意欲やアドヒアランスの低下、さらには自殺につながるおそれがある。何も介入せずに様子をみる段階ではない。

  2. ×b.  頑張るよう励ます。

    うつ病の患者は、頑張りたくても気力が出ない状態にある。「頑張れ」と励ますと、期待に応えられない自分を責め、無力感や罪悪感を強めて症状を悪化させたり、自殺の危険を高めたりしうる。うつ病の患者への対応では、安易な激励は避け、つらさに共感し休養を勧めることが基本である。

  3. ×c.  睡眠薬の使用を勧める。

    睡眠薬で不眠という一症状は一時的に軽くなるかもしれないが、抑うつ気分、意欲低下、希死念慮といったうつ病の中核症状は改善しない。必要なのは抗うつ薬を中心とした病態そのものへの治療である。また希死念慮のある患者に睡眠薬を処方する場合は、過量服薬のリスクにも配慮が必要であり、専門的な評価を経ずに睡眠薬のみで対処するのは不適切である。

  4. ×d.  ホスピスへの入院を勧める。

    本症例では身体状態が終末期にあるという情報はなく、外来通院が可能な状態である。問題となっているのは治療可能な抑うつ状態であり、ホスピス入院はその解決策にならない。抑うつ状態の患者に唐突にホスピスを勧めると「見放された」と受け止められ、絶望感や希死念慮をかえって強めるおそれもある。

  5. ○e.  精神科医にコンサルテーションする。

    抑うつ気分、意欲低下、不眠、食欲不振に加えて希死念慮があり、うつ病などの治療を要する状態が強く疑われる。精神科医(精神腫瘍医)に相談することで、うつ病か適応障害かなどの正確な診断、自殺リスクの評価、抗うつ薬による薬物療法や支持的精神療法などの専門的治療が可能になる。がん治療を担う担当医は、精神科医と連携しながら身体・精神の両面から患者を支えることが望ましい。

がん患者の精神症状

がん患者では、告知・再発・治療の失敗などを契機に、適応障害やうつ病が高い頻度で生じる。進行・再発がん患者では、これらが合わせて数十%にみられるとの報告もある。抑うつは生活の質を下げるだけでなく、治療の継続を妨げ、自殺の危険を高めるため、早期の発見と対応が重要である。これを専門的に扱う領域を精神腫瘍学(サイコオンコロジー)といい、精神腫瘍医や緩和ケアチームが身体科と連携して対応する。

うつ病の主な症状(DSM-5の大うつ病エピソードの項目)

①抑うつ気分、②興味・喜びの著しい減退、③体重・食欲の変化、④不眠または過眠、⑤精神運動焦燥または制止、⑥易疲労感・気力の減退、⑦無価値感・過剰な罪責感、⑧思考力・集中力の低下や決断困難、⑨死についての反復思考・希死念慮・自殺企図。このうち①または②を含む5項目以上が2週間以上ほぼ毎日続く場合に大うつ病エピソードと診断される。がん患者では食欲低下・倦怠感などが身体疾患や治療の影響でも生じるため、抑うつ気分や興味の喪失、希死念慮などの心理的症状に注目して評価する。

うつ病患者への基本的な対応

・安易に励まさない。つらさに共感的に耳を傾ける。 ・十分な休養を勧める。 ・人生に関わる重大な決断(退職など)は症状が改善するまで先延ばしにするよう勧める。 ・希死念慮について率直に尋ね、自殺リスクを評価する(尋ねることで自殺を誘発することはないとされる)。 ・抗うつ薬(SSRI、SNRI、ミルタザピンなど)による薬物療法と精神療法を組み合わせる。

自殺リスクへの対応

希死念慮の存在は精神科への紹介・相談の明確な理由となる。具体的な計画や手段がある、過去の自殺企図がある、孤立している、などの場合はリスクがさらに高く、緊急の対応が必要である。

POINT

・がん再発後の抑うつ気分・意欲低下・不眠・食欲不振・希死念慮 → うつ病(または適応障害)を疑う。 ・希死念慮があれば自殺リスクの評価が必要で、精神科医(精神腫瘍医)へ早期にコンサルテーションする。 ・うつ病患者を「頑張れ」と励ますのは避ける。 ・睡眠薬のみの対症療法では中核症状は改善しない。治療の中心は抗うつ薬と精神療法。 ・抑うつを理由にホスピスを勧めるのは不適切。うつ病は治療で改善が期待できる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。