「生きていても仕方がない」を聞き逃さない―がん再発後の抑うつに担当医がすべきこと
第99回医師国家試験 C問題 第27問
国試問題にチャレンジ
45歳の女性。乳癌の再発で半年間外来に通っている。再発であることを告げられた後から不安,不眠,食欲不振および気分の落ち込みがみられるようになった。最近になって,「眠れなくてつらい。もう何もしたくない。生きていても仕方がない」と言うようになり,表情も乏しくなってきた。 担当医の対応として最も適切なのはどれか。
- a.経過観察を続ける。
- b.頑張るよう励ます。
- c.睡眠薬の使用を勧める。
- d.ホスピスへの入院を勧める。
- e.精神科医にコンサルテーションする。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
がんの再発告知を契機に、抑うつ気分・意欲低下・不眠・食欲低下が長く続き悪化している場合は、正常な心理反応の範囲を超えた、うつ病や抑うつを伴う適応障害を疑います。「生きていても仕方がない」という発言は希死念慮であり、がん患者は自殺の危険が高いことから、担当医は精神科医(精神腫瘍医)に早期にコンサルテーションし、診断と自殺リスクの評価、抗うつ薬や精神療法による治療につなげることが最も適切です。経過観察は治療の機会を逃し、安易な励ましは自責感を強め、睡眠薬のみでは中核症状が改善せず過量服薬の懸念もあり、終末期でない患者へのホスピスの勧めは見放されたという感覚を生みかねません。がん患者の心のケアはサイコオンコロジーとして体系化されており、共感的に傾聴しながら危険なサインを見極めて専門家と連携する姿勢は、あらゆる診療科で求められる基本的な臨床能力です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・45歳女性。乳癌の再発で半年間外来通院中。 ・再発を告げられた後から、不安、不眠、食欲不振、気分の落ち込みが出現している。 ・最近は「眠れなくてつらい」(不眠)、「もう何もしたくない」(意欲・興味の低下)、「生きていても仕方がない」(希死念慮)と訴え、表情も乏しくなっている(精神運動面の変化・感情表出の減少)。
診断へのプロセス
抑うつ気分、興味・意欲の低下、不眠、食欲不振、希死念慮といった症状がそろい、しかも数か月にわたって持続し悪化している。がん再発という重大な心理的ストレスを契機としているが、「再発を知ったのだから落ち込むのは当然」という正常な反応の範囲を超えており、うつ病(大うつ病性障害)あるいは抑うつを伴う適応障害など、治療を要する精神医学的状態と考えるべきである。がん患者ではうつ病・適応障害の頻度が高いことが知られており、見逃されやすい点にも注意が必要である。
設問で問われていること
特に「生きていても仕方がない」という発言は希死念慮であり、自殺のリスクを評価する必要がある。がん患者は一般人口より自殺の危険が高く、再発・進行の告知後はとくにその危険が高まる。このような状態では、担当医が独力で経過をみるのではなく、精神科医(あるいは精神腫瘍医・緩和ケアチームの精神症状担当医)に早期に相談し、診断の確定、自殺リスクの評価、抗うつ薬などの薬物療法と精神療法を含む専門的治療につなげることが最も適切である。
選択肢考察
- ×a. 経過観察を続ける。
症状は半年近く続いており、最近は希死念慮や表情の乏しさが加わって悪化している。うつ病は治療により改善が期待できる疾患であり、放置すれば生活の質(QOL)の低下、がん治療への意欲やアドヒアランスの低下、さらには自殺につながるおそれがある。何も介入せずに様子をみる段階ではない。
- ×b. 頑張るよう励ます。
うつ病の患者は、頑張りたくても気力が出ない状態にある。「頑張れ」と励ますと、期待に応えられない自分を責め、無力感や罪悪感を強めて症状を悪化させたり、自殺の危険を高めたりしうる。うつ病の患者への対応では、安易な激励は避け、つらさに共感し休養を勧めることが基本である。
- ×c. 睡眠薬の使用を勧める。
睡眠薬で不眠という一症状は一時的に軽くなるかもしれないが、抑うつ気分、意欲低下、希死念慮といったうつ病の中核症状は改善しない。必要なのは抗うつ薬を中心とした病態そのものへの治療である。また希死念慮のある患者に睡眠薬を処方する場合は、過量服薬のリスクにも配慮が必要であり、専門的な評価を経ずに睡眠薬のみで対処するのは不適切である。
- ×d. ホスピスへの入院を勧める。
本症例では身体状態が終末期にあるという情報はなく、外来通院が可能な状態である。問題となっているのは治療可能な抑うつ状態であり、ホスピス入院はその解決策にならない。抑うつ状態の患者に唐突にホスピスを勧めると「見放された」と受け止められ、絶望感や希死念慮をかえって強めるおそれもある。
- ○e. 精神科医にコンサルテーションする。
抑うつ気分、意欲低下、不眠、食欲不振に加えて希死念慮があり、うつ病などの治療を要する状態が強く疑われる。精神科医(精神腫瘍医)に相談することで、うつ病か適応障害かなどの正確な診断、自殺リスクの評価、抗うつ薬による薬物療法や支持的精神療法などの専門的治療が可能になる。がん治療を担う担当医は、精神科医と連携しながら身体・精神の両面から患者を支えることが望ましい。
がん患者の精神症状
がん患者では、告知・再発・治療の失敗などを契機に、適応障害やうつ病が高い頻度で生じる。進行・再発がん患者では、これらが合わせて数十%にみられるとの報告もある。抑うつは生活の質を下げるだけでなく、治療の継続を妨げ、自殺の危険を高めるため、早期の発見と対応が重要である。これを専門的に扱う領域を精神腫瘍学(サイコオンコロジー)といい、精神腫瘍医や緩和ケアチームが身体科と連携して対応する。
うつ病の主な症状(DSM-5の大うつ病エピソードの項目)
①抑うつ気分、②興味・喜びの著しい減退、③体重・食欲の変化、④不眠または過眠、⑤精神運動焦燥または制止、⑥易疲労感・気力の減退、⑦無価値感・過剰な罪責感、⑧思考力・集中力の低下や決断困難、⑨死についての反復思考・希死念慮・自殺企図。このうち①または②を含む5項目以上が2週間以上ほぼ毎日続く場合に大うつ病エピソードと診断される。がん患者では食欲低下・倦怠感などが身体疾患や治療の影響でも生じるため、抑うつ気分や興味の喪失、希死念慮などの心理的症状に注目して評価する。
うつ病患者への基本的な対応
・安易に励まさない。つらさに共感的に耳を傾ける。 ・十分な休養を勧める。 ・人生に関わる重大な決断(退職など)は症状が改善するまで先延ばしにするよう勧める。 ・希死念慮について率直に尋ね、自殺リスクを評価する(尋ねることで自殺を誘発することはないとされる)。 ・抗うつ薬(SSRI、SNRI、ミルタザピンなど)による薬物療法と精神療法を組み合わせる。
自殺リスクへの対応
希死念慮の存在は精神科への紹介・相談の明確な理由となる。具体的な計画や手段がある、過去の自殺企図がある、孤立している、などの場合はリスクがさらに高く、緊急の対応が必要である。
POINT
・がん再発後の抑うつ気分・意欲低下・不眠・食欲不振・希死念慮 → うつ病(または適応障害)を疑う。 ・希死念慮があれば自殺リスクの評価が必要で、精神科医(精神腫瘍医)へ早期にコンサルテーションする。 ・うつ病患者を「頑張れ」と励ますのは避ける。 ・睡眠薬のみの対症療法では中核症状は改善しない。治療の中心は抗うつ薬と精神療法。 ・抑うつを理由にホスピスを勧めるのは不適切。うつ病は治療で改善が期待できる。
