「塗抹陽性」が意味するもの―肺結核と診断したその日に医師がすべきこと
第99回医師国家試験 A問題 第58問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。咳嗽が持続するため来院した。胸部エックス線写真で右上肺野に浸潤影を認める。喀痰の塗抹検査でGaffky 2号が検出され,PCR法でヒト型結核菌であることが確認された。 対応として適切なのはどれか。
- a.外来で経過観察する。
- b.外来でイソニアジドを投与する。
- c.入院で多剤併用療法を開始する。
- d.保健所に7日以内に届け出る。
- e.市町村に医療費の公費負担を申請する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
喀痰塗抹陽性の肺結核は、顕微鏡で見えるほどの結核菌を排出しており空気感染の危険が高いため、感染症法に基づき結核病床(陰圧個室など)へ入院させて治療します。治療は耐性菌の出現を防ぐため必ず多剤併用で行い、イソニアジド・リファンピシン・ピラジナミド・エタンブトール(またはストレプトマイシン)の4剤を2か月、続いてイソニアジド・リファンピシンを4か月の計6か月が標準で、DOTSによる服薬確認が推進されています。イソニアジド単剤は潜在性結核感染症の治療法であり、活動性結核に用いると耐性化を招きます。結核は二類感染症として診断後「直ちに」保健所長へ届け出る必要があり、医療費の公費負担は保健所長経由で都道府県知事(保健所設置市長)に申請します。治療・感染対策・法的手続きを一体として理解することは、結核診療だけでなく公衆衛生と臨床をつなぐ視点を養ううえで重要です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・45歳男性、持続する咳嗽。 ・胸部X線で右上肺野の浸潤影:上葉(特に肺尖部・後上葉区)は酸素分圧が高く、好気性の結核菌が増殖しやすいため、成人の肺結核(二次結核)の好発部位である。 ・喀痰塗抹検査でGaffky 2号:抗酸菌染色で菌が確認された、すなわち塗抹陽性である(Gaffky 0号が陰性)。 ・PCR法でヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)と確認:塗抹で見えた抗酸菌が非結核性抗酸菌ではなく結核菌であることが確定した。
診断
喀痰塗抹陽性の肺結核である。塗抹陽性とは、喀痰中に顕微鏡で見えるほどの結核菌が出ている状態であり、咳やくしゃみで飛散した菌を含む飛沫核(空気感染)によって周囲へ感染させる危険が高い。
設問の考え方
対応を決めるポイントは次の2つである。 1. 感染対策:塗抹陽性の肺結核患者は感染性が高いため、感染症法に基づく入院勧告の対象となり、陰圧個室などの空気感染対策がとれる結核病床に入院させて他者への感染を防ぐ。 2. 治療:結核菌には一定の割合で自然に薬剤耐性菌が含まれており、単剤で治療すると耐性菌だけが生き残って増える。そのため、作用の異なる複数の抗結核薬を同時に用いる多剤併用療法が原則である。 さらに、法的な手続き(保健所への届出、医療費の公費負担)についても正しく理解しておく必要がある。
選択肢考察
- ×a. 外来で経過観察する。
塗抹陽性の肺結核は、治療をしなければ進行するうえ、排菌によって家族や職場など周囲に感染を広げる。経過観察は患者本人にとっても公衆衛生上も不適切であり、直ちに入院のうえ治療を開始すべきである。
- ×b. 外来でイソニアジドを投与する。
二つの点で誤りである。第一に、活動性肺結核をイソニアジド(INH)単剤で治療すると、もともと菌集団に含まれる耐性菌が選択的に増え、薬剤耐性結核をつくり出すことになる。INH単剤投与は、発病していない潜在性結核感染症(LTBI)の治療で用いる方法である。第二に、塗抹陽性で感染性が高いため、外来での管理は適さない(入院勧告の対象である)。
- ○c. 入院で多剤併用療法を開始する。
喀痰塗抹陽性の肺結核は感染性が高く、感染症法に基づいて結核病床(陰圧個室など空気感染対策が可能な病室)へ入院させる。治療は耐性菌の出現を防ぐため多剤併用で行い、標準治療はイソニアジド(INH)+リファンピシン(RFP)+ピラジナミド(PZA)+エタンブトール(EB)[またはストレプトマイシン(SM)]の4剤を2か月間、その後INH+RFPを4か月間の計6か月である。服薬の確実性を高めるため、医療者が服薬を直接確認するDOTS(直接服薬確認療法)が推進されている。
- ×d. 保健所に7日以内に届け出る。
結核は感染症法の二類感染症であり、診断した医師は「直ちに」最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出なければならない。「7日以内」は、五類感染症のうち全数把握対象疾患(梅毒、後天性免疫不全症候群など)の届出期限である。なお、結核がかつて結核予防法で規定されていた時代には「診断後2日以内」の届出とされていたが、2007年に結核予防法が感染症法に統合され、現在は「直ちに」である。
- ×e. 市町村に医療費の公費負担を申請する。
結核の医療費の公費負担は感染症法に規定されており、申請先は市町村ではない。入院勧告・措置による入院医療(第37条)や、外来を含む結核の適正医療(第37条の2)の公費負担は、患者(または保護者)が保健所長を経由して都道府県知事(保健所設置市などではその市長)に申請する。
喀痰抗酸菌塗抹検査の記載法
・かつてはGaffky号数(0〜10号)で菌量を表した。0号が陰性で、号数が大きいほど菌量が多い。 ・現在は簡便な記載法(−、±、1+、2+、3+)が用いられ、おおむねGaffky 1号が±、2〜4号が1+、5〜6号が2+、7号以上が3+に対応する。 ・塗抹は抗酸菌の有無はわかるが、結核菌と非結核性抗酸菌の区別はできない。区別にはPCRなどの核酸増幅法や培養同定を用いる。薬剤感受性検査には培養が必要である。
感染症法における結核
・二類感染症:医師は診断後直ちに保健所長を経由して都道府県知事へ届け出る。 ・入院勧告:肺結核で喀痰塗抹陽性など感染性が高い患者が対象。 ・退院の目安:臨床症状の改善、2週間以上の標準治療の実施、異なる日の喀痰検査(塗抹または培養)で連続して陰性が確認されることなどを満たし、退院後の服薬継続が確認できること。 ・接触者健診:保健所が家族や職場など接触者の健診(IGRA〈インターフェロンγ遊離試験〉、胸部X線など)を行う。
抗結核薬の主な副作用
・INH:肝障害、末梢神経障害(ビタミンB6併用で予防) ・RFP:肝障害、尿・涙などの橙赤色着色、多くの薬剤との相互作用(CYP誘導) ・PZA:肝障害、高尿酸血症 ・EB:視神経障害(視力低下・色覚異常) ・SM:第8脳神経障害(聴力・平衡障害)、腎障害
潜在性結核感染症(LTBI)
結核菌に感染しているが発病していない状態。発病予防のためINH単剤(6〜9か月)などを用いる。活動性結核を否定してから行うことが前提である。
POINT
・喀痰塗抹陽性(Gaffky 1号以上)の肺結核 → 感染性が高く、入院(結核病床・陰圧個室)で治療。 ・活動性結核は必ず多剤併用療法(INH+RFP+PZA+EB〈またはSM〉2か月 → INH+RFP 4か月)。単剤治療は耐性菌を生むため禁忌。 ・結核は二類感染症:診断後「直ちに」保健所長へ届出。 ・医療費の公費負担は保健所長経由で都道府県知事(保健所設置市長)へ申請。
