リンは上がる?下がる?―先端巨大症の合併症をGHの作用から読み解く
第99回医師国家試験 A問題 第48問
国試問題にチャレンジ
46歳の女性。発汗と頭痛とを主訴に来院した。眉弓部の突出と鼻・口唇の肥大とを認める。血清成長ホルモン値28ng/mL(基準5以下)。 この患者にみられないのはどれか。
- a.高血圧
- b.糖尿病
- c.尿路結石
- d.低リン血症
- e.変形性膝関節症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
眉弓部の突出や鼻・口唇の肥大といった特徴的な顔貌とGH高値は、GH産生下垂体腺腫による先端巨大症を示します。GHとIGF-Iの作用を考えると、ナトリウム再吸収亢進による高血圧、インスリン抵抗性による糖尿病、活性型ビタミンD増加に伴う高カルシウム尿症と尿路結石、軟骨・骨の増殖による変形性関節症が合併しうる一方、腎尿細管でのリン再吸収が高まるため血清リンは上昇し、低リン血症はみられません。手根管症候群、睡眠時無呼吸症候群、大腸腫瘍なども重要な合併症で、診断はブドウ糖負荷でのGH非抑制とIGF-I高値、MRIでの腺腫の確認によります。ホルモンの作用機序から合併症を導く考え方は、内分泌疾患全般の理解に応用できます。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・46歳女性、主訴は発汗と頭痛 ・眉弓部の突出(骨の過形成)と鼻・口唇の肥大(軟部組織の肥厚) ・血清成長ホルモン(GH)28 ng/mL(基準5以下)と著明な高値
診断に至るプロセス
眉弓部の突出、鼻・口唇の肥大は、骨端線が閉鎖した成人でGHが過剰に分泌された場合にみられる特徴的な顔貌(先端巨大症様顔貌)である。これにGHの著明な高値が加わることから、GH産生下垂体腺腫による先端巨大症と考えられる。発汗過多はGH過剰による代謝亢進と汗腺の肥大によるもので、先端巨大症で頻度の高い症状である。頭痛は腺腫による鞍隔膜の伸展などが原因と考えられる。 発汗と頭痛の組み合わせは褐色細胞腫や甲状腺中毒症でもみられるが、本例では特徴的な顔貌とGH高値がそろっており、これらを積極的に疑う材料はない。なお確定診断には、随時のGH値だけでなく、75g経口ブドウ糖負荷試験でGHが正常域まで抑制されないこと、年齢・性別の基準値と比べてインスリン様成長因子-I(IGF-I)が高値であることの確認と、MRIでの下垂体腺腫の同定が必要である。
設問の考え方
問われているのは「この患者にみられない」所見である。GHとその下流で働くIGF-Iが、血圧・糖代謝・カルシウム(Ca)とリン(P)の代謝・骨関節にそれぞれどのような影響を与えるかを整理すれば判断できる。GH過剰では腎尿細管でのリン再吸収が高まるため、血清リンはむしろ上昇する方向に働く。
選択肢考察
- ×a. 高血圧
みられる。GHとIGF-Iは腎尿細管でのナトリウム再吸収を促進し、細胞外液量(循環血液量)を増加させる。さらに血管平滑筋の肥大による末梢血管抵抗の上昇も加わり、高血圧を生じる。先端巨大症患者の3〜4割程度に合併するとされ、心肥大・心不全とともに生命予後を悪化させる重要な合併症である。
- ×b. 糖尿病
みられる。GHはインスリン拮抗ホルモンの一つで、肝臓での糖新生・糖放出を促進し、骨格筋や脂肪組織でのインスリン作用を妨げる(インスリン抵抗性)。そのため先端巨大症では耐糖能異常や糖尿病を高率に合併する。GHが正常化すると糖代謝も改善することが多い。
- ×c. 尿路結石
みられる。GH/IGF-Iは腎での活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシビタミンD)の産生を促し、腸管からのカルシウム吸収を増やす。その結果、尿中へのカルシウム排泄が増加し(高カルシウム尿症)、尿路結石を生じることがある。頻度は高血圧や糖尿病ほど高くないが、先端巨大症の合併症として知られている。
- ○d. 低リン血症
みられない(正解)。GHおよびIGF-Iは腎近位尿細管でのリン再吸収を増加させる(リンの尿細管再吸収極量が上昇する)。このため先端巨大症では血清リンは上昇し、高リン血症を呈するのが特徴である。血清リン高値は疾患活動性の指標の一つとしても用いられる。低リン血症は、副甲状腺機能亢進症などPTH作用が過剰な病態でみられる所見であり、先端巨大症の典型像とは逆である。
- ×e. 変形性膝関節症
みられる。GH/IGF-Iの過剰により関節軟骨や骨、滑膜が肥厚・増殖し、関節面の適合性が悪くなる。その結果、膝・股関節などの荷重関節や脊椎に変形性関節症を生じ、関節痛の原因となる。関節病変は治療でGHが正常化しても改善しにくいことが多い。
先端巨大症の概要
骨端線閉鎖後の成人でGHが過剰分泌される疾患で、原因の大部分はGH産生下垂体腺腫である。骨端線閉鎖前に発症すると高身長を呈し、下垂体性巨人症となる。GHの作用の多くは、主に肝臓で産生されるIGF-Iを介して発揮される。
主な症状・所見
・顔貌変化:眉弓部・頬骨・下顎の突出、鼻・口唇・舌の肥大(巨舌)、咬合不全 ・四肢末端の肥大:手足の容積増大(指輪や靴のサイズが合わなくなる) ・皮膚:発汗過多、皮膚の肥厚、脂性皮膚 ・腫瘍による症状:頭痛、視野障害(視交叉圧迫による両耳側半盲) ・その他:手根管症候群、睡眠時無呼吸症候群、大腸ポリープ・大腸癌、甲状腺腫
代謝・検査所見
・糖代謝:耐糖能異常、糖尿病(インスリン抵抗性) ・循環器:高血圧、心肥大、心筋症 ・電解質:高リン血症、高カルシウム尿症(血清カルシウムは通常正常) ・脂質:高トリグリセリド血症など
診断のポイント
・75g経口ブドウ糖負荷試験でGHが正常域まで抑制されない ・血中IGF-Iが年齢・性別の基準値に比べ高値 ・MRIで下垂体腺腫を認める ・TRH負荷やLHRH負荷でGHが奇異性に上昇することがある
治療
第一選択は経蝶形骨洞的下垂体腺腫摘出術である。手術で寛解しない場合や手術困難例では、ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド、ランレオチドなど)、GH受容体拮抗薬(ペグビソマント)、ドパミン作動薬(カベルゴリン)などの薬物療法、放射線治療を行う。
POINT
・先端巨大症の電解質異常は「高リン血症」と「高カルシウム尿症」。低リン血症ではない。 ・GH/IGF-Iは腎尿細管でリン再吸収とナトリウム再吸収を促進する。 ・合併症として高血圧、糖尿病、尿路結石、変形性関節症、睡眠時無呼吸症候群、手根管症候群、大腸腫瘍を押さえる。 ・確定診断はブドウ糖負荷試験でGHが抑制されないこととIGF-I高値。
