縮んでいない腎臓が語る「急ぎの腎炎」―半月体から読み解く顕微鏡的多発血管炎
第99回医師国家試験 A問題 第35問
国試問題にチャレンジ
65歳の男性。感冒症状のため近医を受診したところ,蛋白尿を指摘され精査のため来院した。尿所見:蛋白3+,糖(-),潜血2+,沈渣に赤血球10~20/1視野,白血球3~5/1視野。血液所見:赤血球400万,Hb 13.0g/dL,Ht 39%。血液生化学所見:空腹時血糖90mg/dL,総蛋白6.4g/dL,アルブミン4.0g/dL,尿素窒素32mg/dL,クレアチニン4.0mg/dL,尿酸8.0mg/dL,総コレステロール200mg/dL。腹部超音波検査で腎臓の萎縮を認めない。腎生検の光顕PAS染色標本を別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.巣状分節性糸球体硬化症
- b.Alport症候群
- c.顕微鏡型多発血管炎
- d.糖尿病性腎症
- e.骨髄腫腎
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
血尿と蛋白尿を伴う腎炎型の尿所見に、腎萎縮のない腎機能障害が加わる場合は、数週〜数か月で腎機能が悪化する急速進行性糸球体腎炎(RPGN)を考え、腎生検での半月体形成がその裏づけとなります。半月体形成性腎炎は蛍光抗体法で抗GBM抗体型・免疫複合体型・pauci-immune型に分類され、日本ではMPO-ANCA陽性の顕微鏡的多発血管炎によるpauci-immune型が最も多く、高齢者に好発します。巣状分節性糸球体硬化症や糖尿病性腎症はネフローゼ型や緩徐な経過、Alport症候群は若年発症の遺伝性腎炎、骨髄腫腎は尿細管病変が主体であり、いずれも本例の像とは異なります。顕微鏡的多発血管炎は肺胞出血や多発単神経炎を伴う全身性血管炎で、ステロイドと免疫抑制薬による早期治療が腎予後を左右するため、「腎臓のサイズ」と「尿所見の型」から経過の速さを読む視点は臨床で非常に重要です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・65歳男性。感冒様症状を契機に受診し、蛋白尿を偶然指摘された。 ・尿所見: 蛋白3+、潜血2+、沈渣赤血球10~20/1視野。蛋白尿と糸球体性の血尿が併存しており、糸球体腎炎(腎炎症候群)のパターンである。尿糖は陰性。 ・腎機能: 尿素窒素32mg/dL、クレアチニン4.0mg/dLと明らかな腎機能障害がある。 ・腹部超音波で腎萎縮がない。長年かけて進行した慢性腎臓病の末期であれば腎臓は通常萎縮するため、腎機能低下は比較的短期間に起こったもの(急性~亜急性)と推定できる。 ・血清アルブミン4.0g/dL、総コレステロール200mg/dLであり、低アルブミン血症・脂質異常症を欠く。したがってネフローゼ症候群ではない。 ・空腹時血糖90mg/dL、尿糖陰性で糖尿病は否定的。総蛋白6.4g/dLとアルブミンの差(グロブリン約2.4g/dL)も正常範囲で、M蛋白の大量増加を示唆する所見はない。 ・腎生検PAS染色では、ボウマン嚢内に細胞が増生して糸球体係蹄を圧排する半月体(crescent)の形成を認める。
診断へのプロセス
血尿・蛋白尿を伴い、数週~数か月の経過で腎機能が急速に悪化する病態は急速進行性糸球体腎炎(RPGN: rapidly progressive glomerulonephritis)と呼ばれ、その組織像の典型が半月体形成性糸球体腎炎である。本例は「腎炎型の尿所見+腎萎縮のない腎機能障害+半月体形成」がそろっており、RPGNと判断できる。 半月体形成性腎炎は蛍光抗体法の所見から、(1) 抗GBM(糸球体基底膜)抗体型(線状沈着)、(2) 免疫複合体型(顆粒状沈着)、(3) pauci-immune型(免疫沈着がほとんどない)に分けられる。日本のRPGNで最も多いのはpauci-immune型のANCA(抗好中球細胞質抗体)関連腎炎であり、なかでも高齢者に多い顕微鏡的多発血管炎(MPA: microscopic polyangiitis、MPO-ANCA陽性例が大半)が代表である。高齢男性で、感冒様の非特異的症状を契機に発見されたという経過もMPAに合致する。 選択肢のうち半月体形成を伴うRPGNを呈するのは顕微鏡的多発血管炎のみであり、他の選択肢はネフローゼ症候群、緩徐に進行する慢性腎不全、あるいは尿細管病変を主体とする疾患である。確定には血清MPO-ANCA測定と、腎生検の蛍光抗体法で免疫沈着が乏しいこと(pauci-immune)の確認が必要となる。
選択肢考察
- ×a. 巣状分節性糸球体硬化症
巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)は、一部の糸球体(巣状)のさらに一部(分節性)に硬化病変を生じる疾患で、臨床的には高度蛋白尿によるステロイド抵抗性のネフローゼ症候群を呈することが多い。本例はアルブミン4.0g/dL、コレステロール200mg/dLでネフローゼ症候群の所見がない。また組織像は分節性の硬化であり、ボウマン嚢内に細胞が増殖する半月体とは異なる。FSGSが進行して腎不全に至るのは年単位の経過であり、その段階では腎萎縮を伴うのが普通である点も本例と合わない。
- ×b. Alport症候群
Alport症候群はIV型コラーゲン(α3・α4・α5鎖)遺伝子の異常による遺伝性腎炎で、最も多いのはX連鎖型である。小児期からの持続的血尿で発見され、感音難聴や眼病変(円錐水晶体など)を伴う。X連鎖型の男性は重症で、多くは若年~中年(おおむね40歳頃まで)に末期腎不全に至る。65歳で初めて尿異常を指摘された本例の経過とは合わず、慢性に進行した腎不全であれば腎萎縮を伴うはずである。組織では電子顕微鏡で糸球体基底膜の菲薄化・層状化(網目状変化)、光顕で間質の泡沫細胞や線維化がみられるが、半月体形成は特徴ではない。
- ○c. 顕微鏡型多発血管炎
顕微鏡的多発血管炎(MPA)は、細動脈・毛細血管・細静脈などの小血管を侵す壊死性血管炎で、ANCA関連血管炎の一つである。多くはMPO-ANCA陽性で、日本では高齢者に多い。糸球体毛細血管の壊死性炎症によりボウマン嚢内に半月体が形成され(pauci-immune型壊死性半月体形成性糸球体腎炎)、臨床的にはRPGNを呈する。本例の血尿・蛋白尿、腎萎縮を伴わない腎機能低下、腎生検での半月体形成はいずれもこれに合致する。発熱・倦怠感・体重減少など感冒様の全身症状で始まることが多く、肺胞出血や間質性肺炎、多発単神経炎を伴うこともある。
- ×d. 糖尿病性腎症
糖尿病性腎症は長期の高血糖によって生じ、腎機能が低下しても腎臓が萎縮しにくい(むしろ腫大気味の)ことが特徴の一つである。その点だけをみると本例と共通するが、空腹時血糖90mg/dL、尿糖陰性であり糖尿病の存在自体が否定的である。組織像も、メサンギウム基質の増加、結節性病変(Kimmelstiel-Wilson結節)、輸入・輸出細動脈の硝子化などが特徴で、半月体形成は典型ではない。また進行例では高度蛋白尿からネフローゼ症候群を呈することが多い。
- ×e. 骨髄腫腎
骨髄腫腎(円柱腎症)は、多発性骨髄腫で過剰に産生された免疫グロブリン軽鎖(Bence Jones蛋白)が遠位尿細管でTamm-Horsfall蛋白と結合して円柱を作り、尿細管を閉塞・障害する病態である。組織では遠位尿細管~集合管内の多数の円柱、尿細管上皮の扁平化・萎縮、間質の細胞浸潤と線維化がみられ、病変の主座は尿細管・間質である。尿中に出る蛋白は主に軽鎖のため試験紙法(アルブミンを検出)では蛋白が弱陽性にとどまることが多く、赤血球の多い血尿も目立たない。本例の半月体形成とは組織像が異なるうえ、グロブリン値の上昇や貧血・高カルシウム血症など骨髄腫を示唆する所見もない。
急速進行性糸球体腎炎(RPGN)
腎炎性の尿所見(血尿・蛋白尿・赤血球円柱など)を伴い、数週~数か月の単位で腎機能が急速に低下する症候群である。放置すると末期腎不全に至るため、早期診断・早期治療が重要となる。病理学的には、糸球体毛細血管壁の破綻によりボウマン嚢腔へフィブリンや炎症細胞が漏出し、壁側上皮細胞やマクロファージが増殖して半月体を形成する(半月体形成性糸球体腎炎)。半月体は細胞性→線維細胞性→線維性へと変化し、線維性になると不可逆である。
蛍光抗体法による分類と代表疾患
・抗GBM抗体型(IgGの線状沈着): 抗GBM抗体病、肺出血を伴えばGoodpasture症候群。 ・免疫複合体型(顆粒状沈着): ループス腎炎、IgA腎症、IgA血管炎、感染後糸球体腎炎、クリオグロブリン血症など。 ・pauci-immune型(沈着が乏しい): ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)。日本のRPGNでは最多で、特にMPO-ANCA陽性の顕微鏡的多発血管炎が多く、高齢者に好発する。
顕微鏡的多発血管炎の要点
・小血管の壊死性血管炎で、肉芽腫形成を伴わない点で多発血管炎性肉芽腫症と区別される。 ・症状: 発熱、体重減少、倦怠感などの全身症状、RPGN、肺胞出血・間質性肺炎、多発単神経炎、紫斑など。 ・検査: MPO-ANCA陽性、CRP上昇、赤沈亢進。 ・治療: 副腎皮質ステロイドにシクロホスファミドまたはリツキシマブを併用した寛解導入療法が基本。重症例では血漿交換を検討する。
腎サイズと腎不全の経過
慢性腎臓病が末期まで進行すると腎臓は萎縮するのが一般的である。腎機能低下がありながら腎萎縮を認めない場合は、急性腎障害・RPGNのほか、萎縮しにくい慢性疾患(糖尿病性腎症、アミロイドーシス、多発性囊胞腎など)を考える。
POINT
・血尿+蛋白尿+急速な腎機能低下(腎萎縮なし)+腎生検で半月体形成 → 急速進行性糸球体腎炎(RPGN) ・日本のRPGNで最多は pauci-immune型のANCA関連腎炎、特に高齢者のMPO-ANCA陽性顕微鏡的多発血管炎 ・半月体形成性腎炎は蛍光抗体法で抗GBM抗体型(線状)・免疫複合体型(顆粒状)・pauci-immune型に分類する ・低アルブミン血症・脂質異常症がなければネフローゼ症候群(FSGS、糖尿病性腎症の進行例など)は考えにくい ・腎機能低下で腎萎縮がない場合は、急性の経過か、萎縮しにくい疾患(糖尿病性腎症、アミロイドーシス、多発性囊胞腎)を考える
