StudyMed医師国家試験

日本人女性のがん、最大の原因は「感染」―人口寄与割合で読み解くがん予防

第120回医師国家試験 F問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第28問

日本人女性のがん罹患に最も寄与する要因はどれか。

  1. a.飲酒
  2. b.感染
  3. c.喫煙
  4. d.塩分摂取
  5. e.過体重・肥満

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の問題で、日本人女性のがん罹患に最も寄与している要因を問うものだ。カギになるのは「人口寄与割合」という考え方。ある要因がなければ防げたと推定されるがんの割合のことで、その要因がどれだけリスクを高めるかだけでなく、その要因をもつ人が集団にどれだけいるかで決まる。この2つの掛け合わせを意識して考えてみよう。
医学生医学生
がんの原因と聞くと、まず喫煙が思い浮かびます。肺癌だけでなく、いろいろながんのリスクになりますよね。
ドクタードクター
その発想は自然だし、実際に日本人男性では喫煙が最大の要因と推計されている。では、女性ではどうだろう。
医学生医学生
女性は男性より喫煙率がかなり低いので、喫煙をしていない人が多い分、集団全体への影響は小さくなる……ということでしょうか。
ドクタードクター
まさにそこがポイント。喫煙1本あたりの害は男女で大きく変わらなくても、曝露している人の割合が低ければ人口寄与割合は小さくなる。疫学の講義で相対リスクと寄与危険を区別して習ったと思うけれど、その応用だね。女性では喫煙は第2位にとどまり、第1位は感染なんだ。
医学生医学生
感染というと、ピロリ菌による胃癌や、HPVによる子宮頸癌ですね。
ドクタードクター
その通り。内訳ではHelicobacter pyloriの持続感染による胃癌の寄与が最も大きく、HPVによる子宮頸癌がそれに続くとされている。さらにB型・C型肝炎ウイルスによる肝細胞癌、HTLV-1による成人T細胞白血病・リンパ腫、EBウイルスによる上咽頭癌や一部のリンパ腫も感染関連がんに含まれる。
医学生医学生
子宮頸癌は女性特有で、しかも若い世代にも多いので、女性で感染の比重が大きくなるのは納得です。
ドクタードクター
そうだね。では、ほかの要因も確認しておこう。飲酒はどうかな。
医学生医学生
アルコールの代謝産物のアセトアルデヒドに発がん性があって、食道癌や乳癌のリスクになると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。口腔・咽頭癌、肝細胞癌、大腸癌などのリスクにもなる。ただ日本人女性は多量飲酒者の割合が男性より低いので、女性のがん全体への寄与は感染や喫煙よりも小さい。次は塩分摂取だ。
医学生医学生
日本人は食塩摂取量が多いので、意外と上位なのかと思いました。胃癌との関係が有名ですよね。
ドクタードクター
高塩分食は胃粘膜を傷つけ、ピロリ菌感染と相まって胃癌リスクを高めると考えられている。ただ関係するのが主に胃癌に限られるから、がん全体への寄与としては上位には入らない。過体重・肥満はどうだろう。
医学生医学生
閉経後乳癌や子宮体癌のリスクで、脂肪組織でのエストロゲン産生が関係するんでしたよね。欧米では大きな要因だと聞いたことがあります。
ドクタードクター
その通りで、大腸癌や腎細胞癌、膵癌などのリスクにもなる。ただ日本人は欧米人に比べて高度肥満の割合が低いので、寄与は感染ほど大きくない。欧米では肥満や食生活の寄与が大きいのに対し、日本では感染の寄与が大きいことが特徴とされてきたんだ。
医学生医学生
リスクの強さだけでなく、その国や集団での広がり方で順位が変わるんですね。
ドクタードクター
そう、それが人口寄与割合の本質だ。ここからは発展知識。感染関連がんは対策がはっきりしていて、予防効果が大きいのが特徴なんだ。HPVワクチンと子宮頸がん検診、ピロリ菌の除菌、B型肝炎ワクチンの定期接種や母子感染予防、C型肝炎への直接作用型抗ウイルス薬、HTLV-1では妊婦の抗体検査と母乳を介した感染の予防などがある。
医学生医学生
小児科の臨床実習で予防接種のスケジュールを確認したとき、B型肝炎ワクチンが定期接種に入っていました。あれもがん予防なんですね。
ドクタードクター
その視点は大切だね。なお、ピロリ菌の感染率は若い世代ほど低下しているから、将来的には感染の寄与は小さくなっていくと予想されている。今の順位は固定されたものではなく、時代とともに変わりうるということも覚えておこう。

まとめ

日本人女性のがん罹患に最も寄与する要因は感染であり、ピロリ菌による胃癌、HPVによる子宮頸癌、肝炎ウイルスによる肝細胞癌などが主な内訳です。男性では喫煙が最大の要因ですが、女性は喫煙率が低いため喫煙の寄与は第2位にとどまり、飲酒、塩分摂取、過体重・肥満の寄与はさらに小さいと推計されています。これは、人口寄与割合が要因の相対リスクだけでなく集団における曝露割合によって決まることをよく示しています。感染関連がんはワクチン、除菌、抗ウイルス療法、検診によって予防や早期発見が可能であり、人口寄与割合の考え方を理解することは、効果の大きいがん対策を考えるうえでの基盤となります。

解答・解説

正解はbです

テーマ

がんの罹患のうち、ある要因がなければ防げたと推定される割合を「人口寄与割合(PAF:population attributable fraction)」という。人口寄与割合は、その要因によってがんのリスクがどれだけ高まるか(相対リスク)だけでなく、その要因をもつ人が集団の中にどれだけ多いか(曝露割合)によって決まる。わが国では国立がん研究センターなどの研究により、喫煙、感染、飲酒、塩分摂取、過体重・肥満、運動不足、野菜・果物不足などの生活習慣・環境要因が、日本人のがんにどれだけ寄与しているかが推計されている。

考え方

男性では喫煙が最大の要因であり、感染がそれに次ぐ。一方、日本人女性は男性に比べて喫煙率が大幅に低いため喫煙の寄与は小さく、感染が最大の要因となる(喫煙は第2位)。女性で感染の寄与が大きいのは、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)による胃癌、ヒトパピローマウイルス(HPV)による子宮頸癌、B型・C型肝炎ウイルス(HBV・HCV)による肝細胞癌などの感染関連がんが多くを占めるためである。特に子宮頸癌は女性特有であり、比較的若い世代にも多い。

選択肢考察

  1. ×a.  飲酒

    飲酒は口腔・咽頭癌、食道癌、肝細胞癌、大腸癌、乳癌などのリスク要因であり、アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドに発がん性がある。ただし日本人女性は男性に比べて飲酒量の多い人の割合が低く、女性のがん罹患全体に対する寄与は感染や喫煙よりも小さい。

  2. ○b.  感染

    日本人女性のがん罹患に最も寄与する要因は感染である。H. pyloriの持続感染による胃癌、HPV(主に16型・18型などの高リスク型)の持続感染による子宮頸癌、HBV・HCVの慢性感染による肝細胞癌が代表で、ほかにヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)による成人T細胞白血病・リンパ腫、Epstein-Barr(EB)ウイルスによる上咽頭癌や一部のリンパ腫なども感染関連がんに含まれる。寄与の内訳ではH. pyloriによる胃癌の占める割合が最も大きく、HPVによる子宮頸癌がそれに続く。男性では喫煙に次いで第2位の要因である。感染関連がんは、HPVワクチン接種と子宮頸がん検診、H. pylori除菌、B型肝炎ワクチンや肝炎ウイルスの抗ウイルス治療などにより予防・早期発見が可能であり、対策の効果が大きい。

  3. ×c.  喫煙

    喫煙は肺癌をはじめ、口腔・咽頭・喉頭癌、食道癌、胃癌、膵癌、膀胱癌、子宮頸癌など多くのがんのリスク要因であり、日本人男性ではがん罹患に最も寄与する要因である。しかし日本人女性の喫煙率は男性より大幅に低いため、女性における寄与は感染に次ぐ第2位にとどまる。なお、女性では受動喫煙による肺癌も寄与の一部として推計されている。

  4. ×d.  塩分摂取

    高塩分食は胃粘膜を傷つけ、H. pylori感染と相まって胃癌のリスクを高めると考えられている。日本人の食塩摂取量は国際的にみて多いが、がん罹患全体に対する寄与は胃癌に限られるため小さく、男女とも上位の要因ではない。

  5. ×e.  過体重・肥満

    過体重・肥満は閉経後乳癌、子宮体癌、大腸癌、肝細胞癌、腎細胞癌、膵癌、食道腺癌などのリスク要因である。脂肪組織での女性ホルモン(エストロゲン)産生の増加や、インスリン抵抗性・高インスリン血症などが機序として考えられている。ただし日本人は欧米人に比べて高度肥満の割合が低く、女性のがん罹患全体に対する寄与は感染より小さい。

日本人のがんの要因(人口寄与割合の推計の概要)

・男性: 喫煙が最大で、次いで感染、飲酒が続く。男性のがんの4割以上が生活習慣・感染による予防可能なものと推計されている ・女性: 感染が最大で、次いで喫煙が続く。予防可能な割合は男性より小さい(おおむね4分の1程度) ・欧米では肥満や運動不足、食生活の寄与が大きいのに対し、わが国では感染の寄与が大きいことが特徴とされてきた。ただしH. pylori感染率は若い世代ほど低下しており、将来的には感染の寄与は小さくなっていくと予想される

主な感染関連がんと予防策

・H. pylori → 胃癌、胃MALTリンパ腫: 除菌治療、胃がん検診 ・HPV → 子宮頸癌、中咽頭癌、肛門癌など: HPVワクチン(定期接種は小学6年〜高校1年相当の女子)、子宮頸がん検診(20歳以上、2年に1回) ・HBV → 肝細胞癌: B型肝炎ワクチン(定期接種)、母子感染予防、抗ウイルス療法 ・HCV → 肝細胞癌: 直接作用型抗ウイルス薬(DAA)による治療 ・HTLV-1 → 成人T細胞白血病・リンパ腫: 妊婦の抗体検査と母乳を介した感染の予防 ・EBウイルス → 上咽頭癌、Burkittリンパ腫、Hodgkinリンパ腫の一部

POINT

・日本人女性のがん罹患に最も寄与する要因は感染(第2位は喫煙) ・日本人男性では喫煙が最大で、感染が第2位 ・女性で喫煙の寄与が小さいのは喫煙率が低いため(人口寄与割合は相対リスクと曝露割合の両方で決まる) ・主な感染関連がん: H. pylori→胃癌、HPV→子宮頸癌、HBV・HCV→肝細胞癌、HTLV-1→ATL ・感染関連がんはワクチン・除菌・抗ウイルス治療・検診で予防しやすい

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。