尿管癌術後の膀胱鏡で見つかった乳頭状腫瘍―まずは「切って調べる」TURBTから
第120回医師国家試験 D問題 第50問
国試問題にチャレンジ
82歳の男性。定期的な泌尿器科検査のために来院した。2年前に,右尿管癌に対して腎尿管全摘除術を受けている。自覚症状はない。意識は清明。身長168cm,体重75kg。体温36.4℃。脈拍56/分,整。血圧110/56mmHg。呼吸数16/分。SpO2 98%(room air)。甲状腺と頸部リンパ節の腫大は認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。尿所見:蛋白(-),糖(-),ケトン体(-),潜血+,沈渣に赤血球10~19/HPF,白血球1~4/HPF,円柱を認めない。血液所見:赤血球432万,Hb 14.0g/dL,Ht 45%,白血球7,800,血小板31万。血液生化学所見:総蛋白8.3g/dL,アルブミン4.9g/dL,総ビリルビン0.7 mg/dL,AST 19U/L,ALT 12U/L,LD 137U/L(基準124~222),ALP 47U/L(基準38~113),CK 242U/L(基準59~248),尿素窒素35mg/dL,クレアチニン1.7mg/dL,血糖102mg/dL。膀胱鏡像を下に示す。胸腹部造影CTでは,遠隔転移は認めない。 適切な処置はどれか。

- a.膀胱全摘除術
- b.BCG膀胱内注入療法
- c.経直腸的前立腺生検術
- d.経尿道的膀胱腫瘍切除術
- e.殺細胞性薬膀胱内注入療法
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腎盂・尿管・膀胱を覆う尿路上皮から生じる尿路上皮癌は、時間的・空間的に多発しやすく、上部尿路癌の術後には膀胱内再発が少なくないため、膀胱鏡と尿細胞診による定期的な経過観察が欠かせません。膀胱腫瘍を見つけたら、まず経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)を行い、組織型・悪性度・深達度を確定します。TURBTは診断・病期診断・治療を兼ね、筋層非浸潤性ならTURBTとBCGや抗癌薬の膀胱内注入療法、筋層浸潤性なら術前化学療法と膀胱全摘除術が基本となります。膀胱内注入療法はTURBT後の補助療法であり、膀胱全摘除術も病理診断を経てから選ぶ治療です。「まず組織と深さを確かめてから方針を決める」という順序は、膀胱癌に限らず癌診療全般に通じる考え方です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・82歳男性。2年前に右尿管癌で右腎尿管全摘除術を受け、経過観察中である。自覚症状はない。 ・尿潜血+、沈渣赤血球10~19/HPF → 顕微鏡的血尿。尿蛋白は陰性で円柱もなく、糸球体性血尿を示す所見はない。白血球は少なく、尿路感染も考えにくい。 ・BUN 35mg/dL、Cr 1.7mg/dL → 腎機能は軽度~中等度に低下している。片腎となったことと年齢による影響が考えられる。 ・膀胱鏡で膀胱粘膜から隆起する乳頭状の腫瘍を認める。 ・胸腹部造影CTで遠隔転移はない。
診断に至る考え方
腎盂・尿管・膀胱の内腔を覆う尿路上皮から生じる癌(尿路上皮癌)は、時間や場所を変えて多発しやすい(異時性・多中心性発生)。上部尿路(腎盂・尿管)の尿路上皮癌を手術した後は、20~50%程度に膀胱内再発が起こるとされ、定期的な膀胱鏡と尿細胞診による監視が欠かせない。本例はその経過観察で、無症候性の顕微鏡的血尿と膀胱鏡での乳頭状腫瘍が見つかっており、尿路上皮癌の膀胱内再発(膀胱癌)と考えられる。乳頭状で有茎性に見える腫瘍は、筋層に達しない筋層非浸潤性膀胱癌であることが多い。
設問の考え方
膀胱腫瘍を見つけた際の最初の処置は、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT:transurethral resection of bladder tumor)である。TURBTは、(1) 腫瘍を切除して組織型と悪性度(grade)を確定する診断、(2) 筋層まで含めて切除し深達度(T分類)を判定する病期診断、(3) 筋層非浸潤性であれば腫瘍を取り切る治療、の3つを同時に担う。膀胱全摘除術や膀胱内注入療法などその後の方針は、TURBTで得た病理所見をもとに決める。
選択肢考察
- ×a. 膀胱全摘除術
膀胱全摘除術(と尿路変向術)は、筋層浸潤性膀胱癌(T2以上)や、BCG療法が効かない高リスク筋層非浸潤性膀胱癌などに行う根治手術である。本例は組織診断も深達度もまだ不明で、膀胱鏡所見からは筋層非浸潤性の可能性が高い。侵襲が大きく、尿路変向によって生活の質も大きく変わる手術であり、82歳・片腎で腎機能も低下している本例に、病理診断を経ずに最初から行うことはない。
- ×b. BCG膀胱内注入療法
BCG(ウシ型結核菌の弱毒生菌)膀胱内注入療法は、膀胱内に局所免疫反応を起こして癌細胞を排除する治療である。膀胱上皮内癌(CIS)の治療や、高リスク・中リスクの筋層非浸潤性膀胱癌に対するTURBT後の再発・進展予防に用いる。TURBTで組織型・深達度・リスク分類を決めたあとに選択する補助療法であり、最初の処置ではない。
- ×c. 経直腸的前立腺生検術
前立腺生検は、PSA(前立腺特異抗原)高値や直腸診での硬結などから前立腺癌が疑われる際に行う検査で、経直腸的または経会陰的に針を刺す。本例で問題となっているのは膀胱鏡で確認された膀胱腫瘍であり、前立腺癌を疑う情報は示されていない。
- ○d. 経尿道的膀胱腫瘍切除術
膀胱腫瘍が見つかったときに最初に行う標準的な処置である。尿道から内視鏡を挿入し、腫瘍を基部の膀胱筋層まで含めて電気メスで切除する。得られた組織から、尿路上皮癌かどうか、悪性度(低異型度か高異型度か)、深達度(Ta、T1、T2以上)、上皮内癌の合併の有無を判定する。筋層非浸潤性であればこれ自体が根治的な治療となり、筋層浸潤性であれば膀胱全摘除術や集学的治療へ進む。開腹を必要とせず侵襲も小さいので、高齢で片腎の本例にも行える。
- ×e. 殺細胞性薬膀胱内注入療法
ピラルビシンやマイトマイシンCなどの抗癌薬を膀胱内に注入する治療である。筋層非浸潤性膀胱癌のTURBT直後に1回だけ注入して、手術中にこぼれた癌細胞の着床による再発を減らす方法(即時単回注入)や、中リスク例の維持注入として用いられる。あくまでTURBTに付随する補助療法で、腫瘍の切除や組織診断の代わりにはならない。
尿路上皮癌の特徴
・腎盂、尿管、膀胱、尿道の内腔を覆う尿路上皮から発生する。危険因子は喫煙が最大で、芳香族アミン(染料工業など)への職業曝露、シクロホスファミド、フェナセチン乱用、ヒ素なども知られる。 ・典型的な症状は無症候性肉眼的血尿である。 ・時間的・空間的に多発しやすい(field cancerization:尿路上皮全体が発癌刺激を受けている、癌細胞の尿流による播種などで説明される)。上部尿路癌の術後は膀胱再発が多いため、膀胱鏡と尿細胞診による定期的な経過観察を行う。逆に膀胱癌患者に上部尿路癌が起こることもある。 ・上部尿路癌の標準手術は腎尿管全摘除術で、尿管口周囲の膀胱壁も一緒に切除する(膀胱カフ切除)。
膀胱癌の治療の流れ
1. 膀胱鏡で腫瘍を確認 → TURBTで組織診断・深達度診断(筋層浸潤が強く疑われる場合はTURBT前にMRIで深達度を評価することが推奨される) 2. 筋層非浸潤性膀胱癌(Ta、T1、CIS):TURBTで切除。腫瘍数・大きさ・悪性度・T1かどうか・CISの有無からリスク分類し、低リスクでは術直後の抗癌薬単回注入、中~高リスクではBCGまたは抗癌薬の維持注入を行う。T1や高異型度では、残存腫瘍を確かめるため再度TURBT(2nd TUR)を行うことがある。 3. 筋層浸潤性膀胱癌(T2以上):シスプラチンを含む術前化学療法のあと膀胱全摘除術と尿路変向術(回腸導管、自排尿型代用膀胱など)を行うのが標準である。手術が難しい例や膀胱温存を希望する例では、TURBT・化学療法・放射線療法を組み合わせた集学的治療を行う。 4. 転移性:全身化学療法、免疫チェックポイント阻害薬、抗体薬物複合体などを用いる。
POINT
・上部尿路(腎盂・尿管)の尿路上皮癌術後は膀胱内再発が多く、膀胱鏡と尿細胞診で経過観察する。 ・膀胱腫瘍を見つけたら、まずTURBTを行い、組織型・悪性度・深達度を確定する(診断と治療を兼ねる)。 ・筋層非浸潤性 → TURBT+膀胱内注入療法(BCG、抗癌薬)、筋層浸潤性 → 術前化学療法+膀胱全摘除術が基本。 ・膀胱内注入療法はTURBT後の補助療法であり、最初の処置ではない。
