StudyMed医師国家試験

マスクは「環境」を変えない―労働衛生の3管理を対象で見分ける

第118回医師国家試験 F問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第118回 F問題 第15問

作業環境管理はどれか。

  1. a.安全な手順の教育
  2. b.暑熱作業の時間制限
  3. c.防塵マスク使用の徹底
  4. d.血中鉛高値者の保健指導
  5. e.有害物質使用工程の密閉化

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は産業保健の基本、労働衛生の3管理を分類する問題だ。着眼点はひとつだけ。「その対策は何に手を加えているのか」、つまり環境なのか、作業のやり方なのか、働く人の健康なのかを見極めることだよ。
医学生医学生
作業環境管理、作業管理、健康管理の3つですね。公衆衛生の講義で習いましたが、正直どれがどれか混ざりがちです。
ドクタードクター
名前が似ているからね。整理のコツは「対象」で覚えること。作業環境管理は作業場という環境そのもの、作業管理は作業の方法・時間・姿勢、健康管理は労働者一人ひとりの健康状態が対象だ。これに労働衛生教育と総括管理を加えて5管理と呼ぶこともある。
医学生医学生
そうすると、防塵マスクの徹底は粉じんから身を守るので作業環境管理かと思ったんですが……。
ドクタードクター
そこが一番のひっかけだね。マスクを着けても、作業場の空気中の粉じん濃度は少しも下がらない。変わるのは、その人が吸い込む量だけだ。保護具の選択や着用の徹底は「作業のやり方」の管理、つまり作業管理に分類される。
医学生医学生
なるほど、空気がきれいになるわけではないんですね。では、有害物質を使う工程を密閉化するのは、物質が作業場に漏れ出さないようにするので……。
ドクタードクター
そう、それが正解の作業環境管理だ。発生源で封じ込めて、作業場の空気そのものを汚さない工学的対策だね。ほかにも有害性の低い物質への代替、工程の自動化、局所排気装置や全体換気装置の設置などが代表例になる。
医学生医学生
暑熱作業の時間制限はどうでしょう。暑さ対策だから環境っぽく見えます。
ドクタードクター
作業場の温度は変わっていないよね。作業時間や休憩を調整して曝露量を減らしているので、作業管理だ。逆に冷房や遮熱設備で作業場の温度を下げるなら、作業環境管理になる。同じ「暑さ対策」でも、何に手を加えるかで分類が変わるんだ。
医学生医学生
安全な手順の教育は、作業のやり方を身につけさせるので作業管理、5管理でいえば労働衛生教育にも当たる、という理解でいいですか。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。いずれにしても環境自体を改善するものではないから、作業環境管理ではない。では、血中鉛が高い人への保健指導は?
医学生医学生
特殊健康診断で異常が見つかった人への事後措置なので、健康管理ですね。血中鉛の測定自体も、生物学的モニタリングとして健康管理に入るんでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。尿中代謝物の測定なども含めて、人を診るのが健康管理だ。ここで大事な考え方をひとつ加えておこう。有害要因への対策には優先順位があって、まず発生源で取り除く・封じ込める作業環境管理が根本、それで防ぎきれない曝露を作業方法や保護具で減らし、さらに健康診断で影響を早期に捉える、という順に考える。保護具は最後の手段と位置づけられるんだ。
医学生医学生
臨床実習の産業医学の見学で、工場の局所排気装置を見せてもらったとき、産業医の先生が「マスクに頼る前に、まず換気」と話していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその考え方だね。そして作業環境管理の効果を確認するのが作業環境測定だ。一定の有害業務を行う屋内作業場では事業者に測定が義務づけられ、結果は第1〜第3管理区分で評価される。第3管理区分、つまり環境が不適切と判定されたら、直ちに設備や工程の改善が求められる。
医学生医学生
測定して評価するところまで含めて作業環境管理なんですね。分類問題は「環境・やり方・人」のどれを変えているかで判断します。
ドクタードクター
それで十分戦える。産業医として職場に関わるときも、この3つの視点で対策を漏れなく組み立てるのが基本になるよ。

まとめ

労働衛生の3管理は、作業場の有害要因を減らす作業環境管理、作業の方法・時間・保護具を管理する作業管理、健康診断や事後措置で労働者の健康を守る健康管理からなり、労働衛生教育と総括管理を加えて5管理とも呼ばれます。有害物質使用工程の密閉化は発生源で有害物質の拡散を防ぐ対策であり、物質の代替や局所排気装置の設置と並ぶ作業環境管理の代表例です。一方、防塵マスクなどの保護具や暑熱作業の時間制限は作業環境を変えずに曝露を減らす作業管理、血中鉛高値者への保健指導は健康管理に当たります。対策は作業環境管理を根本とし、保護具は最後の手段と考えるのが原則で、その効果は作業環境測定と管理区分で評価されます。「何に手を加えているか」で分類する視点は、試験だけでなく産業保健の実務で対策を組み立てる土台になります。

解答・解説

正解はeです

職場における労働者の健康障害を防ぐための労働衛生管理は、次の「3管理」が基本である。 【作業環境管理】作業場(環境)に存在する有害要因(有害物質、粉じん、騒音、暑熱など)を把握し、それを取り除いたり減らしたりして、良好な作業環境を保つ管理。対象は「環境」である。 【作業管理】作業の方法・手順・時間・姿勢などを適切に管理し、労働者が有害要因に曝露する量や作業負荷を減らす管理。保護具の使用もここに含まれる。対象は「作業のやり方」である。 【健康管理】健康診断などで労働者一人ひとりの健康状態を把握し、異常の早期発見や事後措置(保健指導、就業上の措置など)を行う管理。対象は「人(労働者の健康)」である。 これに、労働衛生教育と総括管理(3管理と教育が適切に機能するための体制づくり)を加えて「5管理」とすることもある。 各選択肢を「環境そのものに手を加えるのか」「作業のやり方を管理するのか」「労働者の健康を管理するのか」という視点で分類すると判断しやすい。有害物質を扱う工程を密閉化することは、作業場の空気中に有害物質が漏れ出すのを発生源で防ぐ対策であり、環境そのものを改善する作業環境管理に当たる。

選択肢考察

  1. ×a.  安全な手順の教育

    労働者に安全な作業手順を身につけさせるものであり、作業のやり方を適正化するという意味で作業管理に分類される。5管理の枠組みでは労働衛生教育にも該当する。いずれにしても作業場の環境そのものを改善するものではないため、作業環境管理ではない。

  2. ×b.  暑熱作業の時間制限

    高温環境での作業時間を制限したり休憩を確保したりすることで、熱中症などのリスクを下げる対策である。作業場の温度自体を下げるのではなく、作業時間という「作業のやり方」を管理しているので作業管理に当たる。なお、冷房や遮熱設備の設置で作業場の温度を下げる対策であれば作業環境管理となる。

  3. ×c.  防塵マスク使用の徹底

    防塵マスクなどの保護具は、作業場の空気中の粉じん濃度は変えずに、労働者個人が粉じんを吸い込む量を減らすものである。保護具の選択・着用の徹底は作業管理に分類される。粉じんの発生を抑える局所排気装置の設置などであれば作業環境管理になる。

  4. ×d.  血中鉛高値者の保健指導

    鉛業務従事者の特殊健康診断で血中鉛濃度が高いと判明した労働者に対し、個別に保健指導を行うものであり、労働者の健康状態を把握して事後措置を行う健康管理に該当する。

  5. ○e.  有害物質使用工程の密閉化

    有害物質を扱う工程を密閉化すると、有害物質が作業場の空気中に拡散することを発生源で防ぐことができる。作業場の環境そのものを改善する工学的対策であり、作業環境管理の代表例である。作業環境管理では、有害性の低い物質への代替、工程の自動化・密閉化、局所排気装置や全体換気装置の設置などが行われ、その効果は作業環境測定によって評価される。

3管理の具体例

・作業環境管理:作業環境測定(有害物質濃度、騒音レベル、温熱条件などの測定と評価)、有害物質の代替、発生源の密閉化・自動化・隔離、局所排気装置・全体換気装置の設置、遮音・遮熱設備、照明の改善など。 ・作業管理:作業時間・休憩の管理、作業手順・作業姿勢の改善、保護具(防塵マスク、防毒マスク、耳栓、保護手袋など)の適正な使用、作業強度の調整など。 ・健康管理:一般健康診断・特殊健康診断、事後措置(保健指導、就業制限、配置転換)、生物学的モニタリング(血中鉛、尿中代謝物などの測定)、メンタルヘルス対策、健康保持増進活動など。

優先順位の考え方

有害要因への対策は、まず発生源で取り除く・封じ込める(作業環境管理)ことが根本的であり、それで防ぎきれない曝露を作業の方法や保護具で減らし(作業管理)、さらに労働者の健康状態を確認して影響を早期に把握する(健康管理)、という順で考えるのが原則である。保護具は最後の手段と位置づけられる。

作業環境測定

一定の有害業務を行う屋内作業場などでは、作業環境測定が事業者に義務づけられており、多くは作業環境測定士が実施する。結果は第1~第3管理区分で評価され、第3管理区分(環境が不適切)では直ちに設備や作業工程の改善が求められる。

POINT

・労働衛生の3管理:作業環境管理、作業管理、健康管理(+労働衛生教育、総括管理で5管理)。 ・作業環境管理=環境を変える(密閉化、代替、局所排気装置、作業環境測定)。 ・作業管理=作業のやり方を変える(作業時間制限、作業手順、保護具の使用)。 ・健康管理=人を診る(健康診断、保健指導、生物学的モニタリング)。 ・保護具の使用は作業管理であり、作業環境管理ではない点が頻出のひっかけ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。