自宅でも職場と同じ―在宅勤務と労働法の原則
第118回医師国家試験 C問題 第9問
国試問題にチャレンジ
在宅勤務で正しいのはどれか。
- a.労働者は在宅勤務をする権利を有する。
- b.在宅勤務中は健康診断を受診しなくてよい。
- c.在宅勤務中の労働時間は労働者の裁量である。
- d.在宅勤務中の負傷は労働災害補償の対象である。
- e.在宅勤務は新型コロナウイルス感染症の流行によって始まった。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
在宅勤務はテレワークの一形態であり、働く場所が自宅になっても労働者であることに変わりはないため、労働基準法・労働安全衛生法・労災保険法がそのまま適用されます。したがって、業務遂行性と業務起因性が認められれば在宅勤務中の負傷も業務災害として労災保険の対象となり、一方で家事・育児など私的行為中のけがは対象外です。健康診断やストレスチェックの実施義務、使用者による労働時間の客観的把握義務も在宅勤務で変わらず、在宅勤務自体は法的な権利ではなく労使の取り決めで行われ、COVID-19流行以前から存在していました。在宅勤務では情報機器作業による眼や筋骨格系の症状、運動不足、孤立によるメンタルヘルス不調が起こりやすく、産業保健の視点で生活全体を捉えることが臨床でも役立ちます。
解答・解説
正解はdです
在宅勤務は、情報通信技術(ICT)を使って事業場から離れて働くテレワークの一つの形態である。テレワークにはほかに、サテライトオフィス勤務(自社や共用のオフィスを使う)とモバイル勤務(移動中やカフェなどで働く)がある。 本問で押さえるべきことは、働く場所が自宅になっても、その人が労働者であることに変わりはないという点である。したがって、労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法(労災保険法)といった労働関係の法令は、事業場で働く場合と同じように適用される。厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(2021年改定)も、この考え方に基づいて労務管理や健康管理のあり方を示している。 この原則にあてはめると、健康診断を受ける義務、使用者による労働時間の管理、労災保険による補償は、在宅勤務でもすべて続くことがわかる。また、在宅勤務は法律で保障された労働者の権利ではなく、労使の取り決めによって行われる働き方である。
選択肢考察
- ×a. 労働者は在宅勤務をする権利を有する。
誤り。日本の法律には、労働者が在宅勤務を要求できる権利を定めた規定はない。労働契約では、どこでどのように働くかは原則として使用者の指揮命令の範囲で決まる。在宅勤務を行うかどうかは、就業規則や労働契約、労使の話し合いによって決まり、労働者が一方的に選べるものではない。
- ×b. 在宅勤務中は健康診断を受診しなくてよい。
誤り。労働安全衛生法は、事業者に常時使用する労働者への健康診断(雇入れ時の健康診断や年1回の定期健康診断など)の実施を義務づけ、労働者にも受診を義務づけている。この義務は働く場所に関係なく適用される。長時間労働者に対する医師の面接指導やストレスチェックも同様に対象となる。在宅勤務では運動不足、作業姿勢の不良、孤立感などによって心身の不調が気づかれにくいため、健康管理はむしろ重要になる。
- ×c. 在宅勤務中の労働時間は労働者の裁量である。
誤り。在宅勤務でも労働基準法の労働時間の規定(法定労働時間、休憩、時間外労働の上限など)が適用され、使用者には労働時間を客観的な方法(パソコンの使用記録など)で把握する義務がある。フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働制などを使える場合もあるが、いずれも法の要件と労使の取り決めに基づく制度であり、労働者が自由に労働時間を決めてよいという意味ではない。長時間労働を防ぐため、時間外・深夜のメール送信を控えるなどの対策も勧められている。
- ○d. 在宅勤務中の負傷は労働災害補償の対象である。
正しい。在宅勤務をする人にも労災保険法が適用される。業務が原因の負傷や疾病は、事業場で働く場合と同じく業務災害として補償の対象となる。業務災害と認められるには、使用者の支配下で業務に従事している最中であったこと(業務遂行性)と、業務とけがの間に因果関係があること(業務起因性)が必要である。たとえば、自宅で仕事中にトイレに立ち、作業場所へ戻る途中で転んでけがをした例は業務災害と認められている。一方、家事や育児など私的な行為の最中に起きたけがは対象にならない。
- ×e. 在宅勤務は新型コロナウイルス感染症の流行によって始まった。
誤り。テレワークの考え方は1970年代の米国で、通勤によるエネルギー消費を減らす手段として生まれた。日本でも1980年代にサテライトオフィスの試みが始まり、その後は働き方改革や災害時の業務継続の手段として国が普及を後押ししてきた。2020年からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、感染拡大を防ぐため在宅勤務が一気に広がるきっかけになったが、在宅勤務そのものが始まった時期ではない。
テレワークにおける労務管理・健康管理の要点
・労働関係法令の適用:労働基準法、労働安全衛生法、労災保険法、最低賃金法などは、事業場で働く場合と同じく適用される。 ・労働時間:使用者は労働時間を把握する義務を負う。中抜け時間(業務を一時中断する時間)の扱いや、長時間労働の防止策をあらかじめ取り決めておく。 ・健康管理:健康診断、長時間労働者への面接指導、ストレスチェックを確実に実施する。コミュニケーション不足による孤立やメンタルヘルス不調にも注意する。 ・作業環境:自宅の作業環境(机・椅子、照明、ディスプレイの位置など)について、事業者は労働者に助言し、点検用のチェックリストを活用することが勧められている。
在宅勤務で起こりやすい健康問題
・情報機器作業によるもの:眼精疲労、ドライアイ、頸肩腕症候群(首・肩・腕のこりや痛み)、腰痛。厚生労働省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」では、連続作業が1時間を超えないようにし、次の連続作業までに10〜15分の作業休止を設けることなどが示されている。 ・生活習慣:通勤がなくなることによる運動不足と体重増加、食事や睡眠リズムの乱れ。 ・心理面:孤独感、仕事と私生活の境界があいまいになることによるストレス、うつ状態。
労災保険の補償対象
・業務災害:業務遂行性と業務起因性の両方が認められる負傷・疾病・障害・死亡。 ・通勤災害:住居と就業場所との往復などで起きた災害。自宅で働く日は通勤がないため、通勤災害は基本的に問題にならない。
POINT
・在宅勤務の人も労働者であり、労働基準法・労働安全衛生法・労災保険法がそのまま適用される。 ・業務遂行性と業務起因性があれば、在宅勤務中の負傷も業務災害として労災保険の対象となる(私的行為中のけがは対象外)。 ・健康診断・ストレスチェックの義務と、使用者による労働時間の把握義務は在宅勤務でも変わらない。 ・在宅勤務は法律上の権利ではなく、労使の取り決めで行われる。COVID-19の流行以前から存在した。
