「普通」に暮らせる社会へ―ノーマライゼーションとバリアフリーをつなぐ発想
第117回医師国家試験 F問題 第3問
国試問題にチャレンジ
ノーマライゼーションに関係するのはどれか。
- a.バリアフリーの推進
- b.リビングウィルの尊重
- c.セカンドオピニオンの利用
- d.ヘルスプロモーションの啓発
- e.インフォームド・コンセントの徹底
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
ノーマライゼーションは、障害者や高齢者を施設に隔離・区別せず、誰もが地域で当たり前の生活を送れる社会を目指す理念で、1950年代のデンマークでバンク-ミケルセンが提唱し、ニィリエが原理として具体化しました。本人を社会に合わせるのではなく社会の側を変えるという発想に立つため、物理的・制度的・情報的・意識上の障壁を取り除くバリアフリーや、ユニバーサルデザインがその具体的手段となります。リビングウィル、セカンドオピニオン、インフォームド・コンセントは患者の自己決定を支える医療倫理の概念であり、ヘルスプロモーションは1986年のオタワ憲章で提唱された健康づくりの概念です。用語ごとに「誰の、何のための考え方か」を整理しておくことが、公衆衛生分野の得点力と、退院支援など地域で患者を支える臨床実践の両方につながります。
解答・解説
正解はaです
ノーマライゼーション(normalization)とは、障害のある人や高齢者を施設などに隔離・区別するのではなく、障害の有無や年齢にかかわらず、誰もが地域社会の中でごく当たり前の生活を送れるようにすることこそが「ノーマル(普通)」な社会のあり方だ、とする理念である。1950年代にデンマークで知的障害者の処遇改善運動から生まれ、その後北欧から世界に広がって、日本の障害者福祉・高齢者福祉の基本理念にもなっている。 この理念は「障害者を社会に合わせて変える」のではなく「社会の側を変えて誰もが参加できるようにする」という発想に立つ。そのため、ノーマライゼーションを具体化する手段としては、生活の妨げとなる障壁(バリア)を取り除くバリアフリーや、はじめから誰にでも使いやすく設計するユニバーサルデザイン、地域での自立生活の支援などが該当する。 一方、他の選択肢はいずれも「患者の自己決定の尊重(医療倫理)」や「健康づくり(公衆衛生)」に属する概念であり、ノーマライゼーションとは別の文脈の用語である。各用語が「誰の、何のための考え方か」を区別できれば正解にたどり着ける。
選択肢考察
- ○a. バリアフリーの推進
バリアフリーとは、障害者や高齢者などが社会生活を送るうえで妨げとなる障壁を取り除くことである。障壁には段差や狭い通路などの物理的なものだけでなく、制度的な障壁(資格制限など)、文化・情報面の障壁(点字・手話・字幕の不足など)、意識上の障壁(偏見や無関心)も含まれる。障壁を取り除くことで、障害のある人も地域で普通の生活を送れるようになるため、ノーマライゼーションの理念を実現する具体的な手段に当たる。日本でもいわゆるバリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)などで推進されている。
- ×b. リビングウィルの尊重
リビングウィル(living will)とは、将来、病気が回復の見込みのない状態となり自分で意思を表明できなくなった場合に備えて、延命治療を受けるかどうかなど人生の最終段階の医療についての希望を、元気なうちに文書などで示しておくものである。事前指示(advance directive)の一つで、患者の自己決定権を尊重するための考え方であり、ノーマライゼーションとは関係しない。
- ×c. セカンドオピニオンの利用
セカンドオピニオンとは、診断や治療方針について、現在の主治医とは別の医療機関の医師に意見を求めることである。患者が複数の専門的意見を踏まえて納得のいく治療を選べるようにする仕組みであり、主治医を替えること(転医)とは異なる。患者の自己決定を支える医療倫理上の概念であって、ノーマライゼーションとは関係しない。
- ×d. ヘルスプロモーションの啓発
ヘルスプロモーションは、1986年に世界保健機関(WHO)のオタワ憲章で提唱された概念で、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義される。個人の生活習慣の改善だけでなく、健康を支える環境づくりや政策づくりも含む公衆衛生上の考え方であり、日本の「健康日本21」の基盤にもなっている。健康増進の理念であって、ノーマライゼーションとは別の概念である。
- ×e. インフォームド・コンセントの徹底
インフォームド・コンセントとは、患者が医師などから病名・病状、予後、検査や治療の内容・利益・危険性、ほかの選択肢などについて十分な説明を受けて理解したうえで、自らの意思で治療に同意(あるいは拒否)することである。本人に判断能力がない場合は家族などの代諾者が関わる。患者の自己決定権を保障する医療倫理の原則であり、ノーマライゼーションとは関係しない。
ノーマライゼーションの成り立ち
デンマークのバンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen, N. E.)が、知的障害者が大規模施設に隔離されている状況を改めるよう訴えたことに始まり、1959年のデンマークの知的障害者福祉法にその理念が盛り込まれた。彼自身がナチス占領下で収容所に囚われた経験が、人を隔離・管理することへの問題意識につながったとされる。その後スウェーデンのニィリエ(Nirje, B.)が、1日・1週間・1年のリズム、ライフサイクルに応じた経験、自己決定の尊重などの「ノーマライゼーションの原理」として具体化し、世界に広まった。
関連する用語
・バリアフリー:既存の障壁を取り除くこと。 ・ユニバーサルデザイン:障害の有無・年齢・性別などにかかわらず、はじめから誰もが使いやすいように設計すること。 ・インクルージョン(ソーシャルインクルージョン):誰も排除せず、社会の一員として包み込むという考え方。 ・リハビリテーション:障害のある人の全人間的復権を目指す取り組み。
医療倫理・公衆衛生の用語との区別
・患者の自己決定に関わるもの:インフォームド・コンセント、セカンドオピニオン、リビングウィル(事前指示)、アドバンス・ケア・プランニング(人生会議) ・健康づくりに関わるもの:ヘルスプロモーション(オタワ憲章1986年)、プライマリヘルスケア(アルマ・アタ宣言1978年)
POINT
・ノーマライゼーション=障害者や高齢者も区別されず、地域で普通の生活を送れる社会を目指す理念(デンマークのバンク-ミケルセンが提唱)。 ・具体化の手段:バリアフリー、ユニバーサルデザイン、地域での自立生活支援。 ・リビングウィル、セカンドオピニオン、インフォームド・コンセントは患者の自己決定を支える医療倫理の概念。 ・ヘルスプロモーションはオタワ憲章(1986年)で提唱された健康づくりの概念。
