StudyMed医師国家試験

「普通」に暮らせる社会へ―ノーマライゼーションとバリアフリーをつなぐ発想

第117回医師国家試験 F問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第117回 F問題 第3問

ノーマライゼーションに関係するのはどれか。

  1. a.バリアフリーの推進
  2. b.リビングウィルの尊重
  3. c.セカンドオピニオンの利用
  4. d.ヘルスプロモーションの啓発
  5. e.インフォームド・コンセントの徹底

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、ノーマライゼーションという理念に関係するものを選ぶ問題だ。選択肢には医療倫理や公衆衛生のキーワードが並んでいるけれど、それぞれが「誰の、何のための考え方か」を区別できるかがポイントになる。まず、ノーマライゼーションをひと言で説明できるかな。
医学生医学生
障害のある人を普通の状態に近づける、という意味でしょうか。
ドクタードクター
よくある誤解だね。実は逆なんだ。障害のある人や高齢者を施設に隔離・区別するのではなく、障害の有無や年齢にかかわらず誰もが地域社会でごく当たり前の生活を送れること、それこそが「ノーマル」な社会だという理念なんだ。変わるべきなのは本人ではなく社会の側、という発想に立っている。
医学生医学生
なるほど、社会を変える考え方なんですね。発祥は北欧だと公衆衛生の講義で聞いた気がします。
ドクタードクター
そう、1950年代のデンマークが始まりだ。バンク-ミケルセンが、知的障害者が大規模施設に隔離されている状況を改めるよう訴え、1959年のデンマークの知的障害者福祉法に理念が盛り込まれた。その後スウェーデンのニィリエが、1日・1週間・1年の生活リズムや、ライフサイクルに応じた経験、自己決定の尊重といった「ノーマライゼーションの原理」として具体化して、世界に広まったんだ。
医学生医学生
社会の側を変えるとなると、段差をなくすようなバリアフリーが一番近い気がします。
ドクタードクター
正解。バリアフリーは、障害者や高齢者の生活の妨げとなる障壁を取り除くことで、ノーマライゼーションを実現する具体的な手段にあたる。ここで大事なのは、障壁は段差や狭い通路といった物理的なものだけではないということ。資格制限などの制度的な障壁、点字・手話・字幕の不足といった情報面の障壁、そして偏見や無関心という意識上の障壁も含まれるんだ。
医学生医学生
意識の障壁もバリアなんですね。臨床実習で、聴覚障害の患者さんに筆談で説明している看護師さんを見たのを思い出しました。
ドクタードクター
それも立派な情報面のバリアフリーだね。日本ではいわゆるバリアフリー法で推進されている。では、ほかの選択肢も確認しよう。リビングウィルはどうかな。
医学生医学生
延命治療を受けるかどうかを元気なうちに書面で残しておくものですよね。終末期医療の話なので、障害者の社会参加とは別物だと思います。
ドクタードクター
その通り。リビングウィルは事前指示の一つで、意思表示ができなくなったときに備えて人生の最終段階の医療の希望を示しておくもの。患者の自己決定権を尊重するための考え方だ。同じ系統として、セカンドオピニオンとインフォームド・コンセントはどう整理する?
医学生医学生
セカンドオピニオンは主治医以外の医師に意見を聞くこと、インフォームド・コンセントは十分な説明を受けて理解したうえで同意することなので、どちらも患者の自己決定を支える医療倫理の概念ですね。OSCEの医療面接でも、説明と同意の流れは練習しました。
ドクタードクター
完璧だね。補足すると、セカンドオピニオンは主治医を替える転医とは違う。インフォームド・コンセントは同意だけでなく、拒否する権利も含むことも押さえておこう。本人に判断能力がない場合は代諾者が関わる。最後にヘルスプロモーションは?
医学生医学生
健康づくりの考え方で、オタワ憲章だったと思います。アルマ・アタ宣言といつも混ざってしまいます。
ドクタードクター
混ざりやすいところだね。ヘルスプロモーションは1986年のWHOオタワ憲章で、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善できるようにするプロセス」と定義された。生活習慣の改善だけでなく、健康を支える環境づくりや政策づくりも含み、健康日本21の基盤にもなっている。一方、アルマ・アタ宣言は1978年のプライマリヘルスケアだ。年代の順番で覚えるといいよ。
医学生医学生
整理すると、ノーマライゼーションは福祉の理念、リビングウィルなど3つは患者の自己決定、ヘルスプロモーションは健康づくり、という3つの文脈に分かれるんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、関連用語も押さえておこう。バリアフリーが既存の障壁を後から取り除くのに対し、ユニバーサルデザインははじめから誰もが使いやすいように設計する考え方だ。さらに、誰も排除せず社会の一員として包み込むインクルージョンという考え方もある。
医学生医学生
バリアフリーとユニバーサルデザインの違いは、「後から取り除く」か「最初から作る」かですね。
ドクタードクター
そう覚えておけばいい。臨床でも、退院支援で自宅の段差解消や手すり設置を調整したり、障害のある患者さんが地域で暮らし続けられるよう福祉サービスにつないだりするのは、まさにノーマライゼーションの実践だ。病気を治すだけでなく、その人が地域で「普通」に暮らせるように支えることも医師の役割だと意識しておいてほしい。

まとめ

ノーマライゼーションは、障害者や高齢者を施設に隔離・区別せず、誰もが地域で当たり前の生活を送れる社会を目指す理念で、1950年代のデンマークでバンク-ミケルセンが提唱し、ニィリエが原理として具体化しました。本人を社会に合わせるのではなく社会の側を変えるという発想に立つため、物理的・制度的・情報的・意識上の障壁を取り除くバリアフリーや、ユニバーサルデザインがその具体的手段となります。リビングウィル、セカンドオピニオン、インフォームド・コンセントは患者の自己決定を支える医療倫理の概念であり、ヘルスプロモーションは1986年のオタワ憲章で提唱された健康づくりの概念です。用語ごとに「誰の、何のための考え方か」を整理しておくことが、公衆衛生分野の得点力と、退院支援など地域で患者を支える臨床実践の両方につながります。

解答・解説

正解はaです

ノーマライゼーション(normalization)とは、障害のある人や高齢者を施設などに隔離・区別するのではなく、障害の有無や年齢にかかわらず、誰もが地域社会の中でごく当たり前の生活を送れるようにすることこそが「ノーマル(普通)」な社会のあり方だ、とする理念である。1950年代にデンマークで知的障害者の処遇改善運動から生まれ、その後北欧から世界に広がって、日本の障害者福祉・高齢者福祉の基本理念にもなっている。 この理念は「障害者を社会に合わせて変える」のではなく「社会の側を変えて誰もが参加できるようにする」という発想に立つ。そのため、ノーマライゼーションを具体化する手段としては、生活の妨げとなる障壁(バリア)を取り除くバリアフリーや、はじめから誰にでも使いやすく設計するユニバーサルデザイン、地域での自立生活の支援などが該当する。 一方、他の選択肢はいずれも「患者の自己決定の尊重(医療倫理)」や「健康づくり(公衆衛生)」に属する概念であり、ノーマライゼーションとは別の文脈の用語である。各用語が「誰の、何のための考え方か」を区別できれば正解にたどり着ける。

選択肢考察

  1. ○a.  バリアフリーの推進

    バリアフリーとは、障害者や高齢者などが社会生活を送るうえで妨げとなる障壁を取り除くことである。障壁には段差や狭い通路などの物理的なものだけでなく、制度的な障壁(資格制限など)、文化・情報面の障壁(点字・手話・字幕の不足など)、意識上の障壁(偏見や無関心)も含まれる。障壁を取り除くことで、障害のある人も地域で普通の生活を送れるようになるため、ノーマライゼーションの理念を実現する具体的な手段に当たる。日本でもいわゆるバリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)などで推進されている。

  2. ×b.  リビングウィルの尊重

    リビングウィル(living will)とは、将来、病気が回復の見込みのない状態となり自分で意思を表明できなくなった場合に備えて、延命治療を受けるかどうかなど人生の最終段階の医療についての希望を、元気なうちに文書などで示しておくものである。事前指示(advance directive)の一つで、患者の自己決定権を尊重するための考え方であり、ノーマライゼーションとは関係しない。

  3. ×c.  セカンドオピニオンの利用

    セカンドオピニオンとは、診断や治療方針について、現在の主治医とは別の医療機関の医師に意見を求めることである。患者が複数の専門的意見を踏まえて納得のいく治療を選べるようにする仕組みであり、主治医を替えること(転医)とは異なる。患者の自己決定を支える医療倫理上の概念であって、ノーマライゼーションとは関係しない。

  4. ×d.  ヘルスプロモーションの啓発

    ヘルスプロモーションは、1986年に世界保健機関(WHO)のオタワ憲章で提唱された概念で、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義される。個人の生活習慣の改善だけでなく、健康を支える環境づくりや政策づくりも含む公衆衛生上の考え方であり、日本の「健康日本21」の基盤にもなっている。健康増進の理念であって、ノーマライゼーションとは別の概念である。

  5. ×e.  インフォームド・コンセントの徹底

    インフォームド・コンセントとは、患者が医師などから病名・病状、予後、検査や治療の内容・利益・危険性、ほかの選択肢などについて十分な説明を受けて理解したうえで、自らの意思で治療に同意(あるいは拒否)することである。本人に判断能力がない場合は家族などの代諾者が関わる。患者の自己決定権を保障する医療倫理の原則であり、ノーマライゼーションとは関係しない。

ノーマライゼーションの成り立ち

デンマークのバンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen, N. E.)が、知的障害者が大規模施設に隔離されている状況を改めるよう訴えたことに始まり、1959年のデンマークの知的障害者福祉法にその理念が盛り込まれた。彼自身がナチス占領下で収容所に囚われた経験が、人を隔離・管理することへの問題意識につながったとされる。その後スウェーデンのニィリエ(Nirje, B.)が、1日・1週間・1年のリズム、ライフサイクルに応じた経験、自己決定の尊重などの「ノーマライゼーションの原理」として具体化し、世界に広まった。

関連する用語

・バリアフリー:既存の障壁を取り除くこと。 ・ユニバーサルデザイン:障害の有無・年齢・性別などにかかわらず、はじめから誰もが使いやすいように設計すること。 ・インクルージョン(ソーシャルインクルージョン):誰も排除せず、社会の一員として包み込むという考え方。 ・リハビリテーション:障害のある人の全人間的復権を目指す取り組み。

医療倫理・公衆衛生の用語との区別

・患者の自己決定に関わるもの:インフォームド・コンセント、セカンドオピニオン、リビングウィル(事前指示)、アドバンス・ケア・プランニング(人生会議) ・健康づくりに関わるもの:ヘルスプロモーション(オタワ憲章1986年)、プライマリヘルスケア(アルマ・アタ宣言1978年)

POINT

・ノーマライゼーション=障害者や高齢者も区別されず、地域で普通の生活を送れる社会を目指す理念(デンマークのバンク-ミケルセンが提唱)。 ・具体化の手段:バリアフリー、ユニバーサルデザイン、地域での自立生活支援。 ・リビングウィル、セカンドオピニオン、インフォームド・コンセントは患者の自己決定を支える医療倫理の概念。 ・ヘルスプロモーションはオタワ憲章(1986年)で提唱された健康づくりの概念。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。