ぶどうで窒息、そして脈が消えた―「異物除去」から「CPR」へ切り替える瞬間
第117回医師国家試験 E問題 第32問
国試問題にチャレンジ
4歳の男児。自宅で径3cmのぶどうを食べたとき,急に激しくむせて顔色が悪くなったため救急車で搬入された。救急車内では,意識はあるが両手で首をつかんで苦しそうにしており,救急隊員によりHeimlich法が実施されたが状況は改善しなかった。病院到着直後にモニターを装着していると意識を失った。頸動脈を触知しない。 直ちに行う処置として適切なのはどれか。
- a.開胸手術
- b.静脈路確保
- c.心肺蘇生法
- d.背部叩打法
- e.気管支鏡下摘出術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
気道異物による窒息では、意識がある段階では腹部突き上げ法や背部叩打法で異物除去を試みますが、反応がなくなり脈も触れなくなった時点で、直ちに胸骨圧迫からの心肺蘇生に切り替えるのが原則です。胸骨圧迫は循環を維持するだけでなく胸腔内圧を上げて異物の排出にも役立ち、人工呼吸の前には口腔内を確認して見える異物のみを除去します。静脈路(骨髄路)確保や喉頭鏡・気管支鏡による異物摘出は、胸骨圧迫の中断を最小限にしながら並行して、あるいは状態安定後に行う処置です。小児の心停止は呼吸原性が多いため人工呼吸の重要性が高く、胸の厚さの約1/3の深さ、100〜120回/分、医療者2人以上なら15:2で行います。「反応の有無で対応を切り替える」という判断は、院内外を問わず命を左右する基本であり、丸く弾力のある食品による窒息の予防指導とあわせて身につけておきたい知識です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・4歳男児が直径3cmのぶどうを食べた直後に、突然激しくむせて顔色不良(チアノーゼ)となった。発症の状況から、食物による上気道(喉頭〜気管)の異物閉塞が強く疑われる。 ・救急車内では意識があり、両手で首をつかんで苦しんでいた。これは窒息のサイン(universal choking sign)であり、声や有効な咳が出せない重度の気道閉塞を示す。 ・救急隊員による腹部突き上げ法(Heimlich法)でも閉塞は解除されなかった。 ・病院到着直後に意識を失い、頸動脈を触知しない:気道閉塞による高度の低酸素血症から心停止に至ったと判断される。
診断へのプロセス
小児の心停止は、成人に多い心原性(致死性不整脈など)よりも、窒息や呼吸不全による低酸素が原因となることが多い。本例はまさに気道異物による窒息から呼吸原性心停止に陥った状態である。ぶどうやミニトマト、白玉団子などの丸く滑らかで弾力のある食品は、幼児の気道をすっぽり塞ぎやすく、窒息事故の代表的な原因である。
設問の考え方
「反応がなく、正常な呼吸や脈がない」と判断された時点で、原因が何であれ最優先は直ちに胸骨圧迫から始める心肺蘇生(CPR)である。気道異物による窒息の傷病者が途中で反応を失った場合も、腹部突き上げ法や背部叩打法を続けるのではなく、CPRに切り替える。胸骨圧迫によって生じる胸腔内圧の上昇は、異物を押し出す効果も期待できる。人工呼吸の前には口腔内を確認し、異物が見えれば取り除く(見えないのに指で探るのは異物を奥へ押し込むおそれがあるため行わない)。静脈路確保や異物の摘出(喉頭鏡とMagill鉗子、気管支鏡など)は、胸骨圧迫の中断を最小限にしながら、CPRと並行または後に行う処置である。
選択肢考察
- ×a. 開胸手術
気道異物の除去は、喉頭鏡とMagill鉗子による直視下の摘出や、硬性・軟性気管支鏡による摘出が基本であり、開胸手術で取り出すことは通常ない。また、心停止の場面で開胸手術を優先する理由もない。救急外来での開胸(開胸心マッサージなど)は、穿通性胸部外傷による心停止など特殊な状況に限られる。
- ×b. 静脈路確保
静脈路(または骨髄路)の確保は、アドレナリンなどの薬剤投与のために心肺蘇生の過程で必要となる処置である。しかし、心停止を確認した直後にまず行うべきことではなく、胸骨圧迫と換気を開始したうえで、圧迫を中断しないよう並行して行う。小児で静脈路確保が難しい場合は、骨髄路を速やかに選択する。
- ○c. 心肺蘇生法
意識がなく頸動脈を触知しない心停止状態であり、直ちに胸骨圧迫から心肺蘇生を開始する。気道異物による窒息で反応がなくなった場合も、異物除去手技からCPRに切り替えるのが原則であり、胸骨圧迫による胸腔内圧の上昇が異物の排出にも役立つ。小児では、胸骨の下半分を胸の厚さの約1/3の深さまで、1分間に100〜120回のテンポで圧迫し、毎回胸壁を元の位置まで戻す。救助者が2人以上なら胸骨圧迫15回と人工呼吸2回の比で行い、人工呼吸の前には口腔内を確認して見える異物は除去する。小児の心停止は呼吸原性が多いため、人工呼吸を組み合わせることが特に重要である。
- ×d. 背部叩打法
背部叩打法は、意識がある窒息患者に対して行う異物除去法である(乳児では背部叩打と胸部突き上げ、1歳以上の小児・成人では腹部突き上げや背部叩打を用いる)。本例ではすでに意識を失い心停止に陥っているため、異物除去手技を続けるのではなく、ただちに胸骨圧迫を含むCPRへ移行すべきであり、背部叩打法を優先するのは誤りである。
- ×e. 気管支鏡下摘出術
気管支鏡による摘出は気道異物の根本的な治療であるが、準備に時間がかかり、心停止状態でまず行う処置ではない。CPRを開始・継続しながら、喉頭鏡で声門付近に異物が見えればMagill鉗子で除去を試みることはあるが、気管支鏡下の摘出は自己心拍再開後など状態が安定してから検討する。小児の気道異物では、操作中も換気ができる硬性気管支鏡が用いられることが多い。
気道異物による窒息への対応(反応の有無で分けて考える)
・反応がある(意識がある)場合 咳ができるなら咳を続けさせて見守る。咳や声が出せない重度の閉塞では異物除去を行う。 乳児(1歳未満):背部叩打法と胸部突き上げ法を交互に行う。腹部突き上げ法は腹部臓器損傷の危険があるため行わない。 1歳以上の小児・成人:腹部突き上げ法(Heimlich法)、背部叩打法を行う。妊婦や高度肥満者では胸部突き上げ法を用いる。 ・反応がなくなった場合 直ちに胸骨圧迫からCPRを開始する。人工呼吸の前に口腔内を確認し、見える異物のみ除去する(盲目的な指での掻き出しはしない)。病院内では、喉頭鏡で直視してMagill鉗子で異物を摘出することも試みられる。
小児の心肺蘇生の要点
・小児の心停止は呼吸原性(窒息、呼吸不全など)が多く、人工呼吸の重要性が成人より高い。 ・胸骨圧迫:胸骨の下半分を、胸の厚さの約1/3の深さで、100〜120回/分。圧迫ごとに胸壁を完全に戻し、中断を最小限にする。 ・圧迫と換気の比:救助者1人では30:2、医療従事者2人以上では15:2。 ・脈拍の確認に時間をかけない(10秒以内)。乳児は上腕動脈、小児は頸動脈または大腿動脈で確認する。 ・薬剤投与経路:静脈路が速やかに確保できなければ骨髄路を用いる。心静止・無脈性電気活動(PEA)ではアドレナリンを早期に投与する。
小児の気道異物
・好発は乳幼児(特に1〜3歳)。原因は豆類(ピーナッツなど)、ぶどう、ミニトマト、団子、玩具などが多い。 ・気管支に入った異物では、患側の呼吸音減弱、喘鳴、片側の過膨張や無気肺などがみられ、吸気・呼気の胸部X線で縦隔の偏位(呼気時に健側へ偏位:Holzknecht徴候)が参考になる。 ・喉頭・気管など上気道の完全閉塞は、本例のように短時間で窒息・心停止に至る。 ・予防として、幼児にぶどうやミニトマトなどを与える際は小さく切る、豆類は5歳以下には与えないなどの指導が重要である。
POINT
・反応がなく脈も触れなければ、原因にかかわらず直ちに胸骨圧迫からCPRを開始する。 ・気道異物による窒息で意識を失ったら、異物除去手技(腹部突き上げ・背部叩打)からCPRに切り替える。 ・人工呼吸の前に口腔内を確認し、見える異物だけを除去する。 ・小児の心停止は呼吸原性が多い。胸骨圧迫は胸の厚さの約1/3の深さ、100〜120回/分、2人法では15:2。 ・静脈路(骨髄路)確保や異物摘出は、胸骨圧迫の中断を最小限にしながら行う。
