「まだできない」と「遅れている」は違う―3歳児健診で見抜く発達のものさし
第117回医師国家試験 C問題 第51問
国試問題にチャレンジ
3歳2か月の女児。健康診査のため母親に連れられて来院した。上手に歩くことはできるが,①ひとりで階段を昇れない。上着を自分で脱ぐが,②ひとりでは着られない。同年齢の子ども達と遊べるが,③ルールのある遊びはできない。自分の名前は言えるが,④住所は言えない。物の大小はわかるが,⑤左右はわからない。 下線部のうち発達の異常が考えられるのはどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
発達の異常は、ほとんどの子ども(およそ9割)ができるようになる時期を過ぎてもできない場合に疑います。階段は1歳6か月で手を引かれて、2歳で手すりにつかまってひとりで、3歳で足を交互に出して昇れるようになるため、3歳2か月でひとりで昇れないのは粗大運動の遅れと考えられます。一方、ひとりで服を着る・ルールのある遊びは4歳ごろ、住所を言う・左右の区別は5歳ごろに可能になるため、3歳2か月でできなくても年齢相応です。遅れがどの領域に限られるかを把握することは、筋疾患や脳性麻痺、知的障害、自閉スペクトラム症などの原因推定と支援方針の決定に役立ちます。年齢ごとの発達の目安を領域別に整理しておくことは、乳幼児健診や小児診療で過不足なく異常を拾い上げるための基本となります。
解答・解説
正解はaです
問題の考え方
3歳児健康診査(3歳児健診)では、身体計測や視覚・聴覚、尿検査、歯科診察などとともに、粗大運動・微細運動・言語・社会性・生活習慣(身辺自立)の発達が年齢相応かを確認する。発達の異常を判断するには、各項目について「多くの子ども(およそ90%)ができるようになる時期」を基準にし、その時期を過ぎてもできない場合に遅れを疑う。単に「その年齢ではまだできない子がいる」項目は異常とはいえない。
各下線部の整理
本児は3歳2か月である。各項目が一般に可能になる時期と比べると次のようになる。 ・①ひとりで階段を昇る(粗大運動):手すりや壁につかまって昇るのは2歳ごろ、足を交互に出して昇るのは3歳ごろには可能になる。→ 3歳2か月でひとりで昇れないのは明らかに遅れている。 ・②ひとりで上着を着る(生活習慣):脱ぐのは3歳ごろには可能だが、ひとりで着られるのはおおむね4歳ごろ。→ 年齢相応。 ・③ルールのある遊び(社会性):3歳ではごっこ遊びや並行遊びが中心で、鬼ごっこなどのルールを理解した集団遊びは4歳ごろから。→ 年齢相応。 ・④住所を言う(言語・認知):氏名や年齢は3歳ごろ言えるようになるが、住所が言えるのは5歳ごろ。→ 年齢相応。 ・⑤左右の区別(認知):大小の比較は2~3歳でわかるが、左右の区別は5歳ごろから。→ 年齢相応。 したがって発達の異常が考えられるのは①のみである。また本児は歩行は上手で、運動以外の領域(生活習慣・社会性・言語・認知)は年齢相応に発達しているので、粗大運動に限った遅れが疑われる。今後は下肢の筋力・筋緊張、関節、神経学的所見の評価を行い、必要に応じて精密検査や療育につなげる。
選択肢考察
- ○a. ①
階段は、1歳6か月ごろに手を引かれて昇れるようになり、2歳ごろには手すりなどにつかまってひとりで昇れる(片足ずつそろえながら)。3歳ごろには足を交互に出して昇れるようになる。3歳2か月でひとりで階段を昇れないのは、通常2歳ごろには可能になる動作ができないということであり、粗大運動発達の遅れとして異常を疑う。
- ×b. ②
衣服の着脱は、まず脱ぐことが先にでき(3歳ごろ)、着ることは後になる。ボタンかけなども含めてひとりで上着を着られるようになるのはおおむね4歳ごろで、完全に身支度ができるのは5歳前後である。3歳2か月で「脱げるが着られない」のは年齢相応であり、異常ではない。
- ×c. ③
3歳ごろの遊びは、ままごとなどのごっこ遊びや、他児のそばで同じ遊びをする並行遊びが中心である。順番を守る、鬼ごっこのようなルールを理解して友達と協調して遊ぶといった社会性は4歳ごろから育ってくる。同年齢の子どもと一緒に遊べている本児は年齢相応であり、異常ではない。
- ×d. ④
自分の姓名や年齢を言えるようになるのは3歳ごろで、本児は年齢相応にできている。住所を言えるようになるのは5歳ごろであり、3歳2か月で言えないのは正常範囲である。
- ×e. ⑤
大小・長短などの比較概念は2~3歳ごろに理解できるようになり、本児も年齢相応である。左右の区別は抽象度が高く、5歳ごろにようやく自分の体の左右がわかるようになる。3歳2か月で左右がわからないのは正常である。
乳幼児の主な発達の目安
粗大運動 ・首のすわり(頸定):3~4か月 ・寝返り:5~6か月 ・おすわり(座位保持):7~8か月 ・はいはい:8~9か月 ・つかまり立ち:9~10か月 ・ひとり立ち:1歳ごろ ・ひとり歩き:1歳~1歳3か月 ・手を引かれて階段を昇る:1歳6か月 ・走る:1歳6か月~2歳 ・両足でジャンプ、手すりにつかまり階段を昇る:2歳 ・足を交互に出して階段を昇る、三輪車をこぐ、片足立ち(数秒):3歳 ・片足跳び(ケンケン):4歳 ・スキップ:5歳 微細運動・描画 ・円をまねて描く:3歳 ・十字・四角を描く:4歳 ・三角を描く:5歳 言語・認知 ・意味のある単語(初語):1歳ごろ ・二語文:2歳ごろ ・自分の名前・年齢が言える、色がわかる、大小がわかる:3歳ごろ ・左右がわかる、住所が言える、じゃんけん・しりとり:5歳ごろ 社会性・生活習慣 ・あやすと笑う(社会的微笑):2~3か月 ・人見知り:6~8か月 ・ごっこ遊び、並行遊び、衣服を脱ぐ、昼間のおむつが外れ始める:3歳ごろ ・ルールのある遊び、ひとりで衣服を着る:4歳ごろ
3歳児健康診査
母子保健法に基づき市町村が実施する法定健診で、満3歳を超え満4歳に達しない幼児が対象である(1歳6か月児健診と並ぶ法定健診)。身体発育、栄養状態、運動・精神発達、言語、視覚・聴覚、歯科、尿検査などを確認する。弱視などの早期発見のため、屈折検査機器を用いた視覚検査の導入も進められている。
発達の評価の考え方
発達の目安には個人差があり、通過率50%の時期と90%の時期にはかなりの幅がある。遅れを判断する際は、ほとんどの子どもができるようになる時期を過ぎてもできない項目に注目する。また、どの領域の遅れか(運動のみか、言語・社会性も含む全般的な遅れか)を把握することが、原因(筋疾患・脳性麻痺などの運動障害、知的障害、自閉スペクトラム症など)の推定と支援方針に役立つ。
POINT
・発達の異常は「ほとんどの子どもができるようになる時期を過ぎてもできない」ことで判断する。 ・階段昇り:手を引かれて1歳6か月、手すりにつかまって2歳、足を交互に出して3歳。3歳でひとりで昇れなければ運動発達の遅れを疑う。 ・3歳でできること:名前・年齢を言う、大小がわかる、衣服を脱ぐ、ごっこ遊び、円を描く、片足立ち。 ・4歳:ひとりで服を着る、ルールのある遊び、片足跳び、十字・四角を描く。 ・5歳:住所を言う、左右がわかる、スキップ、三角を描く。
