空気は廊下へ漏らさない―陰圧個室が必要な「3つの空気感染症」
第117回医師国家試験 C問題 第26問
国試問題にチャレンジ
院内感染の対策として陰圧空調の個室で管理すべきなのはどれか。
- a.インフルエンザ
- b.ウイルス性胃腸炎
- c.肺結核
- d.流行性角結膜炎
- e.流行性耳下腺炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
院内感染対策では、全患者への標準予防策に加え、病原体の感染経路に応じて空気・飛沫・接触の経路別予防策を行います。陰圧空調の個室が必要なのは5μm以下の飛沫核が空中を漂って広がる空気感染であり、該当するのは結核・麻疹・水痘(播種性帯状疱疹を含む)の3疾患です。空気感染予防策では入室者がN95マスクを着用し、患者が移動するときはサージカルマスクを着けてもらいます。インフルエンザやムンプスは飛沫感染予防策、ウイルス性胃腸炎や流行性角結膜炎は接触感染予防策が中心で、ノロウイルスには次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が有効です。感染力の強さではなく感染経路で対策を選ぶという考え方は、病棟での隔離判断や防護具の選択に直結します。
解答・解説
正解はcです
院内感染対策の基本は、すべての患者に適用する「標準予防策(スタンダードプリコーション)」である。そのうえで、病原体の感染経路に応じて「感染経路別予防策」を上乗せする。感染経路別予防策は、空気感染予防策、飛沫感染予防策、接触感染予防策の3つに分かれる。 ・空気感染:病原体を含む飛沫の水分が蒸発してできた微小な粒子(飛沫核、直径5μm以下)が、長時間空中を漂い、気流に乗って遠くまで運ばれる。同じ空間にいるだけで感染しうるため、病室の空気が廊下など外へ流れ出さないようにする必要がある。 ・飛沫感染:咳やくしゃみ、会話で出る大きな飛沫(5μmより大きい)が、近距離(おおむね1〜2m以内)で相手の粘膜に付着して感染する。飛沫はすぐに落下するため、特別な空調は不要である。 ・接触感染:患者に直接触れたり、汚染された物や環境に触れた手を介したりして感染する。 陰圧空調の個室は、室内の気圧を周囲より低く保ち、空気が室外に漏れないようにした病室である。室内の空気は高頻度で換気され、屋外へ直接排気するか、HEPAフィルタ(高性能の粒子除去フィルタ)を通して排気する。この部屋(空気感染隔離室)が必要になるのは空気感染する病原体、すなわち結核・麻疹・水痘(播種性帯状疱疹を含む)である。選択肢のうちこれに該当するのは肺結核のみである。
選択肢考察
- ×a. インフルエンザ
誤り。インフルエンザは主に飛沫感染で広がり、接触感染も起こる。飛沫感染予防策として、通常の個室に入れるか、同じ病原体の患者を同室に集めるコホーティングを行う。大部屋ではベッドの間隔を十分にとり、カーテンで仕切る。医療従事者は患者に近づくときにサージカルマスクを着ける。陰圧室は必須ではない。ただし、気管挿管や気管支鏡など、エアロゾル(微小な粒子)を発生させる処置を行うときはN95マスクなどの追加対策を考慮する。
- ×b. ウイルス性胃腸炎
誤り。ノロウイルスやロタウイルスなどによるウイルス性胃腸炎は、糞便や吐物を介した接触感染と経口感染が主な経路である。症状のある患者は個室管理かコホーティングとし、手袋・ガウンを着用し、流水と石けんで手を洗う。ノロウイルスはアルコールが効きにくいため、環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウムを用いる。吐物が乾燥すると、ウイルスを含む粒子が舞い上がって吸い込まれることがあるため、吐物は速やかに処理する。しかし、陰圧室での管理までは必要としない。
- ○c. 肺結核
正しい。結核菌は飛沫核として空中を漂い、空気感染する。特に喀痰の塗抹検査が陽性の肺結核(排菌している状態)は感染力が強い。そのため、陰圧空調の個室(空気感染隔離室)に収容し、ドアは閉めておく。病室に入る医療従事者や面会者は、微小な粒子を防げるN95マスクを着用する(使用前にフィットチェックで顔への密着を確認する)。患者が検査などで部屋を出るときは、周囲への飛散を減らすため患者にサージカルマスクを着けさせる。なお、肺結核で排菌がある場合は、結核病床をもつ医療機関への入院(感染症法に基づく入院勧告)が原則となる。
- ×d. 流行性角結膜炎
誤り。流行性角結膜炎(はやり目)はアデノウイルス(主に8・19・37型など)が原因で、目やになどの分泌物に触れた手指や器具(眼科の検査器具、タオルなど)を介して接触感染する。院内感染、特に眼科外来での集団発生が問題になりやすい。対策は手指衛生の徹底、器具の消毒、タオルの共用禁止などの接触感染予防策である。アデノウイルスは消毒薬に比較的強いため、手指衛生を確実に行うことが最も重要である。陰圧室は不要である。
- ×e. 流行性耳下腺炎
誤り。流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)はムンプスウイルスが原因で、主に飛沫感染で広がり、唾液を介した接触感染も起こる。院内では飛沫感染予防策(個室管理、サージカルマスク着用)を行う。期間の目安は耳下腺腫脹の出現後5日間である。空気感染はしないため、陰圧室は必要ない。感受性のある職員(未罹患・ワクチン未接種)を担当から外すことも有効である。
感染経路別予防策の整理
・空気感染予防策:結核、麻疹、水痘(播種性帯状疱疹、免疫不全患者の帯状疱疹を含む) →陰圧空調の個室(空気感染隔離室)、ドアは閉める、入室者はN95マスク、患者が移動するときはサージカルマスク。麻疹・水痘では、免疫のある職員が担当する。 ・飛沫感染予防策:インフルエンザ、ムンプス、風疹、百日咳、マイコプラズマ肺炎、髄膜炎菌感染症、溶連菌性咽頭炎、新型コロナウイルス感染症(エアロゾル発生手技では空気感染に準じた対策を追加)など →個室またはコホーティング、ベッド間隔を確保、患者に近づく際はサージカルマスク。 ・接触感染予防策:MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの薬剤耐性菌、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症、ノロウイルス・ロタウイルス胃腸炎、流行性角結膜炎、疥癬(特に角化型)など →個室またはコホーティング、手袋・ガウン、専用の器具、手指衛生の徹底。
陰圧室(空気感染隔離室)の条件
周囲に対して陰圧を保つこと、十分な換気回数(新設では1時間あたり12回以上が推奨)、屋外への直接排気またはHEPAフィルタを通した排気、扉を閉めておくこと、が条件である。
コホーティング
同じ病原体に感染(または保菌)している患者を同じ病室やエリアに集めて管理し、そうでない患者との接触を断つ方法である。個室が足りないときに用いられる。担当する職員を固定することも含めて考える。
POINT
・陰圧個室が必要なのは空気感染する3疾患:結核・麻疹・水痘(播種性帯状疱疹を含む)。 ・空気感染予防策では入室者がN95マスク、患者が移動するときはサージカルマスク。 ・インフルエンザ・ムンプスは飛沫感染予防策、ウイルス性胃腸炎・流行性角結膜炎は接触感染予防策。 ・ノロウイルスはアルコールが効きにくく、次亜塩素酸ナトリウムで消毒する。
