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なぜ「2」ではなく「2.1」なのか―人口置換水準に隠れた2つの上乗せ

第117回医師国家試験 C問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第117回 C問題 第12問

我が国における,将来人口を定常的に保てる合計特殊出生率(人口置換水準)の値に最も近いのはどれか。

  1. a.1.0
  2. b.1.1
  3. c.1.9
  4. d.2.1
  5. e.4.0

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は人口統計の基本、人口置換水準を問う問題だ。数字を丸暗記していても、なぜその値になるのかを説明できるかで理解の深さが変わる。ポイントは「親2人を子が置き換える」という発想に何を上乗せするか、という点だよ。
医学生医学生
両親2人の代わりに子どもが2人いれば人口は保てるので、2.0ではないんですか。
ドクタードクター
直感的にはそう考えるよね。でも実際には2.0では少し足りないんだ。その理由を考えるために、まず合計特殊出生率とは何かを確認しよう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、15〜49歳の女性の年齢別出生率を合計したもの、と習いました。1人の女性が一生に産む子どもの平均数に相当する、と。
ドクタードクター
その通り。ここで大事なのは、合計特殊出生率は男児も女児も区別せずに数えている点だ。次の世代を産むのは女性だから、人口を保つには「1人の母親から、次の母親になる女の子が1人残る」ことが必要になる。
医学生医学生
あ、生まれる子は男の子のほうが少し多いんでしたっけ。
ドクタードクター
よく気づいたね。出生性比は女児100に対して男児がおよそ105。だから女児を1人確保しようとすると、2人よりもわずかに多く産む必要がある。これが1つ目の上乗せだ。
医学生医学生
2つ目は、生まれた女の子が大人になる前に亡くなる場合でしょうか。
ドクタードクター
そう。生まれた女児のすべてが出産可能な年齢まで生き延びるわけではないから、その分も上乗せが必要になる。この2つを足すと、我が国の人口置換水準はおよそ2.06〜2.07で、選択肢の中では2.1が最も近いことになる。
医学生医学生
1.0という選択肢も気になりました。どこかで「1.0が境目」と聞いた気がするんですが。
ドクタードクター
それは純再生産率の話だね。純再生産率は、1人の女性が産む女児のうち母親の年齢まで生き残る数の平均で、性比も死亡もすでに織り込まれている。だから純再生産率で見ると置換水準は1.0になる。一方、合計特殊出生率が1.0だと、人口は1世代でおよそ半分になってしまう。
医学生医学生
指標によって基準値が違うんですね。CBTの勉強のときに総再生産率と純再生産率がごっちゃになっていました。
ドクタードクター
整理しておこう。合計特殊出生率は男女の子を全部数える。総再生産率はそのうち女児だけを数える。純再生産率はさらに女児の生存率を掛けたものだ。ちなみに1.1は、近年の我が国の実際の合計特殊出生率に近い値なんだ。
医学生医学生
置換水準と実際の出生率を混同させる狙いですね。1.9はどうでしょう。
ドクタードクター
1.9は2.0にも届かないので、性比や死亡を考える前から人口が減っていく値だ。フランスやスウェーデンなど、先進国の中では比較的出生率の高い国に近い水準だけど、それでも置換水準には届いていない。4.0は逆に置換水準の約2倍で、人口が急増する。サハラ以南アフリカなど一部の国でみられる値だね。
医学生医学生
先進国だと置換水準は2.1くらいですが、途上国では違うんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。乳幼児死亡率が高い地域では、再生産年齢に届く前に亡くなる女児が多いから上乗せも大きくなり、置換水準は平均で2.4程度と高くなる。逆に我が国は乳児死亡率が世界で最も低い水準にあるから、上乗せが小さく2.1弱にとどまっているんだ。
医学生医学生
置換水準そのものが、その国の健康水準を映しているわけですね。
ドクタードクター
その通り。発展知識として我が国の推移も押さえておこう。第1次ベビーブームの頃は合計特殊出生率が4を超えていたけれど、1970年代半ば以降はずっと置換水準を下回っている。1989年の1.57ショック、2005年の1.26という当時の最低値を経て、近年は再び過去最低を更新している。
医学生医学生
でも、置換水準を下回ってすぐ人口が減ったわけではないですよね。総人口が減り始めたのはもっと後だったような。
ドクタードクター
鋭いね。それが人口モメンタムだ。出生率が下がっても、出産年齢にある女性の数が多い年齢構成のうちは、しばらく人口が増え続ける。我が国の総人口がピークを迎えたのは2008年頃だ。地域の医療計画や将来の医療需要を考えるうえでも、こうした人口動態の見方は臨床医にとって無関係ではないよ。

まとめ

人口置換水準とは、人口を増減させずに一定に保つために必要な合計特殊出生率の水準で、我が国では約2.07(≒2.1)です。親2人分の2.0に加え、出生性比で男児がやや多いこと、女児の一部が再生産年齢に達する前に死亡することを上乗せするため、2.0よりわずかに高くなります。同じ置換水準でも、性比と生存率を織り込んだ純再生産率で表すと1.0となるため、指標の定義を区別して理解することが重要です。乳幼児死亡率が高い途上地域では置換水準が2.4前後と高く、置換水準そのものが地域の健康水準を反映します。我が国の出生率は1970年代半ば以降置換水準を下回り続けており、少子高齢化や将来の医療需要を考える基礎知識として押さえておきたい指標です。

解答・解説

正解はdです

問われていること

人口置換水準とは、人口が増えも減りもせず、将来にわたって一定の規模を保つために必要な合計特殊出生率(TFR:total fertility rate)の水準である。

考え方

合計特殊出生率は、15〜49歳の女性の年齢別出生率を合計したもので、「1人の女性が一生のあいだに産む子どもの平均数」に相当する。 親の世代は男女 2 人で構成されるため、単純に考えれば 1 人の女性が 2 人を産めば人口は置き換わる。しかし実際には次の 2 つの理由で 2.0 では足りない。 1. 出生性比が 1 を超える:生まれる子は男児のほうがやや多い(女児 100 に対し男児およそ 105)。次の世代を産むのは女児なので、女児 1 人を確保するには 2 人より少し多く産む必要がある。 2. 再生産年齢に達する前に死亡する女児がいる:生まれた女児のすべてが出産可能年齢まで生存するわけではない。 この 2 つを上乗せすると、我が国の人口置換水準はおよそ 2.06〜2.07 となり、選択肢の中で最も近いのは 2.1 である。

補足

純再生産率(1 人の女性が一生のうちに産む女児のうち、母親の年齢まで生き残る数の平均)でみると、人口置換水準は 1.0 にあたる。合計特殊出生率でみる場合は男児分と死亡分を含むため約 2.1 となる。

選択肢考察

  1. ×a.  1.0

    誤り。1.0 は「純再生産率」で表したときの人口置換水準である(1 人の母親が 1 人の娘を残し、その娘が母親の年齢まで生き残れば世代が置き換わる)。合計特殊出生率は男児も含めた出生数なので、1.0 では人口は一世代でおよそ半分になってしまう。

  2. ×b.  1.1

    誤り。人口置換水準を大きく下回る値である。近年の我が国の実際の合計特殊出生率(2023 年 1.20、2024 年 1.15 程度)に近い水準であり、置換水準との混同を狙った選択肢と考えられる。

  3. ×c.  1.9

    誤り。2.0 にも届かない値であり、男女比と再生産年齢前の死亡を考慮しなくても人口は減少する。フランスやスウェーデンなど比較的出生率の高い先進国の水準に近いが、それでも置換水準を下回っている。

  4. ○d.  2.1

    正しい。夫婦 2 人分の 2.0 に、出生性比が男児にやや偏っていること、そして女児の一部が出産可能年齢に達する前に死亡することを上乗せすると、我が国の人口置換水準は約 2.06〜2.07 となる。乳児死亡率や若年死亡率が極めて低い我が国では上乗せ分が小さく、四捨五入すると 2.1 である。

  5. ×e.  4.0

    誤り。置換水準の約 2 倍であり、この出生率が続けば人口は急速に増加する。サハラ以南アフリカなど一部の高出生率の国でみられる水準である。なお、乳幼児死亡率が高い開発途上地域では、置換水準そのものも 2.1 より高く、平均で 2.4 程度になる。

出生に関する主な指標

・合計特殊出生率:15〜49 歳の女性の年齢別出生率の合計。1 人の女性が一生に産む子どもの平均数に相当する。男児・女児を区別しない。 ・総再生産率:合計特殊出生率のうち女児だけを数えたもの。母親世代の死亡は考慮しない。 ・純再生産率:総再生産率に、女児が母親の年齢まで生存する確率(生命表の生存率)を掛けたもの。1.0 が人口置換水準にあたり、1 を上回れば将来人口は増加、下回れば減少する。

人口置換水準を左右する因子

・出生性比(女児 100 に対する男児数、通常 105 前後) ・女児が再生産年齢に達するまでの死亡率(乳児死亡率・小児死亡率など) 死亡率が高い国ほど上乗せが必要になるため、置換水準は先進国で約 2.1、途上地域では 2.4 前後と高くなる。

我が国の状況

我が国の合計特殊出生率は、第 1 次ベビーブーム期(1947〜1949 年)には 4 を超えていたが、1970 年代半ば以降は人口置換水準を下回り続けている。1989 年には 1.57 を記録し「1.57 ショック」と呼ばれ、2005 年には 1.26 まで低下した。その後いったん回復したが再び低下し、近年は過去最低を更新している。なお、出生率が置換水準を下回っても、すぐには人口が減らず、しばらく増加が続くことがある(人口の年齢構成による「人口モメンタム」)。我が国の総人口は 2008 年頃をピークに減少に転じた。

乳児死亡率との関係

乳児死亡率(出生 1,000 対の生後 1 年未満の死亡数)は地域の健康水準を反映する重要な指標であり、我が国は世界で最も低い水準にある。この低さが、我が国の人口置換水準を 2.1 弱にとどめている要因の一つである。

POINT

・人口置換水準:人口を一定に保つ合計特殊出生率。我が国では約 2.07(≒2.1)。 ・2.0 ではなく 2.1 になる理由は、①出生性比で男児がやや多いこと、②女児の一部が再生産年齢前に死亡すること。 ・純再生産率で表すと置換水準は 1.0。 ・我が国の合計特殊出生率は 1970 年代半ば以降、置換水準を下回り続けている。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。