なぜ「2」ではなく「2.1」なのか―人口置換水準に隠れた2つの上乗せ
第117回医師国家試験 C問題 第12問
国試問題にチャレンジ
我が国における,将来人口を定常的に保てる合計特殊出生率(人口置換水準)の値に最も近いのはどれか。
- a.1.0
- b.1.1
- c.1.9
- d.2.1
- e.4.0
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
人口置換水準とは、人口を増減させずに一定に保つために必要な合計特殊出生率の水準で、我が国では約2.07(≒2.1)です。親2人分の2.0に加え、出生性比で男児がやや多いこと、女児の一部が再生産年齢に達する前に死亡することを上乗せするため、2.0よりわずかに高くなります。同じ置換水準でも、性比と生存率を織り込んだ純再生産率で表すと1.0となるため、指標の定義を区別して理解することが重要です。乳幼児死亡率が高い途上地域では置換水準が2.4前後と高く、置換水準そのものが地域の健康水準を反映します。我が国の出生率は1970年代半ば以降置換水準を下回り続けており、少子高齢化や将来の医療需要を考える基礎知識として押さえておきたい指標です。
解答・解説
正解はdです
問われていること
人口置換水準とは、人口が増えも減りもせず、将来にわたって一定の規模を保つために必要な合計特殊出生率(TFR:total fertility rate)の水準である。
考え方
合計特殊出生率は、15〜49歳の女性の年齢別出生率を合計したもので、「1人の女性が一生のあいだに産む子どもの平均数」に相当する。 親の世代は男女 2 人で構成されるため、単純に考えれば 1 人の女性が 2 人を産めば人口は置き換わる。しかし実際には次の 2 つの理由で 2.0 では足りない。 1. 出生性比が 1 を超える:生まれる子は男児のほうがやや多い(女児 100 に対し男児およそ 105)。次の世代を産むのは女児なので、女児 1 人を確保するには 2 人より少し多く産む必要がある。 2. 再生産年齢に達する前に死亡する女児がいる:生まれた女児のすべてが出産可能年齢まで生存するわけではない。 この 2 つを上乗せすると、我が国の人口置換水準はおよそ 2.06〜2.07 となり、選択肢の中で最も近いのは 2.1 である。
補足
純再生産率(1 人の女性が一生のうちに産む女児のうち、母親の年齢まで生き残る数の平均)でみると、人口置換水準は 1.0 にあたる。合計特殊出生率でみる場合は男児分と死亡分を含むため約 2.1 となる。
選択肢考察
- ×a. 1.0
誤り。1.0 は「純再生産率」で表したときの人口置換水準である(1 人の母親が 1 人の娘を残し、その娘が母親の年齢まで生き残れば世代が置き換わる)。合計特殊出生率は男児も含めた出生数なので、1.0 では人口は一世代でおよそ半分になってしまう。
- ×b. 1.1
誤り。人口置換水準を大きく下回る値である。近年の我が国の実際の合計特殊出生率(2023 年 1.20、2024 年 1.15 程度)に近い水準であり、置換水準との混同を狙った選択肢と考えられる。
- ×c. 1.9
誤り。2.0 にも届かない値であり、男女比と再生産年齢前の死亡を考慮しなくても人口は減少する。フランスやスウェーデンなど比較的出生率の高い先進国の水準に近いが、それでも置換水準を下回っている。
- ○d. 2.1
正しい。夫婦 2 人分の 2.0 に、出生性比が男児にやや偏っていること、そして女児の一部が出産可能年齢に達する前に死亡することを上乗せすると、我が国の人口置換水準は約 2.06〜2.07 となる。乳児死亡率や若年死亡率が極めて低い我が国では上乗せ分が小さく、四捨五入すると 2.1 である。
- ×e. 4.0
誤り。置換水準の約 2 倍であり、この出生率が続けば人口は急速に増加する。サハラ以南アフリカなど一部の高出生率の国でみられる水準である。なお、乳幼児死亡率が高い開発途上地域では、置換水準そのものも 2.1 より高く、平均で 2.4 程度になる。
出生に関する主な指標
・合計特殊出生率:15〜49 歳の女性の年齢別出生率の合計。1 人の女性が一生に産む子どもの平均数に相当する。男児・女児を区別しない。 ・総再生産率:合計特殊出生率のうち女児だけを数えたもの。母親世代の死亡は考慮しない。 ・純再生産率:総再生産率に、女児が母親の年齢まで生存する確率(生命表の生存率)を掛けたもの。1.0 が人口置換水準にあたり、1 を上回れば将来人口は増加、下回れば減少する。
人口置換水準を左右する因子
・出生性比(女児 100 に対する男児数、通常 105 前後) ・女児が再生産年齢に達するまでの死亡率(乳児死亡率・小児死亡率など) 死亡率が高い国ほど上乗せが必要になるため、置換水準は先進国で約 2.1、途上地域では 2.4 前後と高くなる。
我が国の状況
我が国の合計特殊出生率は、第 1 次ベビーブーム期(1947〜1949 年)には 4 を超えていたが、1970 年代半ば以降は人口置換水準を下回り続けている。1989 年には 1.57 を記録し「1.57 ショック」と呼ばれ、2005 年には 1.26 まで低下した。その後いったん回復したが再び低下し、近年は過去最低を更新している。なお、出生率が置換水準を下回っても、すぐには人口が減らず、しばらく増加が続くことがある(人口の年齢構成による「人口モメンタム」)。我が国の総人口は 2008 年頃をピークに減少に転じた。
乳児死亡率との関係
乳児死亡率(出生 1,000 対の生後 1 年未満の死亡数)は地域の健康水準を反映する重要な指標であり、我が国は世界で最も低い水準にある。この低さが、我が国の人口置換水準を 2.1 弱にとどめている要因の一つである。
POINT
・人口置換水準:人口を一定に保つ合計特殊出生率。我が国では約 2.07(≒2.1)。 ・2.0 ではなく 2.1 になる理由は、①出生性比で男児がやや多いこと、②女児の一部が再生産年齢前に死亡すること。 ・純再生産率で表すと置換水準は 1.0。 ・我が国の合計特殊出生率は 1970 年代半ば以降、置換水準を下回り続けている。
