StudyMed医師国家試験

左胸の下で鳴る「ポンポン」―Traube三角の境界と脾腫を見抜く打診

第117回医師国家試験 C問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第117回 C問題 第1問

腹部診察について,Traube三角を構成するのはどれか。3つ選べ。

  1. a.脊椎
  2. b.肋骨
  3. c.腋窩線
  4. d.腸骨稜
  5. e.肋骨弓

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腹部診察で使う体表の目印、Traube三角の境界を問う問題だ。単なる暗記問題に見えるけれど、この領域の深部に何があって、打診で何が分かるのかを理解すれば、境界も自然に覚えられる。Traube三角はどのあたりにあると思う?
医学生医学生
左の胸の下のほうだったと思います。OSCEの腹部診察の練習で、左上腹部を打診した記憶があります。
ドクタードクター
そう、左前胸部の下方から左側胸部にかけての領域だ。一般には、上を左第6肋骨、外側を左前腋窩線、下を左肋骨弓で囲まれた三角形、あるいは半月形の部分を指す。だから選ぶべきは肋骨、腋窩線、肋骨弓の3つになる。
医学生医学生
文献によって半月形と言われたり三角と言われたりするのは、形がきれいな三角ではないからですか。
ドクタードクター
そうなんだ。Traube's semilunar spaceという呼び方もあって、境界の記載にも多少幅がある。内側を第6肋骨の肋軟骨接合部とする記述もある。ただ、第6肋骨・前腋窩線・肋骨弓という3つの骨格は共通しているから、まずはここを押さえよう。
医学生医学生
この領域の深部には何があるんでしょうか。
ドクタードクター
胃底部から胃体部の上部だ。胃の中にはガスがあるから、健常な人を打診すると鼓音が聞こえる。いわゆる胃泡のあたりだね。大事なのは、この鼓音が失われて濁音になったときに異常を疑えること。何が原因になると思う?
医学生医学生
脾臓が近いので、脾腫ですか。
ドクタードクター
正解。脾臓はこの三角の後外側にあって、腫大すると前方・内下方に張り出してきて、三角の領域が濁音になる。もう一つの代表的な原因が左胸水だ。もともとTraube三角は胸水の診察に使われた領域で、のちに脾腫の評価にも使われるようになったんだよ。
医学生医学生
血液内科の実習で、慢性骨髄性白血病の患者さんの脾臓がおへそのほうまで触れたのを覚えています。あそこまで大きければ打診でも濁音になりそうですね。
ドクタードクター
間違いなく濁音になるね。正常な脾臓は通常は触れないから、触れたら正常の1.5〜2倍程度以上に腫大していると考えていい。打診はもっと小さな脾腫を拾うのに役立つ。では、正解に入らなかった選択肢も確認しよう。脊椎は何の目印かな。
医学生医学生
脊椎と第12肋骨で肋骨脊柱角、CVAですね。腎盂腎炎や尿管結石で叩打痛を見る部位です。
ドクタードクター
その通り。背部正中の構造だから、前胸部〜側胸部にあるTraube三角とは関係ない。腸骨稜はどうだろう。
医学生医学生
骨盤の上の縁なので、位置がずっと下すぎます。解剖実習で腰三角を習ったときに出てきた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。腸骨稜は広背筋・外腹斜筋とともに腰三角、つまりPetit三角を構成していて、腰ヘルニアの好発部位の一つだ。名前に三角がつく領域はほかにもあって、胆嚢摘出術で重要なCalot三角などと混同しないように整理しておくといい。
医学生医学生
Traube三角が濁音なら脾腫、と単純に考えていいんでしょうか。
ドクタードクター
そこは注意が必要だね。食直後で胃に内容物が充満しているとき、大腸に便塊があるとき、肥満の人、左下葉の肺炎などでも濁音になりうる。だから偽陽性を減らすには空腹時に打診するのが望ましい。逆に鼓音が保たれていれば、有意な脾腫の可能性は低いと考えられる。
医学生医学生
ほかに脾臓を打診する方法はありますか。
ドクタードクター
左前腋窩線上の最下位肋間を、深吸気と呼気で打診するCastell法がある。吸気で濁音になれば脾腫を疑う。また、右側臥位にして左後腋窩線上で脾濁音界の上下径を測るNixon法もある。どれも、脾臓が呼吸で下がってくることや、ガスのある臓器との境目を利用している点で考え方は同じだ。
医学生医学生
境界を丸暗記するより、胃泡の鼓音が脾臓や胸水で消える場所、と理解すると覚えやすいですね。
ドクタードクター
その理解があれば、ベッドサイドでも迷わないはずだ。超音波がすぐに使えない場面でも、打診一つで脾腫や胸水を疑えるのが身体診察の強みだよ。

まとめ

Traube三角は、左第6肋骨、左前腋窩線、左肋骨弓で囲まれた左前胸部下方〜側胸部の打診領域で、文献により半月形と表現されたり境界の記載にやや幅があったりします。深部には胃底部〜胃体部上部があり、健常者では胃内ガスによる鼓音を呈しますが、脾腫や左胸水があると濁音化するため、これらを疑う手がかりになります。ただし食直後、便塊、肥満、左下葉の肺病変などでも濁音になりうるため、空腹時の評価が望ましく、Castell法やNixon法と組み合わせて判断します。脊椎は肋骨脊柱角(腎の叩打痛)、腸骨稜は腰三角(Petit三角)の構成要素であり、体表の目印を目的とともに整理しておくと混同を防げます。境界を深部の臓器と打診所見の意味に結びつけて理解することは、画像検査に頼らずに異常を拾い上げる身体診察の基本につながります。

解答・解説

正解はb, c, eです

Traube三角(Traube腔、Traube's semilunar space とも呼ばれる)は、左前胸部下方から左側胸部にかけての打診領域である。一般に、上方を左第6肋骨、外側を左前腋窩線、下方を左肋骨弓で囲まれた三角形(半月形)の部分を指す。なお、文献によって境界の記載にはやや幅があり、内側を第6肋骨の肋軟骨接合部とし、上縁を第6肋骨、外側を前腋窩線、下縁を肋骨弓とする記述もある。 この領域の深部には胃底部〜胃体部上部があり、胃内のガスのため、健常者では打診で鼓音を呈する。この鼓音が失われ濁音になることが異常の手がかりとなる。代表的な原因は、領域の後外側に位置する脾臓の腫大(脾腫)と、左胸水の貯留である。 したがって本問では、境界を作る3つの構造である「肋骨(第6肋骨)」「腋窩線(左前腋窩線)」「肋骨弓(左肋骨弓)」を選べばよい。脊椎や腸骨稜は、体幹後面や腰部の別の解剖学的領域の目印である。

選択肢考察

  1. ×a.  脊椎

    Traube三角は前胸部〜側胸部の領域であり、背部正中にある脊椎は境界に関与しない。脊椎は第12肋骨とともに肋骨脊柱角(CVA:costovertebral angle)を構成する。肋骨脊柱角は腎臓の背側の体表投影部にあたり、腎盂腎炎や尿管結石などで叩打痛を確認する部位である。

  2. ○b.  肋骨

    左第6肋骨がTraube三角の上方(内上方)の境界をなす。これより上方は肺野となり、正常では清音となる。

  3. ○c.  腋窩線

    左前腋窩線がTraube三角の外側の境界をなす。脾臓はこの三角の後外側に位置し、腫大すると前方・内下方へ張り出して三角の領域に濁音を生じる。

  4. ×d.  腸骨稜

    腸骨稜は骨盤の上縁で、Traube三角よりはるかに下方にある。腸骨稜は広背筋・外腹斜筋とともに腰三角(Petit三角)を構成し、腰ヘルニアの好発部位の一つとして知られる。Traube三角の境界には含まれない。

  5. ○e.  肋骨弓

    左肋骨弓(左の肋骨下縁が作る弓状の縁)がTraube三角の下方の境界をなす。これより下は腹壁となる。

Traube三角の臨床的意義

・正常:胃内ガスによる鼓音。 ・濁音化の主な原因:脾腫、左胸水、左下葉の肺炎などによる浸潤影、胃内容物の充満(食直後)、大腸内の便塊、肥満。 ・脾腫の診察では、仰臥位で呼吸させながらTraube三角を打診し、鼓音が保たれていれば有意な脾腫の可能性は低く、濁音であれば脾腫を疑う。ただし食後や肥満では偽陽性になりやすいため、空腹時に行うのが望ましい。 ・もともとは胸水貯留の診察に用いられた領域で、のちに脾腫の評価にも用いられるようになった。

脾臓の打診・触診法

・Traube三角の打診:上記のとおり。 ・Castell法:左前腋窩線上の最下位肋間(第8または第9肋間)を、深吸気時と呼気時に打診する。吸気で濁音になれば脾腫を疑う。 ・Nixon法:右側臥位として、左後腋窩線上で脾濁音界の上下径を測定する。 ・正常の脾臓は通常触知されない。触知できる場合は、正常の1.5〜2倍程度以上に腫大していると考えられる。

体表の三角・目印の整理

・Traube三角:左第6肋骨・左前腋窩線・左肋骨弓。脾腫・左胸水の評価。 ・肋骨脊柱角(CVA):第12肋骨と脊柱。腎の叩打痛の評価。 ・腰三角(Petit三角):腸骨稜・広背筋・外腹斜筋。腰ヘルニアの発生部位。 ・Calot三角:胆嚢管・総肝管・肝下面(胆嚢摘出術で重要)。腹部体表の目印ではないが、名称が似るため混同に注意する。

POINT

・Traube三角=左第6肋骨・左前腋窩線・左肋骨弓で囲まれた領域。 ・正常では胃泡による鼓音。濁音化は脾腫や左胸水を示唆する。 ・脊椎は肋骨脊柱角(腎)、腸骨稜は腰三角(Petit三角)の構成要素であり、Traube三角とは無関係。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。