StudyMed医師国家試験

保険証1枚の重み―国民皆保険から読み解く日本の医療保険制度

第117回医師国家試験 B問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第117回 B問題 第21問

我が国の医療保険制度について正しいのはどれか。

  1. a.国民皆保険制度である。
  2. b.予防接種は対象である。
  3. c.保険医は保険者が指定する。
  4. d.65歳以上は後期高齢者医療制度に加入する。
  5. e.雇用主は被用者保険の保険料を全額負担する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は日本の公的医療保険制度の基本を問う問題だ。押さえる柱は4つ。「誰が加入するのか」「何が給付されるのか」「保険診療をする医師を誰が認めるのか」「保険料を誰が払うのか」。この枠組みで選択肢を見ていこう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で一通り習ったんですが、年齢の区切りや負担割合が混ざってしまって苦手なんです。
ドクタードクター
数字が多い分野だから混乱しやすいよね。まずは土台から。日本の医療保険の最大の特徴は何だと思う?
医学生医学生
国民皆保険ですよね。全員が何らかの保険に入っている、という。
ドクタードクター
正解。1961年に国民健康保険が全市町村で実施されて、国民皆保険が達成された。会社員や公務員とその扶養家族は被用者保険、自営業や無職の人は国民健康保険、75歳以上は後期高齢者医療制度に加入する。加入は任意ではなく義務で、国内に住所がある人は原則どれかの被保険者になる。例外として、生活保護受給者は国民健康保険から外れて医療扶助で対応されるよ。
医学生医学生
保険証1枚でどこの病院にも行けるフリーアクセスも、日本の特徴として習いました。
ドクタードクター
そうだね、皆保険とフリーアクセスはセットで覚えておこう。次に給付の範囲。予防接種は医療保険の対象になると思う?
医学生医学生
小児科の実習で乳児健診と一緒に予防接種もしていたので、保険診療の一部かと思っていました。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだ。医療保険の給付は「療養の給付」といって、病気やけがに対する診察・検査・投薬・手術・入院などが対象になる。病気になる前の予防は原則として対象外なんだ。予防接種、健康診断、正常分娩、美容目的の医療なども保険給付には含まれない。
医学生医学生
では定期接種の費用は誰が出しているんですか。
ドクタードクター
予防接種法に基づいて市町村が実施主体になっている。麻疹・風疹やBCGなどのA類疾病は原則公費で無料、高齢者のインフルエンザや肺炎球菌などのB類疾病は一部公費で自己負担を伴うことが多い。任意接種は原則自費だ。医療保険とは別の財布だと考えると分かりやすいね。
医学生医学生
保険医を指定するのは保険者、という選択肢もありました。健保組合とかが医師を選ぶイメージですか。
ドクタードクター
それは誤り。保険診療を行う医療機関は厚生労働大臣の「指定」、そこで働く医師は厚生労働大臣の「登録」を受ける。両方そろって保険診療ができる仕組みを二重指定制という。保険者は保険料を集め、審査支払機関を通じて診療報酬を払う側で、医師を指定する権限はないんだ。
医学生医学生
後期高齢者医療制度は65歳からだと思っていたんですが、違いましたっけ。
ドクタードクター
よくある取り違えだね。後期高齢者医療制度は原則75歳以上が対象だ。65〜74歳は前期高齢者と呼ばれるけど独立した制度はなく、それまでの保険に入ったまま保険者間で費用を調整している。ただし一定の障害があれば、申請と認定によって65歳から後期高齢者医療制度に加入できる。65歳という区切りは介護保険の第1号被保険者のほうだ。
医学生医学生
介護保険が65歳以上と40〜64歳、医療保険の後期高齢者が75歳以上、と分けて覚えます。
ドクタードクター
それでいい。最後は保険料。被用者保険の保険料は事業主が全額払うと思う?
医学生医学生
給与明細から健康保険料が引かれているのを見たことがあるので、本人も払っていますよね。
ドクタードクター
その通り。被用者保険は事業主と被保険者が分担して、協会けんぽでは原則折半だ。健康保険組合では事業主の割合を多くすることもできるけど、全額ではない。事業主が全額負担するのは労災保険なので、ここを混同しないように。
医学生医学生
結局、正しいのは国民皆保険だけですね。
ドクタードクター
そうだ。発展として、患者の自己負担割合も確認しておこう。義務教育就学前は2割、就学後から69歳までは3割、70〜74歳は2割、75歳以上は1割が原則で、所得に応じて割合が上がる。自己負担が一定額を超えれば高額療養費制度で払い戻される。臨床では、高額な治療を勧めるときにこの制度を説明できると患者さんの不安がずいぶん和らぐよ。
医学生医学生
制度を知っていると、治療方針の話し合いにも役立つんですね。
ドクタードクター
その通り。医師は保険医として制度の中で働く立場だから、仕組みを理解しておくことは患者さんへの説明責任にもつながるんだ。

まとめ

日本は1961年に国民健康保険の全市町村実施によって国民皆保険を達成し、すべての住民が被用者保険・国民健康保険・後期高齢者医療制度のいずれかに加入する仕組みになっています(生活保護受給者は医療扶助で対応)。医療保険の給付は傷病の診療が対象で、予防接種や健康診断、正常分娩は原則対象外であり、定期予防接種は予防接種法に基づき市町村が実施します。保険医療機関は厚生労働大臣が指定し、保険医は厚生労働大臣が登録する二重指定制で、保険者が指定するわけではありません。後期高齢者医療制度は原則75歳以上が対象で、65歳は介護保険第1号被保険者の区分です。被用者保険の保険料は労使で分担し、事業主が全額負担するのは労災保険です。こうした年齢区分や負担の仕組みを整理しておくことは、国試対策だけでなく、患者さんに医療費や制度を説明する臨床の場面でも役立ちます。

解答・解説

正解はaです

本問は、日本の公的医療保険制度の基本的な枠組みを問う一般問題である。押さえるべき柱は次の4点である。 1. 加入の仕組み:すべての国民がいずれかの公的医療保険に加入する「国民皆保険」である。 2. 給付の範囲:給付対象は疾病・負傷の診療(療養の給付)であり、予防や健康診断は原則として含まれない。 3. 医療提供側の資格:保険診療を行う医療機関(保険医療機関)と医師(保険医)は、いずれも厚生労働大臣の指定・登録を受ける(二重指定制)。保険者が個別に指定するのではない。 4. 制度の区分と財源:働き方と年齢によって、被用者保険・国民健康保険・後期高齢者医療制度(原則75歳以上)に分かれ、被用者保険の保険料は事業主と被保険者が分担する。 これらを各選択肢に当てはめると、正しいのはaのみである。

選択肢考察

  1. ○a.  国民皆保険制度である。

    正しい。日本では1961年(昭和36年)に国民健康保険が全市町村で実施されたことにより、国民皆保険が達成された。会社員や公務員とその扶養家族は被用者保険(健康保険組合、全国健康保険協会〔協会けんぽ〕、共済組合など)、自営業者・無職者などは国民健康保険、75歳以上は後期高齢者医療制度に加入し、国内に住所を有する者は原則として必ずいずれかの制度の被保険者となる(生活保護受給者は医療扶助で対応され、国民健康保険の適用から除外される)。加入は任意ではなく義務であり、保険証1枚で全国どの保険医療機関でも受診できる「フリーアクセス」と並ぶ日本の医療制度の特徴である。

  2. ×b.  予防接種は対象である。

    誤り。公的医療保険の給付(療養の給付)は、疾病や負傷に対する診察・検査・投薬・処置・手術・入院などの診療が対象であり、病気になる前の予防は原則として対象外である。予防接種のほか、健康診断・人間ドック、正常分娩、美容整形なども保険給付の対象とならない。予防接種法に基づく定期接種は医療保険ではなく市町村が実施主体となり、A類疾病(麻疹・風疹、ポリオ、BCGなど集団予防を主目的とするもの)は原則として公費で無料、B類疾病(高齢者のインフルエンザ・肺炎球菌など個人予防を主目的とするもの)は一部公費負担で自己負担を伴うことが多い。任意接種は原則として全額自己負担である。なお、B型肝炎ウイルスの母子感染予防のための新生児への抗HBsヒト免疫グロブリンとB型肝炎ワクチン投与のように、例外的に保険適用となるものもある。

  3. ×c.  保険医は保険者が指定する。

    誤り。保険診療に従事する医師(保険医)は、厚生労働大臣の登録を受けなければならない(実務上は地方厚生局長に申請する)。また、保険診療を行う医療機関(保険医療機関)も厚生労働大臣の指定を受ける必要がある。このように医療機関の「指定」と医師の「登録」の両方を求める仕組みを二重指定制という。保険者(健康保険組合、協会けんぽ、市町村など)は保険料を徴収し、医療機関から請求された診療報酬を審査支払機関を通じて支払う立場であり、保険医を指定する権限はもたない。

  4. ×d.  65歳以上は後期高齢者医療制度に加入する。

    誤り。後期高齢者医療制度(2008年創設)の対象は原則として75歳以上の者である。例外として、65〜74歳で一定の障害がある者は、本人の申請により後期高齢者医療広域連合の認定を受ければ加入できる。運営主体は都道府県単位で全市町村が加入する後期高齢者医療広域連合である。なお、65〜74歳は「前期高齢者」と呼ばれるが、独立した保険制度はなく、それまでの被用者保険や国民健康保険に加入したまま、保険者間で医療費負担を調整する仕組み(前期高齢者財政調整制度)がとられている。65歳という年齢は、介護保険の第1号被保険者の区分であり、混同しないよう注意する。

  5. ×e.  雇用主は被用者保険の保険料を全額負担する。

    誤り。被用者保険(健康保険など)の保険料は、事業主と被保険者(被用者)の双方が負担する。協会けんぽでは原則として労使折半(それぞれ1/2)であり、健康保険組合では規約により事業主の負担割合を1/2より多くすることができるが、事業主が全額を負担するわけではない。なお、労災保険(労働者災害補償保険)の保険料は事業主が全額負担するため、被用者保険と取り違えないことが重要である。

日本の公的医療保険の体系

・被用者保険(職域保険):健康保険(全国健康保険協会〔協会けんぽ〕=主に中小企業、健康保険組合=主に大企業)、船員保険、共済組合(公務員・私立学校教職員)。被扶養者も給付を受けられる。 ・国民健康保険(地域保険):自営業者、農林水産業者、無職者、退職者など。保険者は都道府県と市町村(2018年度から都道府県も保険者として財政運営の責任主体となった)、および職種別の国民健康保険組合。 ・後期高齢者医療制度:原則75歳以上。運営主体は後期高齢者医療広域連合。財源は公費約5割、現役世代からの支援金約4割、高齢者自身の保険料約1割。

患者の一部負担割合(原則)

・義務教育就学前:2割 ・義務教育就学後〜69歳:3割 ・70〜74歳:2割(現役並み所得者は3割) ・75歳以上:1割(一定以上の所得者は2割、現役並み所得者は3割) ※ 自己負担が一定額を超えた場合は高額療養費制度で払い戻される。

保険給付の対象外となる主なもの

予防接種、健康診断、正常妊娠・分娩(出産育児一時金が別途支給)、美容目的の医療、業務上の傷病(労災保険で対応)など。

関連する社会保険の年齢区分

・介護保険:第1号被保険者=65歳以上、第2号被保険者=40〜64歳の医療保険加入者。 ・医療保険:前期高齢者=65〜74歳、後期高齢者=75歳以上。

POINT

・日本は1961年に国民皆保険を達成した(国民健康保険の全市町村実施)。 ・医療保険の給付対象は傷病の診療であり、予防接種・健診・正常分娩は原則対象外。 ・保険医療機関は厚生労働大臣が指定し、保険医は厚生労働大臣が登録する(二重指定制)。保険者が指定するのではない。 ・後期高齢者医療制度は原則75歳以上(65〜74歳は一定の障害があり認定を受けた者のみ)。65歳は介護保険第1号被保険者の区分。 ・被用者保険の保険料は労使で負担(協会けんぽは折半)。事業主が全額負担するのは労災保険。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。