StudyMed医師国家試験

家では話せるのに、学校では声が出ない―「わざとじゃない」選択緘黙を見抜く

第117回医師国家試験 A問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第117回 A問題 第18問

7歳の女児。就学してから2か月間,教師や児童と会話をしないことを指摘され,心配した両親に連れられて来院した。幼稚園でもほとんど発語はなかったが,身振りでコミュニケーションはとれていた。幼少時から現在まで,家族とは普通に会話しており,知的な遅れは目立たない。神経診察を含む身体診察に異常を認めない。  考えられるのはどれか。

  1. a.吃音症〈小児期発症流暢症〉
  2. b.Tourette症候群
  3. c.学習障害
  4. d.選択緘黙
  5. e.素行症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は「話さない子ども」をどう鑑別するかという問題だ。ポイントは、話す能力そのものがあるのか、そしてどんな場面で話せないのか。この2点を軸に整理していこう。まず、家族とは普通に会話できているという情報から何がわかるかな。
医学生医学生
発声や言語の能力そのものには問題がない、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。「話さない」をみたら、まず話す能力がないのか、対人コミュニケーション自体に問題があるのか、それとも能力はあるのに特定の場面でだけ話せないのか、の3つに分けて考えるといい。家庭で年齢相応に話せるなら、言語発達の遅れや難聴、知的発達症は考えにくいね。
医学生医学生
小児科の実習で、言葉の遅れがある子はまず聴力検査をすると教わりました。今回は神経診察も知的発達も問題ないので、能力の問題ではなさそうです。
ドクタードクター
いい流れだ。では2つ目、対人コミュニケーションの障害はどうだろう。
医学生医学生
自閉スペクトラム症も考えましたが、幼稚園では身振りでやり取りできていたんですよね。
ドクタードクター
そこが大事な所見だよ。身振りで意思疎通できるということは、人と関わろうとする意欲や相手の話を理解する力は保たれている。自閉スペクトラム症なら場面を問わず社会的コミュニケーションの障害が出るから、家庭では普通に話せるという点とも合わない。つまり残るのは、話す力はあるのに、幼稚園や学校といった話すことを期待される場面でだけ一貫して話せない、というパターンだ。
医学生医学生
それが選択緘黙ですね。でも「選択」という名前だと、本人が話さないことを選んでいるように聞こえてしまいます。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだ。選択緘黙はDSM-5では不安症群に分類されていて、反抗や拒否ではなく、強い不安や緊張のために話そうとしても話せない状態なんだ。そのため場面緘黙という呼び方もよく使われる。
医学生医学生
精神科の講義で、社交不安症と同じグループだと聞いた気がします。
ドクタードクター
その理解でいい。診断の要件も確認しておこう。他の場面では話せるのに特定の社会的状況で一貫して話せない、それが学業や対人関係の妨げになっている、1か月以上続く、そして入学直後の最初の1か月だけに限られない、の4点が柱だ。加えて、言語の知識不足やほかの発話障害、精神疾患では説明できないことも必要になる。
医学生医学生
入学直後の1か月が除かれているのは、新しい環境で一時的に緊張して話さない子がいるからですね。今回は幼稚園の頃から続いているので当てはまります。
ドクタードクター
その通り。では、ほかの選択肢がなぜ違うかも見ておこう。吃音症はどうかな。
医学生医学生
吃音は「ぼ、ぼ、ぼくは」のように言葉が滑らかに出ない障害でした。家でも症状が出るはずですよね。
ドクタードクター
そうだね。連発、伸発、難発といった流暢性の障害で、場面によって程度に差はあっても家庭でもみられるのが普通だ。それに吃音のある子は話そうとするので、会話そのものをしないという状態とは違う。Tourette症候群は多彩な運動チックと音声チックが1年以上続くもので、話さないこととは関係がないし、チックの記載もない。
医学生医学生
学習障害は、読み書きや計算が苦手になるものなので、会話の問題ではないですね。
ドクタードクター
そう。知的な遅れがないのに特定の学習技能の習得が難しい神経発達症で、ディスレクシアが代表例だ。日常会話が場面によってできなくなる病態ではない。素行症は攻撃、破壊、窃盗など他人の権利や社会規範を繰り返し侵害する行動が特徴で、本例とはまったく違う像だね。
医学生医学生
能力、対人関係、場面という3段階で考えると、自然に選択緘黙にたどり着けるんですね。
ドクタードクター
その思考の流れが大切だよ。最後に臨床での対応だ。わざと黙っているわけではないから、話すことを強要したり叱ったりすると不安が強まって逆効果になる。安心できる環境を作り、うなずきや指差し、筆談など話さなくても参加できる工夫をしながら、段階的曝露を取り入れた認知行動療法などで少しずつ話せる場面を広げていく。学校との連携が欠かせない。
医学生医学生
先生が「どうして話さないの」と問い詰めてしまうと、かえって悪化しそうですね。家族への説明も大事になりそうです。
ドクタードクター
その通り。社交不安症の併存も多いので、成長とともに経過を見守る視点も持っておきたいね。

まとめ

家庭では普通に会話できるのに、幼稚園や学校など話すことが期待される特定の社会的場面で一貫して話せない状態が1か月以上続き、言語能力・知的能力・聴力に問題がなければ選択緘黙(場面緘黙)を考えます。選択緘黙はDSM-5で不安症群に分類され、反抗や拒否ではなく不安のために話せない状態であり、身振りや筆談など非言語的な意思疎通は保たれていることが多いのが特徴です。吃音症は家庭でも流暢性の障害がみられ、自閉スペクトラム症は場面を問わず社会的コミュニケーションが障害される点で区別でき、Tourette症候群や学習障害、素行症は症状の性質が異なります。対応では話すことを強要せず、安心できる環境づくりと段階的な支援、学校との連携が重要です。「話さない子ども」を能力・対人関係・場面の順に整理する考え方は、小児の発達や精神医学的問題を評価するうえでの基本となります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・7歳の女児。小学校入学後2か月にわたり、教師や同級生と会話をしない。 ・幼稚園の頃からほとんど発語がなかったが、身振りによる意思疎通はできていた。つまり、人と関わろうとする意思や、相手の言うことを理解する力は保たれている。 ・幼少期から現在まで、家族とは普通に会話できている。したがって、発声・構音・言語の能力そのものには問題がない。 ・知的な遅れは目立たず、神経診察を含む身体診察も正常で、聴覚障害や神経疾患を示す所見はない。

診断へのプロセス

「話さない」という主訴をみたら、①話す能力がないのか(言語発達の遅れ、知的発達症、難聴、構音や発話の流暢さの障害)、②対人的なコミュニケーション自体に問題があるのか(自閉スペクトラム症など)、③話す能力はあるのに特定の状況でだけ話せないのか、を順に考える。 本症例は家庭では年齢相応に話せるため①は否定的であり、家庭内外で身振りを含めた意思疎通がとれているため②も考えにくい。家庭では話せるのに、幼稚園・学校という「話すことが期待される特定の社会的場面」で一貫して話せない状態が長く続いており、③に当たる。これは選択緘黙(場面緘黙ともいう)の典型像である。

選択緘黙の要点

選択緘黙は、DSM-5では不安症群に分類される。本人がわざと話さない(反抗や拒否)のではなく、強い不安や緊張のために話そうとしても話せない状態である。DSM-5では、他の場面では話せるのに特定の社会的状況で一貫して話せないこと、それが学業や対人関係を妨げていること、1か月以上続いていること(入学直後の最初の1か月に限られないこと)、言語の知識不足や他の発話障害・精神疾患では説明できないことが診断の要件である。本症例は幼稚園時代から続き、入学後も2か月持続しているので要件を満たす。

選択肢考察

  1. ×a.  吃音症〈小児期発症流暢症〉

    誤り。吃音症は、話そうとしても言葉が滑らかに出ない発話の流暢性の障害である。音の繰り返し(連発:「ぼ、ぼ、ぼくは」)、音の引き伸ばし(伸発:「ぼーくは」)、言葉の出だしが詰まる(難発:「……っぼくは」)が特徴で、場面によって程度に差はあっても、家庭でも症状がみられるのが普通である。本症例は家族とは普通に会話でき、発話の流暢さの問題は記載されていないため当てはまらない。また吃音のある子どもは話そうとするので、会話そのものをしないという状態とは異なる。

  2. ×b.  Tourette症候群

    誤り。Tourette症候群はチック症のうち最も重いタイプで、多彩な運動チック(まばたき、首振り、肩すくめなど)と1つ以上の音声チック(咳払い、鼻鳴らし、汚言など)が、発症から1年以上続き、18歳未満で発症するものをいう。チックは不随意に起こる突発的な運動や発声であり、話さないという症状とは関係がない。本症例にチックの記載はない。

  3. ×c.  学習障害

    誤り。学習障害(DSM-5では限局性学習症)は、全般的な知的発達に遅れがないのに、読む・書く・計算するなど特定の学習技能の習得に著しい困難がある神経発達症である。代表例は読字障害(ディスレクシア)で、文字を読むことの障害であって、日常会話を自発的に行うことが障害されるわけではない。家庭では普通に話せるのに学校では話さないという本症例の特徴は説明できない。

  4. ○d.  選択緘黙

    正しい。家庭では家族と普通に会話できるのに、幼稚園や学校といった特定の社会的場面では一貫して話せない状態が1か月以上続いており、言語能力・知的能力・身体所見に異常がないことから、選択緘黙と診断できる。身振りによる意思疎通は保たれていることも、対人関係の意欲や理解力が保たれている選択緘黙に合致する。幼稚園や入学時など新しい集団に入る時期に気づかれることが多く、背景に強い不安や行動抑制的な気質があることが多い。

  5. ×e.  素行症

    誤り。素行症は、人や動物への攻撃、所有物の破壊、嘘や窃盗、重大な規則違反など、他者の基本的権利や年齢相応の社会規範を侵害する行動を反復・持続的に繰り返すものである。一部は成人後に反社会性パーソナリティ障害に移行する。本症例にはそのような反社会的・攻撃的行動はみられない。

選択緘黙(場面緘黙)

・分類:DSM-5では不安症群(分離不安症、社交不安症などと同じ群)に含まれる。 ・発症:多くは5歳未満で始まるが、幼稚園や小学校など集団生活に入ってはじめて気づかれることが多い。 ・特徴:話せない場面でも、うなずき・指差し・筆談など非言語的な方法でやり取りできることが多い。父親とは話せないなど、家庭内でも相手によって話せないことがある。 ・背景:不安が強く引っ込み思案な気質、社交不安症の併存が多い。わざと黙っているわけではないため、話すことを強要したり叱ったりすると不安が強まり逆効果である。 ・対応:安心できる環境づくり、話さなくても参加できる工夫、段階的曝露を取り入れた認知行動療法などが中心で、学校との連携が重要である。

「話さない子ども」の鑑別

・難聴:聴力検査で評価する。音への反応が乏しい。 ・知的発達症:言葉の遅れに加え、全般的な発達の遅れがある。 ・自閉スペクトラム症:場面を問わず、社会的コミュニケーションの障害(視線が合わない、共同注意の欠如など)と、限局した興味・反復行動がみられる。 ・言語症(言語発達の遅れ):どの場面でも語彙や文法の習得が遅れる。 ・吃音症:話そうとするが流暢に話せない。 ・選択緘黙:家庭など安心できる場面では正常に話せる。

分離不安症との違い

分離不安症も小児期に多い不安症で、愛着対象(主に親)から離れることへの過剰な不安が中心である。登校しぶり、分離時の激しい苦痛、頭痛・腹痛などの身体症状、分離をテーマとした悪夢などがみられる。本症例はこれらの記載がなく、問題は「場面による発話の有無」に限られている。

チック症の分類(DSM-5)

・暫定的チック症:運動チックまたは音声チックが1年未満。 ・持続性(慢性)運動または音声チック症:どちらか一方のみが1年以上。 ・Tourette症:多彩な運動チックと1つ以上の音声チックが1年以上。 チックは短時間なら意識して抑えられるが、緊張やストレスで増えやすい。

POINT

・家庭では普通に話せるのに、学校など特定の場面で一貫して話せない=選択緘黙(場面緘黙)。 ・選択緘黙はDSM-5で不安症群に分類され、わざと黙っているのではなく不安のため話せない。 ・診断には症状が1か月以上持続し、入学後最初の1か月に限られないことが必要。 ・言語能力・知的能力・聴力に問題がないことを確認し、自閉スペクトラム症、知的発達症、吃音症などと鑑別する。 ・話すことを強要せず、安心できる環境づくりと段階的な支援を行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。