StudyMed医師国家試験

「働きながら治す」を支える主治医の役割―治療と仕事の両立支援で誰が何を決めるのか

第116回医師国家試験 F問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第2問

入院していた患者が退院後の復職を希望している。  患者の治療と仕事の両立支援において,主治医として適切な対応はどれか。

  1. a.復職の可否を判定する。
  2. b.上司と一緒に受診させる。
  3. c.就労上の留意点を指導する。
  4. d.治療計画を雇用主に伝える。
  5. e.治療を優先し仕事を控えるよう指導する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、退院後に復職を望む患者さんに対して、主治医として何をすべきかを問う問題だ。キーワードは「治療と仕事の両立支援」。本人、主治医、産業医、事業者という登場人物がそれぞれどんな役割を持っているか、その役割分担に注目して考えてみよう。
医学生医学生
主治医が一番病状をわかっているので、復職できるかどうかを判定するのも主治医の仕事だと思っていました。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるんだけど、そこが落とし穴なんだ。主治医は診断書や意見書に「就業可能と考える」「こういう配慮が望ましい」という医学的な見解を書く。でも、実際の業務内容や人員配置、職場の安全配慮義務まで含めて最終的に復職の可否を決めるのは事業者なんだよ。その際に産業医の意見も聴くことになっている。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、産業医が職場と医療をつなぐ役だと習いました。主治医は職場の事情までは知らないから、ということですね。
ドクタードクター
その通り。厚生労働省は2016年に「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を公表していて、流れが整理されている。まず労働者本人が業務内容や勤務形態を記した勤務情報を主治医に渡す。主治医はそれを踏まえて、症状の見通し、治療予定、望ましい就業上の措置について意見書を書き、本人に渡す。本人がそれを事業者に提出し、事業者が産業医の意見も聴いて措置を決める、という流れだ。
医学生医学生
主治医の意見はあくまで本人を通じて職場に届くんですね。
ドクタードクター
そう。ここに大事な原則が2つある。支援の申し出は労働者本人から行うのが原則であること、そして病名や治療内容などの健康情報は本人の同意なしに職場へ伝えてはならないこと。では、治療計画を主治医から雇用主に伝える、という対応はどうだろう。
医学生医学生
守秘義務に反しそうです。医療倫理の授業で、刑法の秘密漏示罪の話が出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。本人の同意なく伝えれば守秘義務や個人情報保護に反する。両立支援では、職場に伝わるのは本人が提出する意見書を通じてで、内容も就業上の配慮に必要な範囲にとどめるのが原則だ。同じ理由で、上司と一緒に受診させる、というのも不適切だね。
医学生医学生
上司が横にいたら、体調や不安を正直に話しにくくなりそうです。
ドクタードクター
まさにそう。健康情報は機微な個人情報だし、主治医側から同伴を求めるものではない。調整が難航した場合に本人の同意のもとで職場関係者と面談することはあるけれど、通常の手順ではないんだ。
医学生医学生
それなら、治療を優先して仕事は控えるように言うのが一番安全な気もしますが……。
ドクタードクター
病状によっては自宅療養が必要な時期もあるけれど、今回の患者さんは復職を望んでいる。両立支援の趣旨は「治療を続けながら働き続けられるよう工夫する」ことだから、一律に仕事を控えさせるのはその逆なんだ。収入や社会的役割を失うことは生活の質を大きく下げてしまう。
医学生医学生
となると、正解は就労上の留意点を指導すること、ですね。
ドクタードクター
正解。主治医は本人から業務内容や通勤状況を聴き取り、通院頻度や薬の副作用といった治療の見通しを踏まえて、避けるべき作業、勤務時間の調整、通院のための休暇の確保などを具体的に助言する。必要ならその内容を意見書にまとめる。これが主治医の中心的な役割だよ。
医学生医学生
臨床実習で腫瘍内科を回ったとき、抗がん剤治療中の患者さんが「仕事は続けられますか」と聞いていたのを思い出しました。あの場面での答え方が大事なんですね。
ドクタードクター
そうだね。背景として、医療の進歩でがんなどを抱えながら長く働ける人が増えた一方、診断をきっかけに離職する人も少なくない。だから働き方改革実行計画でも両立支援は柱の一つになっている。対象はがんだけでなく、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、難病など幅広い。
医学生医学生
主治医が意見書を書くことは、診療報酬でも評価されているんでしょうか。
ドクタードクター
療養・就労両立支援指導料として評価されているよ。また、病院の看護師や医療ソーシャルワーカー、がん相談支援センター、産業保健総合支援センターの両立支援促進員など、本人と主治医と職場の橋渡しをする人たちもいる。主治医が一人で抱え込まず、こうした資源を活用することも臨床では大切だ。
医学生医学生
本人が出発点、主治医は医学的助言と意見書、産業医は職場向けの意見、事業者が最終決定、と整理して覚えます。
ドクタードクター
完璧な整理だね。誰が「決める」のか、情報は誰を通じて流れるのか、この2点を押さえておけば類題にも対応できるよ。

まとめ

治療と仕事の両立支援は、がんや脳卒中、糖尿病などで継続的な治療が必要な労働者が働き続けられるよう、医療機関と職場が連携して就業上の配慮を行う取り組みです。支援は労働者本人の申し出が出発点で、主治医は勤務情報を踏まえて就労上の留意点を本人に指導し、意見書を作成する役割を担います。復職や就業の可否を最終的に決めるのは事業者であり、産業医の意見も聴いて判断します。健康情報は本人の同意なく職場に伝えてはならず、主治医が治療計画を雇用主に直接伝えたり、上司の同伴を求めたりするのは不適切で、復職を望む患者に一律に就労を控えさせることも両立支援の趣旨に反します。関係者の役割分担と情報の流れを理解することは、患者の生活全体を支える医師として欠かせない視点です。

解答・解説

正解はcです

テーマ

治療と仕事の両立支援とは、がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、難病など、反復・継続して治療を要する疾病をもつ労働者が、治療を受けながら働き続けられるよう、職場(事業者)と医療機関が協力して就業上の配慮を行う取り組みである。厚生労働省は2016(平成28)年に「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を公表し、その後も改訂を重ねている。

関係者の役割分担

両立支援の基本的な流れは次のとおりである。 1. 労働者本人が、自分の業務内容や勤務形態などを記した勤務情報を主治医に提供する(事業者が作成を手伝うこともある)。 2. 主治医はその情報を踏まえ、症状の見通し、治療の予定、就業継続の可否、望ましい就業上の措置(作業の制限、通院への配慮など)について意見書を作成し、本人に渡す。 3. 労働者が意見書を事業者へ提出し、事業者は産業医など産業保健スタッフの意見も聴いたうえで、就業の可否や具体的な配慮内容を最終的に決定する(両立支援プランの作成など)。 ここで重要なのは、両立支援の申し出は労働者本人から行うのが原則であり、病名や治療内容などの健康情報は本人の同意なしに職場へ伝えてはならないこと、そして就業の可否・配慮の内容を「決める」のは主治医ではなく事業者であることである。

解き方

主治医の役割は、医学的な立場から患者の病状と治療の見通しを踏まえ、仕事を続けるうえで注意すべき点を本人に助言し、必要な情報を意見書として示すことである。この観点で選択肢を見れば、就労上の留意点を患者に指導する対応が主治医として適切であると判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  復職の可否を判定する。

    主治医は、診断書や意見書に「就業可能か」「どのような配慮が望ましいか」という医学的見解を記載する。しかし、職場の業務内容、人員配置、安全配慮義務などを総合して最終的に復職の可否を決めるのは事業者であり、その際には産業医の意見も参考にされる。主治医が復職の可否を判定するという理解は、両立支援における役割分担として誤りである。

  2. ×b.  上司と一緒に受診させる。

    患者の健康情報は機微な個人情報であり、職場の人間を診療に同席させるのは本人の明確な希望と同意がある場合に限られる。主治医側から上司の同伴を求めるのは不適切である。たとえ本人が同意しても、上司の前では体調や不安を率直に話しにくくなり、正確な病状把握が妨げられるおそれがある。復職調整が難航した場合などに、本人同意のもとで職場関係者と面談する例外的な場面はあるが、両立支援の通常の手順ではない。

  3. ○c.  就労上の留意点を指導する。

    主治医は疾病の治療に加え、患者の生活や就労について医学的助言を行うことが求められる。退院後に復職を希望する患者に対しては、本人から業務内容・勤務形態・通勤状況などを聴き取り、病状や今後の治療予定(通院頻度、薬物療法の副作用など)を踏まえて、避けるべき作業、勤務時間の調整、通院のための休暇確保などの留意点を具体的に指導する。これは両立支援において主治医が担う中心的な役割であり、必要に応じてその内容を意見書にまとめ、本人を通じて事業者に伝えることにもつながる。

  4. ×d.  治療計画を雇用主に伝える。

    治療計画は患者本人に説明するものであり、本人の同意なく雇用主に伝えれば医師の守秘義務(刑法上の秘密漏示罪の対象にもなりうる)や個人情報保護に反する。両立支援では、職場への情報提供は本人が意見書などを事業者に提出する形で行い、伝える内容も就業上の配慮に必要な範囲にとどめるのが原則である。本人の同意を得て産業医と情報を共有する場合はあるが、主治医が雇用主へ直接治療計画を伝えることは適切な対応ではない。

  5. ×e.  治療を優先し仕事を控えるよう指導する。

    病状によっては一定期間の自宅療養が必要と判断されることもあるが、本問の患者は退院後の復職を希望している。両立支援の考え方は、治療を続けながら就労を継続できるよう配慮を工夫することであり、一律に就労を控えさせる指導はその趣旨に反する。不必要な就労制限は、収入の喪失や社会的役割の喪失を招き、生活の質の低下にもつながる。

両立支援が求められる背景

医療の進歩により、がんなどの疾病をもちながら長期に生存・就労できる人が増えた。一方で、診断を機に離職する人も少なくなく、労働力人口の減少も背景に、疾病を理由に仕事を辞めずに済む体制づくりが社会的課題となった。働き方改革実行計画(2017年)でも、病気の治療と仕事の両立は重要な柱の一つとして位置づけられている。

ガイドラインの主な内容

・事業者による環境整備:基本方針の表明と周知、研修による意識啓発、相談窓口の明確化、時間単位の休暇・短時間勤務・テレワークなど治療に配慮した休暇・勤務制度の整備。 ・個別の支援の進め方:労働者からの申し出 → 勤務情報の主治医への提供 → 主治医の意見書 → 産業医等の意見聴取 → 事業者による就業上の措置の決定 → 両立支援プランや職場復帰支援プランの作成 → 実施と見直し。 ・留意事項:健康情報の取り扱い(本人同意、必要最小限の共有)、安全と健康の確保を優先すること、本人の就業意欲を尊重すること。 ・参考資料として疾病別の留意事項(がん、脳卒中、肝疾患、難病、心疾患、糖尿病など)や、企業と医療機関の連携マニュアルが示されている。

医療機関側の支援

・主治医の意見書作成や就労に関する指導は診療報酬上も評価されている(療養・就労両立支援指導料)。 ・がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターなどでは、就労相談に応じる体制がある。 ・医療機関の看護師や医療ソーシャルワーカー(MSW)、都道府県の産業保健総合支援センターに配置される両立支援促進員などが、本人・主治医・職場の橋渡しを担う。

関係者の役割の整理

・労働者本人:支援の申し出、勤務情報と主治医意見の職場への提出。 ・主治医:病状・治療の見通しの説明、就労上の留意点の指導、意見書の作成。 ・産業医:職場の実情を踏まえ、主治医意見を就業上の措置に落とし込むための意見を事業者に述べる。 ・事業者:就業可否と配慮内容の最終決定、プランの作成と実施。

POINT

・治療と仕事の両立支援で主治医が担うのは、医学的立場からの就労上の留意点の指導と意見書の作成である。 ・復職や就業の可否を最終的に決めるのは事業者であり、産業医の意見も聴いて判断する。 ・支援は労働者本人の申し出が出発点で、健康情報の職場への提供には本人の同意が必要である。 ・主治医が治療計画を雇用主に直接伝えたり、上司の同伴を求めたりするのは不適切である。 ・復職を望む患者に一律に就労を控えさせるのは両立支援の趣旨に反する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。