「出せない」のか「作られない」のか―尿閉の原因を2つの軸で整理する
第116回医師国家試験 E問題 第24問
国試問題にチャレンジ
尿閉の原疾患として正しいのはどれか。
- a.尿道下裂
- b.前立腺肥大
- c.膀胱尿管逆流
- d.間質性膀胱炎
- e.クラミジア性尿道炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
尿閉は膀胱に尿がたまっているのに排出できない状態であり、膀胱に尿がない無尿とは超音波検査で区別できます。原因は前立腺肥大症・尿道狭窄などの下部尿路の通過障害と、神経因性膀胱や抗コリン作用薬による膀胱収縮力の低下の2つに大別され、高齢男性の前立腺肥大症が最も頻度の高い原因です。尿道下裂は外尿道口の位置異常、膀胱尿管逆流は小児の繰り返す腎盂腎炎の原因、間質性膀胱炎は蓄尿障害、クラミジア性尿道炎は尿道の感染症で、いずれも典型的な尿閉の原因ではありません。前立腺肥大症の患者では感冒薬などの抗コリン作用薬や飲酒が急性尿閉の引き金となり、慢性尿閉は溢流性尿失禁や腎後性腎不全として現れることもあります。排尿障害を「蓄尿」と「排出」に分けて考える視点は、泌尿器科診療だけでなく日常の処方判断にも直結する基本です。
解答・解説
正解はbです
尿閉とは、膀胱内に尿がたまっているのに自力で排出できない状態である。腎臓で尿が作られない、あるいは尿管で尿が止まって膀胱に尿が来ない「無尿」とは区別する。尿閉は排尿障害のうち「排出障害(尿を出す過程の障害)」が高度になったものであり、その原因は大きく次の2つに分けて考える。 (1) 下部尿路の通過障害(閉塞):前立腺肥大症、前立腺癌、尿道狭窄、膀胱頸部硬化症、尿道結石、膀胱内の凝血塊など。 (2) 膀胱の収縮力の低下(排尿筋低活動):神経因性膀胱(糖尿病性末梢神経障害、腰部脊柱管狭窄症、骨盤内手術後、脊髄損傷など)や、抗コリン作用をもつ薬剤(総合感冒薬、抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬など)の影響。 本問では、選択肢のうち、下部尿路の通過障害や膀胱収縮力の低下をきたす疾患を探せばよい。それ以外の選択肢は、尿道の形の異常、腎盂腎炎の素地となる逆流、尿をためる過程(蓄尿)の障害、尿道の感染症であり、いずれも尿閉の典型的な原因ではない。
選択肢考察
- ×a. 尿道下裂
尿道下裂は、男児の外尿道口が亀頭の先端ではなく、陰茎の腹側(裏側)から会陰部までのどこかに開口する先天異常である。陰茎が腹側へ曲がる(陰茎屈曲)ことが多い。症状は、尿線が前方へまっすぐ飛ばず立位で排尿しにくいことや、将来の性交障害などであり、尿の通り道が閉塞するわけではないため、通常は尿閉の原因にならない。治療は尿道形成術である。
- ○b. 前立腺肥大
前立腺肥大症は、加齢とともに前立腺の移行域(尿道を取り囲む内側の部分)が腫大し、前立腺部尿道を圧迫して下部尿路の通過障害をきたす疾患である。高齢男性に非常に多く、尿閉の原因として最も頻度が高い。尿勢低下、排尿開始の遅れ、残尿感、頻尿・夜間頻尿などの症状が徐々に進行し、普段から排出障害がある人が、抗コリン作用をもつ薬(総合感冒薬など)の服用、飲酒、寒冷、長時間の排尿の我慢による膀胱の過伸展などをきっかけに急性尿閉を起こすことが多い。また、慢性的に残尿が増えると、膀胱から少しずつ尿があふれ出る溢流性尿失禁や、両側水腎症による腎機能障害をきたすこともある。
- ×c. 膀胱尿管逆流
膀胱尿管逆流(VUR:vesicoureteral reflux)は、膀胱尿管移行部の逆流防止機構がうまく働かず、膀胱内の尿が尿管・腎盂へ逆流する状態である。先天性のもの(尿管が膀胱壁内を走る距離が短いなど)が多く、小児、特に乳幼児で、繰り返す急性腎盂腎炎(有熱性尿路感染症)の原因となる。腎瘢痕を形成し、進行すると逆流性腎症から腎機能障害、高血圧をきたすことがある。膀胱からの尿の排出が妨げられるわけではないため、尿閉の原因にはならない。
- ×d. 間質性膀胱炎
間質性膀胱炎は、細菌感染がないのに膀胱に慢性的な炎症が起こり、頻尿・尿意切迫感と、尿がたまったときの膀胱痛(排尿すると軽くなる)を特徴とする疾患で、中高年女性に多い。膀胱の伸展性が低下し容量が小さくなるため、症状の中心は「尿をためられない」蓄尿障害であり、排出障害や尿閉はきたさない。膀胱鏡でHunner病変(ハンナ病変:特有の発赤した粘膜病変)を認めるハンナ型間質性膀胱炎は指定難病である。
- ×e. クラミジア性尿道炎
クラミジア性尿道炎はChlamydia trachomatisによる性感染症で、非淋菌性尿道炎の原因として最も多い。潜伏期は1〜3週間程度で、淋菌性尿道炎と比べて排尿時痛は軽く、尿道からの分泌物も少なく漿液性(さらさらした性状)であることが多い。無症状のことも少なくない。男性では精巣上体炎を合併することがある。尿道の炎症により排尿時痛は生じるが、尿の通過を閉塞させることはなく、尿閉の原因とはならない。治療はアジスロマイシンやドキシサイクリンなどである。
尿閉と関連する用語
・尿閉:膀胱内の尿を排出できない状態。急に起こる急性尿閉では下腹部の膨満と強い痛みを伴い、導尿で速やかに尿を出す必要がある。徐々に進む慢性尿閉では痛みが乏しく、溢流性尿失禁や腎後性腎不全で気づかれることがある。 ・無尿:1日尿量が100 mL以下の状態。膀胱に尿がないことが尿閉との違いで、超音波検査で膀胱内の尿の有無を確認すれば区別できる。
排尿障害の分類
・蓄尿障害(ためる障害):頻尿、尿意切迫感、尿失禁など。過活動膀胱、間質性膀胱炎、膀胱炎など。 ・排出障害(出す障害):尿勢低下、排尿開始の遅れ、腹圧排尿、残尿、尿閉など。前立腺肥大症、神経因性膀胱(排尿筋低活動)、尿道狭窄、抗コリン作用のある薬剤など。
前立腺肥大症の評価と治療
・評価:国際前立腺症状スコア(IPSS)による症状の重さ、直腸診、超音波検査による前立腺体積、尿流測定、残尿測定、PSA(前立腺癌との鑑別)など。 ・薬物療法:α1遮断薬(前立腺・膀胱頸部の平滑筋を弛緩させ尿道抵抗を下げる)、PDE5阻害薬、5α還元酵素阻害薬(前立腺を縮小させる)など。 ・手術療法:薬物療法で改善しない場合や、尿閉を繰り返す例、膀胱結石・水腎症などの合併症がある例では、経尿道的前立腺切除術(TURP)やレーザー核出術などを行う。 ・注意点:前立腺肥大症の患者に抗コリン薬(総合感冒薬、一部の抗うつ薬、過活動膀胱治療薬など)を使うと尿閉を誘発することがある。
急性尿閉への対応
・まず尿道カテーテルで導尿し膀胱を空にする。尿道からカテーテルが入らない場合は膀胱瘻造設を考慮する。
POINT
・尿閉の原因は「下部尿路の通過障害」と「膀胱収縮力の低下(神経因性膀胱・抗コリン薬)」に分けて考える。 ・最も頻度の高い原因は高齢男性の前立腺肥大症で、抗コリン作用のある薬や飲酒などが急性尿閉の引き金となる。 ・間質性膀胱炎は蓄尿障害(頻尿・膀胱痛)であり排出障害ではない。 ・膀胱尿管逆流は小児の繰り返す腎盂腎炎の原因であり、尿閉の原因ではない。 ・尿閉(膀胱に尿がある)と無尿(膀胱に尿がない)を区別する。
