StudyMed医師国家試験

凸レンズと骨折線―飲み会帰りの頭部外傷CTで急性硬膜外血腫を見抜く

第116回医師国家試験 D問題 第71問

国試問題にチャレンジ

第116回 D問題 第71問

47歳の男性。職場の飲み会の帰りに歩道橋の階段を踏みはずして受傷し,救急車で搬入された。来院時の意識レベルはJCSⅡ-10。体温36.6℃。血圧126/88mmHg。心拍数80/分,整。呼吸数16/分。SpO2 99%(リザーバー付マスク10 L/分酸素投与下)。来院時に緊急で撮影された頭部単純CTの水平断像と冠状断像(A)および骨条件の水平断像と冠状断像(B)を下に示す。  診断はどれか。2つ選べ。

第116回 D問題 第71問の問題画像
  1. a.頭蓋骨骨折
  2. b.急性硬膜外血腫
  3. c.急性硬膜下血腫
  4. d.外傷性脳内血腫
  5. e.びまん性軸索損傷

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、頭部外傷のCTから頭蓋内病変を診断する問題だ。注目点は2つ。脳を見る条件のCTで「血腫がどこに、どんな形でたまっているか」、そして骨条件で「骨折があるか」。2つ選ぶ問題なので、両方の条件を読むことが前提になっているね。まず全身状態はどう評価する?
医学生医学生
呼吸や循環は保たれていて、問題は意識障害ですね。JCS Ⅱ-10なので、呼びかけで開眼するレベルです。
ドクタードクター
そう。外傷初期診療のABCDEで言えば、A・B・C・Eは安定していて、Dに異常がある。しかも飲酒後だから、酔いのせいだと片付けてしまうと危ない。飲酒は意識の評価を難しくし、頭蓋内病変を見逃す危険因子なんだ。では画像を見てみよう。脳実質条件のCTでは、右の前頭頭頂部、頭蓋骨のすぐ内側に、両側に膨らんだ凸レンズ型の高吸収域がある。境界は明瞭で、脳表に沿って広がらず限局している。
医学生医学生
凸レンズ型なら硬膜外血腫ですね。でも、硬膜下血腫との見分け方を形で覚えているだけで、なぜそうなるのかはあいまいです。
ドクタードクター
大事なところだね。硬膜は頭蓋骨の内面に強く付着している。骨と硬膜の間に出血すると、硬膜をはがしながらでないと広がれないから、局所的に厚みを増して凸レンズ型になる。頭蓋縫合の部分では硬膜が特に強く付着しているので、縫合を越えにくいのも特徴だ。
医学生医学生
一方、硬膜下腔は硬膜とくも膜の間で、もともとくっついていないから、血液が脳表に沿って広く流れて三日月型になるんですね。
ドクタードクター
その通り。硬膜下血腫は縫合を越えて広がりうるけど、大脳鎌や小脳テントは越えない。次に骨条件のCTを見ると、血腫と同じ右側の頭蓋骨に線状の骨折線がある。
医学生医学生
骨折線は脳の条件だと見えにくいんですか。
ドクタードクター
そう、脳実質条件では骨が真っ白につぶれてしまうから、細い骨折は見落としやすい。頭部外傷では必ず骨条件でも確認する習慣をつけよう。今回は骨折線が血腫の直上にあるのがポイントだ。頭蓋骨の内面の溝には中硬膜動脈が走っていて、骨折でこれが傷つくと硬膜外血腫ができる。静脈洞や板間静脈が出血源になることもある。
医学生医学生
ということで、診断は頭蓋骨骨折と急性硬膜外血腫の2つですね。
ドクタードクター
正解。では残りの選択肢も確認しよう。急性硬膜下血腫は架橋静脈の破綻や脳挫傷からの出血で生じ、三日月型になる。今回の限局した凸レンズ型とは形が違う。外傷性脳内血腫はどうかな。
医学生医学生
脳実質の中に出血するものですよね。病理の講義で、脳挫傷の点状出血が癒合してできると習いました。
ドクタードクター
そう。CTでは脳実質内の高吸収域で、周囲に浮腫による低吸収域を伴うことが多い。点状出血と浮腫が混在する脳挫傷の像は「salt and pepper」と表現される。今回の高吸収域は脳の外、頭蓋骨の内側にあって、脳実質内に明らかな出血はないから違う。
医学生医学生
びまん性軸索損傷は、CTで所見がはっきりしないのが特徴でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。回転加速度などの剪断力で、白質、脳梁、脳幹の軸索が広く傷つく病態だ。受傷直後から意識障害が続くのに、CTでそれを説明できる血腫などがないことが特徴で、MRIのT2*強調像や磁化率強調像で微小出血を探す。今回は意識障害を説明できる血腫がはっきりあるから当てはまらない。
医学生医学生
救急科の実習で、頭部外傷の患者さんは「最初は話せていたのに急に悪くなることがある」と言われました。それが意識清明期ですか。
ドクタードクター
まさにそれ。急性硬膜外血腫では、受傷直後に一時的に意識が戻り、血腫が大きくなるにつれて再び意識が悪くなる意識清明期がみられることがある。動脈性の出血なので急速に増大し、脳ヘルニアに至りうる。だから神経所見と画像を厳重にフォローして、血腫の厚さが1〜2cm以上、あるいは血腫量が多い、切迫ヘルニアの徴候があるといった場合には、速やかに開頭血腫除去術を考える。
医学生医学生
硬膜下血腫より予後はいいんでしょうか。
ドクタードクター
脳実質の損傷が軽ければ、早期に手術すれば比較的良好だ。硬膜下血腫は脳挫傷を合併しやすく、予後不良例が多い。好発年齢も違って、硬膜外血腫は若年〜中年に多い。高齢者は硬膜が骨に強く癒着しているから硬膜外血腫はできにくく、逆に脳萎縮で架橋静脈が引き伸ばされているので硬膜下血腫が多い。ほかに骨条件では頭蓋底骨折も意識して、ブラックアイやバトル徴候、髄液漏、頭蓋内の空気がないかも確認しておこう。

まとめ

頭部外傷のCTで、頭蓋骨の内側に接する境界明瞭な凸レンズ型の高吸収域があり、骨条件で直上に線状骨折を認めれば、頭蓋骨骨折に伴う急性硬膜外血腫と診断できます。硬膜が頭蓋骨に強く付着しているため血腫は限局して凸レンズ型となり、典型的には骨折による中硬膜動脈の損傷が出血源です。三日月型で縫合を越えて広がれば急性硬膜下血腫、脳実質内の出血なら外傷性脳内血腫、CTで説明できない遷延性意識障害ならびまん性軸索損傷を考えてMRIで評価します。急性硬膜外血腫は意識清明期を経て急速に悪化しうるため、飲酒例でも意識障害を軽視せず、厳重な観察と適応に応じた速やかな開頭血腫除去術が重要です。脳実質条件と骨条件の両方で読影し、血腫の形から解剖学的な部位を推定する考え方は、救急外来での頭部外傷診療の基本になります。

解答・解説

正解はa, bです

所見の整理

・47歳男性。飲酒後に歩道橋の階段を踏みはずして受傷した頭部外傷である。飲酒は転倒の誘因となるだけでなく、意識状態の評価を難しくし、軽症にみえる頭部外傷でも頭蓋内病変を合併する危険因子とされる。なお近年、頭部外傷の受傷機転は交通事故よりも転倒・転落が多くなっている。 ・意識レベルはJCS Ⅱ-10(普通の呼びかけで容易に開眼する状態。GCSとは厳密には対応しないが、おおむねGCS 13前後に相当する)で、意識障害がある。 ・バイタルサインは、血圧126/88mmHg、心拍数80/分、呼吸数16/分、酸素投与下でSpO2 99%、体温36.6℃。外傷初期診療ではA(気道)、B(呼吸)、C(循環)、D(中枢神経障害)、E(脱衣と体温管理)の順に生理学的異常を評価・安定化するが、本例ではA・B・C・Eは保たれており、問題はD(意識障害)である。

画像所見

・CT(A:脳実質を見る条件):水平断・冠状断ともに、右側(画像の向かって左側)の前頭頭頂部の円蓋部に、頭蓋骨の内側に接する凸レンズ型(両凸型)の高吸収域を認める。境界は明瞭で、脳表に沿って広がらず限局している。これにより隣接する脳が圧排され、脳溝の狭小化や軽度の正中偏位がうかがえる。脳実質内に明らかな高吸収域(脳内出血)はみられない。 ・CT(B:骨条件):水平断・冠状断ともに、血腫と同じ右側の頭蓋骨に線状の骨折線を認める。

診断へのプロセス

頭蓋骨の内側に凸レンズ型の高吸収域があり、その直上に骨折線がある。硬膜は頭蓋骨の内面に強く付着しているため、骨と硬膜の間に生じた出血は広がりにくく、硬膜をはがしながら局所的に厚みを増して凸レンズ型となる。典型的には、骨折によって頭蓋骨内面の溝を走る中硬膜動脈(またはその枝、静脈洞、板間静脈)が損傷されて生じる。したがって診断は頭蓋骨骨折と、それに伴う急性硬膜外血腫である。 急性硬膜外血腫は、受傷直後に一時的に意識が回復し、その後血腫の増大とともに再び意識が悪化する「意識清明期(lucid interval)」を示すことがある。動脈性出血のため急速に増大して脳ヘルニアに至りうるので、意識障害を伴う本例では、神経所見と画像の経過を厳重に観察し、血腫量や圧排所見に応じて速やかに開頭血腫除去術を検討する必要がある。

選択肢考察

  1. ○a.  頭蓋骨骨折

    骨条件のCT(B)の水平断像・冠状断像で、右側の頭蓋骨に線状の骨折線が描出されている。骨折は脳実質条件では見落としやすいため、頭部外傷のCTでは必ず骨条件でも確認する。本例の骨折線は血腫の直上に位置しており、骨折が血管損傷を介して硬膜外血腫を生じさせたと考えられる。

  2. ○b.  急性硬膜外血腫

    CT(A)で、右前頭頭頂部の頭蓋骨内側に接する凸レンズ型の境界明瞭な高吸収域を認め、急性硬膜外血腫の典型像である。血腫は頭蓋骨と硬膜の間にあり、硬膜が骨に強く付着しているため頭蓋縫合を越えて広がりにくく、凸レンズ型を呈する。直上の頭蓋骨骨折により中硬膜動脈などが損傷されて生じたと考えられる。若年〜中年に多く、脳実質損傷の合併が少なければ、早期の手術で予後は比較的良好である。

  3. ×c.  急性硬膜下血腫

    急性硬膜下血腫は硬膜とくも膜の間に生じる血腫で、主に脳表と静脈洞をつなぐ架橋静脈の破綻や脳挫傷からの出血による。硬膜下腔では血液が脳表に沿って広く広がるため、CTでは三日月型の高吸収域となり、頭蓋縫合を越えて進展しうる。本例の血腫は凸レンズ型で限局しており、硬膜下血腫の形態ではない。なお急性硬膜下血腫は脳挫傷を合併しやすく、硬膜外血腫より予後が悪い。架橋静脈が伸展されやすい乳幼児や、脳萎縮があり硬膜が頭蓋骨に強く癒着して硬膜外血腫ができにくい高齢者に多い。

  4. ×d.  外傷性脳内血腫

    外傷性脳内血腫は脳実質内に生じる血腫で、多くは脳挫傷による小さな点状出血が癒合して形成される。CTでは脳実質内の高吸収域として描出され、周囲に浮腫による低吸収域を伴うことが多い。脳挫傷の点状出血と浮腫が混在する像は「salt and pepper(ごま塩状)」と表現される。本例のCT(A)では、高吸収域は頭蓋骨の内側に接して脳の外にあり、脳実質内に明らかな出血は認めないため否定的である。

  5. ×e.  びまん性軸索損傷

    びまん性軸索損傷は、回転加速度などの剪断力によって大脳白質、脳梁、脳幹などの神経軸索が広範に損傷される病態である。受傷直後から意識障害が遷延するのに、CTではそれを説明できる占拠性病変(血腫など)がないことが特徴で、診断にはMRI(T2*強調像や磁化率強調像での微小出血、拡散強調像など)が有用である。本例では意識障害を説明しうる硬膜外血腫が明らかに存在するため、この診断はあてはまらない。

急性硬膜外血腫と急性硬膜下血腫の比較

・部位:硬膜外血腫は頭蓋骨と硬膜の間、硬膜下血腫は硬膜とくも膜の間。 ・主な出血源:硬膜外血腫は中硬膜動脈(骨折に伴う損傷)、静脈洞、板間静脈。硬膜下血腫は架橋静脈、脳挫傷部の皮質動静脈。 ・CTの形態:硬膜外血腫は凸レンズ型で頭蓋縫合を越えにくい。硬膜下血腫は三日月型で縫合を越えて広がる(ただし大脳鎌・小脳テントは越えない)。 ・頭蓋骨骨折の合併:硬膜外血腫で高頻度(特に側頭部の線状骨折)。 ・好発年齢:硬膜外血腫は若年〜中年(高齢者では硬膜が骨に強く癒着するため少ない)。硬膜下血腫は乳幼児と高齢者に多い。 ・臨床経過:硬膜外血腫は意識清明期を示すことがある。硬膜下血腫は脳挫傷を伴い受傷直後から意識障害が強いことが多い。 ・予後:硬膜外血腫は脳損傷が軽ければ早期手術で比較的良好。硬膜下血腫は不良例が多い。

頭部外傷のCT読影のポイント

・脳実質条件(脳を見る条件)で血腫・脳挫傷・脳浮腫・正中偏位・脳槽の消失を確認する。 ・骨条件で骨折線を確認する。線状骨折、陥没骨折、頭蓋底骨折(髄液漏、鼻出血、耳出血、眼窩周囲の皮下出血であるブラックアイ、耳介後部の皮下出血であるバトル徴候を伴うことがある)に注意する。骨折線は血管溝や縫合線と見誤らないようにする。 ・頭蓋内の空気(気脳症)は開放性骨折や頭蓋底骨折を示唆する。

手術適応の目安(急性硬膜外血腫)

頭部外傷のガイドラインでは、厚さ1〜2cm以上または血腫量20〜30mL以上(後頭蓋窩では15〜20mL以上)の血腫、合併血腫の存在、切迫ヘルニアの徴候などがあれば手術適応とされる。神経症状が進行している例では緊急に開頭血腫除去術を行う。

意識レベルの評価

JCS(Japan Coma Scale)は、Ⅰ(刺激しなくても覚醒している:1・2・3)、Ⅱ(刺激で覚醒する:10・20・30)、Ⅲ(刺激しても覚醒しない:100・200・300)の3群9段階で評価する。JCS 10は「普通の呼びかけで容易に開眼する」状態である。表記は本来「JCS 10」のように数字で記すが、国家試験では「JCS Ⅱ-10」のように大分類を併記する形式が用いられている。

POINT

・凸レンズ型の高吸収域+直上の頭蓋骨骨折 → 急性硬膜外血腫(中硬膜動脈損傷が典型)。 ・三日月型の高吸収域で縫合を越えて広がる → 急性硬膜下血腫(架橋静脈の破綻、脳挫傷の合併が多い)。 ・急性硬膜外血腫では意識清明期がみられることがあり、急速な増大による脳ヘルニアに注意する。 ・頭部外傷のCTは脳実質条件と骨条件の両方で読影する。 ・遷延する意識障害を説明する占拠性病変がなければ、びまん性軸索損傷を考えMRIで評価する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。