副鼻腔の影に惑わされるな―通年性アレルギー性鼻炎に抗菌薬は要らない
第116回医師国家試験 D問題 第63問
国試問題にチャレンジ
28歳の男性。鼻閉と鼻漏を主訴に来院した。8年前から通年性に鼻閉,水様性鼻汁およびくしゃみを認めていた。体温36.0℃。鼻粘膜は蒼白で浮腫状,総鼻道は閉塞していた。副鼻腔エックス線写真で上顎洞粘膜の肥厚を認めた。 治療として適切でないのはどれか。
- a.抗菌薬内服
- b.減感作療法
- c.鼻内レーザー手術
- d.抗ヒスタミン薬内服
- e.副腎皮質ステロイド点鼻
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
くしゃみ・水様性鼻汁・鼻閉の三主徴と、蒼白で浮腫状の鼻粘膜はアレルギー性鼻炎を示し、通年性ならダニやハウスダストが主な原因です。上顎洞の粘膜肥厚はアレルギー性の粘膜浮腫でも生じるため、発熱や膿性鼻汁などの感染所見がなければ抗菌薬は不要で、適切な治療ではありません。治療は抗原回避、第2世代抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイドなどの薬物療法、自然経過を改善しうるアレルゲン免疫療法(舌下免疫療法はダニ・スギ花粉)、鼻閉の強い例での下鼻甲介レーザー焼灼などの手術療法を組み合わせます。点鼻用血管収縮薬の長期連用は薬剤性鼻炎を招く点にも注意が必要です。画像所見だけにとらわれず病態に基づいて治療を選ぶ姿勢は、抗菌薬適正使用の観点からも重要です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・28歳の男性。8年前から季節を問わず(通年性に)鼻閉、水様性鼻汁、くしゃみが続いている。この3症状はアレルギー性鼻炎の三主徴である。 ・体温36.0℃で発熱はなく、急性上気道炎や急性副鼻腔炎など急性の感染症を示唆する所見はない。 ・鼻粘膜は蒼白で浮腫状であり、総鼻道(鼻腔の中央部で各鼻道に通じる空間)が閉塞している。粘膜の蒼白・浮腫はアレルギー性鼻炎に特徴的な所見で、下鼻甲介粘膜の腫脹が鼻閉の主因となる。 ・副鼻腔エックス線写真で上顎洞粘膜の肥厚がある。アレルギー性鼻炎では鼻・副鼻腔粘膜の浮腫が副鼻腔にも及び、粘膜肥厚として描出されることがある。
診断へのプロセス
慢性の鼻症状をきたす疾患として、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、鼻中隔弯曲症、鼻副鼻腔腫瘍などを鑑別する。慢性副鼻腔炎は膿性~粘性の鼻汁や後鼻漏、頭重感が主体で、くしゃみは少ない。本例は水様性鼻汁とくしゃみがあり、粘膜が蒼白・浮腫状で、鼻中隔弯曲や腫瘤の記載もないことから、アレルギー性鼻炎と考える。通年性の経過から、原因抗原は室内のダニ(ハウスダスト)が最も考えられる(花粉が原因の場合は季節性になる)。確定には鼻汁好酸球検査、皮膚テスト・血清特異的IgE抗体検査、鼻誘発テストなどを行う。上顎洞粘膜肥厚は、膿性鼻汁や発熱を伴わない限り、アレルギー性の粘膜浮腫として扱うのが妥当である。
設問の考え方
「適切でないもの」を選ぶ問題である。通年性アレルギー性鼻炎の治療は、抗原の除去・回避に加え、薬物療法(抗ヒスタミン薬、鼻噴霧用ステロイド、抗ロイコトリエン薬など)、アレルゲン免疫療法(減感作療法)、手術療法(鼻粘膜レーザー焼灼など)からなる。細菌感染の根拠がない本例に抗菌薬を使う理由はない。
選択肢考察
- ○a. 抗菌薬内服
アレルギー性鼻炎はⅠ型アレルギー反応による疾患であり、細菌感染ではないため抗菌薬は効果がない。本例は発熱がなく、膿性鼻汁など細菌性副鼻腔炎を疑う所見もない。上顎洞粘膜の肥厚もアレルギー性の粘膜浮腫で説明できる。不要な抗菌薬投与は副作用や耐性菌の増加を招くため避けるべきであり、本例の治療として適切でない。
- ×b. 減感作療法
減感作療法(アレルゲン免疫療法)は、原因抗原を少量から投与して免疫学的な耐性を誘導する治療で、症状を抑えるだけの薬物療法と異なり、アレルギー性鼻炎の自然経過を改善しうる根本的な治療法である。皮下注射で行う皮下免疫療法と、自宅で舌下に投与する舌下免疫療法がある。わが国ではダニとスギ花粉に対する舌下免疫療法が保険適用となっており、通院負担が少なくアナフィラキシーなどの重篤な副作用もまれなことから普及している。ダニが原因と考えられる本例で適切な治療である。
- ×c. 鼻内レーザー手術
下鼻甲介の粘膜をレーザーで焼灼して粘膜を縮小・変性させ、鼻閉を改善する手術である。外来・局所麻酔で行え、くしゃみや鼻汁にも一定の効果がある。ただし効果は数年で減弱し再発することが多い。本例のように鼻閉が強く総鼻道が閉塞している例では適切な治療選択肢である。
- ×d. 抗ヒスタミン薬内服
抗ヒスタミン薬はヒスタミンH1受容体を遮断し、くしゃみと水様性鼻汁に特に高い効果を示す、アレルギー性鼻炎の薬物療法の基本薬である。眠気や抗コリン作用の少ない第2世代抗ヒスタミン薬が主に用いられる。本例の治療として適切である。
- ×e. 副腎皮質ステロイド点鼻
鼻噴霧用ステロイド薬は局所の強い抗炎症作用により、くしゃみ・鼻汁・鼻閉のいずれにも効果があり、中等症以上のアレルギー性鼻炎で中心となる薬剤である。現在の製剤は全身への吸収がわずかで、長期使用しても全身性副作用や鼻粘膜萎縮は起こりにくい。鼻閉が強い本例で適切である。
アレルギー性鼻炎の概要
・Ⅰ型(IgE依存性)アレルギーによる鼻粘膜の疾患。三主徴はくしゃみ・水様性鼻汁・鼻閉。 ・通年性:主にダニ(ハウスダスト)、ペット、真菌など。季節性:スギ・ヒノキ、イネ科、ブタクサなどの花粉。 ・所見:鼻粘膜の蒼白・浮腫状腫脹(特に下鼻甲介)、水様性分泌物。 ・検査:鼻汁好酸球増加、血清総IgE・特異的IgE抗体、皮膚テスト(スクラッチテスト・皮内テスト)、鼻誘発テスト。 ・反応の機序:即時相(くしゃみ・鼻汁、ヒスタミンが主役)と遅発相(鼻閉、ロイコトリエンや好酸球浸潤による粘膜腫脹が関与)。
治療の全体像
1. セルフケア(抗原の除去・回避):通年性ではこまめな掃除・換気、寝具の洗濯・乾燥、防ダニカバー、空気清浄機など。花粉症ではマスク・眼鏡、帰宅時に衣服の花粉を払うなど。 2. 薬物療法 ・第2世代抗ヒスタミン薬:くしゃみ・鼻漏型に有効。 ・抗ロイコトリエン薬:鼻閉に有効。 ・鼻噴霧用ステロイド薬:くしゃみ・鼻漏・鼻閉すべてに有効。 ・その他:抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2薬、化学伝達物質遊離抑制薬、短期間の点鼻用血管収縮薬(長期連用は薬剤性鼻炎を起こすため避ける)、重症のスギ花粉症では抗IgE抗体(オマリズマブ)。 3. アレルゲン免疫療法:皮下免疫療法、舌下免疫療法(ダニ・スギ花粉)。数年間の継続が必要。 4. 手術療法 ・鼻粘膜の縮小:レーザー焼灼術など。 ・鼻腔形態の改善:粘膜下下鼻甲介骨切除術、鼻中隔矯正術。 ・鼻漏の改善:後鼻神経切断術。
抗菌薬が適応となる鼻副鼻腔疾患との区別
・急性細菌性副鼻腔炎:膿性鼻汁、顔面痛、発熱などを伴う。中等症以上でアモキシシリンなどを用いる。 ・慢性副鼻腔炎:粘膿性鼻汁・後鼻漏が主体。マクロライド少量長期療法が用いられることがあるが、これは主に抗炎症・免疫調整作用を期待したものである。 アレルギー性鼻炎そのものは抗菌薬の適応ではない。
POINT
・くしゃみ・水様性鼻汁・鼻閉+蒼白浮腫状の鼻粘膜 → アレルギー性鼻炎。通年性ならダニ・ハウスダストが主な原因。 ・治療:抗原回避、薬物療法(第2世代抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、鼻噴霧用ステロイド)、アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法はダニ・スギ)、手術(下鼻甲介レーザー焼灼、粘膜下下鼻甲介骨切除、後鼻神経切断)。 ・感染所見(発熱・膿性鼻汁)がなければ抗菌薬は不要で、適切でない。 ・アレルゲン免疫療法は自然経過を改善しうる唯一の治療法。
