言葉を失った妻と付き添う夫―「同意」と「自傷他害」で決まる精神科の入院形式
第116回医師国家試験 C問題 第49問
国試問題にチャレンジ
75歳の女性。夜間に徘徊することに困った夫に付き添われて来院した。78歳の夫と2人暮らしである。60歳で発症したアルツハイマー型認知症が進行し,最近3か月はひとりで出かけて自宅から離れた場所まで歩き回り,警察に保護されることが多くなった。徘徊や不眠などの原因精査と治療のため,精神科病棟に入院することになった。本人はほとんど言葉を発せず,意思も確認できない。夫の認知機能に低下は認めない。 適切な入院形式はどれか。
- a.緊急措置入院
- b.措置入院
- c.応急入院
- d.医療保護入院
- e.任意入院
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
精神科病棟への入院形式は精神保健福祉法で定められており、「本人の同意の有無」→「自傷他害のおそれの有無」→「家族等の同意の可否」の順に考えると整理しやすくなります。本人が同意できれば任意入院、自傷他害のおそれがあれば指定医2名以上の診察による措置入院(急を要すれば指定医1名で72時間以内の緊急措置入院)、自傷他害のおそれはないが本人が同意できない場合は、家族等の同意による医療保護入院、家族等の同意も得られず急速を要すれば応急入院となります。意思表示ができない認知症患者で、徘徊はあっても自傷他害には当たらず、判断能力の保たれた夫が付き添っている本例は、医療保護入院が適切です。2024年施行の法改正で医療保護入院に期間上限が設けられるなど制度は変化しており、BPSDへの対応とあわせて、患者の人権と安全を両立させる視点を身につけることが臨床で重要です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・75歳女性。60歳で発症したAlzheimer型認知症が進行している。 ・この3か月、ひとりで外出して遠方まで歩き回り、警察に保護されることが増えた(徘徊)。不眠もみられる。 ・徘徊や不眠の原因精査と治療のため、精神科病棟への入院が必要と判断された。 ・本人はほとんど発語がなく、入院に関する意思を確認できない。 ・同居する夫(78歳)が付き添っており、夫の認知機能は保たれている。
入院形式を決める考え方
精神科病棟への入院は「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」で形式が定められている。選ぶ手順は次のように整理できる。 1. 本人が入院に同意できるか → できれば任意入院を優先する。 2. 同意できない場合、自傷他害(自分を傷つける、または他人に害を及ぼす)のおそれがあるか → あれば行政(都道府県知事等)の権限による措置入院、急を要し正式な手続きが取れなければ緊急措置入院。 3. 自傷他害のおそれはないが、医療と保護のために入院が必要な場合 → 家族等の同意が得られれば医療保護入院、急速を要し家族等の同意を得られなければ応急入院。 本例では、本人の意思が確認できないため任意入院は成り立たない。徘徊は本人が事故などに遭う危険をはらむが、精神症状によって自らを傷つけたり他人を害したりする「自傷他害のおそれ」には当たらず、措置入院の要件を満たさない。夫という家族が同伴しており、夫は認知機能も保たれ、入院への同意能力がある。したがって、精神保健指定医が診察して入院の必要性を判断し、夫の同意を得て行う医療保護入院が適切である。
選択肢考察
- ×a. 緊急措置入院
緊急措置入院は、自傷他害のおそれが著しく、かつ急速を要するために措置入院の正規の手続き(精神保健指定医2名の診察)が取れない場合に、指定医1名の診察で都道府県知事(または指定都市の市長)の権限により行う入院である。入院期間は72時間以内に限られ、その間に措置入院の要否を判定する。本例には自傷他害のおそれがなく、適応とならない。
- ×b. 措置入院
措置入院は、精神障害のため自傷他害のおそれがあると、精神保健指定医2名以上の診察結果が一致した場合に、都道府県知事(または指定都市の市長)の権限で行う入院である。本人や家族の同意は不要で、費用は原則として公費負担となる。本例の徘徊は本人の安全上の問題ではあるが、自傷他害のおそれには該当しないため適応とならない。
- ×c. 応急入院
応急入院は、医療と保護のために直ちに入院させなければ著しく支障がある精神障害者で、本人の同意がなく、かつ家族等の同意も得られない(家族等と連絡がつかないなど)場合に、精神保健指定医の診察により72時間以内に限って行う入院である。都道府県知事が指定した応急入院指定病院でのみ可能である。本例では夫が同伴しており、家族の同意を得られる状況にあるため、応急入院を選ぶ理由はない。
- ○d. 医療保護入院
医療保護入院は、精神保健指定医が診察し、精神障害者であって医療と保護のために入院が必要であるが、本人が入院に同意できる状態にないと判断した場合に、家族等(配偶者、親権者、扶養義務者、後見人・保佐人)のいずれかの同意によって行う入院である。本例は、認知症の進行による徘徊・不眠の精査と治療のために入院が必要で、本人は意思表示ができず任意入院が不可能、自傷他害のおそれはなく措置入院の対象でもない。同意能力のある配偶者が付き添っており、その同意を得て医療保護入院とするのが適切である。病院の管理者は入院後10日以内に都道府県知事へ届け出る。
- ×e. 任意入院
任意入院は本人の同意に基づく入院であり、精神保健福祉法では精神科入院はまず任意入院となるよう努めることが求められている。しかし本例は発語がほとんどなく、入院について理解し同意する意思を確認できないため、任意入院は成立しない。家族が同意していても、本人の同意の代わりにはならない。
精神保健福祉法に基づく主な入院形式
・任意入院:本人の同意による。本人から退院の申し出があれば原則退院させるが、精神保健指定医が入院継続の必要を認めた場合は72時間(特定医師の診察では12時間)に限り退院を制限できる。 ・医療保護入院:指定医の診察+家族等の同意。本人の同意は不要。家族等がいない、または全員が意思表示を行わない場合は市町村長の同意で行う。2022年の法改正(2024年4月施行)で、入院期間の上限(最初の6か月以内、以後は要件を確認して更新)が設けられ、虐待(DV等)の加害者である家族は同意者から除外されることとなった。 ・応急入院:指定医の診察、本人・家族等の同意なし、急速を要する場合。72時間以内。応急入院指定病院に限る。 ・措置入院:自傷他害のおそれ。指定医2名以上の診察結果の一致により、都道府県知事(指定都市の市長)が命じる。費用は公費負担が原則。 ・緊急措置入院:自傷他害のおそれが著しく急を要する場合。指定医1名の診察で、都道府県知事(指定都市の市長)が命じる。72時間以内。
認知症の行動・心理症状(BPSD)
認知症では記憶障害などの中核症状に加えて、徘徊、不眠、興奮、妄想、幻覚、抑うつなどの行動・心理症状(BPSD:behavioral and psychological symptoms of dementia)がみられる。BPSDは身体疾患(便秘、感染症、疼痛など)、薬剤、環境の変化などで誘発・増悪することがあり、まずその原因を検索し、環境調整などの非薬物療法を優先する。在宅での介護が困難になった場合、精査と治療目的に精神科病棟への入院が検討される。
POINT
・入院形式は「本人の同意の有無」→「自傷他害のおそれの有無」→「家族等の同意の可否」の順に考える。 ・本人の同意あり:任意入院。 ・本人の同意なし+自傷他害のおそれなし+家族等の同意あり:医療保護入院(指定医1名の診察)。 ・本人・家族等の同意が得られず急を要する:応急入院(72時間以内、応急入院指定病院)。 ・自傷他害のおそれ:措置入院(指定医2名以上の一致、都道府県知事等の権限)。急を要すれば緊急措置入院(指定医1名、72時間以内)。 ・認知症の徘徊は、それだけでは自傷他害のおそれには当たらない。
