お腹を覆う巨大な脾臓―「慢性」と「髄外造血」が生む巨脾の正体
第116回医師国家試験 C問題 第31問
国試問題にチャレンジ
骨盤腔に及ぶ脾腫がみられる頻度が高いのはどれか。2つ選べ。
- a.多発性骨髄腫
- b.原発性骨髄線維症
- c.急性骨髄性白血病
- d.慢性骨髄性白血病
- e.急性リンパ性白血病
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
骨盤腔に及ぶ巨脾をきたす代表的な血液疾患は、骨髄増殖性腫瘍の慢性骨髄性白血病と原発性骨髄線維症です。慢性骨髄性白血病ではBCR::ABL1による腫瘍細胞の脾臓浸潤と髄外造血が、原発性骨髄線維症では骨髄線維化に伴う髄外造血が、慢性の経過で長期間続くことで脾臓が著しく腫大します。一方、急性白血病の脾腫は軽度〜中等度にとどまることが多く、多発性骨髄腫はCRABを主徴とし脾腫はまれです。巨脾の鑑別にはヘアリーセル白血病、マラリア、Gaucher病なども挙がり、早期満腹感や脾梗塞などの症状にも注意が必要です。「浸潤」と「髄外造血」という機序と経過の速さから脾腫の程度を推測する考え方は、血液疾患の理解と身体診察の両方に役立ちます。
解答・解説
正解はb, dです
骨盤腔にまで達するような著明な脾腫(巨脾)をきたしやすい疾患を問う問題である。 脾臓は通常、左上腹部の肋骨弓の内側に収まり、体表からは触知できない。脾臓が腫大すると左肋骨弓下から臍の方向(右下方)へ伸びるように大きくなり、極端な場合は臍を越えて骨盤腔にまで達する。このような巨脾をきたす代表的な血液疾患は、骨髄増殖性腫瘍の中の慢性骨髄性白血病(CML)と原発性骨髄線維症(PMF)である。 巨脾の機序は主に二つある。一つは腫瘍細胞そのものが脾臓で増殖・浸潤すること(CMLで顕著)、もう一つは骨髄で造血できなくなった結果、脾臓で造血が行われること(髄外造血、PMFで顕著)である。いずれも慢性の経過で長期間かけて脾臓が大きくなるため、著明な腫大に至りやすい。 これに対し、急性白血病は経過が急で、脾腫がみられても軽度〜中等度にとどまることが多い。多発性骨髄腫は骨髄内で形質細胞が増殖する疾患で、脾腫はまれである。
選択肢考察
- ×a. 多発性骨髄腫
多発性骨髄腫は、免疫グロブリンを産生する形質細胞(B細胞が分化した細胞)が骨髄で腫瘍性に増殖する疾患である。主な臓器障害は高カルシウム血症(C)、腎障害(R)、貧血(A)、溶骨性の骨病変(B)で、頭文字をとってCRABとよばれる。病変の主座は骨髄・骨であり、脾腫をきたすことは少なく、巨脾はみられない。
- ○b. 原発性骨髄線維症
原発性骨髄線維症は骨髄増殖性腫瘍の一つで、骨髄の線維化が進行して骨髄での造血が障害される。その代償として脾臓や肝臓で造血が行われる(髄外造血)ため、脾臓が著しく腫大し、骨盤腔に達する巨脾を呈することがまれではない。末梢血では涙滴赤血球、白赤芽球症(幼若な赤血球系・顆粒球系細胞の出現)がみられ、骨髄穿刺では細胞が吸引されにくいdry tapとなる。
- ×c. 急性骨髄性白血病
急性骨髄性白血病では、白血病細胞の浸潤により肝脾腫をきたすことはあるが、多くは軽度〜中等度であり、骨盤腔に及ぶほどの巨脾となることは少ない。経過が急で、汎血球減少による貧血・出血傾向・感染症などの症状が前面に出やすい。
- ○d. 慢性骨髄性白血病
慢性骨髄性白血病は、フィラデルフィア染色体〔t(9;22)〕上のBCR::ABL1融合遺伝子によって造血幹細胞が腫瘍化し、成熟傾向を保った顆粒球系細胞が著しく増加する疾患である。増加した細胞が脾臓に浸潤し、髄外造血も加わるため、慢性期から巨脾をきたしやすく、骨盤腔に達することもある。チロシンキナーゼ阻害薬による治療で脾腫は縮小する。
- ×e. 急性リンパ性白血病
急性リンパ性白血病では、リンパ節腫脹や肝脾腫がみられることがあり(特に小児で多い)、急性骨髄性白血病より脾腫の頻度はやや高い。しかし多くは軽度〜中等度で、骨盤腔に及ぶ巨脾となる頻度は低い。
脾臓の大きさと脾腫
正常の脾臓は長さ約10cm、幅約6〜7cm、厚さ約3〜4cm、重さ100〜150g程度で、通常は触知しない。画像で長径が10cmを大きく超える場合や触知できる場合に脾腫と判断する。
巨脾(骨盤腔・臍下に達する著明な脾腫)をきたす主な疾患
・血液疾患:慢性骨髄性白血病、原発性骨髄線維症、真性赤血球増加症の進行期(二次性骨髄線維症)、ヘアリーセル白血病、脾辺縁帯リンパ腫などの低悪性度リンパ腫、重症型サラセミア ・感染症:マラリア(慢性)、内臓リーシュマニア症(カラアザール) ・代謝性疾患:Gaucher病
軽度〜中等度の脾腫をきたす主な疾患
急性白血病、悪性リンパ腫、溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症など)、伝染性単核球症などのウイルス感染症、感染性心内膜炎、肝硬変による門脈圧亢進症、全身性エリテマトーデスなど
骨髄増殖性腫瘍の整理
・慢性骨髄性白血病:BCR::ABL1融合遺伝子。白血球増加(各成熟段階の顆粒球)、好塩基球増加、好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコア低値。 ・原発性骨髄線維症:JAK2、CALR、MPLの遺伝子変異。骨髄線維化、髄外造血、涙滴赤血球、白赤芽球症、dry tap。 ・真性赤血球増加症:JAK2変異。赤血球増加。脾腫を伴うことが多い。 ・本態性血小板血症:JAK2、CALR、MPL変異。血小板増加。脾腫は軽度。
巨脾に伴う症状
腹部膨満感、早期満腹感、左上腹部痛(脾梗塞を起こすと強い痛み)、脾機能亢進による血球減少など。
POINT
・巨脾(骨盤腔に及ぶ脾腫)の代表は慢性骨髄性白血病と原発性骨髄線維症。 ・機序:CMLは腫瘍細胞の浸潤+髄外造血、PMFは骨髄線維化による髄外造血。 ・急性白血病の脾腫は軽度〜中等度が多い。 ・多発性骨髄腫はCRABが特徴で、脾腫はまれ。
