StudyMed医師国家試験

お腹を覆う巨大な脾臓―「慢性」と「髄外造血」が生む巨脾の正体

第116回医師国家試験 C問題 第31問

国試問題にチャレンジ

第116回 C問題 第31問

骨盤腔に及ぶ脾腫がみられる頻度が高いのはどれか。2つ選べ。

  1. a.多発性骨髄腫
  2. b.原発性骨髄線維症
  3. c.急性骨髄性白血病
  4. d.慢性骨髄性白血病
  5. e.急性リンパ性白血病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、骨盤腔にまで達するような著明な脾腫、いわゆる巨脾をきたしやすい血液疾患を選ぶ問題だ。ポイントは「なぜ脾臓がそこまで大きくなるのか」という機序と、「どれくらいの時間をかけて大きくなるのか」という経過の2つ。まずは脾臓の位置から確認しよう。
医学生医学生
解剖実習では、左上腹部の肋骨の内側に隠れていて、思ったより小さい臓器という印象でした。
ドクタードクター
そうだね。正常の脾臓は長さ10cm前後、重さ100〜150g程度で、普通は体表から触れない。腫大すると左肋骨弓の下から臍の方向、つまり右下に向かって伸びていき、極端な場合は臍を越えて骨盤腔に届く。では、そこまで大きくなる理由として何が考えられるかな。
医学生医学生
腫瘍細胞が脾臓に入り込んで増えること、でしょうか。
ドクタードクター
それが一つ目。もう一つ大事なのが髄外造血だ。骨髄で血を造れなくなると、胎児期に造血を担っていた脾臓や肝臓が再び造血を始める。この2つの機序を長期間にわたって受け続けると、脾臓は著しく大きくなる。
医学生医学生
だとすると、白血病ならどれでも巨脾になりそうな気がします。急性骨髄性白血病も腫瘍細胞が浸潤しますよね。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。急性白血病でも肝脾腫は起こりうるけれど、多くは軽度〜中等度にとどまる。経過が急で、脾臓が巨大化する前に汎血球減少による貧血、出血傾向、感染症が前面に出てくるからだ。急性リンパ性白血病は特に小児でリンパ節腫脹や肝脾腫をみることがあり、急性骨髄性白血病よりは脾腫の頻度がやや高いけれど、それでも骨盤腔に及ぶほどにはなりにくい。
医学生医学生
なるほど、「慢性」というのがカギなんですね。それなら慢性骨髄性白血病は当てはまりそうです。
ドクタードクター
その通り。慢性骨髄性白血病はフィラデルフィア染色体、つまりt(9;22)によるBCR::ABL1融合遺伝子で造血幹細胞が腫瘍化し、成熟傾向を保った顆粒球系細胞が著しく増える。増えた細胞の脾臓への浸潤に髄外造血も加わって、慢性期から巨脾をきたしやすい。チロシンキナーゼ阻害薬で治療すると脾腫は縮小する。
医学生医学生
もう一つは原発性骨髄線維症ですか。病理の講義で骨髄が線維だらけになった標本を見ました。
ドクタードクター
正解。骨髄の線維化が進んで骨髄での造血が障害され、その代償として脾臓や肝臓で髄外造血が盛んになる。こちらは髄外造血の機序が前面に出る典型例で、骨盤腔に達する巨脾もまれではない。末梢血では涙滴赤血球や、幼若な赤血球系と顆粒球系の細胞が出現する白赤芽球症がみられ、骨髄穿刺では細胞が引けないdry tapになる。
医学生医学生
多発性骨髄腫はどうでしょう。骨髄の腫瘍なので、骨髄が置き換わって髄外造血が起きたりしないんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。でも多発性骨髄腫は形質細胞が骨髄で増殖する疾患で、病変の主座は骨髄と骨にある。臓器障害は高カルシウム血症、腎障害、貧血、溶骨性病変の頭文字をとったCRABが中心で、脾腫は少なく、巨脾はみられない。だから正解は慢性骨髄性白血病と原発性骨髄線維症の2つだ。
医学生医学生
機序で整理すると、慢性骨髄性白血病は浸潤と髄外造血、原発性骨髄線維症は線維化による髄外造血、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、巨脾をきたす疾患をもう少し広げておこう。血液疾患では真性赤血球増加症から移行した二次性骨髄線維症、ヘアリーセル白血病、脾辺縁帯リンパ腫などの低悪性度リンパ腫、重症型サラセミア。感染症では慢性のマラリアや内臓リーシュマニア症、代謝性疾患ではGaucher病が代表的だ。
医学生医学生
血液内科の実習で、慢性骨髄性白血病の患者さんが「少し食べるとすぐお腹がいっぱいになる」と話していました。あれも脾臓のせいだったんですね。
ドクタードクター
まさにそう。巨脾になると胃が圧排されて早期満腹感や腹部膨満感が出るし、脾梗塞を起こせば強い左上腹部痛になる。脾機能亢進による血球減少も起こりうる。触診では、臍の方向に向かって下から触れていかないと、大きすぎる脾臓の下端を見逃すことがあるから注意しよう。
医学生医学生
OSCEで練習した腹部の触診も、右下腹部から始めるように習いました。巨脾を見逃さないための手順だったんですね。

まとめ

骨盤腔に及ぶ巨脾をきたす代表的な血液疾患は、骨髄増殖性腫瘍の慢性骨髄性白血病と原発性骨髄線維症です。慢性骨髄性白血病ではBCR::ABL1による腫瘍細胞の脾臓浸潤と髄外造血が、原発性骨髄線維症では骨髄線維化に伴う髄外造血が、慢性の経過で長期間続くことで脾臓が著しく腫大します。一方、急性白血病の脾腫は軽度〜中等度にとどまることが多く、多発性骨髄腫はCRABを主徴とし脾腫はまれです。巨脾の鑑別にはヘアリーセル白血病、マラリア、Gaucher病なども挙がり、早期満腹感や脾梗塞などの症状にも注意が必要です。「浸潤」と「髄外造血」という機序と経過の速さから脾腫の程度を推測する考え方は、血液疾患の理解と身体診察の両方に役立ちます。

解答・解説

正解はb, dです

骨盤腔にまで達するような著明な脾腫(巨脾)をきたしやすい疾患を問う問題である。 脾臓は通常、左上腹部の肋骨弓の内側に収まり、体表からは触知できない。脾臓が腫大すると左肋骨弓下から臍の方向(右下方)へ伸びるように大きくなり、極端な場合は臍を越えて骨盤腔にまで達する。このような巨脾をきたす代表的な血液疾患は、骨髄増殖性腫瘍の中の慢性骨髄性白血病(CML)と原発性骨髄線維症(PMF)である。 巨脾の機序は主に二つある。一つは腫瘍細胞そのものが脾臓で増殖・浸潤すること(CMLで顕著)、もう一つは骨髄で造血できなくなった結果、脾臓で造血が行われること(髄外造血、PMFで顕著)である。いずれも慢性の経過で長期間かけて脾臓が大きくなるため、著明な腫大に至りやすい。 これに対し、急性白血病は経過が急で、脾腫がみられても軽度〜中等度にとどまることが多い。多発性骨髄腫は骨髄内で形質細胞が増殖する疾患で、脾腫はまれである。

選択肢考察

  1. ×a.  多発性骨髄腫

    多発性骨髄腫は、免疫グロブリンを産生する形質細胞(B細胞が分化した細胞)が骨髄で腫瘍性に増殖する疾患である。主な臓器障害は高カルシウム血症(C)、腎障害(R)、貧血(A)、溶骨性の骨病変(B)で、頭文字をとってCRABとよばれる。病変の主座は骨髄・骨であり、脾腫をきたすことは少なく、巨脾はみられない。

  2. ○b.  原発性骨髄線維症

    原発性骨髄線維症は骨髄増殖性腫瘍の一つで、骨髄の線維化が進行して骨髄での造血が障害される。その代償として脾臓や肝臓で造血が行われる(髄外造血)ため、脾臓が著しく腫大し、骨盤腔に達する巨脾を呈することがまれではない。末梢血では涙滴赤血球、白赤芽球症(幼若な赤血球系・顆粒球系細胞の出現)がみられ、骨髄穿刺では細胞が吸引されにくいdry tapとなる。

  3. ×c.  急性骨髄性白血病

    急性骨髄性白血病では、白血病細胞の浸潤により肝脾腫をきたすことはあるが、多くは軽度〜中等度であり、骨盤腔に及ぶほどの巨脾となることは少ない。経過が急で、汎血球減少による貧血・出血傾向・感染症などの症状が前面に出やすい。

  4. ○d.  慢性骨髄性白血病

    慢性骨髄性白血病は、フィラデルフィア染色体〔t(9;22)〕上のBCR::ABL1融合遺伝子によって造血幹細胞が腫瘍化し、成熟傾向を保った顆粒球系細胞が著しく増加する疾患である。増加した細胞が脾臓に浸潤し、髄外造血も加わるため、慢性期から巨脾をきたしやすく、骨盤腔に達することもある。チロシンキナーゼ阻害薬による治療で脾腫は縮小する。

  5. ×e.  急性リンパ性白血病

    急性リンパ性白血病では、リンパ節腫脹や肝脾腫がみられることがあり(特に小児で多い)、急性骨髄性白血病より脾腫の頻度はやや高い。しかし多くは軽度〜中等度で、骨盤腔に及ぶ巨脾となる頻度は低い。

脾臓の大きさと脾腫

正常の脾臓は長さ約10cm、幅約6〜7cm、厚さ約3〜4cm、重さ100〜150g程度で、通常は触知しない。画像で長径が10cmを大きく超える場合や触知できる場合に脾腫と判断する。

巨脾(骨盤腔・臍下に達する著明な脾腫)をきたす主な疾患

・血液疾患:慢性骨髄性白血病、原発性骨髄線維症、真性赤血球増加症の進行期(二次性骨髄線維症)、ヘアリーセル白血病、脾辺縁帯リンパ腫などの低悪性度リンパ腫、重症型サラセミア ・感染症:マラリア(慢性)、内臓リーシュマニア症(カラアザール) ・代謝性疾患:Gaucher病

軽度〜中等度の脾腫をきたす主な疾患

急性白血病、悪性リンパ腫、溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症など)、伝染性単核球症などのウイルス感染症、感染性心内膜炎、肝硬変による門脈圧亢進症、全身性エリテマトーデスなど

骨髄増殖性腫瘍の整理

・慢性骨髄性白血病:BCR::ABL1融合遺伝子。白血球増加(各成熟段階の顆粒球)、好塩基球増加、好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコア低値。 ・原発性骨髄線維症:JAK2、CALR、MPLの遺伝子変異。骨髄線維化、髄外造血、涙滴赤血球、白赤芽球症、dry tap。 ・真性赤血球増加症:JAK2変異。赤血球増加。脾腫を伴うことが多い。 ・本態性血小板血症:JAK2、CALR、MPL変異。血小板増加。脾腫は軽度。

巨脾に伴う症状

腹部膨満感、早期満腹感、左上腹部痛(脾梗塞を起こすと強い痛み)、脾機能亢進による血球減少など。

POINT

・巨脾(骨盤腔に及ぶ脾腫)の代表は慢性骨髄性白血病と原発性骨髄線維症。 ・機序:CMLは腫瘍細胞の浸潤+髄外造血、PMFは骨髄線維化による髄外造血。 ・急性白血病の脾腫は軽度〜中等度が多い。 ・多発性骨髄腫はCRABが特徴で、脾腫はまれ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。