StudyMed医師国家試験

病院の感染対策はどこまでが守備範囲?―感染制御チームの仕事と「検疫」の境界線

第116回医師国家試験 C問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第116回 C問題 第3問

医療施設における感染制御チームが行わないのはどれか。

  1. a.職員の感染防止
  2. b.定期的な院内の巡回
  3. c.輸入感染症患者の検疫
  4. d.適正な微生物検査の推進
  5. e.院内感染発生に関するサーベイランス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、病院の中で感染対策を担う感染制御チーム、いわゆるICTの仕事内容を問う問題だ。着眼点はシンプルで、「その病院の中で行う活動か、それとも国や行政が行う活動か」を見分けること。まずICTがどんなチームか、知っている範囲で教えてくれるかな。
医学生医学生
臨床実習の初日オリエンテーションで、感染管理の看護師さんから手指衛生の指導を受けました。あの方がICTのメンバーでしょうか。
ドクタードクター
そう、感染管理認定看護師はICTの中心メンバーの一人だ。ほかに感染症専門医などの医師、薬剤師、臨床検査技師が加わる多職種チームで、病院長直轄の組織として診療科や病棟の枠を越えて動く。病院の方針を決める感染対策委員会が「頭脳」なら、ICTは現場で実際に動く「実働部隊」と考えるといい。
医学生医学生
なるほど。では、院内感染のサーベイランスは当然ICTの仕事ですよね。
ドクタードクター
その通り、むしろ中心的な業務だ。サーベイランスは感染症の発生状況を継続的・系統的に集めて分析し、対策に還元する活動のこと。病院全体でMRSAなど耐性菌の検出状況を追う包括的サーベイランスと、中心静脈カテーテル関連血流感染や人工呼吸器関連肺炎、手術部位感染のようにリスクの高い処置に絞る対象限定サーベイランスがある。
医学生医学生
普段からデータを取っておく意味は何でしょうか。発生してから調べればよい気もします。
ドクタードクター
いい疑問だね。普段の発生頻度、つまりベースラインを知っていないと、「いつもより多い」と気づけないんだ。アウトブレイクの早期察知はサーベイランスがあってこそ。次に定期的な院内巡回はどうだろう。
医学生医学生
病棟でICTの先生方がラウンドしているのを見かけました。手指消毒剤の使用量や個人防護具の着け方をチェックしていた気がします。
ドクタードクター
まさにそれ。病棟、外来、手術室、ICUなどを回って、手指衛生の遵守状況、防護具の着脱、清潔区域と汚染区域のゾーニング、器具や環境の管理を現場で確認し、その場で助言する。診療報酬上の感染対策の加算でも、定期的な巡回が要件になっているくらい重要な業務なんだ。
医学生医学生
職員の感染防止もICTの担当ですか。患者さんを守るチームだと思っていたので、少し意外です。
ドクタードクター
そこは見落としやすいポイントだね。医療者は感染症患者に接する機会が多く、自分が感染するリスクがあるだけでなく、感染した職員が他の患者や同僚への感染源にもなりうる。だからB型肝炎や麻疹・風疹・水痘・ムンプス、インフルエンザのワクチン接種の推進、針刺し・切創事故の予防と曝露後対応、結核接触者の健診、教育・研修までICTが担うんだ。
医学生医学生
実習前に抗体価を測ってワクチンを打ったのも、その一環だったんですね。では適正な微生物検査の推進は?抗菌薬のほうがICTらしい気もしますが。
ドクタードクター
両者はセットで考えるといい。原因菌を正しく同定して薬剤感受性を知らなければ、適切な抗菌薬は選べないし耐性菌も広がる。抗菌薬投与前に血液培養を複数セット採れているか、結果が正しく解釈されているかを確認し、検査室と連携して耐性菌の動向を把握する。最近は抗菌薬適正使用支援チーム、ASTがICTと連携してこの役割を担うことも多いね。
医学生医学生
そうすると、残る輸入感染症患者の検疫だけが毛色が違いますね。検疫は空港や港で行うものだと公衆衛生の講義で習いました。
ドクタードクター
正解。それがICTの行わない業務だ。検疫は国内に常在しない感染症が海外から持ち込まれるのを防ぐための措置で、検疫法に基づき厚生労働省の検疫所が空港や港で行う。入国者の健康状態の確認や隔離・停留などがその内容で、対象にはエボラ出血熱などのウイルス性出血熱、ペスト、新型インフルエンザ等感染症、デング熱やマラリアなどの蚊媒介感染症が含まれる。
医学生医学生
ただ、輸入感染症の患者さんが病院に来たら、ICTも動きますよね?
ドクタードクター
そこは大事な区別だ。疑い患者が来院したときの院内での隔離や感染対策には当然ICTが関与する。でも、それは「施設内の感染対策」であって、国境での「検疫」そのものではない。言葉の意味を正確にとらえることが、この問題の鍵なんだ。
医学生医学生
ICTは院内、検疫所は国境、という区別ですね。国内で発生した感染症の届出や積極的疫学調査は保健所でしたっけ。
ドクタードクター
よく整理できている。感染症法に基づいて医師が保健所に届出を行い、保健所が積極的疫学調査を担う。医療機関は届出をする立場で、調査や検疫を主導するわけではない。臨床の場では、海外渡航歴の聴取が輸入感染症を疑う入り口になるから、発熱患者を診るときは必ず確認しよう。そして疑ったら、まず院内で隔離し、ICTと保健所に早めに相談する流れを覚えておくといい。
医学生医学生
ICTの業務は、サーベイランス、巡回、職員の感染防止、検査・抗菌薬の適正化、アウトブレイク対応、マニュアル整備と、全部施設内の活動として整理できますね。
ドクタードクター
その通り。研修医になったら、手指衛生や血液培養の採り方、針刺し事故時の報告手順など、ICTと関わる場面が毎日のようにある。「感染対策はチームで病院全体を守る仕事」という意識を持って臨んでほしい。

まとめ

感染制御チーム(ICT)は、医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師などで構成され、病院内の感染対策を組織横断的に実行する実働部隊です。主な業務は院内感染のサーベイランス、定期的な院内巡回と現場指導、ワクチン接種や針刺し事故対策を含む職員の感染防止、微生物検査と抗菌薬使用の適正化、アウトブレイク対応、マニュアル整備などで、いずれも施設内の活動です。一方、検疫は検疫法に基づき国の検疫所が空港・港で行う業務であり、国内発生例の届出受理や積極的疫学調査は保健所が担います。輸入感染症が疑われる患者の院内隔離にはICTが関与しますが、検疫そのものは行いません。院内組織と行政の役割分担を理解しておくことは、研修医として感染症患者に適切に対応するための基盤となります。

解答・解説

正解はcです

感染制御チーム(ICT:infection control team)は、病院内で起こる感染(院内感染、医療関連感染)を予防し、発生したときには早く見つけて拡大を食い止めるために置かれる多職種の実働チームである。医師(感染症専門医など)、看護師(感染管理認定看護師など)、薬剤師、臨床検査技師を中心に構成され、病院長直轄の組織として部署の枠を越えて活動する。 主な業務は、(1) 院内感染の発生状況を継続的に把握するサーベイランス、(2) 病棟などを定期的に巡回して手指衛生や個人防護具の使い方、環境整備の状況を確認し、その場で指導すること、(3) 患者だけでなく職員を感染から守るための対策(ワクチン接種、針刺し・切創事故の防止と事故後の対応、教育・研修)、(4) 適切な微生物検査の実施と抗菌薬の適正使用の推進、(5) アウトブレイク(集団発生)時の調査と対応、(6) 感染対策マニュアルの作成・改訂、などである。 これらはいずれも「その医療施設の中」で行われる活動である。一方、検疫は国外からの感染症の侵入を国境(空港・港)で防ぐための国の業務であり、病院のチームが担うものではない。この「施設内の業務か、国(行政)の業務か」という区別を意識すれば、正解を選ぶことができる。

選択肢考察

  1. ×a.  職員の感染防止

    感染制御チームの業務である。医療従事者は感染症患者と接する機会が多く、自身が感染するリスクがあるとともに、感染した職員が他の患者や職員への感染源となりうる。そのため、B型肝炎・麻疹・風疹・水痘・ムンプス・インフルエンザなどのワクチン接種の推進、針刺し・切創や血液・体液曝露の予防と曝露後の対応(検査や予防投与の手順整備)、結核接触者の健診、個人防護具の正しい着脱の教育などを担う。

  2. ×b.  定期的な院内の巡回

    感染制御チームの業務である。チームは病棟・外来・手術室・集中治療室などを定期的にラウンド(巡回)し、手指衛生の遵守状況、個人防護具の適切な着脱、清潔区域と汚染区域の区分け(ゾーニング)、医療器具や環境の管理状況などを現場で確認する。問題があればその場で助言・指導を行い、対策の改善につなげる。診療報酬上の感染対策の加算でも、少なくとも週1回程度の院内巡回が要件とされている。

  3. ○c.  輸入感染症患者の検疫

    これが感染制御チームの行わない業務であり、正解である。検疫は、国内に常在しない感染症の病原体が海外から持ち込まれるのを防ぐための措置で、検疫法に基づき厚生労働省の検疫所が空港や港で実施する(入国者の健康状態の確認、隔離・停留の措置など)。対象となるのはエボラ出血熱などのウイルス性出血熱、ペスト、新型インフルエンザ等感染症、さらに蚊媒介感染症であるデング熱やマラリアなどである。病院の感染制御チームは、輸入感染症が疑われる患者が来院した場合の院内での隔離や感染対策には関与するが、国境での検疫そのものは行わない。

  4. ×d.  適正な微生物検査の推進

    感染制御チームの業務である。感染症の原因菌(起炎菌)を正しく同定し、薬剤感受性を把握することは、適切な抗菌薬選択と耐性菌拡大の防止に欠かせない。チームは、抗菌薬投与前に適切なタイミング・方法で良質な検体(血液培養の複数セット採取など)が採られているか、検査結果が正しく解釈されているかを確認し、微生物検査室と連携して菌の検出動向や耐性菌の発生を把握する。近年は抗菌薬適正使用支援チーム(AST)がこの役割を連携して担うことも多い。

  5. ×e.  院内感染発生に関するサーベイランス

    感染制御チームの中心的な業務である。サーベイランスとは、感染症の発生状況を継続的・系統的に収集、分析し、その結果を対策に還元する活動をいう。病院全体を対象にMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの耐性菌の検出状況や薬剤感受性の推移を追う包括的サーベイランスと、中心静脈カテーテル関連血流感染、人工呼吸器関連肺炎、手術部位感染など、リスクの高い部署・処置に絞って行う対象限定(ターゲット)サーベイランスがある。普段の発生頻度(ベースライン)を知っておくことで、アウトブレイクを早期に察知できる。

感染対策に関わる院内組織

・感染対策委員会(ICC:infection control committee):病院の感染対策の方針を決定する意思決定機関。病院長などの管理者や各部門の責任者で構成される。 ・感染制御チーム(ICT):委員会の方針に基づき、現場で実際に動く実働部隊。医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師などの多職種で構成され、組織横断的に活動する。 ・抗菌薬適正使用支援チーム(AST:antimicrobial stewardship team):抗菌薬の使用状況の監視、適切な薬剤・用量・投与期間の助言などを行い、耐性菌の出現抑制と治療成績の向上を図る。ICTと密接に連携する。

ICTの主な業務

・院内感染のサーベイランス(包括的/ターゲット) ・定期的な院内巡回と現場指導 ・職員の感染防止(ワクチン接種、針刺し事故対策、教育・研修) ・微生物検査の適正化と抗菌薬適正使用の推進 ・アウトブレイク発生時の疫学調査と対策 ・感染対策マニュアルの整備、地域の医療機関との連携

検疫

・検疫法に基づき、国(厚生労働省検疫所)が空港・港で実施する。 ・国内に常在しない感染症の侵入防止が目的であり、医療機関の業務ではない。 ・なお、国内で発生した感染症の届出や積極的疫学調査は、感染症法に基づき保健所が担う。医療機関(医師)は届出を行う立場である。

POINT

・感染制御チーム(ICT)は院内の感染対策を多職種・組織横断的に実行するチームである。 ・業務はサーベイランス、院内巡回、職員の感染防止、微生物検査・抗菌薬の適正化、アウトブレイク対応など、いずれも施設内の活動である。 ・検疫は検疫法に基づき国の検疫所が空港・港で行う業務であり、ICTの業務ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。