痩せた高齢者に「控えめ」は禁物―低栄養を立て直すタンパク質の目安
第116回医師国家試験 C問題 第2問
国試問題にチャレンジ
低栄養が疑われる高齢者(BMI 18kg/m2,6か月で3kgの体重減少)で腎障害がない場合の栄養管理として適切でないのはどれか。
- a.水分 :30mL/kg/日
- b.脂肪 :総エネルギーの25%
- c.糖質 :総エネルギーの55%
- d.タンパク質 :0.8g/kg/日
- e.総エネルギー:30kcal/kg/日
対話形式の解説
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ドクターまとめ
低BMIと意図しない体重減少を示す高齢者は低栄養であり、サルコペニアやフレイルのリスクが高いため、十分なエネルギーとタンパク質の確保が栄養管理の柱となります。65歳以上の目標BMIは21.5〜24.9と若年成人より高く設定され、総エネルギーは基礎代謝量×身体活動レベルから約30kcal/kg/日、脂質20〜30%、炭水化物50〜65%、水分は25〜30mL/kg/日程度が目安です。タンパク質は腎障害がなければ制限せず、1.0g/kg/日以上(低栄養改善では1.2〜1.5g/kg/日程度)が望ましく、0.8g/kg/日は保存期CKD向けの制限寄りの量で不足します。高度低栄養からの再栄養ではリフィーディング症候群に注意し、少量から電解質とビタミンB1を補いつつ増量します。疾患ごとの栄養処方の違いを理解しておくことは、高齢者診療で栄養状態を立て直す実践的な力につながります。
解答・解説
正解はdです
テーマ
低栄養が疑われる高齢者に対し、1日あたりの水分・エネルギー・三大栄養素の量や配分をどう設定するかを問う問題である。「適切でないもの」を選ぶ形式であることに注意する。
患者像の評価
BMI 18kg/m²は、日本人の食事摂取基準で高齢者(65歳以上)の目標とされるBMI 21.5〜24.9kg/m²を大きく下回る。さらに6か月で3kgの体重減少があり、BMI 18の人の体重を40kg台後半と考えると、半年で約6%の減少に相当する。意図しない体重減少(6か月で5%以上)と低BMIはいずれも低栄養の代表的な指標であり、この高齢者は低栄養であると同時に、筋肉量・筋力が落ちるサルコペニアやフレイル(虚弱)に陥る危険が高い状態と考えられる。
栄養管理の考え方
目標は体重と筋肉量を回復させることであり、そのためには「十分なエネルギー」と「十分なタンパク質」の両方が必要である。エネルギーが足りないと、摂取したタンパク質や体の筋肉までもがエネルギー源として消費されてしまう。また高齢者は若年者に比べて筋タンパク質の合成反応が鈍い(同化抵抗性)ため、筋肉を維持・増加させるには若年成人より多めのタンパク質が勧められる。腎障害がないので、タンパク質を制限する理由はない。 この視点で各選択肢を見ると、水分30mL/kg/日、脂肪25%、糖質55%、エネルギー30kcal/kg/日はいずれも標準的な範囲に収まる。一方、タンパク質0.8g/kg/日は保存期慢性腎臓病(CKD)などで用いる制限寄りの量であり、低栄養高齢者には少なすぎる。
選択肢考察
- ×a. 水分 :30mL/kg/日
適切である。成人の1日水分必要量はおおむね30〜35mL/kg/日とされ、高齢者では体内水分量の減少や代謝量の低下を考慮して25〜30mL/kg/日程度が目安になる。不感蒸泄と、老廃物を排泄するのに必要な最低限の尿量をまかなう量として妥当である。高齢者は口渇を感じにくく脱水に陥りやすいため、少なすぎる設定は避ける。なお、心不全など水分制限が必要な疾患があれば個別に調整する。
- ×b. 脂肪 :総エネルギーの25%
適切である。日本人の食事摂取基準では、脂質の目標量は年齢を問わず総エネルギーの20〜30%とされており、25%はその中央にあたる。脂質は1gあたり9kcalとエネルギー密度が高いため、食事量が少ない低栄養高齢者では、少量で効率よくエネルギーを補う手段にもなる。
- ×c. 糖質 :総エネルギーの55%
適切である。炭水化物(糖質)の目標量は総エネルギーの50〜65%であり、55%はこの範囲内にある。糖質は主要なエネルギー源で、十分に摂ることでタンパク質がエネルギー源として消費されるのを防ぎ(タンパク質節約作用)、筋肉の合成にタンパク質を回すことができる。
- ○d. タンパク質 :0.8g/kg/日
適切でない。0.8g/kg/日は、保存期CKDでGFRが中等度以上低下した場合などに用いられる制限寄りの量(CKDの進行度に応じて0.6〜1.0g/kg/日程度に調整)であり、腎障害のない低栄養高齢者に設定する量ではない。高齢者のフレイル・サルコペニア予防には少なくとも1.0g/kg/日以上のタンパク質摂取が望ましいとされ、低栄養の改善が必要な場合には1.2〜1.5g/kg/日程度まで増やすこともある。食事摂取基準でも65歳以上のタンパク質目標量は総エネルギーの15〜20%とされている。総エネルギー30kcal/kg/日の15%をタンパク質(1gあたり4kcal)で摂るとすると、30×0.15÷4=約1.1g/kg/日となり、0.8g/kg/日では明らかに不足する。
- ×e. 総エネルギー:30kcal/kg/日
適切である。総エネルギー必要量は「基礎代謝量×身体活動レベル(1日の総消費エネルギーが基礎代謝量の何倍かを示す係数)」で見積もる。高齢者の基礎代謝基準値は体重1kgあたりおよそ20〜22kcal/日であり、活動量の少ない高齢者の身体活動レベルを1.5程度とすると、約30kcal/kg/日となる。体重増加を目指す低栄養高齢者では、これを下回らない量を確保し、必要に応じて上乗せする。ただし高度の低栄養で長期間摂取量が少なかった場合は、リフィーディング症候群を避けるため少量から段階的に増やす。
日本人の食事摂取基準(65歳以上)の主な目標値
・目標とするBMI:21.5〜24.9kg/m²(若年成人の下限18.5より高く設定されており、フレイル・低栄養予防を重視している) ・エネルギー産生栄養素バランス(総エネルギーに占める割合):タンパク質15〜20%、脂質20〜30%、炭水化物50〜65% ・各栄養素のエネルギー換算:タンパク質4kcal/g、脂質9kcal/g、炭水化物4kcal/g
高齢者の低栄養
高齢者は、食欲低下、咀嚼・嚥下機能の低下、歯の欠損、味覚低下、慢性疾患、多剤服用、独居・経済的問題、抑うつや認知機能低下など多くの要因から低栄養に陥りやすい。低栄養は筋肉量の減少(サルコペニア)を通じてフレイル、転倒・骨折、感染症、褥瘡、要介護状態、死亡のリスクを高める。 評価には体重変化、BMI、食事摂取量、MNA-SF(簡易栄養状態評価表)などのスクリーニングツールを用いる。国際的な低栄養診断基準であるGLIM基準では、意図しない体重減少(6か月以内に5%超など)、低BMI、筋肉量減少のいずれかの表現型と、食事摂取量の減少や炎症などの病因の組み合わせで低栄養を診断する。血清アルブミンは炎症や脱水の影響を受けるため、単独での栄養評価には限界がある。
タンパク質摂取量の考え方
・健常成人の推奨量:約0.9g/kg/日前後(体重あたり) ・低栄養・フレイルの高齢者:1.0〜1.5g/kg/日程度(腎機能が保たれていれば) ・保存期CKD:進行度に応じて0.6〜1.0g/kg/日程度に制限(ただし高齢者ではサルコペニアのリスクとのバランスで制限を緩めることがある) ・タンパク質を増やしたときは、十分なエネルギー摂取と運動(特にレジスタンス運動)を組み合わせると筋肉量の増加に効果的である。
リフィーディング症候群
長期の低栄養状態から急に十分な栄養を投与すると、インスリン分泌の増加に伴いリン・カリウム・マグネシウムが細胞内へ移動して血中濃度が急低下し、不整脈、心不全、呼吸不全、意識障害などをきたす。高リスク例では少量から開始し、電解質とビタミンB1を補充しながら段階的に増量する。
POINT
・低栄養高齢者(低BMI+意図しない体重減少)では、エネルギーとタンパク質を十分に確保する。 ・腎障害がなければタンパク質は制限しない。目安は1.0〜1.2g/kg/日以上(総エネルギーの15〜20%)。0.8g/kg/日はCKDの制限寄りの量で不足。 ・総エネルギー約30kcal/kg/日(基礎代謝約20kcal/kg×身体活動レベル約1.5)。 ・脂質20〜30%、炭水化物50〜65%、水分は約25〜30mL/kg/日。 ・65歳以上の目標BMIは21.5〜24.9。
