StudyMed医師国家試験

「よく噛める」は守りの力―生活習慣とリスクの対応を見抜く公衆衛生の基本

第116回医師国家試験 B問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第116回 B問題 第14問

疾患・状態とそのリスクとなる行動との組合せについて誤っているのはどれか。

  1. a.乳癌 ―― 飲酒習慣
  2. b.肥満 ―― 速い摂食速度
  3. c.食道癌 ―― 高温物の飲食嗜好
  4. d.フレイル ―― 高齢者の強い咀嚼力
  5. e.骨粗鬆症 ―― 若年女性の過度の食事制限

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、いくつかの疾患・状態と、そのリスクになる行動との組合せを見比べて、誤っているものを選ぶ問題だ。ポイントは「その行動がどういう仕組みで病気につながるのか」を一つずつ説明できるかどうか。機序が説明できれば正しい組合せ、説明できなければ怪しい、という目で見ていこう。
医学生医学生
全部それっぽく見えるんですが、「高齢者の強い咀嚼力」だけ、リスクというより良いことのように感じます。
ドクタードクター
いい直感だね。そこは後でじっくり扱うとして、まず正しい組合せを確認していこう。乳癌と飲酒の関係はどうかな。
医学生医学生
乳癌はエストロゲンが関係する癌なので、未経産とか閉経が遅いとかは覚えていますが、お酒も関係するんですか。
ドクタードクター
関係する。アルコールは血中エストロゲン濃度を上げるし、代謝産物のアセトアルデヒドはDNAを傷つける。しかも飲む量が多いほどリスクが上がる用量依存性が示されているんだ。閉経後の肥満、喫煙、BRCA1/2変異などの家族歴とあわせて押さえておこう。
医学生医学生
肥満と早食いは、特定保健指導の問診票に「人と比較して食べる速度が速い」という項目があったのを公衆衛生の講義で見ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。食べ始めてから視床下部の満腹中枢が刺激されて満腹感が出るまでには時間がかかる。早食いだと満腹を感じる前にたくさん食べてしまい、エネルギー過剰になりやすい。よく噛まない、夜遅い食事、間食の多さも肥満者に多い食習慣だ。
医学生医学生
食道癌と熱い飲食物はどうでしょう。食道癌は飲酒と喫煙のイメージが強いです。
ドクタードクター
代表的な危険因子はその通り飲酒と喫煙で、特に飲むと顔が赤くなるALDH2低活性の人はアセトアルデヒドが溜まりやすく、リスクが大きい。それに加えて、熱いお茶や茶粥のような高温の飲食物は食道粘膜に熱傷害と炎症を繰り返し起こし、扁平上皮癌の発生に関わる。65℃を超える非常に熱い飲料は、国際がん研究機関でおそらく発がん性がある、グループ2Aに分類されているんだ。
医学生医学生
骨粗鬆症と若年女性のダイエットは、閉経後の病気なのに若いときの話が出てくるのが少し意外でした。
ドクタードクター
そこが大事なところ。骨量は20歳前後で最大骨量に達して、その後は減っていく一方だ。若いうちに過度な食事制限をすると、カルシウムやビタミンD、たんぱく質が不足するうえ、体重減少で視床下部性無月経になりエストロゲンも下がる。結果として最大骨量が低いまま大人になり、将来の骨粗鬆症リスクが高まるんだ。
医学生医学生
貯金の元手が少ないまま引き出しが始まる、というイメージですね。神経性やせ症の患者さんで若いのに骨量が減っていると、精神科の実習で聞きました。
ドクタードクター
まさにそういうことだ。では最後にフレイルと咀嚼力。フレイルの入口の一つとして注目されているのが、口の機能の衰え、つまりオーラルフレイルなんだ。
医学生医学生
歯が抜けたり噛む力が落ちたりすると、柔らかいものしか食べられなくなって、栄養が偏るということですか。
ドクタードクター
その通り。咀嚼力低下から食品の偏りと食事量の減少、低栄養、筋量・筋力の低下つまりサルコペニア、活動量低下、さらに食欲低下へ、という悪循環が回る。これをフレイルサイクルと呼ぶ。だからリスクになるのは咀嚼力の「低下」であって、強い咀嚼力はむしろ肉や野菜もしっかり食べられる予防因子だ。これが誤っている組合せで、正解になる。
医学生医学生
フレイルの診断基準も確認しておきたいです。CBTのときは何となくで済ませてしまって。
ドクタードクター
Friedの表現型モデルでは、意図しない体重減少、疲労感、歩行速度の低下、握力の低下、身体活動量の低下の5項目のうち3つ以上でフレイル、1〜2つでプレフレイルとする。日本では日本版CHS基準が使われていて、体重減少は6か月で2〜3kg以上とされている。
医学生医学生
フレイルは要介護の手前で、まだ戻れる状態というのが特徴でしたよね。
ドクタードクター
そう、可逆性があるのが最大のポイントだ。身体面だけでなく、抑うつや認知機能低下といった精神・心理的フレイル、独居や閉じこもりといった社会的フレイルもある。臨床では、高齢の患者さんに「最近硬いものが噛みにくくないか」「食事でむせないか」と聞くだけでも早期のサインを拾える。歯科や栄養士、地域の通いの場とつなげて、運動・栄養・社会参加をセットで支えることが予防の鍵になるよ。

まとめ

生活習慣と疾患の関係は、その行動が発症機序にどう関わるかで整理すると判断しやすくなります。飲酒はエストロゲン上昇やアセトアルデヒドを介して乳癌の、早食いは満腹感が出る前の過食を通じて肥満の、熱い飲食物は粘膜の熱傷害を通じて食道扁平上皮癌の、若年期の過度な食事制限は最大骨量の獲得不足を通じて骨粗鬆症の危険因子となります。一方、フレイルのリスクは咀嚼力の低下(オーラルフレイル)であり、低栄養からサルコペニア、活動量低下へと進むフレイルサイクルの入口となるため、強い咀嚼力はむしろ予防因子です。フレイルは健常と要介護の中間にある可逆的な状態で、Friedの5項目のうち3項目以上で判定されます。行動と疾患を機序で結びつける視点は、保健指導や高齢者の診療で具体的な予防策を示す力につながります。

解答・解説

正解はdです

生活習慣(行動)と疾患・状態の関係を問う問題である。「誤っている」組合せを選ぶ形式なので、リスクを上げる行動として正しく対応しているものを除外していけばよい。 考え方の軸は、その行動が疾患の発生機序にどう関わるかである。飲酒はエストロゲン代謝やアセトアルデヒドを介して発癌に関与し、早食いは満腹感が得られる前に過食を招き、高温の飲食物は食道粘膜を繰り返し傷害し、若年期の過度の食事制限は最大骨量の獲得を妨げる。いずれも医学的に裏付けのある「リスク行動」である。 一方、フレイルでは口腔機能の低下(オーラルフレイル)が入口の一つとされ、咀嚼力が弱いことが低栄養・筋量減少を通じてフレイルを進める。したがって「強い咀嚼力」はむしろ予防的に働く因子であり、リスク行動として組み合わせるのは誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  乳癌 ―― 飲酒習慣

    正しい組合せである。アルコールは血中エストロゲン濃度を上昇させるほか、代謝産物のアセトアルデヒドが DNA 損傷を起こすことで乳癌のリスクを高め、摂取量が多いほどリスクが上がる用量依存性が示されている。乳癌のその他の危険因子には、未経産・高齢初産、初経が早い・閉経が遅いこと(エストロゲン曝露期間の延長)、閉経後の肥満、喫煙、糖尿病、家族歴(BRCA1/2 遺伝子変異など)がある。

  2. ×b.  肥満 ―― 速い摂食速度

    正しい組合せである。食事を始めてから満腹中枢(視床下部)が刺激されて満腹感が生じるまでには一定の時間がかかるため、早食いでは満腹感を得る前に多く食べてしまい、エネルギー過剰になりやすい。よく噛まずに短時間で食べる、間食が多い、食事時刻が不規則、夜遅い時間の食事なども肥満者に多い食習慣として知られる。このため特定保健指導の問診でも「人と比較して食べる速度が速い」かどうかを確認している。

  3. ×c.  食道癌 ―― 高温物の飲食嗜好

    正しい組合せである。熱い飲み物や食べ物(熱い茶・茶粥など)は食道粘膜に慢性的な熱傷害と炎症を繰り返し起こし、扁平上皮癌の発生に関与する。65℃を超える非常に熱い飲料は国際がん研究機関(IARC)で「おそらく発がん性がある(グループ2A)」に分類されている。食道扁平上皮癌の代表的危険因子は飲酒と喫煙で、特に飲酒で顔が赤くなる体質(ALDH2 の活性が低くアセトアルデヒドが蓄積しやすい)の人で飲酒のリスクが大きい。その他、辛い食物の過剰摂取、野菜・果物の摂取不足も挙げられる。

  4. ○d.  フレイル ―― 高齢者の強い咀嚼力

    誤った組合せであり、これが正解である。咀嚼力が保たれていれば、肉類・野菜など硬さのある食品も含めて多様な食事を十分に摂取でき、たんぱく質やエネルギーの不足を防げる。つまり強い咀嚼力はフレイルの予防に働く。リスクとなるのは逆に咀嚼力の低下(歯の喪失、噛む力・舌の動きの衰え、むせなど)であり、これをオーラルフレイルと呼ぶ。咀嚼力低下 → 食べられる食品の偏り・食事量減少 → 低栄養 → 筋量・筋力低下(サルコペニア)→ 活動量低下 → さらに食欲低下、という悪循環(フレイルサイクル)が生じる。

  5. ×e.  骨粗鬆症 ―― 若年女性の過度の食事制限

    正しい組合せである。骨量は20歳前後で最大骨量(peak bone mass)に達し、その後は加齢とともに減少していく。若年期に過度のダイエットを行うと、カルシウム・ビタミンD・たんぱく質の不足に加え、体重減少による視床下部性の無月経(エストロゲン低下)が起こり、骨形成が妨げられて最大骨量が低いまま終わる。その結果、将来の骨粗鬆症のリスクが高まる。神経性やせ症(神経性食欲不振症)では若年でも骨量減少がみられることがある。

フレイルとは

加齢とともに筋力や認知機能など心身の活力が低下し、複数の慢性疾患の影響も加わって生活機能が障害され、ストレスに対する脆弱性が高まった状態である。健康な状態と要介護状態の中間に位置し、適切な介入(運動・栄養・社会参加など)によって健常な状態に戻りうる可逆性をもつ点が重要である。

フレイルの評価(Fried の表現型モデル)

次の5項目のうち3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイル、該当なしで健常と判定する。 1. 体重減少(意図しない体重減少。原法では1年間で4.5kg以上または5%以上) 2. 疲労感(何をするのも面倒だと感じる、など) 3. 歩行速度の低下 4. 握力の低下 5. 身体活動量の低下 日本では、これを日本人向けに修正した日本版 CHS 基準(J-CHS 基準)が用いられ、体重減少は「6か月で2〜3kg以上の意図しない減少」とされている。

フレイルの多面性

身体的フレイル(サルコペニア、運動機能低下)のほか、精神・心理的フレイル(抑うつ、認知機能低下)、社会的フレイル(独居、閉じこもり、社会交流の減少)がある。口腔機能の軽微な低下であるオーラルフレイルは、身体的フレイルに先行しうる早期のサインとして注目されている。

本問の各疾患の主な危険因子

乳癌:エストロゲン曝露期間の延長(初経が早い・閉経が遅い・未経産・高齢初産)、閉経後肥満、飲酒、喫煙、家族歴 肥満:エネルギー過剰摂取、早食い、間食、夜食、運動不足 食道癌(扁平上皮癌):飲酒(特に ALDH2 低活性者)、喫煙、熱い飲食物 骨粗鬆症:女性、閉経、加齢、やせ、カルシウム・ビタミンD不足、運動不足、喫煙、過度の飲酒、ステロイド使用

POINT

・フレイルのリスクは「咀嚼力の低下(オーラルフレイル)」であり、強い咀嚼力は予防因子である。 ・フレイルは健常と要介護の中間の可逆的な状態で、Fried の5項目(体重減少、疲労感、歩行速度低下、握力低下、身体活動量低下)のうち3項目以上で判定する。 ・飲酒は乳癌・食道癌の、早食いは肥満の、熱い飲食物は食道癌の、若年期の過度な食事制限は骨粗鬆症の危険因子である。 ・最大骨量は20歳前後で決まるため、若年期の栄養・運動が将来の骨粗鬆症予防に重要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。