左手で食べ、杖で歩く―「家事はヘルパー、身の回りは自分で」から学ぶADLとIADLの境界線
第115回医師国家試験 F問題 第56問
国試問題にチャレンジ
78歳の男性。2年前に脳梗塞を発症し右半身不全麻痺を認める。週1回ヘルパーに①掃除と②洗濯および③買い物をしてもらっている。④食事摂取は左手で可能で屋内では杖を使って歩行し⑤トイレ動作は自立している。 下線部のうちADLの評価項目に含まれるのはどれか。2つ選べ。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
日常生活動作(ADL)は、食事・排泄(トイレ動作)・更衣・整容・入浴・移乗・移動・階段昇降などの基本的ADLと、買い物・掃除などの家事・洗濯・食事の準備・電話・服薬管理・金銭管理・交通機関の利用などの手段的ADL(IADL)に分けられ、単に「ADL」といえば基本的ADLを指します。そのため掃除・洗濯・買い物はIADL、食事摂取とトイレ動作がADLの評価項目となります。代表的な評価法として、Barthel index(10項目・100点満点、できるADL)、FIM(18項目・18〜126点、しているADL、認知項目を含む)、Lawtonの尺度(IADL8項目)を区別して覚えておきましょう。機能低下はIADLから先に現れやすく、基本的ADLは比較的後まで保たれる傾向があります。ADLとIADLの階層を理解することは、高齢者の生活機能を評価し、リハビリテーションや介護支援を計画するうえでの基盤となります。
解答・解説
正解はd, eです
症例の整理
・78歳男性(後期高齢者)、2年前の脳梗塞の後遺症として右片側の不全麻痺がある。 ・掃除・洗濯・買い物は週1回ヘルパーの援助を受けている。 ・食事は利き手ではない左手で自力摂取でき、屋内は杖歩行、トイレ動作も自立している。 つまり、身の回りの基本的な動作は自分で行えるが、家事や外出を伴う生活管理の一部には他者の支援を必要としている状態である。
設問の考え方
日常生活動作(ADL:activities of daily living)は大きく2つの階層に分けて評価される。 ・基本的ADL(BADL):食事、排泄(トイレ動作、排尿・排便の自制)、更衣、整容、入浴、移乗、移動(歩行)、階段昇降など、自分の身体の世話と屋内での移動に関わる最も基本的な動作。 ・手段的ADL(IADL:instrumental ADL):買い物、食事の準備、掃除などの家事、洗濯、電話の使用、交通機関を使った外出、服薬管理、金銭管理など、地域で自立して生活していくための、より複雑で応用的な動作。 単に「ADL」というときは通常、基本的ADLを指す。下線部を分類すると、掃除・洗濯・買い物はIADL、食事摂取・トイレ動作は基本的ADLに属する。したがってADLの評価項目に含まれるのは④と⑤である。 IADLは基本的ADLより高次の能力を要するため、加齢や疾患による生活機能の低下はまずIADLに現れ、進行すると基本的ADLも障害されるという順序をとることが多い。本例はIADLの一部に援助が必要だが基本的ADLは保たれている段階にあたる。
選択肢考察
- ×a. ①
①は掃除である。掃除は家事の一つで、身の回りの基本動作ではなく、家庭生活を維持するための応用的な動作にあたるため、手段的ADL(IADL)に分類される。基本的ADLの評価項目には含まれない。
- ×b. ②
②は洗濯である。Lawtonの手段的ADL尺度でも独立した項目として挙げられているように、洗濯はIADLに属し、基本的ADLの評価項目ではない。
- ×c. ③
③は買い物である。屋外への移動、品物の選択、金銭の支払いなど複数の能力を組み合わせて行う動作であり、代表的なIADLの項目である。基本的ADLには含まれない。
- ○d. ④
④は食事摂取である。食物を口に運んで摂取する動作は、生命維持に直結するセルフケアであり、Barthel indexやFIM(機能的自立度評価法)、Katz indexのいずれにも含まれる基本的ADLの評価項目である。本例は利き手側の麻痺があるものの、左手で自力摂取できており自立と評価される。
- ○e. ⑤
⑤はトイレ動作である。トイレへの出入り、衣服の上げ下げ、後始末などからなる排泄関連の動作であり、Barthel indexやFIMにおいて独立した評価項目となっている基本的ADLである。
代表的なADL評価法
・Barthel index(バーセル指数):食事、車椅子とベッド間の移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行(移動)、階段昇降、更衣、排便コントロール、排尿コントロールの10項目を評価し、合計100点満点で自立度を示す。「できるADL」を評価する。 ・FIM(Functional Independence Measure:機能的自立度評価法):運動項目13項目(セルフケア、排泄コントロール、移乗、移動)と認知項目5項目(コミュニケーション、社会的認知)の計18項目を各1〜7点で評価し、合計18〜126点となる。実際に日常生活で「しているADL」を評価する点がBarthel indexとの違いである。 ・Katz index:入浴、更衣、トイレの使用、移乗、排泄の自制、食事の6項目の自立・依存を評価する。
代表的なIADL評価法
・Lawtonの尺度:電話の使用、買い物、食事の準備、家事、洗濯、移動・外出の手段、服薬管理、金銭管理の8項目からなる。 ・老研式活動能力指標:手段的自立、知的能動性、社会的役割の3領域13項目で、地域在住高齢者の高次の生活機能を評価する。
生活機能の階層
高齢者の生活機能は、基本的ADL<手段的ADL<知的能動性・社会的役割の順に高次となり、機能低下は高次のものから現れやすい。介護保険の要介護認定では、心身の状況を調査して介護に要する手間(介護の時間)から判定されるため、ADL・IADLの自立度はその重要な判断材料となる。
POINT
・単に「ADL」といえば基本的ADL(食事、排泄・トイレ動作、更衣、整容、入浴、移乗、移動、階段昇降)を指す。 ・掃除・洗濯・買い物・食事の準備・電話・服薬管理・金銭管理・交通機関の利用は手段的ADL(IADL)。 ・Barthel index(10項目・100点、できるADL)とFIM(18項目・18〜126点、しているADL、認知項目を含む)を区別する。 ・機能低下はIADLから先に現れやすい。
