黒い壊死は「残す」か「取る」か―創傷処置の基本原則を一本の流れで理解する
第115回医師国家試験 F問題 第19問
国試問題にチャレンジ
創傷の治療・処置について誤っているのはどれか。
- a.異物を除去する。
- b.黒色壊死は温存する。
- c.深部臓器の損傷を確認する。
- d.非感染創は一期的に縫合する。
- e.Ⅲ度熱傷では植皮が必要である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
創傷処置は、全身状態と深部損傷の評価、洗浄と異物除去、デブリドマン、創閉鎖法の選択、破傷風予防などの感染対策という流れで進めます。黒色壊死を含む壊死組織は血流がなく抗菌薬も白血球も届かないため細菌の温床となり、炎症期を遷延させて肉芽形成や上皮化を妨げるので、温存せずデブリドマンで除去するのが原則です。非感染の新鮮創は一期的縫合、汚染創・感染創・咬傷は開放管理のうえ遅延一次縫合や二次治癒を選び、Ⅲ度熱傷は皮膚付属器が失われて自然な上皮化が期待できないため植皮を行います。各処置を「治癒を妨げるものを除き、適切に閉じる」という目的で理解しておくと、外傷・熱傷・褥瘡など幅広い創の管理に応用できます。
解答・解説
正解はbです
創傷(外力や熱などによって皮膚・軟部組織の連続性が断たれた状態)の初期治療の基本原則を問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、標準的な処置から外れた記述を一つ選ぶ。 創傷処置の流れは、おおむね次のように整理できる。 1. 全身状態の評価:まず気道・呼吸・循環を確認し、見た目の傷の大きさにとらわれず、その下にある血管・神経・腱・骨・体腔内臓器などの深部損傷の有無を確認する。 2. 創の清浄化:十分な量の生理食塩水や水道水で洗浄し、砂・ガラス片・木片などの異物を取り除く。 3. デブリドマン(debridement):壊死組織や汚染が強く生着の見込みのない組織を切除し、感染源を断って健常な創面を露出させる。 4. 創閉鎖の方法を選ぶ:受傷からの時間、汚染・感染の程度、組織欠損の大きさに応じて、一期的縫合(受傷直後に縫い閉じる)、遅延一次縫合・二期的縫合、開放創管理、植皮・皮弁などを選択する。 5. 感染対策:必要に応じて破傷風の予防(トキソイド、抗破傷風ヒト免疫グロブリン)や抗菌薬投与を行う。 この流れに照らすと、壊死組織は細菌の温床となり肉芽形成や上皮化を妨げるため「除去する」のが原則であり、「温存する」という記述が誤りである。
選択肢考察
- ×a. 異物を除去する。
記述は正しい。創内に残った土砂、ガラス片、木片などの異物は細菌を持ち込み、創感染や遷延する炎症(異物肉芽腫など)の原因となり、治癒を遅らせる。十分な洗浄とともに異物を取り除くことは創傷処置の基本である。砂などの細かい粒子が真皮内に残ると、治癒後に皮膚が黒っぽく着色する外傷性刺青となることもあるため、初療時の徹底した除去が重要である。
- ○b. 黒色壊死は温存する。
記述は誤りであり、これが正解である。黒色壊死(壊死組織が乾燥して黒く硬い痂皮=エスカーとなった状態)は血流がなく、抗菌薬も白血球も届かないため細菌増殖の温床となる。放置すると感染が周囲や深部へ広がり、蜂窩織炎や敗血症に至るおそれがある。また、壊死組織が残っていると肉芽組織の形成や上皮化が進まず、創は治らない。したがって壊死組織は外科的切除などによるデブリドマンで取り除き、健常な創面を作ることが原則である。
- ×c. 深部臓器の損傷を確認する。
記述は正しい。刺創や銃創のように、皮膚の入り口は小さくても深部では血管、神経、腱、胸腔・腹腔内臓器などが損傷していることがある。表面の傷だけを処置して深部損傷を見逃すと、出血、腹膜炎、気胸、機能障害などの重大な結果を招く。全身状態の評価とともに、身体診察や必要に応じた画像検査で深部損傷の有無を確認しなければならない。
- ×d. 非感染創は一期的に縫合する。
記述は正しい。汚染が少なく感染のない新鮮な創は、洗浄・デブリドマンを行ったうえで一期的に縫合(一次縫合)する。創縁を寄せて閉じることで、治癒期間が短く、瘢痕も目立ちにくく、外界からの二次感染も防ぎやすい。一方、受傷から長時間が経過した創、汚染の強い創、すでに感染している創、動物咬傷などは、縫合すると閉鎖腔で細菌が増殖して膿瘍化しうるため、開放創として管理し、感染が落ち着いてから遅延一次縫合や二期的縫合を検討する。
- ×e. Ⅲ度熱傷では植皮が必要である。
記述は正しい。Ⅲ度熱傷は表皮と真皮の全層(ときに皮下組織まで)が凝固壊死に陥った状態で、表皮の再生源となる毛包・汗腺などの皮膚付属器も失われている。そのため創縁からのわずかな上皮化しか期待できず、保存的治療では治癒に非常に長い時間がかかり、強い瘢痕拘縮を残す。壊死組織をデブリドマンした後に植皮術を行うのが標準的な治療である(ごく小範囲であれば創収縮と辺縁からの上皮化で閉鎖することもある)。
創の分類と閉鎖法の選択
・清潔創・新鮮創:汚染が少なく受傷後早期の創。洗浄・デブリドマン後に一期的縫合を行う。受傷後おおむね6〜8時間以内(顔面など血流豊富な部位ではさらに長くてもよい)は細菌が組織内で増殖する前の時期と考えられ、ゴールデンタイム(ゴールデンピリオド)と呼ばれてきた。 ・汚染創・感染創:受傷後時間が経った創、汚染の強い創、咬傷など。開放創として洗浄を繰り返し、感染が制御されてから遅延一次縫合(数日後に縫合)を行うか、肉芽の増生と上皮化による二次治癒(二期的治癒)を待つ。
創傷治癒の過程
止血期 → 炎症期(好中球・マクロファージが細菌や壊死物質を処理) → 増殖期(線維芽細胞によるコラーゲン産生、血管新生、肉芽形成、上皮化) → 成熟期(瘢痕のリモデリング)と進む。壊死組織や異物、感染があると炎症期が遷延し、治癒が遅れる。
デブリドマン
壊死組織・汚染組織・異物を除去して創面を清浄化する処置である。メスや鋏による外科的デブリドマンが基本で、ほかに酵素製剤などを用いる化学的方法、ウジを用いるマゴットセラピーなどもある。深達性Ⅱ度熱傷やⅢ度熱傷、黒色壊死を伴う褥瘡や感染創では、壊死組織に抗菌薬が届かないため外科的除去が重要になる。
熱傷深度と治療
・Ⅰ度熱傷(表皮のみ):紅斑と疼痛。数日で瘢痕を残さず治る。 ・浅達性Ⅱ度熱傷(真皮浅層まで):水疱形成、強い疼痛。1〜2週程度で上皮化し、瘢痕はほとんど残らない。 ・深達性Ⅱ度熱傷(真皮深層まで):上皮化に3〜4週以上かかり肥厚性瘢痕を残しやすい。早期のデブリドマン・植皮が選択されることも多い。 ・Ⅲ度熱傷(皮膚全層):白色や褐色〜黒色の硬い皮膚となり、痛覚が失われる。自然な上皮化は期待できず、デブリドマン後の植皮が必要である。
破傷風予防
汚染創では予防接種歴を確認し、必要に応じて破傷風トキソイドや抗破傷風ヒト免疫グロブリンを投与する。
POINT
・創傷処置の基本:全身・深部損傷の評価 → 洗浄・異物除去 → デブリドマン → 適切な創閉鎖法の選択。 ・壊死組織(黒色壊死を含む)は感染源となり治癒を妨げるため、デブリドマンで除去する。 ・非感染の新鮮創は一期的縫合、感染創・汚染創は開放管理や遅延一次縫合・二期的治癒。 ・Ⅲ度熱傷は皮膚付属器も失われるため自然上皮化が期待できず、デブリドマン後に植皮を行う。
