「1分あたり」を忘れるな―蓄尿データから解くクレアチニンクリアランス
第115回医師国家試験 F問題 第12問
国試問題にチャレンジ
78歳の男性。血清クレアチニン値1.0mg/dL,24時間蓄尿量1,000mL,蓄尿中クレアチニン濃度72.0mg/dL。 クレアチニンクリアランス(mL/分)の数値はどれか。 ただし,体表面積補正なしで,小数点以下の数値が得られた場合には,小数第1位を四捨五入すること。
- a.10
- b.14
- c.50
- d.72
- e.78
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
クリアランスは、ある物質を1分間に完全に除去したとみなせる血漿量であり、尿中濃度×1分間尿量÷血漿濃度で求めます。24時間蓄尿量は1,440で割って1分間尿量に直す必要があり、本問では72.0×(1,000÷1,440)÷1.0=50mL/分となります。尿量の掛け忘れや分単位への換算忘れ、分子と分母の取り違えが典型的な誤りです。クレアチニンはわずかに尿細管から分泌されるためCcrは真のGFRをやや過大評価し、GFRの基準法はイヌリンクリアランスです。高齢者では筋肉量が少なく血清クレアチニンが正常でも腎機能が低下していることがあるため、CcrやeGFRで評価して腎排泄性薬剤の用量を調節する姿勢が臨床では欠かせません。
解答・解説
正解はcです
クリアランスの考え方
ある物質のクリアランスとは、その物質を1分間に完全に取り除いたとみなせる血漿の量(mL/分)である。1分間に尿へ排泄された物質の量(尿中濃度U×1分間尿量V)が、血漿中濃度Pの血漿何mL分に相当するかを考えると、次の式が得られる。 クリアランス C = U × V ÷ P U:尿中濃度、V:1分間あたりの尿量(mL/分)、P:血漿(血清)中濃度 UとPは同じ単位(ここではいずれもmg/dL)であれば単位が打ち消し合うので、単位を換算する必要はない。
1分間尿量への換算
クリアランスは「1分間あたり」の指標なので、24時間蓄尿量を1分間あたりに直す必要がある。24時間=24×60=1,440分であるから、 V = 1,000 mL ÷ 1,440分 ≒ 0.694 mL/分
計算
Ccr = 72.0(mg/dL)× 1,000/1,440(mL/分)÷ 1.0(mg/dL) = 72,000 ÷ 1,440 = 50(mL/分) 割り切れるので四捨五入の必要はなく、答えは50 mL/分である。 設問の指示どおり体表面積補正(標準体表面積1.73 m²あたりへの換算)は行わない。もし補正する場合は、得られた値に1.73/患者の体表面積を掛ける。
選択肢考察
- ×a. 10
上記の計算式に当てはめると50 mL/分となり、10にはならない。単位換算や式の組み立てを誤ったときに生じうる値であり、誤りである。
- ×b. 14
尿量1,000を尿中クレアチニン濃度72で割る(1,000÷72≒13.9)など、分子と分母を取り違えると得られる値である。クリアランスは尿中濃度×1分間尿量÷血清濃度であり、正しく計算すると50 mL/分となるので誤りである。
- ○c. 50
Ccr=尿中Cr(72.0 mg/dL)×1分間尿量(1,000 mL÷1,440分)÷血清Cr(1.0 mg/dL)=72,000÷1,440=50 mL/分となる。正しい。成人男性の基準範囲(おおむね90〜120 mL/分程度)より低下しているが、78歳という年齢では加齢に伴う腎機能低下として矛盾しない程度である。
- ×d. 72
尿中Cr÷血清Cr(72.0÷1.0)だけを計算し、1分間尿量を掛け忘れると得られる値である。仮に24時間尿量1,000 mLをそのまま掛けると72,000となり、これを1分あたりに直さなければ桁外れの値になる。1分間尿量(約0.69 mL/分)を掛ける必要があり、誤りである。
- ×e. 78
患者の年齢(78歳)と同じ数値であり、計算式からは得られない。Cockcroft-Gault式のように年齢を用いる推算式もあるが、その場合は体重が必要であり、本問のように蓄尿データから実測する場合は年齢は計算に関与しない。誤りである。
クレアチニンクリアランス〈Ccr〉とは
クレアチニンは筋肉中のクレアチンの代謝産物であり、産生量が筋肉量に応じてほぼ一定である。糸球体で自由に濾過され、尿細管での再吸収はほとんどないため、そのクリアランスは糸球体濾過量〈GFR〉の近似値として用いられる。ただしクレアチニンは近位尿細管からわずかに分泌されるため、Ccrは真のGFRより高め(概ね2〜3割程度)に出る傾向がある。腎機能が低下するほど分泌の割合が増え、過大評価が目立つようになる。
GFRの評価法
・イヌリンクリアランス:イヌリンは糸球体で濾過され、尿細管で再吸収も分泌もされないため、GFR測定のゴールドスタンダードである。 ・24時間蓄尿によるCcr:本問の方法。蓄尿の不完全(採り漏れ)があると過小評価になる。 ・推算GFR〈eGFR〉:日本人向けの式は血清Cr・年齢・性別から求める(eGFRcreat)。筋肉量の影響を受けにくい血清シスタチンCを用いる式(eGFRcys)もある。 ・Cockcroft-Gault式:推算Ccr=(140-年齢)×体重(kg)÷(72×血清Cr)(女性は×0.85)。薬剤の投与量調節に用いられることが多い。
高齢者での注意
高齢者や筋肉量の少ない人ではクレアチニン産生量が少ないため、血清Crが基準範囲内(本問の1.0 mg/dLなど)でもGFRは低下していることがある。血清Cr値だけで腎機能を判断せず、CcrやeGFR(必要に応じてシスタチンCによるもの)で評価し、腎排泄性薬剤の用量を調節することが重要である。
POINT
・クリアランス=尿中濃度×1分間尿量÷血漿濃度(U×V÷P)。 ・24時間蓄尿量は1,440(=24×60)で割って1分間尿量(mL/分)に直す。 ・本問:72.0×(1,000÷1,440)÷1.0=50 mL/分。 ・Ccrは尿細管分泌の分だけGFRを過大評価する。 ・高齢者では血清Crが正常でも腎機能が低下していることがある。
