StudyMed医師国家試験

ICFは「統計」のためじゃない―多職種をつなぐ「共通言語」としての国際生活機能分類

第115回医師国家試験 C問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第115回 C問題 第8問

国際生活機能分類〈ICF〉について誤っているのはどれか。

  1. a.統計分類が主目的である。
  2. b.多職種間の共通理解に寄与する。
  3. c.障害を生活機能というプラス面からみる。
  4. d.背景因子には環境因子と個人因子がある。
  5. e.WHOの国際分類ファミリーのひとつである。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は国際生活機能分類、いわゆるICFの基本的な性格を問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式だから、ICFの目的、障害のとらえ方、構成要素、WHOの分類体系の中での位置づけを一つずつ確認していこう。まず、ICFと聞いて何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、生活機能と背景因子が矢印でつながった図を見た記憶があります。リハビリの分野でよく使われるものですよね。
ドクタードクター
そう、あの相互作用モデルの図だね。ICFは2001年にWHO総会で採択された分類で、前身は1980年の国際障害分類、ICIDHだ。ICIDHは「機能・形態障害→能力障害→社会的不利」という一方向の流れで、病気の結果として生じるマイナス面を並べたものだった。
医学生医学生
ICFになって何が変わったんですか。
ドクタードクター
大きく2つある。1つは、心身機能・身体構造、活動、参加をまとめて「生活機能」と呼び、その人が何をできているかというプラス面を出発点にしたこと。問題がある部分は機能障害、活動制限、参加制約と表現する。もう1つは、健康状態や背景因子との関係をすべて双方向の矢印で結ぶ相互作用モデルにしたことだ。
医学生医学生
だから「障害を生活機能というプラス面からみる」という記述は正しいんですね。
ドクタードクター
その通り。では背景因子の中身は言えるかな。
医学生医学生
環境因子と個人因子の2つです。環境因子は段差や手すり、家族の支援、介護保険のような制度でしょうか。
ドクタードクター
よく整理できている。物的環境、人的環境、社会制度やサービス、さらに周囲の人の態度まで環境因子に含まれる。個人因子は年齢、性別、生活歴、価値観、性格などその人固有の特徴だ。ちなみに個人因子は社会や文化による違いが大きいため、具体的なコードは設けられていない。
医学生医学生
そこは知りませんでした。じゃあ、ICFのコードで統計をとることもできるんですよね。統計分類が主目的というのも、正しそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だ。確かにICFはアルファベットと数字を組み合わせたコードで約1,500項目に分類されていて、統計や国際比較にも使える。でもそれは用途の一つにすぎない。ICFの主なねらいは、医療・福祉・介護・教育・行政の専門職や本人・家族が、同じ枠組みで生活機能や障害を語り合える「共通言語」を提供することなんだ。
医学生医学生
統計が主目的と言われると、むしろICDのイメージですね。死因統計や疾病統計で使うので。
ドクタードクター
いい対比だね。統計的な把握を中心的な役割とするのはICDのほうだ。だから「統計分類が主目的である」が誤りで、これが正解になる。裏返せば「多職種間の共通理解に寄与する」はICFの最も重要な役割を表した正しい記述だ。
医学生医学生
臨床実習でリハビリテーション科のカンファレンスに出たとき、医師、理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカーが同じ用紙に生活機能を書き込んでいたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれがICFの使われ方だ。最後に、WHOの国際分類ファミリーについても確認しよう。
医学生医学生
ICDとICFがその中心になっている、という理解で合っていますか。
ドクタードクター
合っている。WHOは保健医療に関する複数の分類を「WHO国際分類ファミリー」として体系化していて、ICDとICFはその中心となる参照分類だ。ICDが病気や死因といった「健康状態」を、ICFがその人の「生活機能」を記述するという補完的な関係にある。
医学生医学生
同じ脳梗塞という診断でも、生活の困りごとは人によって違うから、両方が必要なんですね。
ドクタードクター
その感覚が大事だ。たとえば脳卒中後の片麻痺という機能障害があっても、手すりや車椅子といった環境因子を整えれば、歩行や外出といった活動・参加は改善しうる。障害を本人の中だけの問題ではなく、環境との関係で生じるものととらえるのがICFの核心だ。退院支援や介護保険の申請、ケアプランづくりの場面でもこの視点が役立つよ。

まとめ

国際生活機能分類〈ICF〉は2001年にWHOが採択した分類で、前身の国際障害分類〈ICIDH〉の一方向でマイナス面中心のモデルを改め、心身機能・身体構造、活動、参加という生活機能のプラス面を中心に、健康状態や背景因子(環境因子・個人因子)との双方向の相互作用で人の生活をとらえます。主目的は医療・福祉・介護などの多職種や本人・家族が共通理解を持つための「共通言語」の提供であり、コード化により統計にも利用できますが、それは副次的な用途にすぎず、統計的把握を主な役割とするのは国際疾病分類〈ICD〉です。ICFはICDとともにWHO国際分類ファミリーの中心分類であり、ICDが健康状態を、ICFが生活機能を記述する補完関係にあります。なお個人因子にはコードが設けられていない点も押さえておきましょう。障害を環境との関係でとらえるICFの視点は、リハビリテーションや退院支援、多職種連携を実践するうえでの基盤となります。

解答・解説

正解はaです

国際生活機能分類〈ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health〉は、2001年の世界保健機関〈WHO〉総会で採択された、人の「生きることの全体像」を記述するための分類である。前身は1980年にWHOが示した国際障害分類〈ICIDH:International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps〉である。 ICIDHは「機能・形態障害 → 能力障害 → 社会的不利」という一方向の流れで、病気の結果として生じるマイナス面を記述するものであった。これに対しICFは、心身機能・身体構造、活動、参加という生活機能(プラス面)を中心に据え、それらが損なわれた状態を機能障害・活動制限・参加制約と表現する。さらに健康状態や背景因子(環境因子・個人因子)との双方向の相互作用として生活機能をとらえる点が大きな転換である。 ICFの主なねらいは、医療・福祉・介護・教育・行政などの専門職、さらに本人や家族が、健康状態や障害について同じ枠組みで語り合える「共通言語」を提供することにある。アルファベットと数字を組み合わせたコードで分類されているため統計にも利用できるが、それは用途の一つにすぎず、主目的とはいえない。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題であり、ICFの目的・視点・構成要素・位置づけを正しく押さえていれば、主目的を「統計分類」とする記述が誤りであると判断できる。

選択肢考察

  1. ○a.  統計分類が主目的である。

    誤った記述であり、これが正解となる。ICFの主目的は、立場や職種の異なる人々が健康状態や生活機能・障害について共通理解を持つための「共通言語」を提供することである。コード化されているため統計資料の作成や国際比較にも使えるが、それは副次的な用途である。統計的な把握を中心的な役割とするのは、同じWHOの国際疾病分類〈ICD〉のほうである。

  2. ×b.  多職種間の共通理解に寄与する。

    正しい記述である。医師、看護師、理学療法士・作業療法士、ケアマネジャー、ソーシャルワーカー、教員など多様な職種が、同じ枠組みで対象者の生活機能を記述できる。専門職同士だけでなく、本人・家族を含めた関係者間のコミュニケーションを円滑にすることが、ICFの最も重要な役割である。

  3. ×c.  障害を生活機能というプラス面からみる。

    正しい記述である。前身のICIDHは「障害」というマイナス面を中心に分類していた。ICFでは、心身機能・身体構造、活動、参加を「生活機能」としてとらえ、その人が何をできているか、どのように社会と関わっているかというプラス面を出発点にし、そのうえで問題がある部分を機能障害・活動制限・参加制約として記述する。

  4. ×d.  背景因子には環境因子と個人因子がある。

    正しい記述である。背景因子は、その人の生活全体の背景となり、生活機能に影響を与える因子で、2つからなる。環境因子は、建物・福祉用具などの物的環境、家族・支援者などの人的環境、社会制度やサービス、周囲の態度などを含む。個人因子は、年齢、性別、生活歴、価値観、性格など、その人固有の特徴である。なお、個人因子は社会・文化による違いが大きいため、ICFでは具体的なコードは設けられていない。

  5. ×e.  WHOの国際分類ファミリーのひとつである。

    正しい記述である。WHOは保健医療に関する複数の国際分類を相互に関連づけ、「WHO国際分類ファミリー〈WHO-FIC〉」として体系化している。ICFは国際疾病分類〈ICD〉とともにその中心となる参照分類に位置づけられ、ICDが病気・死因などの「健康状態」を、ICFがその人の「生活機能」を記述するという補完的な関係にある。

ICFの構成

ICFは大きく2つの部門からなる。 1. 生活機能と障害 ・心身機能・身体構造:体の生理的・心理的な働きと、器官・四肢などの解剖学的部分。問題がある状態を「機能障害(構造障害を含む)」という。 ・活動:歩く、食事をする、身の回りのことをするなど、個人が行う具体的な課題や行為。問題がある状態を「活動制限」という。 ・参加:家庭、職場、地域社会などの生活・人生の場面に関わること、役割を果たすこと。問題がある状態を「参加制約」という。 2. 背景因子 ・環境因子:物的環境、人的環境、社会的な制度・サービス、社会の意識など。 ・個人因子:年齢、性別、生活歴、価値観、ライフスタイルなど(コード化はされていない)。

相互作用モデル

健康状態(病気、けが、妊娠、加齢など)、3つの生活機能、2つの背景因子はすべて双方向の矢印で結ばれている。例えば、脳卒中後の片麻痺(心身機能)があっても、手すりや車椅子などの環境因子を整えることで活動・参加が改善しうる。このように、障害を本人の中だけの問題ではなく環境との関係で生じるものととらえる点が特徴である。

ICIDHとの比較

・ICIDH(1980年):疾患 → 機能・形態障害 → 能力障害 → 社会的不利、という一方向の因果モデル。マイナス面に着目し、環境の影響が十分に考慮されていなかった。 ・ICF(2001年):生活機能というプラス面を中心とした、双方向の相互作用モデル。背景因子(特に環境因子)を明示的に組み込んだ。

コードの体系

アルファベット(b:心身機能、s:身体構造、d:活動と参加、e:環境因子)と数字を組み合わせ、約1,500項目(2001年版で1,424項目)に分類されている。

POINT

・ICFは2001年にWHOが採択、前身はICIDH(1980年) ・主目的は関係者間の「共通言語」の提供(統計は用途の一つにすぎない) ・障害をマイナス面だけでなく、生活機能というプラス面から包括的にとらえる ・生活機能=心身機能・身体構造、活動、参加 ・背景因子=環境因子+個人因子(個人因子はコード化されていない) ・各要素は双方向の相互作用モデルで結ばれる ・ICDとともにWHO国際分類ファミリーの中心分類

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。