StudyMed医師国家試験

止めるべきは「心室」の嵐―植込み型除細動器の適応を見極める

第115回医師国家試験 C問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第115回 C問題 第32問

 植込み型除細動器が適応となるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.心室細動の既往
  2. b.ふらつきを伴う心房粗動
  3. c.薬物不応性の発作性上室性頻拍
  4. d.カテーテルアブレーションが無効な心房細動
  5. e.失神を伴う器質的心疾患による持続性心室頻拍

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は植込み型除細動器、いわゆるICDの適応を問う問題だ。着眼点はシンプルで、「その不整脈は放っておくと突然死につながるか」、そして「それは心室由来か心房由来か」の2点。まずICDがどんな機械か、説明できるかな。
医学生医学生
前胸部の皮下に植え込んで、致死性不整脈が起きたら自動で電気ショックをかける機械ですよね。AEDを体の中に入れているようなイメージです。
ドクタードクター
いいイメージだね。リードを右心室に留置して心臓の電気活動を常に監視し、心室細動や心室頻拍を検出すると治療する。ただ、いきなりショックだけではなく、頻拍より少し速いペースで刺激して回路を止める抗頻拍ペーシングという方法も持っている。これは患者さんがほとんど痛みを感じずに済むのが利点だ。
医学生医学生
ということは、選択肢に並んでいる頻拍なら全部止められそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが落とし穴だ。ICDの目的は「頻拍を止めること」そのものではなく、「突然死を防ぐこと」。だから対象は放置すれば心停止に至る心室性不整脈に絞られる。まず心室細動の既往はどうだろう。
医学生医学生
心室細動は心室がバラバラに震えて拍出がゼロになる状態なので、一度起こした人はまた起こす危険がありますね。BLSの実習でも、VFは除細動しないと数分で死ぬと叩き込まれました。
ドクタードクター
その通り。心室細動からの蘇生例は二次予防として最も代表的な適応だ。ただし、急性心筋梗塞の発症直後や電解質異常、薬剤性など、原因が一過性で是正できる場合はまず原因治療を優先する、という例外も押さえておこう。次に、失神を伴う器質的心疾患による持続性心室頻拍は?
医学生医学生
失神するということは、脳に血が回らないほど血行動態が崩れているわけですよね。陳旧性心筋梗塞の瘢痕なんかが回路になっているなら、繰り返しそうです。
ドクタードクター
見事な推論だ。器質的心疾患を背景にした持続性心室頻拍は再発しやすく、心室細動へ移行して突然死する危険が高い。失神を伴っていればなおさらで、これも二次予防のICD適応になる。では残りの3つ、心房粗動、発作性上室性頻拍、心房細動はどうかな。
医学生医学生
どれも上室性ですね。でも心房粗動でふらつきがあるなら、危ないのではと少し迷いました。
ドクタードクター
迷う気持ちはわかる。心房粗動は房室伝導が2:1や1:1になると心拍数がかなり速くなって、ふらつきが出ることがある。でも心室そのものは秩序だって収縮しているから、ICDで除細動する対象ではない。レートコントロールや電気的除細動、そして通常型なら三尖弁輪と下大静脈の間の峡部を焼灼するアブレーションで高率に根治できる。
医学生医学生
発作性上室性頻拍は、循環器内科の実習でアブレーションを見学しました。リエントリー回路の一部を焼けば治る、と教わりました。
ドクタードクター
まさにそれ。薬が効かないならアブレーションが次の一手で、ICDの出番はない。心房細動も同じ考え方だ。心房が細動していても心室は房室結節を通じて拍動を続けるから、それ自体で心停止は起こらない。アブレーションが無効なら、抗不整脈薬やβ遮断薬でのコントロールを続け、それでも心拍数が抑えられなければ房室結節アブレーションとペースメーカを組み合わせる方法がある。抗凝固療法による脳梗塞予防も忘れずに。
医学生医学生
つまり心室性で、血行動態が破綻するか、すでに心室細動を起こした人が二次予防の対象、ということですね。逆に、まだ不整脈を起こしていない人には使わないんでしょうか。
ドクタードクター
そこが発展知識の一次予防だ。十分な薬物治療をしても左室駆出率35%以下で心不全症状がある虚血性心疾患や非虚血性心筋症、突然死リスクの高い肥大型心筋症、Brugada症候群、先天性QT延長症候群などでは、致死性不整脈を起こす前に植え込むことがある。心不全で低心機能の人には、両室ペーシング機能付きのCRT-Dが選ばれることもある。
医学生医学生
植え込んだあとに気をつけることはありますか。
ドクタードクター
大事な点がいくつかある。意識のある状態でのショックは強い痛みを伴い、頻回作動は不安やうつの原因になる。しかも心房細動などの速い上室性頻拍を心室頻拍と誤認して作動する不適切作動も起こりうるので、設定の調整やβ遮断薬の併用で防ぐ。余命が1年未満と見込まれる場合や、可逆的原因による不整脈は適応外か原因治療優先だ。静脈にリードを入れない皮下植込み型や、植込みまでの間に使う着用型除細動器という選択肢もある。
医学生医学生
ICDは万能の頻拍治療器ではなくて、突然死の予防装置なんですね。上室性頻拍はアブレーションと薬、心室性の致死性不整脈はICD、と整理しておきます。

まとめ

植込み型除細動器(ICD)は、心室細動や血行動態の破綻を伴う心室頻拍を自動で検出し、抗頻拍ペーシングや電気ショックで停止させて心臓突然死を防ぐ機器です。心室細動からの蘇生例や、失神を伴う器質的心疾患による持続性心室頻拍は二次予防の代表的適応であり、左室駆出率35%以下で心不全症状を伴う心筋症などは一次予防の対象となります。一方、心房粗動・発作性上室性頻拍・心房細動といった上室性不整脈はそれ自体で心停止を招くことは通常なく、薬物療法やカテーテルアブレーションで対応し、ICDの適応にはなりません。可逆的原因による不整脈では原因の是正が優先され、植込み後は不適切作動や頻回作動による心理的負担にも配慮が必要です。「心室か心房か」「突然死につながるか」という軸で整理することが、不整脈治療の選択を理解する土台になります。

解答・解説

正解はa, eです

植込み型除細動器とは

植込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator:ICD)は、前胸部の皮下に本体を植え込み、経静脈的に右心室へ留置したリード(または皮下に留置したリード)を通じて心臓の電気活動を常時監視する機器である。心室細動(VF)や心室頻拍(VT)を自動で検出すると、抗頻拍ペーシング(ATP:VTより少し速い頻度でペーシングして頻拍回路を止める方法)や電気ショック(除細動・カルディオバージョン)を行い、心臓突然死を防ぐ。

適応の考え方

ICDは「放置すれば突然死につながる心室性不整脈」を止めるための治療である。したがって適応の中心は、VFや血行動態の破綻を伴う持続性VTといった致死性心室性不整脈である。 ・二次予防:VFからの蘇生例、失神・ショックなど血行動態の破綻を伴う持続性VT(特に器質的心疾患を背景とするもの)など、すでに致死性不整脈を起こした患者の再発時の突然死を防ぐ。 ・一次予防:まだ致死性不整脈を起こしていないが、リスクが高い患者(例:十分な薬物治療下でも左室駆出率が35%以下で心不全症状のある虚血性・非虚血性心筋症、突然死リスクの高い肥大型心筋症・Brugada症候群・QT延長症候群など)を対象とする。 一方、心房細動・心房粗動・発作性上室性頻拍といった上室性不整脈は、心室が細動に陥るわけではなく、それ自体が直ちに心停止を招くことは通常ない。治療はレートコントロール(心拍数の調整)、リズムコントロール(洞調律の維持)、カテーテルアブレーション、抗凝固療法などで行い、ICDは適応にならない。 本問では、心室性の致死性不整脈である「心室細動の既往」と「失神を伴う器質的心疾患による持続性心室頻拍」を選べばよい。

選択肢考察

  1. ○a.  心室細動の既往

    心室細動は心室が無秩序に興奮して有効な拍出がなくなる状態で、自然に止まることはまれであり、数分以内に除細動しなければ死亡する。一度起こした患者は再発の危険が高く、心筋梗塞急性期(発症48時間以内)など可逆的・一過性の原因が明らかな場合を除き、再発時の突然死を防ぐ二次予防としてICDの最もよい適応となる(ガイドラインでもクラスⅠ)。

  2. ×b.  ふらつきを伴う心房粗動

    心房粗動は上室性不整脈であり、ICDの適応ではない。房室伝導比が2:1や1:1になると心拍数が非常に速くなり、ふらつきなどの症状をきたすことがあるが、対応は房室結節を抑える薬物(β遮断薬、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬など)によるレートコントロール、電気的・薬理学的除細動、そして根治療法としてのカテーテルアブレーション(通常型心房粗動では三尖弁輪-下大静脈間峡部の焼灼の成功率が高い)である。血栓塞栓症予防の抗凝固療法も心房細動に準じて検討する。

  3. ×c.  薬物不応性の発作性上室性頻拍

    発作性上室性頻拍(房室結節リエントリー性頻拍、副伝導路を介する房室リエントリー性頻拍など)は、リエントリー回路の一部を焼灼すれば高率に根治できるため、薬物不応例や再発を繰り返す例ではカテーテルアブレーションのよい適応である。心室細動に移行するような致死性不整脈ではなく、ICDの適応にはならない。

  4. ×d.  カテーテルアブレーションが無効な心房細動

    心房細動は心房が細動していても心室は房室結節を介して拍動を続けるため、それ自体で心停止に至ることはない。ICDは心室性不整脈を止めるための機器であり、心房細動の治療目的では用いない。アブレーション無効例では、抗不整脈薬によるリズムコントロールやβ遮断薬などによるレートコントロールを続け、薬物でもレートコントロールが困難な場合には房室結節アブレーションと恒久的ペースメーカ植込みを組み合わせる方法がある。脳梗塞予防の抗凝固療法も重要である。

  5. ○e.  失神を伴う器質的心疾患による持続性心室頻拍

    持続性心室頻拍(30秒以上続く、または停止処置を要するVT)が失神を伴うことは、血行動態が破綻するほどの頻拍であることを示す。陳旧性心筋梗塞や心筋症などの器質的心疾患が背景にあるVTは再発しやすく、心室細動に移行して突然死に至る危険が高い。このためICDの二次予防の適応(クラスⅠ)であり、必要に応じて抗不整脈薬(アミオダロンなど)やカテーテルアブレーションを併用してICDの作動回数を減らす。

ICDの機能

・抗頻拍ペーシング(ATP):VTを痛みなく停止させられることが多い。 ・カルディオバージョン/除細動:ATPで止まらないVTやVFに対して電気ショックを与える。 ・徐脈に対するペーシング機能も備える。 ・作動記録が残るため、どの不整脈で作動したかを後から確認できる。

主な適応(日本のガイドラインの概要)

・二次予防:VFからの蘇生例、血行動態の破綻を伴う持続性VT、器質的心疾患に伴う失神で電気生理検査によりVT/VFが誘発されるものなど。ただし、急性心筋梗塞の発症早期や電解質異常・薬剤性などの可逆的な原因によるものは、原因の是正を優先する。 ・一次予防:十分な薬物治療を行っても左室駆出率35%以下でNYHA心機能分類Ⅱ〜Ⅲ度の心不全を伴う虚血性心疾患・非虚血性心筋症など。心不全を伴う低心機能例では、両室ペーシング機能をもつ除細動器(CRT-D)が選択されることもある。 ・遺伝性不整脈:Brugada症候群、先天性QT延長症候群、肥大型心筋症などで突然死リスクが高いと判断される例。

除外・注意すべき状況

・余命が1年未満と見込まれる例、コントロールできない頻回のVT(electrical storm)が続く例、可逆的原因による不整脈などでは適応とならない、または原因治療を優先する。 ・意識がある状態での電気ショックは強い痛みを伴い、頻回作動(不適切作動を含む)は患者に大きな心理的負担を与え、うつや不安の原因となる。心房細動などの上室性頻拍を誤って検出する不適切作動を防ぐため、設定の調整やβ遮断薬の併用が行われる。 ・植込みが困難または感染リスクが高い例などで、皮下植込み型除細動器(S-ICD:静脈内にリードを入れない)や、植込みまでの期間に装着する着用型除細動器(WCD)が用いられることもある。

上室性不整脈の主な治療

・発作性上室性頻拍:迷走神経刺激、ATP(アデノシン三リン酸)静注、Ca拮抗薬静注で停止。根治はカテーテルアブレーション。 ・心房粗動:レートコントロール、除細動、峡部アブレーションによる根治。 ・心房細動:抗凝固療法(CHADS2スコアなどで評価)、レートコントロール、リズムコントロール、肺静脈隔離術。

POINT

・ICDは心室細動や血行動態の破綻を伴う心室頻拍など、致死性の心室性不整脈による突然死を防ぐための治療である。 ・心室細動からの蘇生例、失神を伴う持続性心室頻拍(特に器質的心疾患に伴うもの)は二次予防の代表的適応。 ・低心機能(左室駆出率35%以下)で心不全症状のある患者などは一次予防の適応となる。 ・心房細動・心房粗動・発作性上室性頻拍などの上室性不整脈はICDの適応にならず、薬物治療やカテーテルアブレーションで対応する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。