WHOは「健康」の専門家―識字率は誰の仕事?国際機関の守備範囲を見極める
第115回医師国家試験 C問題 第20問
国試問題にチャレンジ
WHOの活動にあてはまらないのはどれか。
- a.健康の定義
- b.識字率の向上
- c.たばこ規制の推進
- d.国際疾病分類〈ICD〉の改訂
- e.国際保健規則に基づく感染症対策
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
WHOは保健・医療分野に特化した国連の専門機関であり、憲章前文での健康の定義、たばこ規制枠組条約(FCTC)によるたばこ対策、国際疾病分類(ICD)の作成・改訂、国際保健規則(IHR)に基づく感染症対策はいずれも中核的な業務です。一方、識字率の向上は教育分野の課題であり、主にUNESCOが担当しているため、WHOの活動にはあてはまりません。教育は健康の社会的決定要因の一つですが、「健康に関係する=WHOの所管」ではない点に注意が必要です。UNICEF=子ども、UNESCO=教育、ILO=労働、FAO=食料というように各国際機関の守備範囲を対応づけて覚えておくと、国際保健の問題を確実に解けるだけでなく、新興感染症流行時のPHEIC宣言など実際の医療現場に影響する国際的な動きも理解しやすくなります。
解答・解説
正解はbです
世界保健機関〈WHO:World Health Organization〉は、国際連合(国連)の専門機関の一つで、本部はスイスのジュネーブにある。WHO憲章は1946年に採択され、1948年4月7日に発効した(この日は「世界保健デー」とされている)。その目的は「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」であり、保健・医療分野に特化して活動している。 本問は「あてはまらないもの」を選ぶ問題であるから、保健分野以外の目標、すなわち他の国連機関が主に担う活動を見つければよい。健康の定義(WHO憲章前文)、たばこ規制(たばこ規制枠組条約)、国際疾病分類〈ICD〉の作成・改訂、国際保健規則〈IHR〉に基づく感染症対策は、いずれもWHOの中核的な業務である。一方、識字率の向上は教育分野の課題であり、国連教育科学文化機関〈UNESCO〉の担当である。 なお、FCTC、ICD(世界保健機関分類規則による)、IHRは、いずれもWHO憲章に定められた権限に基づき世界保健総会で採択された国際的な取り決めであり、加盟国に対して一定の法的拘束力をもつ点も押さえておきたい。
選択肢考察
- ×a. 健康の定義
WHOの活動に該当する。WHO憲章の前文では、健康を「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」と定義している。病気がないという消極的な捉え方ではなく、社会的な側面まで含めた積極的な健康観を示した点に意義がある。1998年には「spiritual(霊的)」と「dynamic(動的)」を加える改正案が理事会で提案されたが、総会では審議されず、憲章の定義は変わっていない。
- ○b. 識字率の向上
WHOの活動にあてはまらない。識字率の向上は教育分野の課題であり、主に国連教育科学文化機関〈UNESCO:United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization〉が担っている。教育水準は健康の社会的決定要因の一つであり、母親の識字率と乳幼児死亡率の間には関連があることも知られている。しかし、識字教育の推進そのものはWHOの所管ではない。子どもの教育や栄養支援には国連児童基金〈UNICEF〉も関わっている。
- ×c. たばこ規制の推進
WHOの活動に該当する。1999年の世界保健総会で、たばこ規制に関する条約を起草・交渉する政府間交渉会議の設置が決まった。2003年の総会で「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約〈FCTC:Framework Convention on Tobacco Control〉」が採択され、2005年2月27日に発効した。WHOの主導で作られた初めての保健分野の国際条約であり、日本も締約国である。条約には、受動喫煙の防止、たばこ広告の規制、パッケージへの健康警告表示、価格・税による需要抑制などが盛り込まれている。WHOはMPOWER(喫煙状況の監視、受動喫煙からの保護、禁煙支援、警告表示、広告禁止、たばこ税の引き上げ)という政策パッケージも示し、各国の取り組みを支援している。
- ×d. 国際疾病分類〈ICD〉の改訂
WHOの活動に該当する。国際疾病分類〈ICD:International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems〉は、死因や疾病を国際的に比べられるようにするための分類で、WHOが作成し改訂している。最新のICD-11は2018年に公表され、2019年の世界保健総会で採択されたのち、2022年1月に発効した。日本の人口動態統計(死因統計)は現在ICD-10(2013年版)に準拠しており、ICD-11への移行に向けた準備が進められている。
- ×e. 国際保健規則に基づく感染症対策
WHOの活動に該当する。国際保健規則〈IHR:International Health Regulations〉は、感染症などの国境を越えた拡大を防ぐための国際的な規則である。2005年に大幅に改正されて2007年に発効し、対象が特定の感染症から「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態〈PHEIC:Public Health Emergency of International Concern〉」となりうるあらゆる事象(原因不明のもの、化学物質や放射性物質によるものを含む)に広げられた。加盟国は該当する事象をWHOへ通報する義務を負い、PHEICに当たるかどうかはWHO事務局長が判断する。新型コロナウイルス感染症やエムポックスなどでPHEICが宣言されたことがある。
国際保健に関わる主な国際機関
・WHO(世界保健機関):保健・医療全般。感染症対策、非感染性疾患対策、ICDの作成、健康の定義、プライマリヘルスケアの推進など。 ・UNICEF(国連児童基金):子どもの生存・発達・保護。予防接種、栄養改善、母子保健、安全な水の確保など。 ・UNESCO(国連教育科学文化機関):教育・科学・文化。識字教育、世界遺産など。 ・ILO(国際労働機関):労働条件、労働安全衛生。 ・FAO(国連食糧農業機関):食料・農業。WHOとともにコーデックス委員会(国際食品規格)を運営している。 ・UNAIDS(国連合同エイズ計画):HIV/AIDS対策を複数の国連機関で連携して進める。 ・UNHCR(国連難民高等弁務官事務所):難民の保護と支援。
WHOの主な歴史的成果・宣言
・天然痘根絶宣言(1980年) ・アルマ・アタ宣言(1978年、WHOとUNICEFの共催):プライマリヘルスケアの理念 ・オタワ憲章(1986年):ヘルスプロモーション ・FCTC(2003年採択、2005年発効) ・IHR改正(2005年改正、2007年発効) ・ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ〈UHC〉の推進
WHOの組織
最高意思決定機関は全加盟国が参加する世界保健総会(毎年5月、ジュネーブ)である。地域事務局は6つあり、日本は西太平洋地域事務局(マニラ)に属する。
POINT
・WHOは保健分野に特化した国連の専門機関である。識字率の向上(教育)はUNESCOの担当。 ・WHO憲章の健康の定義:肉体的・精神的・社会的に完全に良好な状態。 ・WHOが主導した国際的な取り決め:FCTC(たばこ)、ICD(疾病分類、最新はICD-11)、IHR(PHEICの枠組み)。 ・どの国際機関が何を担当しているかを対応づけて覚える(UNICEF=子ども、UNESCO=教育、ILO=労働、FAO=食料)。
