StudyMed医師国家試験

ティッシュを詰めても止まらない鼻血―「座って、うつむいて、小鼻をつまむ」が基本の理由

第114回医師国家試験 F問題 第52問

国試問題にチャレンジ

第114回 F問題 第52問

73歳の女性。入院中の患者の鼻出血について病棟看護師から救急外来に相談があった。午前2時ころから右鼻出血があり,ティッシュペーパーを鼻腔に詰めて10分間様子をみたが,止血しないため電話したという。10年前から高血圧症で降圧薬を服薬中であるが,抗血小板薬と抗凝固薬は内服していない。体温36.0℃。脈拍76/分,整。血圧120/70mmHg。  救急外来の医師が診察する前に,病棟看護師が患者に指示する内容として適切なのはどれか。

  1. a.「鼻根部を温めましょう」
  2. b.「仰向けに寝てください」
  3. c.「今すぐ降圧薬を内服しましょう」
  4. d.「血は吐き出さずに飲み込んでください」
  5. e.「座ってうつむいて鼻を強くつまんでください」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は入院患者の鼻出血に対して、医師が来るまでに看護師が何を指示すべきかを考える問題だ。注目してほしいのは、出血傾向を起こす薬を飲んでいないこと、バイタルサインが安定していること、そして「ティッシュを詰めて待つ」という止血法そのものだ。まず、鼻出血はどこから出ることが多いか覚えているかな。
医学生医学生
鼻中隔の前下部のKiesselbach部位です。耳鼻咽喉科の講義で、複数の動脈が吻合している場所だと習いました。
ドクタードクター
その通り。前・後篩骨動脈、蝶口蓋動脈、大口蓋動脈、上唇動脈の枝が集まって血管網をつくっていて、しかも粘膜が薄い。だから乾燥や鼻をいじる刺激で傷つきやすく、成人の鼻出血の大部分がここから起こる。大事なのは、この部位は外から小鼻をつまむだけで直接圧迫できる、という点だ。
医学生医学生
ティッシュを詰めて10分待っても止まらなかったのは、出血がひどいからではなく、止血の方法が悪かったということでしょうか。
ドクタードクター
その可能性が高いね。ティッシュを詰めるだけでは出血点に十分な圧がかからないうえ、血液を吸い取って流れを保ってしまう。抜くときにかさぶたがはがれて再出血しやすいという欠点もある。抗血栓薬は飲んでおらず循環動態も安定しているから、まずは正しい方法で圧迫止血をさせる段階なんだ。
医学生医学生
では、正しい方法というのは何がポイントになりますか。
ドクタードクター
2つある。1つは血液がのどへ流れ込まない姿勢をとること、もう1つは出血部位を確実に圧迫し続けることだ。これを満たすのが「座って軽くうつむき、小鼻を両側から強くつまむ」という指示で、これが正解になる。前かがみなら血液は前に出てくるから、誤嚥や嘔吐を防げるし、出血量も確認しやすい。
医学生医学生
つまむ時間はどれくらいですか。何度も離して止まったか確認したくなりそうです。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。途中で手を離して確認すると、固まりかけた血餅が崩れてしまう。10〜15分程度は連続して圧迫し続けるのがこつだ。それでも止まらなければ、医師が血管収縮薬を含ませた綿やガーゼを挿入したり、焼灼したりする処置に進む。では、仰向けに寝てもらうという指示はどうだろう。
医学生医学生
安静にさせるという意味では良さそうに思えましたが、血液がのどに流れてしまいますね。
ドクタードクター
そう。仰臥位では血液が後鼻孔から咽頭へ流れ落ちる。気道に入れば誤嚥や窒息の原因になり、胃にたまれば悪心・嘔吐を起こす。しかも出血が外から見えなくなって、量も止血の有無も分かりにくくなる。ちなみに、意識障害やショックで座位がとれない場合は、血液が口から外に出るように側臥位にするんだ。
医学生医学生
血を吐き出さずに飲み込ませるのも、同じ理由でよくないですね。
ドクタードクター
その通り。飲み込んだ血液は胃を刺激して嘔吐を誘発し、その嘔吐で誤嚥する危険もある。出血量の見積もりもできなくなる。のどに回った血液はガーゼや膿盆に静かに出してもらうよう指導しよう。次は鼻根部を温めるという指示だ。
医学生医学生
温めると血管が拡張して、むしろ出血しやすくなりそうです。それに鼻根部はKiesselbach部位から離れていますよね。
ドクタードクター
よく分かっているね。温めるのは逆効果になりうるし、鼻根部は出血点から離れているから直接の止血効果は期待できない。冷やす方法は補助的に行われることがあるけれど、止血の主役はあくまで小鼻の圧迫だ。最後に、降圧薬を今すぐ飲ませる指示はどうかな。
医学生医学生
高血圧の患者さんの鼻出血なので、血圧を下げたほうがいい気もしましたが……。
ドクタードクター
そう考えたくなるけれど、今の血圧は正常範囲で、追加の降圧は必要ない。高齢者に不要な降圧をすると、ふらつきや臓器の血流低下を招くおそれがある。そもそも内服薬は効くまで時間がかかるから、局所の止血の代わりにはならない。著しい高血圧を伴う鼻出血なら降圧も考慮するけれど、その場合でも局所の止血が優先だ。
医学生医学生
救急科の臨床実習でも、まずは圧迫して、それから背景を確認するという順番を教わりました。
ドクタードクター
いい経験だね。発展知識として、圧迫で止まらない場合は鼻腔後方、特に蝶口蓋動脈領域からの出血を考える。高齢者や高血圧の患者に多く、出血量が多くて圧迫で止まりにくい。後鼻タンポンやバルーンの留置、内視鏡下の焼灼、さらに動脈結紮や血管塞栓術が必要になることもある。また、繰り返す鼻出血では、抗血栓薬、凝固異常、白血病や血小板減少、肝硬変、Osler病、鼻・副鼻腔腫瘍といった背景がないかを確認しよう。頻脈や血圧低下、顔面蒼白があれば大量出血を疑って、すぐに医師が対応する必要がある。
医学生医学生
上を向く、首の後ろをたたく、ティッシュを詰めるといった昔からの対処法は、どれも効果がないか逆効果なんですね。
ドクタードクター
その通り。家族や患者さんに正しい応急処置を伝えられるのも、医療者の大切な役割だよ。

まとめ

成人の鼻出血の大部分は鼻中隔前下部のKiesselbach部位から起こり、この部位は小鼻(鼻翼)を外からつまむことで直接圧迫できます。応急処置の基本は、座位で軽くうつむき、小鼻を両側から強くつまんで10〜15分程度連続して圧迫することで、血液の咽頭への流入による誤嚥・嘔吐を防ぎ、出血量も把握しやすくなります。仰臥位や血液を飲み込ませることは誤嚥・嘔吐の原因となり、鼻根部を温めることは止血に役立たず、血圧が正常なら降圧薬の追加も不要です。圧迫で止まらない場合、特に高齢者や高血圧の患者では鼻腔後方からの出血を考えて医師による止血処置へ進み、抗血栓薬や凝固異常などの背景因子も確認します。ありふれた症状だからこそ、正しい応急処置を理解して指導できることは、どの診療科でも役立つ臨床能力です。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・73歳女性の入院患者。深夜(午前2時ころ)から右鼻出血が続いている。 ・ティッシュペーパーを鼻に詰めて10分間待ったが止まらない。 ・高血圧症で降圧薬を内服中だが、抗血小板薬・抗凝固薬は飲んでいない。 ・体温36.0℃、脈拍76/分 整、血圧120/70mmHg と、バイタルサインは安定しており、血圧も良好にコントロールされている。

状況の判断

鼻出血は、出血源のはっきりしない特発性鼻出血と、高血圧・血液疾患・抗血栓薬・腫瘍などの背景がある症候性鼻出血に大別される。成人の鼻出血の大部分は鼻中隔前下部の Kiesselbach(キーゼルバッハ)部位からの出血であり、この部位は外鼻を指でつまむだけで直接圧迫できる。本例は出血傾向を起こす薬を使っておらず、循環動態も安定しているため、まずは正しい方法での圧迫止血を行わせるべき段階である。 ティッシュを詰めて待つだけでは出血点に十分な圧がかからず、むしろ血液を吸い取って流れを保ってしまううえ、抜くときにかさぶたがはがれて再出血しやすい。つまり「10分間止まらなかった」のは、止血法そのものが適切でなかった可能性が高い。

設問の考え方

医師が到着するまでに看護師が患者に伝えるべきことは、(1)血液がのどへ流れ込まないような姿勢をとること、(2)出血部位を確実に圧迫し続けること、の2点である。これを満たすのは「座位(または上体を起こした姿勢)で軽く前かがみになり、鼻翼(小鼻)を両側からしっかりつまむ」という指示である。

選択肢考察

  1. ×a.  「鼻根部を温めましょう」

    誤り。温めると局所の血管が拡張し、かえって出血を助長しうる。また、鼻根部(両目の間の付け根)は出血の多い Kiesselbach 部位から離れており、この部分に何をしても直接の止血効果は期待できない。鼻根部や額を冷やす方法は補助的に行われることがあるが、止血の主役はあくまで鼻翼の圧迫である。

  2. ×b.  「仰向けに寝てください」

    誤り。仰臥位では血液が後鼻孔から咽頭へ流れ落ち、気道に入れば誤嚥や窒息の原因に、食道から胃にたまれば悪心・嘔吐の原因になる。さらに出血が外から見えなくなるため、出血量や止血の有無を把握しにくくなる。なお、意識障害やショックで座位がとれない場合は、血液が口から外へ出るように側臥位をとらせる。

  3. ×c.  「今すぐ降圧薬を内服しましょう」

    誤り。現在の血圧は120/70mmHg と正常範囲であり、追加の降圧は不要である。不要な降圧は高齢者ではふらつきや臓器の血流低下を招くおそれがある。また、内服した降圧薬が効くまでには時間がかかり、いま行うべき局所の止血処置の代わりにはならない。著しい高血圧を伴う鼻出血では降圧も考慮するが、その場合でも局所の止血が優先される。

  4. ×d.  「血は吐き出さずに飲み込んでください」

    誤り。飲み込んだ血液は胃を刺激して悪心・嘔吐を起こしやすく、嘔吐の際に誤嚥する危険もある。また、飲み込まれてしまうと出血量を見積もることができない。のどに回ってきた血液は飲み込まずに、ガーゼや膿盆に静かに出させるよう指導する。

  5. ○e.  「座ってうつむいて鼻を強くつまんでください」

    正しい。鼻出血の応急処置の基本である。座って軽く前かがみ(うつむき)になると、血液が咽頭へ流れ込まずに前方へ出るので、誤嚥・嘔吐を防ぎ、出血量も確認しやすい。そのうえで小鼻(鼻翼)を親指と人差し指で両側から強くつまむと、鼻中隔前下部の Kiesselbach 部位が直接圧迫される。途中で何度も手を離して確認せず、10〜15分程度は連続して圧迫を続けるのがこつである。これで止まらなければ、医師による止血処置(血管収縮薬を含ませた綿やガーゼの挿入、焼灼など)に進む。

鼻出血の好発部位

・Kiesselbach 部位:鼻中隔の前下部で、複数の動脈(前・後篩骨動脈、蝶口蓋動脈、大口蓋動脈、上唇動脈の枝)が吻合して血管網を作る。粘膜が薄く、鼻をいじる・乾燥などで傷つきやすいため、鼻出血の大部分はここから起こる。外鼻の圧迫で止血できることが多い。 ・鼻腔後方からの出血(蝶口蓋動脈領域など):高齢者や高血圧の患者に多く、出血量が多く圧迫で止まりにくい。後鼻孔へのバルーンやタンポンの留置、内視鏡下の焼灼、動脈結紮・塞栓術などが必要になることがある。

止血処置の段階

1. 座位・前かがみで鼻翼を圧迫(用手圧迫) 2. 血管収縮薬(アドレナリンなど)と表面麻酔薬を含ませた綿球やガーゼを挿入して圧迫 3. 出血点が見えれば電気凝固や化学的焼灼 4. 前鼻タンポン、さらに後鼻タンポン(バルーン) 5. 止まらなければ動脈結紮術や血管塞栓術

問診・評価で確認すべき背景因子

抗血小板薬・抗凝固薬の内服、血友病などの凝固異常、白血病・血小板減少、肝硬変、腎不全、高血圧、遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler 病)、鼻・副鼻腔腫瘍など。バイタルサインの異常(頻脈、血圧低下、顔面蒼白)があれば、大量出血を疑って速やかに医師の対応を要する。

誤った民間療法

ティッシュを詰めて待つ、首の後ろをたたく、上を向く・仰向けに寝るといった方法は効果がないか、かえって有害である。

POINT

・鼻出血の大部分は鼻中隔前下部の Kiesselbach 部位から起こる。 ・応急処置は「座位で前かがみ+鼻翼を強くつまんで10〜15分圧迫」。 ・仰臥位や上を向く姿勢、血液を飲み込むことは誤嚥・嘔吐の原因となるので避ける。 ・血圧が正常なら降圧薬の追加は不要。局所の止血が最優先である。 ・圧迫で止まらない場合、高齢・高血圧の患者では鼻腔後方からの出血も考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。