StudyMed医師国家試験

その一服、誰の肺に?―受動喫煙防止を定める法律を見極める

第114回医師国家試験 F問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第114回 F問題 第16問

受動喫煙の防止を規定している法律はどれか。

  1. a.健康増進法
  2. b.地域保健法
  3. c.母子保健法
  4. d.たばこ事業法
  5. e.医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律〈医薬品医療機器等法〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、受動喫煙対策の法的な根拠を問う公衆衛生の問題だ。選択肢にはどれも医療や健康に関係しそうな法律が並んでいるから、それぞれの法律が「何のために、何を定めているか」を整理できているかが問われている。まず、受動喫煙とは何か説明できるかな。
医学生医学生
他人のたばこの煙を吸わされることですよね。副流煙のほうが有害物質が多いと公衆衛生の講義で習いました。
ドクタードクター
そうだね。たばこの先から立ち上る副流煙と、喫煙者が吐き出す呼出煙が混ざった煙を吸い込むことだ。副流煙は燃焼温度が低いため、一部の有害物質は主流煙より高濃度で含まれる。受動喫煙は肺癌、虚血性心疾患、脳卒中、乳幼児突然死症候群などのリスクを上げることが示されている。では、これを防ぐことを定めた法律はどれだと思う?
医学生医学生
名前だけで考えると、たばこ事業法かなと一瞬思いました。たばこのことを決めている法律なので。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、そこが引っかけだ。たばこ事業法は財務省所管で、たばこ産業の健全な発展と財政収入の安定的な確保を目的とする法律なんだ。製造の独占や小売販売の許可制、包装への注意文言の表示などを定めているけれど、受動喫煙防止の規定はない。
医学生医学生
健康を守るための法律ではなく、産業と税収のための法律なんですね。だとすると、健康増進法でしょうか。
ドクタードクター
正解。受動喫煙の防止は、2002年に制定された健康増進法で初めて法律に明記された。健康増進法は「健康日本21」を推進する法的基盤として整備された法律で、国民健康・栄養調査や特定給食施設、特別用途表示などとあわせて受動喫煙防止を規定している。
医学生医学生
健康増進法といえば国民健康・栄養調査のイメージしかありませんでした。受動喫煙も入っているんですね。
ドクタードクター
施行当初は、多数の人が利用する施設の管理者に対策を求める「努力義務」にとどまっていたんだ。それが2018年の改正で、施設の種類ごとに禁煙の範囲を定め、違反には過料という罰則を設ける「義務」へと強化された。2020年4月に全面施行されている。
医学生医学生
そういえば、臨床実習で回った病院は敷地内に喫煙所がまったくありませんでした。それもこの改正の影響ですか。
ドクタードクター
その通り。学校、病院・診療所、児童福祉施設、行政機関などは第一種施設とされ、敷地内禁煙になった。子どもや患者さんなど、受動喫煙の影響を受けやすい人に特に配慮するという考え方だね。屋外に必要な措置をとった喫煙場所を設けることだけは例外的に認められている。一方、飲食店や事務所などの第二種施設は原則屋内禁煙で、基準を満たした喫煙専用室の設置は認められている。
医学生医学生
残りの選択肢も確認させてください。地域保健法は保健所のことを決めた法律でしたよね。
ドクタードクター
そう。1994年に保健所法を改正・改称して成立した法律で、地域保健対策の基本指針や、保健所・市町村保健センターの設置と業務など、地域保健の体制を定めている。健康づくりの枠組みではあるけれど、受動喫煙防止の具体的な規定はない。
医学生医学生
母子保健法はどうでしょう。妊婦さんや赤ちゃんの受動喫煙は特に問題になると思うのですが。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。確かに妊婦や乳幼児の受動喫煙を防ぐことは、保健指導の場でとても大切な内容だ。ただ、母子保健法が定めているのは妊娠の届出、母子健康手帳の交付、保健指導、1歳6か月児・3歳児健康診査、新生児訪問指導、低出生体重児の届出、養育医療などで、受動喫煙防止を規定する法律ではない。
医学生医学生
医薬品医療機器等法は旧薬事法ですよね。たばこは医薬品ではないので、対象外だと思います。
ドクタードクター
そのとおり。品質・有効性・安全性を確保するために医薬品や医療機器などを規制する法律で、たばこは対象外だ。ちなみに禁煙補助薬のニコチンパッチやニコチンガムは医薬品なので、こちらの法律の規制を受けるよ。
医学生医学生
法律の名前だけで判断せず、目的と中身で考えるのが大事なんですね。
ドクタードクター
まさにそこがポイント。発展として、国際的な枠組みも押さえておこう。日本は2004年にWHOたばこ規制枠組条約(FCTC)を批准していて、受動喫煙からの保護や警告表示などが締約国に求められている。また労働安全衛生法でも、職場の受動喫煙防止について事業者の努力義務が設けられている。改正健康増進法では、20歳未満の者を喫煙エリアに立ち入らせてはならないことも定められた。臨床では、喫煙者本人の禁煙支援だけでなく、同居する家族、特に子どもや妊婦への影響まで視野に入れて指導することが大切だよ。

まとめ

受動喫煙の防止を規定している法律は健康増進法で、2002年の制定時に初めて明記され、2018年の改正で努力義務から罰則つきの義務へと強化されました(2020年4月全面施行)。改正法では学校・病院・行政機関などの第一種施設は敷地内禁煙、飲食店・事務所などの第二種施設は原則屋内禁煙とされ、子どもや患者など影響を受けやすい人への配慮が重視されています。たばこ事業法はたばこ産業と財政収入のための財務省所管の法律、地域保健法は保健所など地域保健の体制、母子保健法は母子健康手帳や乳幼児健診、医薬品医療機器等法は医薬品・医療機器の規制を定めた法律であり、いずれも受動喫煙防止の規定はありません。健康増進法には国民健康・栄養調査や特定給食施設、特別用途表示の規定も含まれることをあわせて押さえておくと、関連問題にも対応できます。各法律の目的と主な規定内容を整理しておくことは、公衆衛生の得点源になるだけでなく、患者や家族への禁煙・受動喫煙防止の指導の根拠を理解することにもつながります。

解答・解説

正解はaです

テーマ

受動喫煙とは、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。たばこの先から出る副流煙と、喫煙者が吐き出す呼出煙が混ざった煙を吸い込むことで、肺癌・虚血性心疾患・脳卒中、乳幼児突然死症候群(SIDS)などのリスクが上がることが示されている。受動喫煙対策の法的な根拠を問う公衆衛生の基本問題である。

考え方

受動喫煙の防止は、2002(平成14)年に制定された健康増進法で初めて法律に明記された。2003年の施行当初は、多数の人が利用する施設の管理者に対策を求める「努力義務」にとどまっていた。その後、2018(平成30)年の改正で、施設の種類ごとに禁煙の範囲を定め、違反には罰則(過料)を設ける「義務」へと強化された。改正法は2019年7月から段階的に施行され、2020年4月に全面施行された。 各選択肢の法律について、「何を目的とし、何を規定しているか」を押さえておけば、迷わず健康増進法を選べる。

選択肢考察

  1. ○a.  健康増進法

    健康増進法は、国民の健康増進の総合的な推進を目的として、2002年に制定された法律である。「健康日本21」(21世紀における国民健康づくり運動)を推進する法的基盤として整備され、国民健康・栄養調査、市町村が行う健康増進事業、特定給食施設、特別用途表示とあわせて、受動喫煙の防止を規定している。2018年の改正では、①望まない受動喫煙をなくす、②子ども・患者など受動喫煙の影響を受けやすい人に特に配慮する、③施設の類型・場所ごとに対策を行う、という3つの考え方に基づいて対策が義務化された。学校・病院・児童福祉施設・行政機関などは敷地内禁煙(第一種施設)、それ以外の多数の人が利用する施設は原則屋内禁煙(第二種施設)とされた。

  2. ×b.  地域保健法

    地域保健法は、1994年に保健所法を改正・改称して成立した法律である。地域保健対策の推進に関する基本指針、保健所・市町村保健センターの設置と業務など、地域保健の体制について基本となる事項を定めている。地域で健康づくりを進める枠組みの法律ではあるが、受動喫煙防止の具体的な規定は置いていない。

  3. ×c.  母子保健法

    母子保健法は、母性と乳児・幼児の健康の保持・増進を目的とする法律である。妊娠の届出、母子健康手帳の交付、保健指導、1歳6か月児健康診査・3歳児健康診査、新生児訪問指導、低出生体重児の届出、養育医療などを定めている。妊婦や乳幼児の受動喫煙を防ぐことは保健指導の場で重要な内容だが、受動喫煙防止を法として規定しているのは母子保健法ではない。

  4. ×d.  たばこ事業法

    たばこ事業法は財務省が所管する法律であり、たばこ産業の健全な発展と財政収入の安定的な確保を目的とする。たばこの製造(日本たばこ産業株式会社による独占)、小売販売の許可制、包装への注意文言の表示などを定めている。健康への害についての表示規定はあるものの、受動喫煙の防止を規定する法律ではない。

  5. ×e.  医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律〈医薬品医療機器等法〉

    医薬品医療機器等法(旧薬事法、2014年に改称)は、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品の品質・有効性・安全性を確保するための規制と、研究開発の促進を目的とする法律である。たばこは医薬品でも医療機器でもないため、この法律の対象外である。禁煙補助薬であるニコチンパッチやニコチンガムは、医薬品としてこの法律の規制を受ける。受動喫煙防止の規定はない。

改正健康増進法(2018年改正)の骨子

・第一種施設(学校、病院・診療所、児童福祉施設、行政機関の庁舎など):敷地内禁煙。屋外に必要な措置をとった喫煙場所を設けることだけは例外的に認められる。2019年7月施行。 ・第二種施設(事務所、飲食店、ホテルのロビーなど、上記以外で多数の人が利用する施設):原則屋内禁煙。基準を満たす喫煙専用室(紙巻たばこも可、飲食不可)や加熱式たばこ専用喫煙室(飲食可)の設置は認められる。2020年4月全面施行。 ・既存の小規模飲食店(資本金5,000万円以下かつ客席面積100m²以下)は、経過措置として店内での喫煙を選べる。ただし、その旨の標識の掲示が必要である。 ・20歳未満の者は、喫煙エリアに立ち入らせてはならない(従業員も含む)。 ・喫煙可能な場所には標識の掲示が義務づけられ、違反して改善しない場合は都道府県知事等による指導・命令を経て、過料の対象となる。

関連する枠組み

・WHOたばこ規制枠組条約(FCTC):日本は2004年に批准し、2005年に発効した。受動喫煙からの保護、たばこ広告の規制、警告表示などを締約国に求めている。 ・健康日本21(第三次):喫煙率の減少、望まない受動喫煙の機会の減少を目標に掲げている。 ・労働安全衛生法:2014年の改正で、事業者に職場の受動喫煙防止の努力義務が設けられた。

受動喫煙による健康影響

肺癌、虚血性心疾患、脳卒中、乳幼児突然死症候群、小児の喘息・中耳炎・呼吸器感染症などとの関連が示されている。副流煙は燃焼温度が低く、一部の有害物質は主流煙よりも高い濃度で含まれる。

POINT

・受動喫煙の防止を規定する法律=健康増進法(2002年制定)。 ・2018年改正で努力義務から義務へ強化された(2020年4月全面施行)。 ・第一種施設(学校・病院・行政機関など)は敷地内禁煙、第二種施設(飲食店・事務所など)は原則屋内禁煙。 ・たばこ事業法はたばこ産業・財政収入のための法律(財務省所管)であり、健康保護の法律ではない。 ・健康増進法には国民健康・栄養調査、特定給食施設、特別用途表示の規定も含まれる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。